菓子業界のパッケージや販促PRに関する事例をご紹介する連載3回目は、パリと日本のパティスリー包材、特に生菓子に関する違いについて紹介します。
2022年10月末~11月初頭に取材でパリに行きましたが、菓子店のショーケースを見て、改めて日本との差を感じました。日本では2022年4月1日より、「プラスチック資源循環促進法(プラ新法)」が施行。これにより、スプーンやフォークなど使い捨て前提のプラスチック製品12品目について、年5トン以上使用する事業者には有料化や再利用などの対応が義務づけられ、使用量を計画的に減らすことも求められています。そんな世相も反映して、菓子店でも規模の大小に関わらず、プラ製スプーンやフォークの要不要について声掛けしたり、有料化したりするケースが増えてきました。
しかし、フランスと日本のパティスリーの包材を見比べると、日本ではまだまだプラスチック包材が多く使われていると感じられます。そんな中で、少しずつ変化の兆しも出てきています。
フランスのパティスリーの包材への意識
2022年10月末~11月初め、パリで開催された世界最大級のチョコレートの祭典「SALON DU CHOCOLAT」の取材に行っていました。会場内では、有名ショコラティエや大手チョコレートメーカー、カカオ生産国の新たな取り組みなどが見られます。パリ市内に店舗を構える「ローラン・デュシェーヌ」も出店。1993年に30歳の若さでフランス国家最優秀職人章MOF(Meilleur Ouvrier de France)を受賞し、2005年にはフランス菓子職人達の権威ある団体「ルレ・デセール」会員となったLaurent Duchêne氏のブランドです。日本のバレンタイン催事などにも出店していて、日本国内にも多くのファンがいます。
会場内のブースでは、ボンボンショコラや様々なチョコレート菓子はもちろん、エクレールやタルトなど生菓子も販売されていましたが、それらに使われている包材は、紙の台紙や紙パーチケースのみでした。ご夫妻でパティシエ・ショコラティエとして店を経営する「ローラン・デュシェーヌ」。奥様の京子さんも、「フランスではプラスチックの包材は極力使わず、紙が基本です」と話されます。
パリ市内・モンマルトルに2014年にオープンした「ジル・マルシャル」でも、お話を伺いました。Gilles Marchal氏は、 パリの名だたるホテル等で活躍し、日本でも有名なパリの老舗ショコラトリー「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のクリエイティブ・ディレクターにも就任した人気パティシエです。
マダムの彩佳さん曰く、「包材に関してはオープン同時からあまり変わっていないです。フランスには、プラスチックトレイは元々あまり無いですね。」とのこと。
生菓子の多くは、紙製の丸く平たい金台紙や、折り返しがある四角く細長い台紙に載せられています。ただ、お酒を利かせたシロップをたっぷり染み込ませたフランスの伝統菓子「ババ・オゥ・ラム」や、透明容器に入れて綺麗な層を見せたいような「ヴェリーヌ」類には、プラスチックカップが使われていました。
10年程前の日本では、「ババ」や「サバラン」のようにシロップをたっぷり吸い込んだ生菓子も、アルミケースやプラスチックトレイに載せられていることが多く、持ち帰りの最中に箱からシロップが染み出して大惨事になった・・ということがたまにありました。近年はプラスチックカップ入りが多くなり、そのような事故も減ったと思います。中にはガラス容器を使用する店もありましたが、重たさや割れる危険性への配慮、そして原価の安さなどから、プラスチックカップに変更することが多いように思います。
いずれにしても、中がクリアに見えて軽くて丈夫、という無色透明プラスチックカップの機能性に替わる素材というのは、今のところなかなか見当たりません。
彩佳さんによると、焼き菓子などについては、「木材やプラ廃材利用のプラスチック袋もあるのですが、完全には透明ではないのと、やはりマドレーヌやサブレなどを入れてしまうと密封力が弱く空気に触れてしまうため、持ちが悪い。よくないなぁと思いつつも、どうしても代用出来ないところはプラスチックを使っています。よくお客様からも、『もっとプラスチックを減らしたら?』と言われたりもします。」という。
日本の菓子店で、お客様からこのように指摘されるということは、まず滅多に無いだろうと思います。フランスとは、一般的な意識の隔たりがだいぶあるように感じました。
「シャルロット」という生菓子などは、ケーキ代7ユーロ+ステンレス製容器代6ユーロのトータル13ユーロで売って、容器をお持ちいただいた方に現金をお返しするスタイルを取っていたそうです。
しかし、最近のヨーロッパは、コロナ禍やウクライナ情勢の影響もあり、日本と同じく包材価格も大きく上昇。ステンレス容器が買値9ユーロ以上に値上がりし、このシステムも限界かと悩んでいるとのこと。
「持ち帰りコーヒーの蓋も無くし、紙袋も20ユーロ以下の購入であれば有料にしました。エクレアを買って、すぐその場で召し上がる方にはナプキンのみでお渡しするなど、地道な努力で、多少は包材を減らすことに成功しています。」という彩佳さん。やはり、各個店、各個人が地道な努力を積み重ねることは大切です。
日本のパティスリー包材の変化
日本とフランスのパティスリーやお客様の意識の差は、どこから生じたのでしょうか?
フランスを含めたEU加盟国では、深刻化する海洋汚染への対策として、2021年7月3日より、使い捨てプラスチック製品を段階的に強化する新規制が施行されています。これにより、使い捨てのプラスチック製ナイフ、フォーク、スプーン、箸、皿、ストロー、マドラー、綿棒の軸、風船の棒、発泡ポリスチレン製の一部製品(カップ、食料・飲料容器)、及びオキソ分解性プラスチック製の全製品の市場流通が禁止されました。
しかし、私が記録している10年前、15年前の画像を見返しても、フランスの菓子店では、このような方針が出る以前から、日本のように生菓子にプラスチックトレイを使うことはほとんどなく、紙の台紙が主流でした。
また、日本のように、箱の中でケーキが動かないためのスペーサーや保冷材を入れるようなこともなく、「スプーンをお付けしますか?」などと聞かれたことは、これまでに一度もありません。
台紙には、チョコレートや杏ジャム、艶出しのナパージュなど粘性のあるものを少量塗って、お菓子がずれないようにしますが、もしずれて箱の中でひっくり返ったとしても、フランスは「自己責任」と考える国なので、店に苦情を言う客はいないでしょう。日本の場合は、「詰め方が悪かったからケーキが壊れた」と言われ、店側がお詫びして新しい物に交換するといった話を聞くことも少なくありません。培われてきた国民性の違いかと言えるかもしれませんが、日本では顧客第一主義、ともするとサービス過剰になる傾向があり、包材についてもそれが当てはまります。
日本のパティスリーでよく使われているプラスチックトレイを見ると、僅かにフチが立っていることで生菓子がずれないよう固定する機能性も備えていることがわかります。お菓子を保護するために最善を尽くす日本だからこそ、このように様々な包材が発達し、少しでも原価を下げるためにとプラスチック製が増えていったのではないか、と考えさせられました。
そんな中、ここ数年で新しくオープンしたブランドでは、変化を感じる事例も出てきています。
東京・大手町のホテル「アマン東京」は、2021年10月1日、アマンのグループとして世界初となるペストリーショップ「ラ・パティスリー by アマン東京」を、ホテルが入る大手町タワー「OOTEMORI」地下2階にオープンしました。エグゼクティブペストリーシェフの宮川佳久氏による、フランスの伝統菓子を基本としたオーセンティックな品揃えが人気です。
プティガトーの台紙は紙製で統一されています。ショーケースにお菓子を直置きするのも、フランスでは一般的ですが、日本だと、1列ずつアクリルや金属製の仕切り板を入れ、その上にお菓子を並べて載せることで、奥まで手を伸ばさなくても出し入れしやすくしていることが多いですね。私達は、こういうちょっとしたことからも、「この店はフランスっぽい」といった雰囲気を感じているのだなと改めて気づかされます。
特別なお菓子には、「WASARA(ワサラ)」というブランドの紙皿を台紙に使っていることもあります。2022年春に出会った「ムラングシャンティ」というフランス伝統菓子は、メレンゲを黒糖風味にアレンジしているものの、ほぼクラシックなスタイル。色が派手な訳でもありませんが、ショーケースの中は黒い石材製で、他の生菓子の土台は黒で統一されているため、これが白い「WASARA」に載せられて並んでいた時は、パッと目を引きました。
全体を通じて、包材も含めて、トラディショナルな物の魅力を伝えようという意図が感じられます。それが実は、「脱プラ」という今の社会課題に向き合う、現代的な提案にもなっているのです。
一方、東京・日比谷の「帝国ホテル 東京」のホテルショップとして1971年に開業以来、日本におけるホテルショップの先駆けとして親しまれてきた「ガルガンチュワ」が、2021年12月1日、帝国ホテル 東京 本館1階から、帝国ホテルプラザ 東京1階へ移転し、リニューアルオープンしました。東京料理長の杉本雄氏プロデュースのもと、伝統と革新を受け継ぐ各調理分野のシェフ達が一丸となって商品を開発。「パティスリー ガルガンチュワ」のお菓子も、従来のトラディショナルなラインナップを一新。フランスの伝統菓子をベースに、オリジナリティあるデザインと味にアレンジされた品が数多く揃います。
生菓子は専用の紙トレイに載せられていて、ずれないように金属の爪を立てて固定する形となっています。ホールケーキではよく見られるスタイルです。
以前は、プラスチック製のケーキトレイも使っていましたが、リニューアルを機に包材も見直し、できる限り紙やリサイクルできる素材に変えているそうです。
1個でも特別感のある手土産としても利用できるよう、銀色で高さのあるケーキ専用ギフト箱も別売りされています。土台の紙トレイがぴったりはまるサイズです。
無料のサービス箱も、1個又は2個入りでぴったり入るサイズに作られています。台紙に折り返しもあって中で動かないので、その都度、スペーサーを作って隙間を埋める必要もなく、箱詰めのオペレーションも効率化出来たことでしょう。因みにこの画像の生菓子の購入時は、隣接するイートインスペースですぐに食べるため、保冷材は辞退しました。
紙とプラスチック包材、適材適所の使い分け
2015年11月19日、「ヨックモック」が“ミニャルディーズ”専門店となる新ブランドのパティスリー「UN GRAIN(アン グラン)」を東京・南青山6丁目にオープンしました。
“ミニャルディーズ”とは、食後のお茶菓子として食べられる、ひと口、ふた口サイズ程の小さなお菓子のこと。こちらでは、生菓子、半生菓子、焼き菓子等の様々なミニャルディーズが揃います。
全てサイズが揃えられているので、好きな種類を6個入りのクリアボックスに収めると、手土産としても見映えがします。
生菓子と半生菓子は、紙製の台紙にのせられています。ブランドの立ち上げに当たっては、やはり今の時代に合わせて、できるだけプラスチックに替わるサステナブルな包材を使用することも目指したそうです。
生菓子の直径或いは1辺は約5cm前後。これだけ小さなサイズの台紙は既存の包材には無いため特注品となり、紙にも撥水性を持たせるなど加工が必要。一般的に出回っている普通サイズの紙台紙以上に費用がかかるそうです。焼き菓子や、フルーツ味のパート・ド・フリュイ、メレンゲのようなお菓子は、複数個ずつペット素材のクリアケースに入っていますが、これに替わる容器は、今のところなかなか無さそうです。
ミニャルディーズが2個入る全て紙製の箱もあり、自家用ならばこちらがお勧めです。台座の中に保冷材を入れるスペースも設けられていて、これなら箱詰めする際もスムーズで時間を短縮できていいなと思いました。
パティスリー包材の変化
プラスチック包材を紙製に変更。そんな地道な努力に注目したい一方、お菓子は、見た目で心華やぐということも大事で、透明のプラスチック包材に入れて中身を見せたい場合もあるでしょう。又、自家用であればごく簡素にしても、ギフト用ならば華やかになど、包材にも使い分けが必要です。
最近はバイオマスのペット素材の容器なども出てきているので、出来るところから選んで変えていく意識を持つ必要があります。ただ、日本でも包材価格が値上がしている昨今、サステナブルな包材の採用によって原価がさらに上がるとしたら、簡単には解決できない問題でもあります。
今回紹介したのは、新たなスタートを機に、新たな包材を採用したホテルや大手メーカーの事例でした。個人オーナーの既存菓子店が、途中から従来の包材を変えていく場合は、よりハードルが高いと言えるでしょう。
菓子業界にとっても大きな、そして超えていかなくてはならない課題ですので、また別の機会にこのテーマを取り上げたいと思います。
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