アメリカのスーパーマーケットに足を運ぶと、さすがはバーベキューの本場だと実感させられるコーナーがあります。それは、壁一面を埋め尽くすようなソースやスパイスの棚です。

日本でも多種多様な調味料が並びますが、この棚からは「肉を最高に美味しく食べる」というニーズ、もっと言えば強い執念さえ感じます。凄まじい種類がひしめき合うこの戦場を勝ち抜くために、各ブランドはあらゆる戦術を駆使しており、パッケージはその戦略が最も色濃く反映される舞台となっているのです。
レストランチェーンが提供する「あの味」への安心感や、著名なシェフのネームバリュー。肉を愛してやまない人々が、何を基準に味の信頼を選び取っているのか。さまざまなパッケージから紐解いてみたいと思います。
お馴染みのあのベルが保証する味:Taco Bell(タコベル)
まず目に飛び込んでくるのは、アメリカを代表するタコス系ファストフードチェーンの一つ、『Taco Bell(タコベル)』のソースです。全米のどこに行っても見かけるベルのロゴマークが、このパッケージの主役です。ラインナップにある「CHIPOTLE(チポトレ)」や「SPICY RANCHERO(スパイシー・ランチェロ)」はタコベルで味わえる定番の味で、こちらもお馴染みの味で安心感があります。
「お店の味を自宅で再現できてしまったら、店舗への足が遠のくのでは?」という疑問も湧きますが、この戦略は他のブランドでも見られるように広く浸透していますから、それなりに成功しているのでしょう。自宅でその味に触れる機会が増えるほどブランドへの親近感が高まり、結果として店舗へのロイヤリティも向上するという好循環を狙っているのかもしれません。

肉の世界を牽引するスターシェフの存在感:FLAVORTOWN(フレイバータウン)
アメリカにおいて「ピットマスター」と呼ばれるバーベキューの達人や著名なシェフは、単なる料理人を超えた一種の権威です。料理番組の司会者となったり、レストランを経営したりと、自身が強力なコンテンツとなっているのです。その中でも、Guy Fieri(ガイ・フィエリ)氏の人気は際立っています。

『FLAVORTOWN(フレイバータウン)』は、そんな彼の代名詞とも言えるブランドです。彼の強そうな腕っぷしが、いかにも旨い肉を焼いてくれそうな、頼りがいのある雰囲気を醸し出していますね。彼の写真は、「あのガイ・フィエリが認めた味」という強力な品質保証マークであり、そしてなおかつ、彼のビジュアルそのものが何よりも食欲をそそるシズル感となっているのでしょう。
健康志向のプロの優しさが味の不安を解消する:SUGAR FREE DIPPING SAUCE(シュガーフリーディッピングソース)
こうした戦略は、単に知名度を利用するだけではありません。健康志向食品にどうしても付きまとう「おいしくないのでは?」という疑念を払拭する役割も果たしています。こちらは、もう一人の有名ピットマスター、G Hughes(G・ヒューズ)氏の砂糖不使用シリーズのディップソースです。

ラベルでフレーバー名称以上に強調されているのは、大きく記された「SUGAR FREE(砂糖不使用)」の文字。アメリカには健康上の理由で、砂糖たっぷりのソースを避けざるを得ない人々が数多く存在します。ヒューズ氏は長年、そんな悩みを持つ人々が食事制限を気にせず楽しめるよう、砂糖不使用でも味に妥協のない商品開発に取り組んできました。健康志向の食品への味の不信感を、彼の笑顔が信頼へと変えていると言えるでしょう。
アメコミ調の豚が見せる全米ナンバーワンの味:Famous Dave's(フェイマス・デイブス)
こちらは全米に展開する有名レストランチェーンのソースです。ちょっとレトロでアメコミ調の、いかにもアメリカらしいコミカルな雰囲気が漂います。しかし、地元の人々にとってはこれこそが伝統を感じさせるお馴染みのスタイル。ラベルにある「1st PLACE」の称号通り、創業者のデイブ・アンダーソン氏は全米のBBQコンテストで数々の受賞歴を誇るレジェンド的ピットマスターです。

これまでご紹介したピットマスターがプロデュースする2つのブランドは「本人の顔」が主役でしたが、こちらは豚のキャラクターがメインです。エンボスされたボトルとラベルを昔ながらのロードサイド看板に見立て、レストランのイメージとリンクするユニークなボトルとなっています。
SNS時代を牽引する粉末スパイスブランド:Dan-O's(ダンオーズ)
アメリカの粉末スパイスのコーナーは、液体ソースコーナー以上に「個」の力を感じさせます。さまざまな肉食文化を彩る味のブレンドが並ぶ中、「マコーミック」のような定番ブランドを凌ぐには、棚でいかに目立つかが勝負です。そんな激戦区で私の目を引いたのが、『Dan-O's Seasoning(ダンオーズ シーズニング)』です。

その理由はご覧の通り、帽子をかぶった少年のキャラクターイラストにあります。
あえてこちらを向かず、後ろ姿を見せているデザインはパッケージキャラクターとしては非常に珍しいのですが、だからこそ「どんな顔をしているのだろう」と興味を引かれました。
実はこのキャラクター、創業者のダン・オリバー氏をモデルにしたもので、彼はTikTokなどのSNSで、自ら豪快にスパイスを振りかける料理動画を投稿していることで有名です。つまり、気になるキャラクターの顔のモデルは、意外とスマホで簡単に見られるのでした。後ろ姿の謎について調べているうちに、まんまと彼らのサイトに連れて来られてしまったのです。
スパイスという商品は、それ単体で食べるものではないため、使い方やレシピとセットになって初めてその真価が伝わります。多くのブランドが自社のクッキング動画への誘い込みに苦心する中で、ダンオーズのような手法は現代的で巧みな戦略と言えるでしょう。
「死者の日」のメイクが伝える本場の味:Spanglish Asadero(スパングリッシュ・アサデロ)
一見すると食品らしからぬ、少し不気味にも思える大胆なガイコツ。メキシコ文化に馴染みの薄い日本人の私としては、最初はギョッとしましたが、これはメキシコの伝統行事「死者の日」には欠かせない伝統的なメイクがモチーフとなっているのでした。

アメリカではメキシコ料理は身近でポピュラーな存在ですから、こうした現地の文化をよく理解している人から見れば、不気味さよりもむしろ「本場の味」であることを直感させます。ラインナップもメキシコ料理に特化したミックススパイスが中心で、このパッケージが本格派であることの証明となっているわけですね。
その文化をよく知っているかどうかで、デザインから受ける印象がガラリと変わる。パッケージデザインの面白さを改めて感じさせてくれる一例と言えるでしょう。
最後に
アメリカの肉文化はダイナミックなイメージが強い一方、細分化された調味料の棚からは、味の差異を繊細に楽しもうとする並々ならぬ意気込みが伝わります。
「不気味なガイコツ」が「本場の証」に変わるように、パッケージの背景にある文化的ストーリーを読み解くことで、ただの調味料は食事を豊かにするパートナーへと昇華されます。肉食への執念が、限られたスペースにこれほど豊かな表現と戦略を生み出している。その熱量こそが、ここでの調味料棚をエネルギッシュな場所にしている正体なのかもしれません。
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