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急成長する 植物由来の代替え肉、 ベジタブル・ビーガンミート売り場最前線

オランダでの夏の風物詩にバーベキューがあります。一軒家やアパートの1階には庭があり、2階以上でも広いバルコニーがあるので、長い夏の夜、友人などを誘ってバーベキューをするのが、オランダ人たちの夏の楽しみになっています。漂ってくる匂いや煙もお互い様ということでトラブルの種になることはあまりなく、庭やベランダ越しに聞こえてくる笑い声は、こんな時期だからこそ心が和むものがあります。

5月末頃からスーパーに並び始めた炭の大袋に、もうそんな時期かとお肉コーナーを眺めると、いつものソーセージにBBQのステッカーが貼られたり、炭焼きできる味付きの肉などが増えていました。

バーベキューの季節になるとスーパーにも登場する炭の大袋。バーベキューのお供、ビールも特設で売られます。

台頭するベジ・ビーガンミート

そんな売り場を観察していたところ、去年にはなかったある変化に気づきました。
それはベジタブル・ビーガンミートのコーナーです。

以前からベジタブル・ビーガンミートはどこのスーパーでも売られていましたが、売り場はベジタリアンでなければ通り過ぎてしまうほどの小ささでした。それが、占有スペースが大幅に拡大していたのです。
オランダでは環境問題、動物愛護に関連して食肉の問題を語ることは多かったのですが、加えて新型コロナパンデミック以来、健康への意識から食への関心が高まったこともあり、ベジタブル・ビーガンミート市場が急成長したようです。

2040年までに世界の食肉の消費量を50パーセント削減することをミッションに、食への意識の変革・植物由来のフードスタイルを啓蒙するNGO団体ProVegによると、オランダの代替え肉(植物由来のベジタブル、ビーガンミート)の消費量は欧州11カ国の中でトップなのだそうです。

ProVegとSmart Protein Project(EUの研究・イノベーションプログラム「Horizon 2020」の助成金で次世代プロテインの開発をするプロジェクト)の共同調査によると、ヨーロッパの植物性食品市場は、過去2年間で49パーセント成長し、なかでもオランダでは、スーパーで販売される植物由来の代替え肉が51パーセント増、植物性のチーズにいたっては140パーセント増と驚異的な伸びをみせています。

ベジタブル・ビーガンミートの売り場はどんな様子か、どんな商品があるのか、いち消費者の目線からレポートしていきます。

緑が“効く”売り場

まずスーパーの売り場を紹介しましょう。
写真はオランダの2大大手スーパーのひとつJumboです。

中通路にホリゾンタル陳列されたベジタブル・ビーガンミート。

陳列棚上のタグの「Vegetarisch」は、ベジタリアン、ベジタリアン向けという意味です。床には「Valees」というメーカーのプロモモーションステッカーが貼ってあります。
陳列棚がベジタリアン向けの商品やビーガンミートで全て埋められています。

同じくJumboの他店では、Vegan(ヴィーガン)、Vegetarischの2コーナーに分けて商品が陳列されていました。ここでも棚の占有率100パーセントです。

Jumboはオランダ全土に700店舗以上あります。

この陳列棚の背中合わせに、鶏肉、豚肉の食肉コーナーがありました。

ベジタブル、ビーガンミート陳列棚と背中合わせで食肉コーナーを展開。

ベジタブル・ビーガンミートコーナーと食肉コーナーを見比べて、何か違いにお気づきになられたでしょうか? 

それは、色合いです。

食肉はプラパッケージ、肉の種類、部位を記したステッカーが貼られているだけなのに対し、ベジタブル・ビーガンミート商品は、色合いやイメージなどパッケージに工夫が凝らされており、売り場がにぎやかな感じです。

食の禁じ手と言われている緑や青の寒色も、全く気になりません。この「気にならない」感覚を、掘り下げて考察すると、気にならないどころか「ベジ肉としておいしそう」と捉えていることに気づきました。

食肉と同じレベルで扱われるようになったベジタブル・ビーガンミートの商品群を毎日見ることで、新鮮さに惹かれる一過性のものから日常的に巡るコーナーに変わり、エコを訴求する色の「緑」が、ビーガン・ベジタリアンミートのシズル(購買意欲)を誘う色へと認知が変わったようです。

カット野菜と一緒に陳列されているベジタリアン、ビーガンミート。2+1GRATISというポップは、 3つ買って1つ無料のキャンペーン。値段が高めなので、この時を狙ってストックするという人も。

冷凍食品。鶏肉風カトレット、肉団子、ファラフェルなど。Green Cuisineと色で、ベジタリアン、ビーガンミートであることがひと目で分かります。

そして、オーガニックスーパーのEKO PLAZAを訪ねた時に、筆者自身の中である変化が起こっていることに気づきました。

以前、パケトラで記事にもしたEKO PLAZA。ベジタリアンではない筆者は、EKO PLAZAなどのオーガニックスーパーは普段通うスーパーではなく、オーガニック素材や環境に配慮している商品など、こだわりたい時に訪ねる、ちょっと特別な場所でした。

EKO PLAZAでベジタブル・ビーガンミートの陳列棚を見た時、無機質な店内や暗めのライティングも手伝って「おいしくなさそう」な印象を受けました。EKO PLAZAでは「おいしさ」を求めていく場所ではなかったはずなのに、「おいしく見えない」と考えている事に驚きました。

ベジタブル・ビーガンミートはスーパーでも普通に買える商品になっている影響か、「おいしさは二の次」「特別」フィルタが働かなくなっているようで、自分にとってビーガンやベジタリアンミートは、健康とか環境問題よりも、「おいしそう」が選ぶ理由になっているようなのです。売り場に購買意欲が大きく影響を受けているということを改めて知ることとなりました。

EKO PLAZAのベジタリアン、ビーガンミートコーナー。

ターゲットはフレキシタリアン

オランダ最大手のスーパー、Albert Heijnでもベジタブル・ビーガンミートは日増しに充実しています。いつもいく近所のAlbert Heijnでは、ここ一か月の間でお肉・お魚冷蔵棚の半分が、ベジタブル・ビーガンミートで占められるようになりました。

薄水色のテープでプライベートブランドの場所を強調。扉の取っ手に「この店では100パーセントオランダの風力発電のエネルギーを100パーセント使っています」という丸いステッカーが。環境保全を購買行動に結び付けようというと環境保全の関連性を訴えています。

大手の強みでプライベート商品をどんどん投入しているようで、今やビーガンやベジタリアン食品は160種以上にものぼるそうです。

購買ターゲット層は、実はベジタリアンやビーガンではなく、フレキシタリアンです。フレキシタリアンとはフレキシブル(Flexible/柔軟な)とベジタリアンの造語で、植物性食品を中心にしているけれど、時には肉や魚など動物性食品も口にする人たちです。

肉・魚を口にする頻度などルールがあるわけではなく「ゆるい」のが特徴ですが、健康面、動物愛護の観点、肥料や水、家畜が出すメタンガスによる温室効果などを意識した層でもあります。このフレキシタリアンの眼にとまるかいなかが、ベジ・ビーガンミートの今後を握っているといっても過言ではないでしょう。

オランダでは75%の人々がフレキシタリアンだと思っており、肉を日常的に食べていたのは過去のことだと考えているそうです。肉や魚をほぼ毎日食べる層は2019年の55パーセントから45パーセントに減少、今後も減っていくことが予想されています。(ウェブメディア「FOOD EN RETAIL」“Helft Nederlanders vindt dagelijks vlees passé”より)

ハンバーガーやシュニッツェル、大豆じゃない豆食品


最後にベジタリアン、ビーガンミートを3点紹介しましょう。

友人から挽肉の再現性がすごいという話を聞いて、Albert Heijnで買ったバーガーのパテです。Beyond meat社はアメリカの会社です。

パッケージをマットにすることで真面目、落ち着きといった印象を与えます。ウェブサイトでは健康、気候変動、資源、動物保護と強いメッセージが発信されていますが、商品は「さらに肉厚に」などの説明に留まっています。少々くたっとしているものの、友人が絶賛するとおりの挽肉の食感に近く、植物性食品独特の臭みもなく、最後までおいしくいただけました。

 

裏側も栄養成分表示、原材料、調理の仕方のみ。


次の2点は、アールヌーボー調のパッケージが特徴のオランダのブランド
De Vegetarische Slager(オランダ語でベジタリアン・ブッチャーという意味)のシュニッツェル風。

農家として働いていたJaap Korteweg氏が豚インフルエンザや狂牛病の発生で累々と積み重なる家畜の死体を見て代替え肉の開発を決心、2010年に誕生させました。
今はユニリーバのブランドとして、バーガーのパテ、ソーセージ、ベーコン、挽肉など、16種類のベジタリアン向けのビーガンミートを展開しています。

BOONは、豆由来であることをブランド名(オランダ語で豆はBonen)とイラストで表現しています。
豆由来の代替え肉といえば大豆を思い浮かべるかもしれませんが、大豆も栽培増加による森林伐採や輸送にかかるCO2排出量の問題を抱えている食材です。BOONは「遠くの大豆よりも近くの豆を」モットーに、ビーガン&大豆フリー(Vegan & Sojavrij)を訴え、白いんげん豆、ひよこ豆、ブラウンビーンズなどを使っています(パッケージ左下で表示)。
写真は、白いんげん豆を使ったテンペ(インドネシアの発酵食品)。 どちらも普通においしかったです。

パッケージ裏側。どちらも写真付きで創業者からのメッセージ、レシピの表示があります。

まとめ:

今回、バーベキューシーズンをきっかけにベジタブルやビーガンミートに着目するようになって、スーパーマーケットを訪れる度に売り場が変化していることに気づきました。

スーパーという成熟マーケットで、新規カテゴリの台頭から成長までオンタイムで観察できたのは貴重な体験でした。

売り場として定着するということは、社会的な課題を意識せずともベジ・ビーガンミートが今晩の食材として選ばれるようになることを指します。
そのように誰もが普通に手に取るようになれば、あまたある商品の中から選ばれるためにパッケージや色にも変化が起こるのかもしれません。

現在、植物由来のみならず、培養肉、精密発酵という新しい技術による代替え肉の開発も進んでいます。まだまだ成長・拡大時期にあるベジタブル・ビーガンミートの売り場に今後も注目していきたいと思います。

 

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