シリコンバレーのIT企業とライフスタイル
好景気に沸くサンフランシスコでは今、建設ラッシュが続き、2ベットルームの賃貸アパートの平均が$5000(約55万円)に高騰し、外食産業も賑わっています。その背景には、お隣の街、AppleやGoogle、Face Book など世界トップのIT企業が連なるシリコンバレーのITマネーが原因の一つです。IT企業で働くエンジニアの平均年収は約$1.8万ドル(2000万円)、ディレクターレベルになれば、$ハーフミリオン(約5500万円)とも言われています。ここでは殆どの世帯がダブル収入ですので、生活レベルの高さが想像できるでしょう。しかし高収入のエンジニア達はバスで通勤し、高級車より美味しい食と健康的なライフスタイルを優先させています。
ベンチャー企業が生み出す食のトレンド
シリコンバレーでは、ベンチャーキャピタルのインフラが確立され、スタートアップ企業が毎日のように生まれています。良いアイディア一つで急成長する原石に投資しようと世界から資金と起業家が集まっています。テクノロジー部門ではウーバーやエアB&B、テスラモーターズ(電気自動車)などの成功例ありますが、ブルーボトルコーヒーやダンデライオンチョコレートなどの食品部門にも巨額の出資が投じられています。IT企業と食の繋がりは強く、最近の潮流としては、SFに住むリッチでヘルシー志向の消費者を魅了するライフスタイル系食ビジネスへの投資がランキングの半分以上を占めています。
哲学的思想と食品開発
2017年、食部門で投資額のトップを飾ったのは、10種類以上の植物を化学的に混合し形成したバーガー用パテを発明した、「Impossible Foods」で、250億ドル(約300億円)を獲得しました。ビルゲイツからも75億ドルの個人投資を受け話題になりました。この資本金を元に去年は巨大な工場を建設され、「Impossible burger」メニューは全米のレストラン、バーガー店に広がり今や世界に進出しようとしています。
このスタートアップ企業は創立者で現在CEOの Pat Brown氏から始まりました。彼は50代でスタンフォード大学の生物学教授というエリート職を捨て、リスクを伴ったスタートアップを立ち上げたのです。ミッションは「食で世界変える」、いわゆる食革命です。生物学者として氏が学んだのは、肉食人口の急増と並行して地球環境が破壊されている悲劇でした。アメリカ人の好物であるハンバーガを植物バーガーに変える事で、2000リットルの飲み水、地球温暖化の原因となるメタンガスの排出を防ぐことができるという哲学を打ち出したのです。
このようにストーリー性があり、社会に良い影響を与えそうなアイディアが戦略として受けとめられました。しかし往年の肉食者に植物バーガーを常食させるには、これまでベジバーガーで代用された大豆を使ったパテではなく、肉の持つ味、匂い、肉汁、色味、食感までを植物パテで再現する事でした。それが現実化された2年前、「Impossible burger」の可能性が一般から病院食にまで広がったのです。
SNSを通じたバーチャルパッケージプロモーション
シリコンバレー式ビジネスはスピードが命。
「Impossible burger」は、企業成長の決め手となる3年の期間に目標ラインまで達成しました。その戦略はメディアとSNSを利用した活気的な「バーチャルパッケージ法」です。有名シェフ、ブロガー、教育者から各地域の一般バーガーファンまでがそのぞれの分野の広告塔となり、SNSを通じて商品の画像、映像と情報がスピーディーに拡散するシステムです。その大元締めとなったTwitterから新鮮なローカル情報、イベント、仲間を集うファンページ、教育に至るまでライブ感を伴った情報が毎日発信されます。商品パッケージ(イメージ)アイコンにはカラフルなアニメーションを使って若者を引き寄せ、ブランド力を上げました。
バーチャルパッケージのアイコン戦略
プロモーションと鍵となるメディア戦略では、フードネットワークチャンネルのスターシェフらが起用されました。彼らが経営する人気レストラン「Momofuku」や「Cockscomb]など6件が世界に先駆けこの“革命的バーガー”をメニューに加えた事でメディアが加熱しました。各フード雑誌やデジタル誌がシェフのインタビュー記事をいち早く掲載し、「Impossible burger」の話題は即座に全米を駆け抜けました。それに続きこの新開発の植物ベースバーガーを体験しようと客が店に駆けつけInstagramやFacebookに投稿した事で、SNSで一気に拡散しました。
若者を引き込むバーチャルリアリズム(仮想空間)
「食で地球を救おう」という呼びかけは、若者の心理も動かしました。「Impossible burger」を食す、または関わる事で彼らも環境問題に取り組んでいる意識が芽生えます。「デマンド」をクリックすると自分達の街、好きなレストランに「Impossible burger」メニューが増やせる新しいシステムを導入しています。Twitterページに登場するバーガーのアイコンアニメは、ファッション性を持ち、若者を引きつけ参加者を増やしています。彼らの体験や情報をシャアし、毎日のようにアップされる動画はライブ感満載で、まるでバーチャルリアリズムのような世界観です。消費者が楽しみながら同時に商品のブランドアップが計れる画期的な戦略です。
サンフランシスコはITビジネスと食文化の豊かさが融合し、食に対して高い意識を持つ住民が多く住むことから、世界の先端情報発信基地として注目されています。ここから新しいベンチャー企業が次々と生まれ成長しています。
参考文献
http://www.businessinsider.com/impossible-foods-seeks-fda-approval-for-heme-ingredient-2017-8
https://www.openphilanthropy.org/focus/us-policy/farm-animal-welfare/impossible-foods
https://ny.eater.com/2016/7/26/12277310/david-chang-impossible-burger-nishi
画像引用:シリコンバレー2016マップ
https://www.cbinsights.com/research/supermarket-brand-food-beverage-startups/