ビジネスパーソンが読むメディア。マーケティング、セールスプロモーション、パッケージの企画・開発に役立つアイデアと最新の情報を、世界中から配信。

環境にも身体にもやさしい。何度でも使える、これからのエコラップ「ビーズワックス・ラップ」

2020年は「脱プラ」の年になるか

プラスチックが日用品の製造に広く使われるようになってから、およそ60年。この間に作り出されたプラスチックは合計で83億トンにも上ると考えられています。

安価で便利なプラスチックですが、その量があまりにも増えすぎてしまったため、リサイクルが追いつかないという状況が生じています。事実、リサイクルされるプラスチックは全体の8%にすぎず、残りの91%は分解されることなく、地球上のどこかにごみとして蓄積されてしまっているのです。

近年、このような現状にスポットライトが当たるようになり、人々の危機感が高まってきました。2018年10月にウィーン医科大学のチームが発表した「人間の排泄物にもマイクロプラスチックが含まれている」という研究結果は記憶に新しいかと思います。

これに伴い、パッケージの世界でも「脱プラスチック」は大きなキーワードとなっています。筆者の住むニューヨーク州では、今年3月からレジ袋が廃止される予定。2020年は、これまでにないグローバルな規模で「脱プラ」が広がっていくかもしれません。

何度も使えるエコラップ「ビーズワックス・ラップ」とは?

料理をする人なら必ずお世話になるのが「ラップ」。余った食材を包んだり、カバーをかけたりと、ラップを使う場面は意外と多いですよね。便利なラップですが、基本的に1度使用したら捨てる必要があります。もったいないだけでなく、環境にもあまり良いとは言えません。

実はアメリカでは最近、従来のラップに代わるある商品が人気を伸ばしています。それが「ビーズワックス・ラップ」です。

Photo:カラフルなデザインのビーズワックス・ラップ。S・M・Lの3サイズ入りで8.99ドル(約980円)。

ビーズワックスは日本語で「蜜蝋(みつろう)」。ミツバチが巣を作る時の材料となるもので、日本でもキャンドルやハンドクリーム、リップクリームなどに広く利用されています。このビーズワックスをコットン生地に浸透させて作られたのが、ビーズワックス・ラップです。

Photo:初めて使うときはパリッとしていて固めなのですが、使えば使うほど柔らかくなっていきます。

Photo:開いてみるとこんな感じ。

近年アメリカでは、トレーダー・ジョーズやホールフーズなど自然食品や健康食品を取り扱うスーパーで、このビーズワックス・ラップを目にすることが多くなりました。筆者の住むクーパーズタウンの健康食品店でも売られています。さらに、ビーズワックス・ラップを取り扱うネットショップも多く、デザイン・サイズ共に豊富です。

Photo:絵柄がかわいいビーズワックス・ラップ。通常のラップよりもずっとおしゃれ!キッチンが明るくなること間違いなしです。(Superbeeのオンラインストアより)

ビーズワックス・ラップ開発秘話

ビーズワックス・ラップが誕生したのは2008年。栄養士であったToni Desrosiersさんは、プラスチックに含まれるBPA(環境ホルモンの一種)が人体に悪影響を及ぼすことを知り、プラスチックを使わずに食品を包装する方法をリサーチするようになったそうです。

Photo:ビーズワックス・ラップの発明者Toni Desrosiersさん。現在はビーズワックス・ラップを販売する会社Abeego(アビーゴ)を運営しています。(Abeegoウェブサイトより)

「プラスチックが発明される何百年も前から、人は食品を包んできた」と考えたToniさんは、歴史的な食品包装に焦点を当てるようになります。食品の歴史に関する専門書を読み漁り、博物館や図書館で資料を捜し歩きました。しかし決め手となったのは、あるおばあさんの言葉だったそうです。

「子どもの頃、布の上にろうそくを溶かして、今で言うラップみたいなものを作ったのを覚えているわ」これを聞き、Toniさんは自宅のキッチンで実験を重ねました。自然由来のものだけを使い、人体に悪影響のないサステイナブルなラップを作りたい———こうしてたどり着いたのが「ビーズワックス・ラップ」だったのです。

ビーズワックス・ラップの使い方

ビーズワックス・ラップの使い方は簡単。プラスチックのラップを使う時と同様に、お皿にかぶせたり、食べ物を直接包んだりすることができます。

Photo:「プラスチックラップとほとんど同じように使えます」との表記が。

Photo:お皿の上にかぶせたら、手で温めながら折り込みます。

Photo:するとロウが柔らかくなり、お皿にピタッと密着!驚くほどに簡単にくっついてくれます。

Photo:半分残ったオレンジを包んで、そのまま冷蔵庫に。1回では使い切れない野菜や果物の保存に最適ですね。

ほとんどのビーズワックス・ラップには、蜜蝋のほかにホホバオイルや松やになどが使われています。これらには保湿効果や抗菌・防腐作用があります。さらに、空気を通さないプラスチックのラップと違い、ビーズワックス・ラップには適度な通気性が。そのため、食品をより自然に近い状態で新鮮に保つことができるのです。

もちろん、食べ物に触れるものだからこそ、オーガニック原料にこだわっています。ビーズワックス・ラップは100%自然由来の原料で作られており、口に入れて有害なものは一切使われていません。子どものおにぎりやサンドイッチを包んでも安心です。そしてもちろん、寿命が来たら分解され、自然に還っていきます。

Photo:使った後は冷たい水で洗って乾かすだけ。何度でも繰り返し使うことができるのが、最大の魅力です。

Photo:サンドイッチは冷ましてから包みましょう。

筆者は実際に使ってみるまで、ロウでベタベタするのではないかと心配でした。しかし、触っても手がベタつくことは一切なく、包んだ食べ物にロウがつくといったことも一切ありませんでした。

ビーズワックス・ラップの注意点

かわいくて便利なビーズワックス・ラップですが、いくつか使用上の注意点があります。ビーズワックス・ラップの最大の難点は熱に弱いこと。熱にあたると蜜蝋が溶けてベタベタになってしまいます。そのため、電子レンジに入れたり、温かい食べ物を包んだり、また熱湯で洗ったりしてはいけません。

熱湯消毒ができないため、肉や魚を直接包むことも避けましょう。また、洗浄力の強い洗剤を使うと蜜蝋が取れてしまう可能性もあるので、洗う時は水のみを使うように注意することも重要です。

可能性は無限大

上記の点にのみ気を付ければ、後は自由な使い方ができます。自分の使いやすい形に切ってしまうのもOK。そのままかばんに入れても汚れず、さらに形が崩れることもないのでお弁当箱代わりに使ったり、手作りのお菓子やおすそ分けなどを包んで、ラップごとプレゼントすることだってできます。さらに、形が崩れにくいため紙皿代わりに使ってみるのも良いかもしれませんね。

ビーズワックス・ラップは、日本の風呂敷の文化に影響を受けている可能性もあるかもしれないと思いました。そのため、何度でも使える布素材で食べ物を包む、という考えは日本人にとって馴染みやすいのではないでしょうか。

環境にも健康にも優しいビーズワックス・ラップ。日本でも広がることを期待しています!

▼参考記事
■A whopping 91% of plastic isn't recycled (National Geographic) https://www.nationalgeographic.com/news/2017/07/plastic-produced-recycling-waste-ocean-trash-debris-environment/

■In a first, microplastics found in human poop (National Geographic) https://www.nationalgeographic.com/environment/2018/10/news-plastics-microplastics-human-feces/

■Meet Toni, Female Founder and Inventor of Beeswax Food Wrap (Abeego) https://abeego.com/blogs/kfa/meet-toni-female-founder-and-inventor-of-beeswax-food-wrap

▼パケトラおすすめの関連記事

ゼロ・ウェイストやオーガニックは「意識高い系」の話ではない。フランスの「オ・ボカル」から読み取るヒント(前編)

サンフランシスコ市と住人が本気で挑む、脱プラスチック——「マイストロー」の時代は来るのか(前編)

このライターの記事

Top