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シリコンバレー流ランチ「無人、ロボット、キャッシュレス」


テック企業が集中するサンフランシスコ、オフィス街のランチシーンに異変が起こっています。シリコンバレー大手企業と新興ベンチャーが流入し、昼人口が倍増する金融街界隈では昼時になるとランチを求める人で混雑し、カフェやデリは長い列ができる光景が何年も続いていました。

そんな中、救世主の登場です。テクノロジーを駆使したロボットシェフやバリスタ、キャッシュレスカフェが次々とオープンしているのです。生産性を求められるテックピープルのランチキーワードは「時短」。もはや財布もチップもレシートも必要ない「待ち時間ゼロ」キャッシュレスランチが急速に浸透し始めています。

業務効率化から生まれた時短カフェ

テック企業の働き方は、勤務時間より「集中力」。それが「生産性向上」につながるというロジックから、各企業は従業員のランチサービスの向上を計っています。ハイテクランチは元々、シリコンバレーに本社を置くGoogleやAppleのクオリティ高い社内ランチが話題となり、「優秀なエンジニアを存続させるには胃袋を満たす」社風が広がり、現在ではほとんどのテック企業がシェフを常駐させる食堂かケータリングサービスを導入しています。

一方、大企業と成長中のスタートアップがひしめき合うサンフランシスコでは、若いミレニアル世代がスマホ片手に「ハイテクランチ」を物色する姿が目立ちます。ロボットの導入は店側にとっても人件費が削減できる強い味方となっています。今回、最新鋭の「テクノロジー+キャッシュレス」ランチスポットをレポートします。

無人のキオスクタイプ「eatsa(イーサ)」

写真:洗練された都会的イメージのカフェの外観 ©eatsa

eatsa「イーサ」 がランチカフェの激戦区、Google SFビル裏に登場したのは2015年のこと。当時まだ目新しいキャッシュレス無人カフェに、健康志向が高く流行に敏感なミレニアル世代がすぐに興味を示しました。

オフィス街で働く人達のランチは野菜が中心。「サラダボウルにわざわざ列を作ってまで待たなくてもキオスクで十分」というのがeatsa の発想です。それまでサラダを買うのに長い列を作ったりレストランのサービスの遅さに不満を抱いていた人々がキャッシュレスカフェへと次第に流れていきました。

写真:基本のサラダボウル ©eatsa

画期的な点は、ビーガン食や各アレルギーなど多様なダイエット(食習慣)に対応するメニューの工夫にあります。選択は画面上での「カスタマー・コントロール」。支払いまでがオートメーションされている為、たった2分で決済まで完了します。また、テック業界の人種的多様性に対応すべく、言葉の問題もなくスピーディーに自分の食べたい物を確実にチョイスできます。文字だけではイメージし難いメニューや具材表示もコンピュータ画像から一目瞭然なので注文ミスがありません。

支払いは携帯アプリから事前に注文、決算するオプション、または店舗に備え付けたコンピュータ画面を操作する完全自動システムです。

写真:設置されたコンピュータ画面から食材を選択して「マイボウル」を作る

利点
●多様なダイエットに対応できるメニュー構成
●人件費の大幅削減が可能
●スマホか備え付けのデジタル注文で時短、注文ミスなし
●デリバリーサービス導入で収益アップ

欠点
●ホットフードのチョイスが少ない
●食材やソースなどのチョイスが多すぎて混乱する人もいる
●完全無人化にできない。(注文はコンピューターが読み取るが、パネルボックスの裏には人が常駐する従業員がいる)

世界初のロボットシェフが活躍するカフェ。あのソフトバンクのS氏もご来店!「Creator(クリエーター)」

写真:テック系企業が集まるSOMA地区

写真:若いテック業界の人達で賑わうランチタイム

今話題沸騰のランチスポットCreator「クリエーター」は、世界初のロボットシェフを導入したハイテクバーガーカフェ。「同じバーガーを1日に何百も作るのに嫌気が差した。単純作業から逃れ従業員環境を向上させるためにこのマシーンを発明した」と「クリエーター」のCEO、アレックスさん。

写真:世界で初めて導入されたハンバーガーシェフロボットが大活躍

写真:巨大な冷蔵庫にはフレッシュな食材が並べてある

主食のバーガーメニューは全部で6種類。アメリカン、インディアン、アジアンとそれぞれの多様化を意識したメニューと地元シェフが考案したレシピが採用されています。この世界初の新鋭テクノロジーにソフトバンクの孫氏も家族で来店されたそうです。

スピーディーで安定的に調理されるバーガーは、確かに盛り付けの必要がなく重ねるだけの“ワンハンド“フード。ロボシェフは一回に5個のバーガー、1時間に250〜400個のバーガーを作れます。完成までわずか4分。パンの焦げ目や肉の焼き加減など微妙に調節され、調理中に挟む野菜やチーズなども注文別に「クリエイト」されていきます。注文完了から商品を手にするまで5分でした。作り置きでない点がファストフードと区別されています。

写真:入口で案内人が注文を取り、決済される

写真:名前が呼ばれるまで約5分

写真:従業員は流れ作業がスムーズに行くように見守っている

パンや挽肉、野菜などの食材は主に地産で調味料やスパイスもこだわりがあり、全体的に味付けは良く安定しています。物価が高騰するサンフランシスコで$10以下のランチというのも魅力となっているようです。

写真:ローカルで新鮮な食材が使用されている

写真:マシンが作ったとは思えないクオリティの高さ

同カフェは従来、時間のかかる注文と支払いシステムに革新を起こしました。入口で案内人がコンピューターに注文をインプットしここでオーダーと決算が同時に完了します。アプリも必要なくスピーディーに作り立てのバーガーを食す事ができます。

店内飲食もトゥゴー(持ち帰り)も同じ、蓋ができるパッケージ(使い捨て皿)でサービスされるので皿洗いの必要もなく、カスタマーにとっても食べる場所を柔軟に選択できるので時短ランチには最適です。

写真:時短ランチを楽しむ常連客

写真:タップビールやワインもメニューにある

写真:ゴミ箱の表示もわかりやすい

利点
●人件費削減
●従業員がキッチンを離れクオリティの良いサービスが提供できる
●キャッシュレス注文と決済が同時なので退店が自由
●クオリティを保ちながら多商品を一度に調理できる

欠点
●ビーガンやグルテンフリーなど多様ダイエットに対応していない
●メニュー数が少ない。
●ランチピーク時にはメニューを取る入口で混雑する

全米初の無人コンビニ「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」

写真:サンフランシスコCalifornia Street 一号店

「素早く退店するテクノロジー」をキャッチフレーズに、「アマゾン・ゴー」が登場したのは2018年初期。シアトルに始まり去年秋にオープンしたサンフランシスコは2都市目となります。

「アマゾン・ゴー」のメリットは、なんといってもレジを通らずにスピーディーな買い物が出来る点です。最新鋭のAI技術を搭載した管内のカメラ、センサー、マイクが買い物客の行動をデータ化し、持ち帰る商品を素早くキャッチ。一つのアプリで20人までの入店も可能です。本人、また一緒に入店した人の買い物袋もアプリ所持者が登録したクレジットカードから決済され2、3分後にEmail が届くキャッシュレス、ペーパーレスシステムです。

店内のイメージは清潔感があり商品の陳列も整っています。レディーメイドのサラダボウルやサンドイッチ、ドリンクとスナックなどの品揃えは良いのですが、まだ麺類やホットフードなどは少なく、商品開発の余地が十分にあリます。

現在サンフランシスコ市内に2店舗既存しますが、どちらも小規模で店内レイアウトは少し窮屈に感じます。選んだ商品は持参のバッグ、または備え付けのオレンジバッグ($0.99)に商品を入れてセンサーレーンを抜けます。

写真:スマホをタッチして店内に入る

写真:ヘルシーなサラダボウルは種類豊富

写真:人気のお寿司はベジタリアンまで豊富な種類 / フレッシュでヘルシーなセレクションが多い

写真:地元のデザートブランドとコラボ

写真:店内には2、3人の従業員が商品の整理とカスタマー対応をしている

写真:バックが必要な客は備え付けのエコバックを買う ($0.99)

写真:バックに入れた商品はレーンを通り抜ける一瞬に読み取られる

写真:レーンを通り抜けると2、3分後にメールにレシートが送られる

「トゥ・ゴー」(持ち帰り)か隣接されたイートインエリアでも食事ができます。イートインには、フォークやナイフ、ナプキン、紙皿のステーションがあり電子レンジが2台設置されています。ホットフードはパッケージのまま温めて食べる事が可能です。

写真:ランチタイムにはランチを食べる人で賑わう

写真:イートインコーナーには電子レンジも完備

店側にとってこの画期的なシステムには裏技があります。表面的には人権費削減とスピーディーチェックアウトですが、実は消費者の動向調査がデータ記録されています。すなわち買い物をする側の生活スタイルが、マーケティングデータと化するのです。

アマゾン・ゴーは明るい食品小売業界の将来を期待される無人コンビニの第一歩となりますが、まだまだ課題は山積みのようです。コンビニ王国の日本で人手不足が問題視される中、いち早く導入が期待されるシステムと言えるでしょう。

利点
●レジを通らずスピーディーに購入できその場で食べられる利便
●オーガニックや健康食品が多くグルテンフリーやビーガン食のチョイスがある
●ペーパーレスで領収書はEmail に送られてくる
●レジでのミスもなく人権削減に効果を発揮する
●客の動きや好みがAmazon側でデータ化される

欠点
●ホットフードなど品揃えが少ない
●アプリが無いと入店不可で旅行者には時間がかかる
●レディメイドパッケージは冷たい印象を受ける
●パッケージはリサイクルプラスチック製だがゴミが発生する

サンフランシスコではこういったシリコンバレー流「時短」マインドが、AIテクノロジー導入で「ロボカフェ」のような新たなステージに移動しつつあります。すでに技術革新はピザロボや寿司ロボなどに広がり飲食業界の未来が見えてきます。休みなく働くロボシェフや、店に出向かなくても買い物ができるオートメーションシステムが日々一般化されています。

次回は更に実生活に浸透しているテクノロジーとサービスの実態をお伝えします。

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