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シリコンバレー発ラーメンロボットが日本に急増中 「Yokai Express 」(ヨーカイエキスプレス)

IPPUDOとのコラボ:プラントベース(とんこつ風)ラーメン©Yokai Express

シリコンバレー発のラーメンロボット(自販機)「Yokai Express 」(ヨーカイエキスプレス)が去年日本進出を果たし、今日本の至る所に「ヨーカイ」が出現中です。今までありそうで無かった生麺仕様の本格派ラーメンロボットは、自販機先進国の日本でブームを起こせるのでしょうか。注目が集まっています。

スタートアップならではのユニークな発想とテクノロジー

ラーメンブームが長年続くサンフランシスコ・ベイエリアで、ラーメンはすっかりアメリカ人の日常食になっています。そんな中、2019年に「ヨーカイ」第一号機が商業施設に登場しました。当時バリスタロボット(カフェX)と並んで、「フードテック」の先端を牽引してきました。現在、アメリカでは約100台の「ヨーカイ」が、空港やホテル、工場、ターミナル駅など24時間人が出入りする場所で活躍しています。

創業者でCEOのアンディー・リン氏は台湾出身で、アメリカの大学で機械工学と電気工学を専攻、修士号を取得し、31歳で起業しました。起業前、IT企業で深夜まで働いていた時、お腹が空いても暖かい食事が周りに無かった経験から、「いつでも美味しいラーメンが食べたい」という思いが、「ヨーカイ」開発の発端となりました。

「いつでもどこでも現れる」という意味で名付けられた「ヨーカイ」は、スタートアップならではユニークさとテクノロジーが詰まっています。独自で開発した冷凍保存したパッケージを急速解凍、急速加熱するテクノロジーは画期的です。また、ヨーカイの愉快なキャラクターとモダンな屋台風デザインも好評で、メニューを選ぶとわずか90秒で調理される米国初の本格的ラーメン自販機です。

実際に2018年、シリコンバレーのテスラ工場に設置された時、CEOのマスク氏の「美味しい!!」の一言がSNSで拡散され、そこで働く従業員の胃袋を癒したというエピソードが話題になりました。コンビニが少ないアメリカで、「ヨーカイ」は貴重な存在になっているのです。

更にニーズが高まったのは、パンデミック時のロックダウンでレストランが閉店した時でした。「非接触」「24時間グルメラーメン」のキーフレーズを聞きつけ、空港にラーメンを食べに行く人もいたそうです。同時にアメリカを襲った物価高、人手不足、人件費高騰の波に対処すべく、サービスもチップも必要のない「ヨーカイ」は時代の波に乗ったようです。

日本進出―課題とローカリゼーション

さて一方で、コンビニ、自販機が蔓延る日本で「ヨーカイ」はどんな活躍をするのでしょうか。

現在日本全国に約250万台(全国清涼飲料水の調べ)の自販機があると言われています。一見、必要なさそうに見える「ヨーカイ」ですが、そこには意外なビジネスチャンスが隠れていました。

「Yokai Express」のCOO(Chief Operations Officer)のアマンダさんは、「日本にはどこでもコンビニがあり、暖かい食事は容易に調達できる環境ですね。でもコロナ禍で24時間営業するコンビニは減少傾向にあります。また、空港、駅、ドライブインのレストランは早く閉店し、どこでもラーメンを食べられる場所が少ない点に着目しました」と語りました。

実際に調べてみると、日本の自販機の90パーセント以上がコーヒーやジュースの飲み物で、麺類ではカップ麺か冷凍食品の持ち帰りがほとんど。「ヨーカイ」のようなその場でアツアツのラーメンを提供する自販機は、意外にも皆無でした。また、これまでのコイン投入や鍵のない「無人販売」とは異なり、タッチパネルとキャッシュレスは、利便性と盗難防止に繋がり、他の自販機と差別化されています。

シリコンバレーのフードテックを狙う日本企業

それでも「どうして日本」?と思われる方も多いでしょう。「ヨーカイ」の日本進出の背景には、某日本企業の投資と強力なビジネスパートナーの出現がありました。その一つがアメリカでも展開する「一風堂」で知られる力の源ホールディングスです。両者の提携により、品質向上とメニューの充実が図られました。

その中で最も力を入れたのが、アツアツスープの温度設定です。米国では以前、熱いコーヒーで火傷をした客が裁判で勝訴した事件をきっかけに、高温度の食品サービスには消極的でした。試行錯誤を繰り返した後、スープの温度に敏感な日本人消費者に合わせたアツアツのスープと半熟卵のトッピングが実現しました。

元々あるメニューに「博多とんこつラーメン」や「IPPUDO プラントベース」なども加わり、日本人に馴染みのある種類豊富なメニューが勢揃いしています。近日、餃子や各種丼モノも加わる予定だそうです。 

ホテルでのニーズ「ヨーカイ」の試食と検証

IPPUDOとのコラボ:博多とんこつラーメン©Yokai Express

サンフランシスコ空港近くにあるモダンなホテル、「Aloft SFO」で「ヨーカイ」体験をして来ました。エントランスを入るとお洒落なインテリアにブレンドするように「ヨーカイ」は据えられていました。丁度チェックインしたお客さんが興味津々にラーメンを選択しているところに遭遇しました。元々ラーメンファンのこの方は、自販機を見た瞬間に「遊び心あるデザインとハイテクXラーメンの組み合わせに惹かれたそうです。

改良された「ヨーカイ」は、従来のマシンに比べ大きく、タッチパネル部分のデザインが一新され、まるでゲームのような感覚さえあります。人種の坩堝(るつぼ)と言われるサンフランシスコの自販機らしく、多種多様なメニューが特徴的です。

注文してから90秒待っている間にパネル上でヨーカイがラーメンを運ぶ様子が伺え、商品が出て来るまでワクワク感を与えてくれます。

タッチパネルの操作も容易で、現金以外はあらゆるカードに対応でき、タッチするだけでスムーズに清算されます。プライスは約$13

取り出す時にやけどをしないように、セロファンの上から樹脂で作られたフタが付いています。容器はエコ対応で、食べ終わると「コンポスト」(堆肥ごみ)に分類されます。

人気の「豚骨ラーメン」を初め、「担々麺」(レギュラーとビーガン)「スパイシーキムチ味噌」各丼物に加えタイやベトナムヌードルまで12種類がラインアップしていました。

デザインも一新され、すっきりしたデザインは好評。取り口窓も2箇所に増えました

「移動型屋台」で地球を救う!?グローバル展望

「ヨーカイ」は将来、「移動型屋台」として「地球を救う」役割も果たしそうです。例えば自然災害が起こった時、被災地に「ヨーカイ」を派遣して、新鮮な野菜や卵を使用した食事の炊き出しが可能になったり、買い物難民や工事現場で働く人をサポートしたり、難民キャンプでの「無人食堂」としての用途も視野に入れています。

「ヨーカイ」はさらに、ヨーロッパや他のアジア各国でのグローバルな展開も見据えています。新しいグルメ自販機の時代が到来しそうです。

 

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