【特集】世界の今。新型コロナウイルスが変えた私たちの生活(11)——「アメリカ・サンフランシスコ」の今
ロックダウンが発令された街
3月16日、サンフランシスコは米国のどの都市より先駆け、「新型コロナウィルス」感染によるロックダウンを発令しました。その日の感染者数はまだ37人、シリコンバレーなど周辺の地域を合わせたベイエリア全体でも114 人、死者は1人の段階でした。バブル景気の頂点を極めていたサンフランシスコは、次の日から一瞬でゴーストタウンと化しました。
これより2日遅れてカリフォルニア州、そして5日目にニューヨーク州のロックダウンが始まりました。それから1ヶ月、この5日の違いは大きな差となっています。4月19日現在、サンフランシスコの感染者数は1,058人、死亡者は20人。一方、ニューヨーク市は131,263人、死者は8,893人に達しようとしています。
この累計は私達に大きな教訓を与えました。米国民が一人ひとりの行動が重要という危機感を持ち、外出を控え不自由な生活に耐えています。この戦いの中で、本当に大切なものは何なのか。生きる事に真剣に向き合う機会を与えられているような気がします。
サンフランシスコの都市封鎖が始まった日、私はメキシコから帰米しました。人で賑わっていたメキシコシティから、ヒューストン経由での入国でしたが、乗り継ぎ便も合わせて30人ほどの乗客しかおらず、空港もガラガラでした。
サンフランシスコに到着するとウーバーの運転手がマスク姿で医療用のゴム手袋をしていたので、事態の深刻さを把握しました。1週間前と同じ街とは思えない、人も車も消えた街を通り過ぎました。
一週目。外出禁止でも、家の近所の食料品店、薬局への買い物、運動の目的で歩くことは許可されていました。ただし6フィート(1.8メートル)の社会的距離を保つことが条件です。ストア内の人数制限も加わり、買い物をする人の列は長蛇になり、中に入るまで最低30分はかかります。それでも誰も文句を言わず待ちました。
近所の人たちとハッピーアワーで交流する金曜日
一週目の金曜日、気分が沈んでいた矢先に近所の人の呼びかけで「ハッピーアワー」が開かれました。サンフランシスコの典型的な建物の特徴を活かして、グラスワインを持ち合い、社会距離を保ちながら顔を合わせました。隣にはギターを引く人も現れ、和やかな雰囲気となりました。今まで口を聞いた事がなかったご近所さんとも知り合いになり、人の暖かさが伝わってきました。
IT聖地の実力発揮、お得意のリモートワーク。問題は・・・
企業に勤める人は全てリモートワークに切り替わりました。しかしここはITの聖地、シリコンバレーと同区域。リモートワークやオンラインミーティングは得意です。こんな時は実力が発揮されます。
リモートならどこでも仕事ができるので、独身者は家賃の高いサンフランシスコ(月家賃は平均約45万円)から一時的に実家に帰る人も少なくありません。当初は3週間の予定だったロックダウンも5月まで延長され、社会は長期の「籠城戦」に動き出しました。
子どもを持つ家庭はさらに大変です。親はリモートワーク、子どもはオンライン授業で、家族が一日中家で過ごすことになりました。アメリカは共稼ぎ夫婦が多いので、小さな子どもの世話をしながら上の子の勉強も見て、自分もフルタイムで仕事をするという過酷な日々は、今までも送られています。しかしまだこうした家庭は「仕事を失うよりマシ」という考え方です。
問題は運動不足です。大勢の人が近所を歩き回り、夕方になるとパパと子どもが公園で遊んでいる姿をよく見かけました。
しかし2週目に入り遊技場や公園などに人が集まりすぎると、規制も罰則も厳しくなりました。公園や遊技場に柵をはり、駐車場も立ち入り禁止にしました。人と6フィート離れていなかったら(家族以外)罰金$400が課せられます。子ども達は、駐車場やオンラインゲームなどで運動をするようになりました。
一方、私のような子どもがいない世帯ではZoomを使ったオンライン飲み会やヨガなどのイベントが増えました。私もコンピューターの前でワインを片手に、会えない友達やグループと語りあいました。人との繋がりがこれほど大切に思えた事はありませんでした。
この頃から毎日夜7時になると、皆ポーチや窓から顔を出して「感謝の拍手」を医療従事者や公共職員達に送る行事が恒例となりました。特に目の前にその人達がいるわけでもないのですが、一斉に「サンキュー!!」と叫びながら、その人達に感謝の意を表しているです。
政府の対応
3月の終わりには、政府からの具体的な対策が可決されました。収入$7,500以下の全国民1人当たり$1200、子どもに$500の給付が既に始まっています。私のような市民権はない永住者にも給付されます。
「Stay home, Save lives」とスローガンを掲げ、こうした国の敏速な対応と、州知事による「市民と痛みを共有する」という発言には説得力があります。しかしその一方で、失業者による失業保険の申請は今現在で2,200万件を超えたという悲観的なニュースももあります。
「私達のカフェ、レストランを潰してはならない」
飲食店の経営者は、保険を使うなどの余裕さえありません。ロックダウンの日から家賃と従業員を抱えて心中するか生き残りをかけて戦うかの選択を迫られ奮闘しています。テイクアウトに切り替えるレストランもありますが、ほとんどは閉店(一時または永久)に追い込まれました。
カリフォルニア州では120日までの家賃の滞納が認められ、支払わなくても貸主が借主に退去要請が出来ない規制を作りました。貸主にも補助金が下りる法案が通るようです。また、従業員の支払いを肩代わりしたり店を立て直す為の軍資金をサポートするPPPというパッケージが充実しています。日本の政策との大きな違いは、これらの支援を返さなくても良いという条件です。
そんな中、地元のカフェやレストランをサポートする動きが拡大しています。ローカル誌やwebサイトにはテイクアウトができるレストランリストが掲載され、メニューが掲載されています。
「私達のカフェ、レストランを潰してはならない」と市民は地元の飲食店でテイクアウトし、ビッグチップを置いていきます。それでも食材を回すのが精一杯だと言うオーナー達は、地域愛の満ちた住民に支えられています。同時にフードデリバリーの普及も加速し、フル稼働で動いています。
先日、私のお気に入りのカフェが再オープンしました。サンフランシスコにある27全店舗はアプリからのオーダー、決算に切り替え、人との接触やクレジットの受け渡しがないシステムに変えました。これにより消毒の手間や手袋をする必要もなくなりました。政府を頼らず「レストランを地域が応援する」、そんなパワーを感じました。
先が見えない中にも必ず終息する
私は以前、911(アメリカ同時多発テロ)もこちらで経験しています。その時は3日間空港が閉鎖され、街から人が消え、恐怖の日々を過ごしましたが、1週間もすると平常に戻りました。
今回の戦いは、先が見えない中にも必ず終息する事はわかっています。私達は今、歴史的瞬間に遭遇しています。今一度立ち止まり、人生の価値を、生き方を、コロナ後の再出発に向けて考え直す時期なのかもしれません。
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【特集】パケトラライターが伝える、世界の今。新型コロナウイルスが変えた私たちの生活(4/21更新あり)