ビジネスパーソンが読むメディア。マーケティング、セールスプロモーション、パッケージの企画・開発に役立つアイデアと最新の情報を、世界中から配信。

イギリスは子供の肥満をパッケージで防止している?

世界でもトップクラスの甘党イギリス人

イギリス人は甘いものが大好きです。独立調査機関の最新調査によると、イギリス人の砂糖消費量は世界7位。一日に摂取している量は、世界平均の2倍にのぼると言います(ちなみにトップはアメリカ、フランスは21位、日本は26位)。

どうしてイギリス人がたくさん砂糖を摂るようになったかという理由は、17世紀から始まった紅茶を飲む習慣と切っても切り離せません。王侯貴族たちがいち早く紅茶を生活の中に取り入れると、これに砂糖を入れるようになって砂糖の消費量が増えるのですが、この習慣は18世紀になると庶民にまで広まり、以降、砂糖の摂取量は増え続けて上述のような結果になっているようです。

イギリスでは甘党のことを「スイート・トゥース」(直訳すると“甘い歯”)と言いますけれど、このスイート・トゥースは明らかに親から子供へと受け継がれます。

イギリスでは給食に甘いデザートが付くのは当たり前。また年長以上の学校の売店では甘い飲み物やお菓子をたくさん売っていて、買いたい放題ですし、そうやって育った親は甘いものが大好き。深い疑問もなく、子供に甘いお菓子を与えてしまい・・・かくして人生の早い時期からデザート大好き、甘党イギリス人ができあがります。

写真:イギリスではレジに並ぶ通路の両脇に甘いものをディスプレイするレイアウトが、どのスーパーでも多く、並んでいる間にあれもこれもと手を伸ばしたくなる仕組み。こちらは大手スーパー、セインズベリーズのレジ通路で、とくに子供用のスイーツがたくさん集められています。

国民的な問題として浮上している肥満

そして今、成人だけでなく、子供の肥満が増えていることが大きな社会問題となっています。この傾向に国が警鐘を鳴らし、 今年春からついに砂糖税を導入することが決まりました。

まず課税の対象になるのは、一定以上の砂糖が入った清涼飲料水。私もイギリスの子供たちが炭酸のジュースや清涼飲料水を日常的に水のように飲んでいるのが気になっていましたが、やはり大量の糖分を摂取することになるようです。

写真:スーパーの清涼飲料水の棚。大手ブランドの炭酸飲料水からエネルギー・ドリンクまで、1本に入っている砂糖の量は角砂糖にすると10個分ほどと言われています。

イギリスでは基本的に医療費は無料なので、 成人病に直結し、将来的に国民医療制度を圧迫するかもしれない子供の肥満問題は深刻。政府もついに対策に乗り出したというわけなのです。 砂糖税導入が決まったのと時を同じくして、子供向け製品のパッケージも変革を迫られています。イギリスの広告慣行委員会(CAP)では、昨年夏に商品開発に対して下記のガイドラインを定めました。

◯砂糖・脂肪分・塩分を多量に含む商品は、子供の視聴者が25%以上を占める番組に露出することはできない。

◯砂糖・脂肪分・塩分を多量に含む商品は、プロモーションをしたり、子供たちに人気のあるライセンス付きキャラクターや著名人を広告に起用したりすることはできない。広告主はより健康志向の商品に対して、それらのプロモート手法を使うべきである。

◯どの商品が砂糖・脂肪分・塩分を多量に含む商品かの分類には、イギリス保健省の栄養プロファイリング・モデルが適用される。

写真:従来のアニメ・キャラを使ったパッケージ。子どもたちが無条件に飛びつく絵柄! こういった商品を買って欲しいと頼まれる親はイギリスでも大変多いです。

楽しくカラフルな高級市場向け子供食品のパッケージ

上記を見ると、著名人や人気キャラは商品プロモーションには使えなくなりますが、食品パッケージには引き続き使うことができる規制です。では、これからも人気のあるアニメ・キャラなどをパッケージデザインに使っていくことが「よし」とされ続けるのでしょうか?

ヨーロッパでは、オランダが先駆けて商品パッケージに人気のキャラクター や著名人のイメージを使うことをやめており、大きく支持されているようです。そして今後は、イギリスも自主規制をしていく方向になると予想されています。確かに、子供たちが人気のアニメ・キャラやセレブに弱いことを考えると・・・正しい方向性なのでしょう。

では、子供向けの商品にはどのようなパッケージが今後は推奨されるのでしょうか?

大手食品会社のパッケージ・デザインを数多く手掛けているSlice Designというロンドン・ベースのブランディング・デザイン会社は、「ユーモアのセンス」「楽しさ」「カラフルさ」などがキーワードになると分析しています。その例として例に挙げているのは、実際、機能性と楽しさを兼ね備えたとってもユーモアのあるパッケージデザインです。

写真:写真はwww.slicedesign.co.ukより引用。左上から時計回りに「Smoothie Safari」社のジュース・パッケージ(ストローがパッケージのグラフィックから続いている!)、「Beehive」社のクマのイラストを使ったシリアルのパッケージ(こんなパッケージなら子供も毎日朝食を食べてくれそう)、「Bla Bla」社のビスケットのパッケージ(ビスケットを取る手がとまらなくなりそう)。

ただし実際にこういったパッケージを開発製造していくのはコスト高になるので、商品としてはまだ高級市場向けに限られています。現在、こういった製品に出会えるのは健康食品を多く扱うオーガニック・ショップなどです。

写真:ピカデリー・サーカスにある大型の健康食品店Whole Foodsの子供向け食料品の棚。ロンドン市内に数多くある様々な健康食料品店に行くと、子供向けスナックの棚は、たいていこれと似たような感じです。

そしてイギリスの子供たちに大・大・大人気なのが、下の写真左にある「Bear」社の「Bear for kids」ブランド「yoyo」シリーズ。「Bear」社はアメリカがベースですが、「yoyo」はイギリスの子ども達のスナックに欠かせない商品で、すっかり浸透しています。

ナチュラルなフルーツ果汁だけで作った栄養満点のグミ風キャンディのフレーバーは、ストロベリー、ブラックカラント、ラズベリー、マンゴーの4種類。一つひとつプラスチックの袋で包装されたものがバラ売りされていますが、毎日学校に持っていくという子供も少なくないので、こういう取っ手のついた可愛い紙のパッケージに5個入ったバージョンも売られています。

写真:左が親も安心して子供に食べさせられるキッズに大人気の「yoyo」5個入り。クマのグラフィックと取っ手付きのパッケージが目を引きます。右上は「Bear for kids」シリーズのシリアル。ナチュラルな甘味で毎日の朝食にも安心。 右下はロンドン・ベースの子供向け食品ブランド「Little Kids Organics」の子供向けパスタ。ここの商品は、グラフィックもパッケージも商品も全てがカラフルで楽しい。

上記シリアルの上半分にフォーカス。耳も可愛いけど、ちゃんと顔の部分が首から下より明るい色合いになっていて、顔と身体の区別が付いているのが細かいパッケージ。

ちょうどイースター時期なので、お店の棚にはイースター向けの商品が山のように並んでいます。今回は子供向け商品で面白そうなパッケージをおまけで少しご紹介します。

写真:左上はスーパーのコープの棚にあったウサギの形をした紙製パッケージに入った人参型キャンディー! 左下はウサギの耳と尻尾がついたお菓子のパッケージ(これは大人がもらっても嬉しいでしょうけど)。右はWhole Foodsに売っていたイースター用手作りチョコレートのパッケージ。こういった紙製筒型のパッケージで、真ん中にミシン線の取り外しタグが付いたものは珍しいと思います。

アニメ・キャラやセレブに頼らない子供向け商品のパッケージ、いかがでしたか? イギリスではプラスチックの袋に入ったチョコレート・バーなどが老若男女を問わず日常的なスナック菓子として好まれますが、中身がもっと自然志向・高級志向になればなるほど、パッケージも工夫せざるをえません。今後もユーモアあふれる楽しい子供向け商品のパッケージに、期待したいと思います。

▼パケトラおすすめの関連記事

タピオカはヘルシーな食材だった!アメリカの進化系スナック事情

プロテイン食品市場の新しい顧客を捉えるデザイン

このライターの記事

Top