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コーヒー派のアメリカで「お茶」市場が成長。自由な発想でユニークな商品が生まれている

Image by Thought Catalog from Pixabay

ロシアと日本にルーツを持つ筆者は、幼いころから「お茶」に親しんできました。学校には緑茶を入れた水筒を持参し、家に帰ったらジャムをいれた紅茶を飲むのが日課。そして現在、私の生活にお茶は欠かせないものとなっています。毎日10杯近くのお茶を飲み、家には常に5つのティーポットと30種類以上のお茶を常備しています。

このようなお茶好きはアメリカでは珍しがられます。なぜならアメリカは、断然「コーヒー派」の国だからです。実はアメリカは世界最大のコーヒー市場を誇る国。スターバックスからダイナーやガソリンスタンドまで、コーヒーはアメリカ人のライフスタイルの一部となっています。お茶はというと…足元にも及びません。

しかしこれは言い換えれば、アメリカにおける茶市場はまだまだ可能性を秘めているということ。そのため、アメリカでは様々なクリエイティブな「お茶」が次々と販売されています。この記事では、アメリカで見つけたユニークなお茶の形を紹介します。

アイスティー:大量消費からクラフト商品へ

平均的なアメリカ人が1日当たり3.1杯のコーヒーを飲むのに対し、お茶の消費量は平均0.7杯というデータがあります。これは日本の半分程度です。また、その約8割はアイスティーなので、アメリカには「お茶を淹れる」という習慣はあまりないことが分かります。

Photo:スーパーに並ぶアイスティー。ほとんどがフレーバーティーです。

上の写真を見てもわかりますが、アメリカのアイスティーは「大容量」が当たり前。また、そのほとんどが果実やはちみつなどで味付けされたフレーバーティーです。

さらに、紅茶とレモネードを半々に混ぜた「アーノルドパーマー」と呼ばれる飲み物も大人気。日本では「お茶と他の物を混ぜる」という発想は、アルコール以外ではあまりないですよね。お茶を飲む習慣が文化として定着していないからこそ、冒険的な商品が誕生するのではないでしょうか。

Photo:アーノルドパーマーの発明者であるゴルフ選手アーノルド・パーマーの写真がパッケージに使われているのも面白いですね。

また、アイスティーの大量消費を支えるのが、インスタント・アイスティーです。

Photo:インスタント・アイスティー。パウダーを水に溶かすだけでアイスティーが作れます。

アイスティーを自宅で作ろうと思うと、お湯を沸かし、お茶を淹れてから冷やす…と結構時間がかかります。時短を極めた結果がこちらのインスタント・アイスティーなのではないでしょうか。上の写真は小容量パックですが、合計で40リットル以上のアイスティーを作れるサイズのものもあります。

しかし、最近になって、大量消費が当たり前だったアメリカのアイスティー市場に変化が生じています。

Photo:最近アメリカで伸びているのがクラフトアイスティー。

この写真のブランドTeavanaは2012年にスターバックスによって買収されており、スターバックスがコーヒーだけでなくお茶にも力を入れるようになったことが分かります。

ある統計によると、アメリカのミレニアル世代(1980年代後半~2000年代序盤生まれ)の87%が「お茶を習慣的に飲む」と回答したそうです。これに伴い、この若い世代を対象にしたお茶の商品が増えています。その代表例がクラフトアイスティー。高品質の茶葉を使い、添加物や人工フレーバーなしを追求している点が、健康や環境に対する意識の高い人に好まれています。

また、ペットボトルではなくガラスのボトルを使うことで高級感を出すとともに、環境への配慮も忘れません。

Photo: ニューヨークのラグジュアリー・ティーブランド「Harney&Sons」も、近年クラフトアイスティーを販売するようになりました。(写真は公式ホームページより)

サプリメントとしてのお茶

アメリカのミレニアル世代は、健康に対して非常に高い関心を持っています。その影響もあってか、単なる飲料としてではなく、サプリメントとして飲むタイプの茶商品が多く発売されています。

Photo:地元のカフェで見つけた伊藤園の煎茶ショット。煎茶をショット飲みしてカテキン注入!

中身は普通の煎茶なのですが、190mlという小さなサイズが特徴的。英語でショットとは、もともと「アルコール度数の高いお酒を、薄めずに小さなグラスで一気に飲む」ことを指します。そこから派生して、体に良いものが凝縮された飲み物(栄養ドリンクなど)にも用いられています。

上でも述べたように、アメリカのアイスティーのほとんどはフレーバーつき。煎茶のような「ピュアな」アイスティーは、健康食品としてマーケティングされているのです。パッケージに日本語が使われているのも、健康的であることをアピールためだと考えられます(アメリカでは日本食=ヘルシーというイメージが強い)。

また、数口で飲めてしまうようなサイズなのは、明らかに「のどが渇いたときに飲むもの」ではなく「食事に追加で摂取するサプリメント」として売られているからでしょう。

ユニークな商品が登場しているのは、アイスティーの分野だけではありません。

Photo:CBD(大麻成分の一種)入りの緑茶。

厚みのある箱に金色でプリントされたロゴは、贅沢で高級なイメージを与えます。値段もティーバッグ18個入りで17ドルと安くはないので、日常的に飲むのではなく、特別な機会(特に疲れたときや、持病の痛みが強いときなど)のためのサプリとして購入する人が多いようです。

大麻草から抽出される成分であるCBDは、向精神作用や依存性がなく、てんかんや痛み、睡眠障害、うつ、ストレス、免疫疾患などに対する効果があります。アメリカでは年々CBD製品が増加していますが、その一つがお茶。CBDは水に溶けるため、お茶に添加するのには最適ともいえます。

アメリカにおいて「お茶=健康食品」というイメージを売り込むマーケティングが強いことの証拠とも言えるのが、健康食品店においてお茶が売り場面積に占める割合です。クーパーズタウンにある自然食品・健康食品店はコンビニ程度の大きさしかないにも関わらず、大規模スーパー以上のお茶のセレクションを誇ります。

Photo:家族経営の小さな健康食品店に並ぶ多種多様なお茶。通常のスーパーでは手に入らないオーガニックのお茶が購入できます。

Photo:このお店で特に取り扱いが多いのがハーブティー。

使われているハーブの名前ではなく「どのような効能があるか」をもとに名前が付けられています。写真の例は、お腹にガスが溜まった感覚を和らげてくれるお茶です。左下の「ハーバル・サプリメント」との表記にも注目。

茶葉やティーバッグだけじゃない!新しいお茶のカタチ

これまで温かいお茶を飲む際には、ティーバッグか茶葉を使う必要がありました。しかし、そのどちらでもない新しい商品が登場しています。例えばこちらの「ティー・ドロップ」。本物の茶葉やスパイス、砂糖などが、まるでお菓子のような小さなかたまりにブレンドされています。それをお湯に溶かすことで、手軽に本格的なお茶を楽しめるのです。

Photo:チェコレート・アールグレイやカルダモンスパイスなど、ユニークな味がそろっています。味によって形も違うので、選ぶ楽しみが増えますね。

一体どういう仕組みになっているのでしょうか。実際に1箱購入して淹れてみることにしました。

Photo:星型のカルダモンスパイス味の紅茶をチョイス。ティーカップにちょこんと置いただけなのに、かわいいですね。

Photo:カップにお湯を注ぐと、このお星さまが溶けて美味しい紅茶の出来上がり!お風呂に入れた入浴剤が溶ける様子をイメージすると分かりやすいと思います。

こちらの商品は本物の茶葉を使っているため、茶葉成分が完全に溶けることはありませんが、粉っぽい感じもなく全て飲み干すことができます。砂糖なしで紅茶を飲むことになれている筆者にとっては少し甘すぎるように感じましたが、紅茶の味は確かにしっかりしています。

ティードロップの利点は、とにかく手軽であること。またビジュアル的にも面白いので、来客がある時などに出すと喜んでもらえそうです。さらに、ティーバッグに比べてゴミの量を20%削減することができるため、環境にも優しい選択肢であるといえます。

さらに、お湯で薄めることで簡単に飲むことができる濃縮液も登場しています。

Photo:アイスティーにもホットティーにも使える濃縮液(写真はWalker's公式ホームページより)

Photo:こちらはチャイの濃縮液。

50グラム入りのミニボトルで5杯分のチャイが作れます。価格は5ドルと安くはありません。このような高価格・小容量の濃縮液の存在は、上で述べたサプリとしてのお茶に通じるものがあります。

そして最後に、お茶のKカップを紹介します。

Photo:緑茶のKカップ。12杯分で7~9ドルです。

Kカップとは、キューリグ社のコーヒーサーバー専用のカートリッジのこと。特殊な容器に窒素を充てんて鮮度を保ち、飲むたびにサーバーにセットして1杯ずつ抽出することで上質なコーヒーやお茶を楽しむことができます。アメリカでは特にオフィスやホテルなどにコーヒーサーバーが置いてあることが多く、多様な種類のKカップの中から好きなものを選んでコーヒーを作るのが一般的です。

Kカップ=コーヒーと考える人が多いですが、実はコーヒーだけでなく、紅茶、緑茶、中国茶などバラエティー豊富。「コーヒーよりもお茶派」の人が増えるに従い、これからもっとポピュラーになっていくのではないかと考えられます。

まとめ

以上、アメリカで見つけたユニークなお茶の商品を紹介しました。アメリカでは、習慣としてお茶を飲む文化が定着していないからこそ、冒険心溢れる商品が数多く登場しているのではないでしょうか。ティーバッグでも茶葉でもないティー・ドロップは、そのかわいさと手軽さから日本でも広まりそうですね。

特に若者の間で健康志向が高まるアメリカでは、お茶のヘルシーさに焦点を当てた商品が増えています。しかし緑茶やハーブティーなどはまだまだ「エキゾチックなもの」としての認識が強いアメリカ。そこで単なる飲料としてではなく、サプリとしてプロモーションされているのは、なかなか面白いポイントだと思います。

日本でも、新しい食品を売り込む際に参考にできるマーケティングの手法なのではないでしょうか。

[参考]
http://www.teausa.com/14655/tea-fact-sheet
https://www.statista.com/outlook/30020000/109/tea/united-states
https://www.statista.com/outlook/30010000/109/coffee/united-states

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