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8月以降、規制はさらに緩和へ。ほぼコロナ以前の世界に戻ったフランスの今

フランスにおけるコロナ第7波は、2022年7月頭をピークにゆっくりと沈静化し、今では何事もなかったかのように社会が動いています。

ところが仏政府では7月末のぎりぎりまで、保健衛生上の「緊急事態宣言」を延長するかどうか激しく議論が交わされていたそうです。

フランスにおける緊急事態宣言というのは、2020年3月より施行されていた、コロナ禍のための例外的な制度でした。2021年6月にいったん終了したものの、同年11月11日には再度発行され、2022年の7月31日に終了するという制度だったのです。

仏政府は一時、この緊急事態を2023年の3月まで延長するよう求めていたのですが、野党側の激しい反対により7月29日にとうとう否決されました。

つまり、フランスは今後法律を変えない限り、ロックダウンや夜間外出禁止令の発動、衛生パスポートの提示を強制できなくなるということになります。

これによってフランスは大きく変わりました。2022年の8月1日より、フランスはほぼコロナ前と同じ世界に戻っているのです。

今年夏のセーヌ川

ほぼ、というのは「マスク着用義務」が病院、高齢者施設、介護センターなどでまだ必須であるためです。そのためスタッフ、医師、患者、訪問者すべてに、引き続きマスク着用が義務付けられています。

しかしそれ以外では、マスク着用は「推奨」に留まったまま。公共交通機関でも商業施設でも、マスクを着けるか着けないかは自己責任となっているのです。

印象としては、街中でマスクを着用している人は全体の1割にも満たないといった感じで、逆に着けている人は「濃厚接触者なのかな?」というイメージがあります。

パリの大型駅で

空港はどうなのでしょうか。こちらも8月1日から変わりました。フランスに入国する際に特別な措置は必要なく、到着前にすべき手続きがなくなったほか、出発国や地域に関わらず衛生パスポート(ワクチン接種証明等)の提示が求められなくなっています。

さらには「やむを得ない理由」を含む旅行証明書も提出の必要もなく、新型コロナウイルスに感染していないこと、及びフランス到着時のPCR検査・抗原検査を承諾する宣誓書の提出も不要です。

ということで、ワクチン接種有無等に関わらず、これまでフランスへの渡航者に適用されていた新型コロナウイルスに関する水際措置はすべて撤廃されました。

ただ例外はあります。フランス政府は緊急事態の終了にあたり、入国時に関するいくつかのルールを新たに設けたとのことです。

これは、国外で新型の亜種が出現した場合や、フランス国内・海外県の病院が再び飽和状態になった際の二つの事例で発動されるそうです。

内容は入国前のテストが全員に義務付けられ、ワクチン接種・未接種に関わらず陰性証明が求められるというもの。例外ではありますが、この新制度は2023年1月31日まで適用され、12歳以上が対象となっています。

シャンゼリゼ大通り

またパリでは観光客の戻りが完全復活している、というのも事実です。

特に観光名所であるシャンゼリゼ大通りはヨーロッパ諸国の中で、コロナ後に一番の回復を見せた通りであるとのことです。

ただロシア人と中国人はさまざまな社会情勢により、パリから姿を消しています。代わってパリにやってくるのは、米国人とドイツ人、イタリア人、スペイン人が多いのだとか。

中でもドル高ユーロ安は米国人観光客を多く引き寄せています。ドル高ユーロ安についてはこちらでもよく報道されていて、その理由にはウクライナ危機によるエネルギー問題や、イタリア政府の混乱などが挙げられます。

ルーブル美術館前の様子

2021年にはフランス全体の中古アパルトマン価格が上昇しました。前年比では+7.2%となり、地方では+9%になったところもあります。ところがパリ市内では-1.6%と、2020年よりわずかに回復したものの、価格は下がったままです。それにドル高ユーロ安が加わったため、パリの不動産は米国人にとって魅力的な投資対象になっているそうです。2024年にはパリ五輪が控えていますから、これからどんどん観光客が増えるのは間違いありません。一方、パリジャンはコロナ禍で大都会に疲弊してしまったと言います。

そのため地方では不動産のプチバブルが今も続いており、田舎への移住を希望するパリジャンが後を絶ちません。

チュルリー公園の移動式遊園地には観光客で一杯に

さて、この夏に印象的だったパリのイベントがあります。これは【パリ・プラージュ】といって、海のないパリにビーチ 「Plage(プラージュ)」が出現する毎年恒例のお祭りイベントです。「バカンスに行けないパリジャン・子供たちに憩いの場を」というスローガンのもと、2002年から始まりました。

実はその人気イベントが今年で20周年を迎えています。7月9日から8月21日までの開催期間だったのですが、これも大盛況のうちに終わったとのことです。

パリ・プラージュでのダンスパーティ。飛び入り参加もOK

私も初日に顔を出してみました。セーヌ河岸にはズラッと飲食店が立ち並び、子供たちが遊べるアクティビティもたくさん用意されています。普段は子供が多いのですが、今年は大人や観光客が子供より楽しんでいるといった印象を受けました。

また今年のフランスでは、飛行機・長距離列車の予約が2019年来の盛り上がりだったと言います。行き先は国内・国外の約半々であったとか。このことからも、コロナの厳しい規制がすっかり過去のものとなっているのが分かります。

パリ中心部の公園は平和そのもの

どちらかというと、フランス人の関心事は「インフレ」や「食料の欠品」に集まっていると思います。これには複雑な背景があって、昨年から続くエネルギー値上がり問題とウクライナ危機、さらには今年夏の干ばつが物価を押し上げ、いくつかの食品がスーパーから姿を消しています。今のフランスでほとんど手に入らないのが、マスタードとヒマワリ油です。これらの原材料はロシアもしくはウクライナで生産されていますから、当然輸入国であるフランスの物流がストップしているわけです。

干ばつ問題も深刻です。今年はフランスだけでなく、ヨーロッパのさまざまな国と米国が猛暑に見舞われました。一時期は首都パリでも節水の呼びかけが行われましたが、地方の水不足はさらに深刻でした。そのため青果を中心に、農作物が育たなかったほか味が変わってしまい、秋以降はいくつかの野菜の値上がりが避けられないとのことです。

パリ1区の庭園で

ただ、フランスの保健相や医療関係者は「早くもコロナの第8波・第9波を警戒している」と言います。この秋冬、フランスの感染者数がどれほどになるのかはまだ誰にも分かりません。ここまで緩和した後ですから、フランスが再び厳しい規制をかけるのも考えにくいです。しかし明らかに言えるのは、仏政府も国民も「コロナに慣れてきた」という状況にあることでしょう。

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