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「ジャパン」というブランド価値を高める 〜 新鋭包丁専門店「Bernal Cutlery」

アメリカで日本製キッチンツールの人気が高まっています。それを代表するのが職人技に磨きをかけたクラフト包丁です。
最近では、こうした商品を扱うのは日系ストアではなく、クラフトでレアな日本製品を扱う「スペシャリティストア」が潮流になってきています。
 

その一つ「Bernal Cutlery」 (バーナル・カッタラリー)は、約820種類の日本製包丁を取り扱う包丁専門店です。商品は包丁にとどまらず、研ぎ石からキッチンツール、調味料、お茶まで揃います。パントリー(食品)の値段は日本の約2倍から3倍ですが、日本製品の良さを知る「ホンモノ」志向のアメリカ人を魅了しています。 

アメリカ人の目線でアメリカ人に商品を説明する

アメリカ人の目線で日本製品の魅力を伝える

「Bernal Cutlery」は、サンフランシスコ・グルメの先端をリードするバレンシアストリートにあります。

洗練されたおしゃれな店構えで、通りを歩く人も引き込みます。店内には世界の包丁がアートのように陳列されています。日本食品は、例えば調味料なら木桶醤油、農家を特定したり、小ロットの小さな生産者、希少価値にこだわります。

一見、成功しているベンチャー企業に見えますが、今でも家族経営でオンリーワンの存在です。

「Bernal cutlery」 は2005年、店名でもあるバーナルはいつ地区の小さなアパートの一室から始まりました。彫刻アーティストのジョッシュさんとレストランのサーバーとして転々としていた奥さんのケリーさんは、一歳の子供を育てながら、家賃の支払いを躊躇うほどカツカツの生活をしていました。
 

ジョッシュさんが金属デザインの仕事をしていた時、日本製の彫刻道具に出会います。その職人技が際立つ道具に触れ、アーティスト魂に火がつきました。次に彫刻刀の鋼を磨くための研ぎ石にもハマり、日本のビンテージ包丁の魅力に取り憑かれます。包丁研ぎを習得し、アパートの一室で「包丁研ぎ」をカスタムで請け負い始めました。

そこに通って来たのがサンフランシスコの名だたるレストランのトップシェフ達でした。そこで知り合った近所の精肉店と協力関係を築き、口コミでオーダーが増えます。しかしまだ独立には至らず、2010年、地元のインキュベーター(起業家やスモールビジネスを応援する団体、組織)に入所し、6グループでシェアする倉庫のような「職場」を辛うじて手に入れます。

そこで包丁研ぎ、ワークショップをしながら、2人で夜間学校に通い、更に包丁の知識を学びました。「私たちの興味と学びがこれからのビジネスを支えるのだと認識しました」と奥さんで経営者のケリーさん。評判を聞きつけ、料理関係者のみながず一般の客からも注文が入るようになりました。

2011年、まだ店舗を持たない時期にインポーター(輸入業者)となり、主に日本の包丁を輸入し、ひっそり販売していました。「ブラックバードと呼ぶのよ。人を介して必要な人だけに売ってたの」。この包丁の知識とインポーターの資格取得が後に功を奏します。

2015年、ついにミッション地区に独立した店舗をオープンします。しかし間口は狭く10人も入ると一杯になる場所でした。彼らは包丁ワークショプを介して消費者の好奇心を刺激し、日本製品の魅力をアメリカ人の目線で伝え、品質や信頼性にこだわったビジネスを展開してきました。

2019年、劇的な変化が訪れます。現在のバレンシアストリート(ミッション地区)に物件のオファーがあり、なんと7.4平米の店舗から280平米の広いスペースに移転しました。「私達にとって大きなリスクを抱えた賭けでした」とケリーさん。 

しかしその心配をする間も無くビジネスは急成長します。店内はおしゃれな空間に生まれ変わり、1,200種以上の世界のクラフト包丁、数々の日本のキッチンツールなどの商品も好評で、たちまち話題の店となりました。

陳列される包丁は約1,200種類、その内、日本製包丁は約8割を占めます。

独占販売代理店(EDA )のメリット

「Bernal Cutlery」は、一部の商品を独占販売代理店(EDA)として扱っています。アメリカの消費者に日本製品の魅力を伝える為、パッケージやデザインに独自性を持たせています。競合にはないレアな商品に魅力を感じる客が多いと言います。

例えば、現在はマグカップやお茶製品はシンプルなパッケージに独自のロゴを刻印しているだけですが、将来はパッケージデザインも考慮しているそうです。アメリカで希少価値が高い商品のEDAを得るのも信頼ある店の特権です。

日本茶、中国茶を厳選し、それぞれの生産者の良さを生かしたデザインを考えている

「EDAを取得する事で、より職人や商品を知ることが出来ました。生産者に還元する事が大事」とケリーさんは言います。中間マージンが省け、値下げ競争に参入しない事で、生産者、経営者、消費者にとって”win-win”のビジネス環境を維持できると強調します。「生産者への還元」は、「Bernal Cutlery」経営のこだわりでもあります。


また、彼らは良い商品、良い生産者たちとの繋がりを広げるためのリサーチや研究を怠りません。その結果、アメリカの台所が豊かになるキッチンツールや調味料など品目も増え、売り上げも毎月伸びています。その約8割が日本製品です。

EDAの商品には自社ブランドロゴをデザイン。「将来的にパッケージもデザインしたい」

人と繋がり成長する個人ビジネス

18年前に2人で始めたビジネスは、今従業員は18人となり、店には連日大勢の客が押し寄せる人気店となりました。「振り返れば、生活苦を強いられていた私たちが、家賃の心配をせずビジネスを繁栄できるなんて夢見たい」。そこには「大きな家族」と表現するスタッフの支えがは欠かせなかったと言います。

「Bernal Cutlery」の成功は、アメリカ人ならではの目線で日本製品の魅力を伝える術にあります。その高い品質と伝統を詳細に客に説明することでジャパンブランドの価値を高め、大きなビジネスの成長を促しています。

イキイキと働く「Bernal Cutlery」の従業員。中央がコ・オーナーのケリーさん

 

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