英国は元祖リサイクルの国、と言ったら、驚かれるでしょうか?
日常の中で、まず「もったいない精神」がくまなく行き渡っています。壊れた家具から自転車、朽ちた家など、どんなものも捨てるよりも修繕してリサイクルしようとするためか、人の手に助けられ、古く伝統あるものが現在までたくさん残っています。
例えばイギリス人男性のメカや自動車への偏愛。この国は今でもマニュアル車が基本で、壊れてもクラシックカーの類なら自宅の車庫でちょこちょこっと修理して長く乗り続けます。毛糸やカシミアのセーターやカーディガンに虫食いの穴があいても、気にせず外着として着続けます。大人になっても子どもの頃に可愛がったテディベアを大事に持っている人もたくさん。皆、長年に渡って愛用し、自分の匂いがついたものへの愛着がとても強いのです。
そんな古いもの好きのイギリスでリサイクル精神が最も美しい形で花開いているのが、 「チャリティー・ショップ」と呼ばれる慈善団体とリサイクル・ショップが合体したような店舗形態ではないでしょうか。
チャリティー・ショップの役割
チャリティー・ショップは母体となる慈善団体が資金集めのために運営しているものです。不用品の無料寄付を募ってリサイクル販売をするのですが、多くの団体が全国でチェーン展開するほど国民全員が大好きなショップ。運営経費を差し引いた売り上げが、恵まれない子どもや高齢者、ホームレス、心臓病やガンの患者さん、目の見えない方、保護を必要としている動物など、それぞれの団体がサポートしている対象のために使われる仕組みです。
私が暮らす町には、およそ10軒の母体の異なるチャリティー・ショップがひしめいています(!)。こんな風にイギリスでは日常生活の中にチャリティー・ショップが浸透しているのです。ショップに行くと生活に必要な日用雑貨はなんでもあります。
まだ使えるのに要らなくなったものは、チャリティー・ショップに持ち込むと有効活用してもらえるので気持ちよく手放すことができ、またそれを必要とする人は格安で購入でき、その売上金が社会的な弱者のサポートに活用される。3者ともに役立つ、完璧なシステムなのです。
これほど無駄のない方法を、私は日本で見たことがありません。「アレが必要だけど新品を買うほどでもないな」というときに、チャリティー・ショップが大活躍。家具などの大きめの商品を扱うヴィンテージ・ショップを兼ねた店舗も、少ないですが存在します。
私自身もチャリティー・ショップはよく活用しています。着なくなった洋服はもちろんのこと、雑貨も含めてよく寄付もし、そして購入もします。チャリティー団体は税金優遇があるので、賃料の高いハイストリートでも比較的出店しやすく、アクセスも良好。これほど社会に見事に溶け込んだ優れたリサイクル事業があるでしょうか。これは現代風に言い換えると「サーキュラー・エコノミー」そのまま。善意ともったいない精神で循環させる、社会構造に組み込まれた再販売システムなのです。
チャリティーリテール協会によると、イギリスにチャリティー・ショップが生まれたのは19世紀末。現在全国に約1万1,200軒のお店があり、マネージャー・クラスの正規職員だけが賃金の支払いを受けており、残りはほぼ必要経費のみの支給で働くボランティアで運営されています。全体の運営経費は約7割と言われ、人件費と家賃がその大半。それでも年間の売り上げは相当なものに上るようです。
進化するチャリティー・ショップが教えてくれるもの
購入する店は決めていないけれど、寄付する団体は自分に関わりが強い、あるいは興味のある活動をしている団体に決めている、と言う人もいます。例えばガンで身内をなくした人はガン患者のサポート団体に、動物愛護精神の強い人はそれを目的としたお店に、といった感じです。また個人だけでなく、企業から型落ちになった新品の洋服その他の寄付もあるようです。
私自身はホームレス問題に興味があるので、近所にある「Shelter」と呼ばれるホームレスのサポート団体によく寄付をしています。
洋服の場合、商品の販売価格はブランドなどに関係なく昔はほぼ400円〜1,000円くらいだったのでファッション好きや雑貨コレクターには「チャリティー・ショップが穴場」と言われたものですが、現在は若干の市場調査をした後に値段をつける傾向にあり、さすがにブランド品の安売りはなくなっているようです。
この傾向は近年になってチャリティー・ショップの「ブティック」ブランドを生み出しました。例えばShelterでは「Boutique by Shelter」と言う主に高級アイテムを扱う独立したブランドを、高級住宅地などに展開しています。
ブティック形式のお店は出店ロケーションだけでなく造りやインテリアもアップマーケット狙いで、ショーウィンドウを見ているだけでは他の一般的なブティックと変わらないほど。お値段も正規販売価格を参考にして付けているので通常のチャリティー・ショップよりも値は張りますが、「チャリティーなのに儲け主義?」というありがちな批判はイギリスでは一切なく、一つのビジネス形態として認知されています。
また若い世代へ向けたホームレス支援の「Crisis」というチャリティー団体は、カフェを併設した店なども展開しており、トレンドを反映したディスプレイやデコレーションも含めて進化するチャリティー・ショップという印象を受けます。ショップ内は買い物客だけでなく、いつもコーヒーで一息つくご近所の人や情報交換する人で溢れていて、一種のコミュニティーを形成しているのです。
イギリス全土、どんな町にもあるチャリティー・ショップは、「モノを廃棄せずにリサイクルする」ことの大切さを学び、人々の善意に触れることができる本当に優秀なシステムだと思っています。
リクレーム素材の活用
古いもの好きのイギリス人のこと、彼らはもっと手の込んだリサイクルも得意です。それはリクレームと呼ばれるアップサイクルの一種。一般的に「リクレーム」とは建築素材を再利用して新たに命を吹き込むことで、例えば古い建物から取ってきた梁を、暖炉のマントルピースとして使ったりするアイデアです。近代的なビル建築に大量に使われる再生素材とは異なり、古く形のあるものを、別の形で利用するのがリクレームの特徴です。
イギリスは数百年前に建てられた建造物の建築素材をアンティークとして扱い、価値を置く社会です。雨風に晒されていい具合に磨耗したレンガ、古びたスレート屋根、美しく古い木材、レトロな柄のタイルやガラスをはじめ、暖炉、ドア、窓枠、木製ウォールパネル、階段、石畳など、なんでも。再利用プロダクトとしてよくあるのは、テーブルや椅子、タンスなどの家具。そして新しい家に古びた情緒を持ち込むためにフローリング素材として活用されているのもよく見かけます。「これはリクレーム素材から作ったんだよ」と言われると、なぜか温かい気持ちになります。
なぜ古い素材を再利用するのか。
資源の節約と環境保全は、もしかしたら第一義にあるのかもしれません。埋立地に送られる廃棄物の量を減らし、新しい材料の不必要な生産をなくし、エネルギーの消費量を減らすことで、コスト削減にも繋がることもあります。
でも本当は古い建造物に使われている趣のある素材を捨てるに忍びない。そういうイギリス人らしい愛着精神がリクレーム素材の家具を数多く作らせているのではないかと思います。「reclaimed furniture uk」などでキーワード検索すると、無数のウェブサイトを見つけることができるでしょう。家具以外ではアート利用も盛ん。古い建築資材は今も国内のあらゆるところで活躍しているのです。
デジタル世代のレンタル・ファッション
「捨てずにリサイクル」ならレンタルはその最たるもの。ファッション・アイテムのレンタル店はイギリス国内にも少ないながら昔から存在しますが、 2017年に創業したデジタル・プラットフォームの「HURR」は、別のやり方で注目を集めました。
HURRのレンタル・システムは彼らがレンタル商品を所有しているわけではなく、貸したい個人がHURRのウェブプラットフォームを通して写真を載せ、借り手を募るというユニークなもの。
スペシャルなイベント用のパーティー・ドレスはもとより、もっと日常的な機会にもファッション・バラエティを楽しみたいと考える「Young Professionals」(高給取りの若者)は年々増加傾向にあります。つまり登録アイテムが多いほど選択肢も広がり、ビジネスも広がる仕組み。現在は全国区で登録審査に通ったユーザーが散らばっています。
例えば25万円する高給ブランドのドレスを借りるのに必要な金額は、レンタル日数によって3万円から8万円程度。HURR側の手数料は15パーセント。レンタルと返却は貸し手の自宅など指定場所へ直接出向きます。お高いアイテムには保険もかけられるので安心。貸し手、借り手、双方の満足度を測るレーティングやレビューが載るのも直に顔を合わせないデジタル・プラットフォームならではです。
HURRはロンドンのファッション・トレンドを引っ張る大手デパート、セルフリッジズにポップアップ・ショップを出すこともあるようで、それで急速に認知度が高まりました。日本では低価格の月額サブスクによるファッションシェアが流行っているようですが、今のところ洋服の正規価格が反映されるこの方式が、イギリスでは定着しつつあるようです。
食料品のリサイクル
食品もリサイクルの対象になりえます。「まだ食べられる食品の廃棄問題」は年々大きな懸念事項となっており、今では世界中で使われているアプリ「Too Good To Go」や「OLIO」などの活用をはじめ、イギリスでも飲食店や家庭から出る廃棄直前の食品を救おうとする動きは無数にあります。またホームレス救援団体と提携し、売れ残りを寄付するファスト・フード・ブランドは当たり前のように存在し、サンドイッチ・チェーンのプレタマンジェのその一つです。
私がすごいなと思ったのは、国内で人気のGail’sというベーカリー・チェーンが、営業時間が終わった時点で売れ残った食事系のパン(サワードゥ・ブレッドなど)を、紙袋に入れてそのままドアの外に出してしまうことです。「どうぞご自由に」ということなのですが、商品を捨てるよりも必要な人とシェアしたいという経営側の思いをそこに見るようで、商業主義にとらわれない取り組みだと思いました。
もちろんGail’sもホームレス救済団体への寄付をしています。こちらの写真は、ホームレスの女性をサポートする団体のためにGail’sから届けられる余ったパンです。同ブランドでは40以上の慈善団体にパンを寄付しているそうです。
またGail’s は、前日の売れ残りパンを再利用する取り組みもしています。古いパンをパン粉にして水でふやかし、新しいパンを作る際にそれを生地に混ぜ込んで焼く「Waste Bread」(廃棄パン)の製造販売で、3分の1程度が古いパンから構成されている割合だそうです。グッドアイデア!
さて、イギリスの日常に根ざしたリサイクル事情、いかがだったでしょうか。
最近は「シェアリング・エコノミー」と言って、社会に溢れる余剰の品物や食品を分け合う活動も少しずつ進んでいます。古いものを大切にするイギリスでは、これまでと同じ強いリサイクル精神、そして慈善の心で、シェアリング・エコノミーに貢献していくことでしょう。
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