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未来を拓く、次世代の代替食品革命

世界中で代替食品ビジネスが急速に拡大しています。先日、サンフランシスコで開催された「Good Food Institute」(略称: GFI)国際会議では、世界各国から新進気鋭な起業家たちが、次世代の代替食品の無限な可能性を熱弁しました。その先端に立つのは、バイオ科学者、ハイテク技術者、シェフたちが連携して生まれる最先端のフードテックです。技術革新によってデザインされる次世代の代替食品時代が幕を開けつつあります。

 

ブーム背景には環境境破壊のリスク

代替食品の世界的なブームの背景には、主に食用牛の過剰生産による環境破壊のリスクがあります。現在、世界の牛の数は約1.45億頭から1.5億頭程度と推定され、問題は深刻化しています。例えば南米のアマゾンでは、肉産業向けの牛の大量飼育、家畜の飼料生産の土地の確保のために森林伐採や放火が後を絶たず、すでに約20%の森林が焼失しています。こうした危機を救おうと多くの起業家たちが、代替食品開発に立ち上がっているのです。

代替食品は一攫千金の宝くじ?

ダイヤモンド・オンラインによると、世界の代替食品市場は、この10年で約5倍の成長率に達し、NEWSCASTによれば、2022年には代替肉市場が96億米ドル、2030年には最大208億米ドルに達すると予測されています。この世界的な代替食品ブームに伴い、投資も加熱し、巨大なビジネスチャンスが生まれています。次世代の成功企業はどこなのか。会場では、投資企業や新興企業が「金の卵」を探し求める姿が印象的でした。

潮流は「脱ミート」から生成技術革新へ

「代替食品」の先駆者として、カリフォルニア発祥の「ビヨンドミート」(創業2009)や「インポッシブルバーガー」(創業2011)が挙げられます。最初の波は大豆や植物性原料を用いた「代替肉」でしたが、次には非動物性の卵、ミルク、ヨーグルトへと進化し、現在の流れは生物学的な細胞を培養して繁殖させる「細胞養殖肉」(培養肉)や精密発酵へと移行しています。

培養肉と微生物発酵プロテイン

培養肉の需要を拡大させている理由は、その持続可能な製造工程にあります。牛肉、豚肉、鶏肉からそれぞれの細胞を採取し、培養する工程は、大量の水や土地の確保、牛のゲップによる温室効果ガスの排出を防ぐだけでなく、生産コストを抑え、効率的に肉やチーズを製造するスピード感も生まれます。培養肉は実際の肉と同様であるため、ビーガン食には含まれません。しかし畜産や動物実験を必要としないため、環境負荷の軽減に大きく貢献しています。

一方、微生物発酵プロテインは藻類食を原料とする代替食で、わかめ、こんぶ、ミドリムシなどから成分を抽出した藻類食と呼ばれる「代替プロテイン」は、食品以外にも医薬品、サプリメントまで用途を広げています。

バイオテクノロジーと代替乳製品

セルファーム(細胞農業)を利用した乳タンパク質の作成に特化した新興企業、「Turtle Tree」(シンガポール本社)に注目しました。同社はバイオテクノロジーを駆使したカゼインやホエイプロテインなどの牛乳の成分を作成し、ピザなどに使用するとろける代替モッツァレラチーズの実用化に成功しました。

Tabi Labo(tabi-labo.com)の調査によれば、ピザの消費量は世界トップの米国で、一日に消費されるピザの量は約1秒間で約350枚、全米のピザ専門店の数は約6万1270件、年間380億ドルの売り上げは全米のフードサービスの売り上げの10%に相当し、使用されるチーズの80%はモッツァレラチーズです。「Turtle Tree」の持続可能に生産する次世代の代替チーズピザが評価されていました。

一方、精密発酵技術は、酵母などの一般的な微生物を再設計し発酵させることで卵、乳製品、甘味料などと同等のタンパク質や物質を生成します。代替乳製品を代表する企業の1つ、「パーフェクト・デイ」は、ノンデイリーのミルク、クリームチーズ、アイスクリーム、チョコレートを既に商業ベースに乗せています。

代替食品ブームの基軸はZ世代

代替食品ブームを牽引しているのは主に10代後半から30代半ばまでのZ世代からミレニアル世代と呼ばれる人々です。Statista(https://www.statista.com)の調査によれば、「日常的に代替食品を摂取している」と答えているのはこの年齢層であり、年齢が上がるにつれてその比率は減少しています。環境意識の高まりは年々若年層の起業家や消費者に広がり、ブームを加速させています。

日本企業の代替食品ビジネス動向

最近、日本でも代替食品が話題になっていますが、まだ欧米に比べて国内市場は緩やかな伸びです。日本の食文化は昔から豆腐や魚、発酵食品などが一般的で、「代替食品」の必要性を感じない人もいます。

しかし、現代の日本人の食生活は、魚よりも肉、米よりもパンの消費が増えており、成人病のリスクも高まっており、健康食品や医療用食品の需要も増加しています。

また、最近の気候変動による海水温度上昇で漁獲量が減少し、家畜の飼料が高騰したり、鳥インフルエンザなどの伝染病が広がったりして、肉や魚、卵の安定した供給が危ぶまれています。

このため、政府も養殖や代替食品の開発に補助金を投入するなど、前向きな姿勢を見せています。

海外で飛躍する日本食品

一方、海外では、日本の食品加工技術と商品の高品質が高く評価されています。特に代替食の先進国であるアメリカでは、代替肉に飽きた国民消費がアジア食を好む傾向にあります。その中でも、世界的な日本食ブームで、日本テイストの食品開発が期待されています。

GFI会場には、日本からも大手食品メーカーや商社が参加していました。次なるビジネスパートナーを求め、各国の新興企業や投資企業との商談も見られました。米国に生産拠点を持つ食品メーカーも多く、プリマハムや伊藤ハムよる代替肉やカゴメ、キューピーの代替乳製品など日本食品はすでにグローバルに展開しています。

2008年から米国進出している力の源ホールディングス(一風堂を運営)は、数年前から「ビーガンラーメン」を販売し、アメリカ人の食生活に浸透しています。さらに最近では、海外で起業するスタートアップ企業も増えています。代替焼肉で知られる「ネクストミーツ」や発芽大豆由来の代替肉を開発する「DAIZ」などは、海外企業と資本業務提携し、グローバル市場に参入しています。

次世代の代替食品革命の行方

私たちの周りの環境は、人口増加による食肉不足や気候変動、生態系の破壊などの危機に直面しています。GFI会議に参加して、今こそ持続可能な生産と代替食品の重要性を痛感しました。これらの食品は、家庭料理から高級レストランのメニュー、3Dプリンターで作られるものまで、私たちの日常生活にますます身近になっています。

次世代の代替食品革命は、私たちが「地球を救う」食品を選ぶことによって支えられています。

 

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