「ごみランチ」が大好評。オスロ大学流、フードロス対策——1時間限定の食堂に行列ができるワケ
「つくる責任、つかう責任」。あなたの責任は?
2030年を目標に、豊かで平和に暮らし続けられる社会ための「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連サミットで採択されました。SDGsの17の目標のうちのひとつは「つくる責任、つかう責任」。「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させる」という目標達成のために、私たちは何ができるでしょうか?
食品ロスを減らすためのインスピレーションが、ノルウェーにあるオスロ大学の食堂にありました。オスロ大学の「クット・グルメ」(KUTT Gourmet)という食堂。キャンパス内にはいくつもの飲食店があり、ここはその中でも規模的には小さめです。
1時間限定の食堂に人が並ぶ理由
12:00~13:00の1時間限定の営業時間になると学生や教員による行列ができて、およそ150~200皿のランチはほぼ完売します。
2015年に試験的にオープンした食堂は、当時は地元メディアで「ごみランチ」とニュースになり、大好評を得ました。1種類しかない日替わりランチメニューの食材は、「賞味期限が間近」「すでに賞味期限が切れている」ものなど。飲食店やスーパーが、廃棄しようとしていた食材でできています。
お腹を壊した人はこれまでおらず、保護者や学生からも心配する声はなし。食品ロス問題と賞味期限のおかしさを改めて考え直させるとして、高く評価されています。
1皿のお値段は、学割で50NOK(ノルウェークローネ)、およそ590円。大学は誰でも自由に出入りが可能。外部からの人も60NOK(708円)で利用可能です。北欧の中でも、ノルウェーは特に物価が高い国。お腹がいっぱいになるほどの量のランチが50NOKというのは、通常の飲食店では不可能な金額です。
ベーカリーからのパンは無料!好きなだけどうぞ
食材は、突然届く。シェフたちは、頭をひねらせ、即興でランチを作る。当日にならないと、その日のメニューは分からない。
それでは、気になる1週間のメニューをみてみよう。
月曜日はベジタリアンの日
廃棄食材で作る食堂の課題は、「肉や魚はたくさん集まるが、野菜が足りないこと」だと、店長のエーヴェンさんは取材で話します。「100皿以上作りたくてもブロッコリーが5個だけの日もあり、悩む」そうです。
環境や気候変動対策のためにと「肉を食べる量を減らそう」という動きが強い北欧。特に、環境思考が高い学生たちは、ベジタリアンやヴィーガンメニューも欲しがります。そのため、特別に月曜日だけは廃棄食材だけに限らず、ベジタリアンメニューとなるようにしているそうです。
火曜日はポークのガーリック中華料理
肉はどこから?「賞味期限切れが、あと2日」と迫っていたため、食品会社側が早めに処理したがり安い価格で購入したそうです。
水曜日はバーガーとポテト
さて、この日、私は自宅から自分の弁当箱を持参しました。なぜなら、これで5NOK=約60円ほど値引きされるからです!お弁当箱持参でゴミ削減に貢献したら、値引き!
木曜日はチキンを使ったパッタイ
エリザさん(右)はアメリカからの留学生。「とてもおいしかった。サステイナブルで、安い。とても素晴らしいアイデアだと思うわ」と大満足。学生たちがマイボトルを持参しているのにも注目。使い捨てプラ削減のために、マイボトル率はどんどん上がっています。
金曜日はタイ料理、ビーフサラダ丼
廃棄予定だったアイスやヨーグルトも販売
50NOKのランチのほかに、廃棄予定だったデザートなども売られています。アイス、ヨーグルト、アルコールフリーのビール(!!)、水、ジュース、チョコレートなど。各5~15NOK、およそ60~178円で販売。これらは月曜日のベジタリアンデーにも購入可能です。
容器の素材もサステイナブル
大学内にある他の飲食店では陶器の食器を使い、学生には無駄に使い捨て容器を使用しないように呼び掛けています。クット・グルメ食堂では、お皿やフォークは100%コンポスト可能な紙素材、フタ部分は100%リサイクルされたプラスチックを使用。ここで陶器を使用していない理由は「食洗器がないから」「学生がランチをそのまま別の教室などに持っていくことが多いから」だそうです。
ゴミの分別もしっかりと
環境に配慮した食生活を喚起する食堂
こちらもクット・グルメ食堂のエリア、壁のところをよく見てみると?
・1リットルの牛乳を生産するために、1000リットルの水が使われている
・賞味期限を過ぎていても、卵は食べることができる
・まだ食べないなら、パンは冷凍
・私たちが買う8袋分のうち、1袋は食品ロスとなる
・私たちが食材を捨てる理由は「賞味期限が過ぎているから」
・クット食堂がオープンしてから、20トンの食材が捨てられずに済んだ
店長のエーヴェンさんは、この食堂で働くことを誇りに思っています。
また、オスロ県の学生食堂の責任を取りしまる学生福祉団体SiOのグレフさんは、「このような特別な食堂では、十分な量の生ものを揃えて、おいしい食事にできるかどうかが課題となります。企業と交渉しながら、献立を考えることのできる、創造性に溢れた優秀な料理人がいてこそ、可能となります」と答えました。食堂は自治体から特別な補助金は得ていないそうです。
物価の高いノルウェーでは、クット・グルメ食堂と同じ質や量のランチを普通の飲食店で食べるとしたら、3~4倍の値段はします。SDGsの目標のひとつである食品ロスの課題。まずは、あなたの自宅、職場や学校でのキッチンから、考えてみませんか?
Photo&Text: Asaki Abumi
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