オランダ語に「Maaltijd」という単語があります。「(定時の)食事」という意味で、日本では副菜になりがちな汁物も「Maaltijd soep(食事スープ)」と呼ばれ、ランチやディナーの主菜として食べらることがあります。食事スープは、1品だけどしっかりお腹を満たしたいときに摂るもので、日本でいうところのラーメンに似たポジションにあたるのかもしれません。
そんな食事スープ事情を、日常使いのスーパーから探ってみたいと思います。
スーパーのスープ売場
大手スーパーでは、スープはシェルフの一角を占めるほど占有域が広いです。粉状のカップスープからレトルトスープ、缶入りスープと形状も様々です。レトルトでは2人用(570ml)が主流で、日本での1人用食べきりサイズ(160ml)よりも量が多いことが分かります。
冷蔵コーナーにも、レンジで温めるだけの食事と一緒にスープが並んでいたり、カット野菜の中にもスープ専用パックが売られたりしています。
スープが副菜としてではなく、食事の一品として広く認知されていることが分かっていただけると思います。それでは、さらに深掘りして、ユニークなスープを見てみましょう。
スープパックで簡単手作り
スーパーでは、スープを手作りしたい人に向けて使い切り野菜パックを販売しています。注目ポイントは、プラスチックによる簡易包装ではなく、紙パックでおしゃれに演出されていることです。野菜の無駄買いを省くだけではなく、気軽な贈答品にもなりそうな特別なパッケージは、きちんと作るぞ!という気合いさえ与えてくれます。
スープ材料パックの中身を詳しく見てみましょう。今回はオランダの冬の名物スープであるErwten soep(えんどう豆のスープ)を買ってみました。
表面ステッカーにある3つの黒丸は、調理時間、摂取できるミネラルの量、分量(何人前)の記述で、黒丸上の緑の四角では、パック材料以外に必要なものを説明しています。さらに、TIPとして付け合わせやハーブのアドバイスが書かれています。
持ち手にある「PAK JE GEMAK」は「“簡単”を持ち帰ってね」という意味。お料理が楽しくなりそうなコピーです。さらに私のようにエルテンスープに馴染みのない海外の人にとっては、原材料や分量を調べる必要がないことも大きなメリットです。
ほかにも、時短で手作りしたい人用に、必要な野菜をカットしたパックも売られています。
カット野菜とスープストックの粉が入っています。「15分でおいしい新鮮スープが食卓に」というコピーと共に分量と調理法が書かれており、裏面のステッカーにも調理法の説明があります。そして秀逸なのが、水の分量をこの容器で測れること。
レトルト包材の色と質感で、イメージの差別化を演出
スーパーにずらっと並ぶレトルトスープは、大きさ、形状もほぼ同じ。そのなかで、どのように差別化させているかを見ると、メーカーがレトルト包材の質感、イメージ、コピーなどに様々な工夫を凝らしているのがわかります。
こちらのスープの名前は「忘れられた野菜のオランダスープ」。古臭いイメージがついたお野菜を使った昔ながらのスープというコンセプトで、塗装が剥げてひび割れた感じを印刷し、あえて古臭い雰囲気を演出しています。
オーガニック系のスーパーで売られているスープは、ストーリーの表現方法に工夫が凝らされています。「Kromkommer」は、野菜や果物の無駄な廃棄を食い止めるために2012年に設立された会社です。
オーガニック食品でよく見られる手書き風なタッチとデザインで、プラスチックパックの半分を覆う厚紙に野菜を擬人化したイラストが描かれています。そして、「Kromは新しい権利」「形がよくないトマト500gがスープに入っています」「曲がったお野菜で作られたおいしいスープ」などのメッセージが散りばめられています。シズル感よりも、どのように作られているか、ということに重きを置いているのではないかと思います。
高級ラインの差別化も興味深いです。Unoxはソーセージ、スープの大手ブランドです。上の写真はどちらもキノコスープで、左が高級ライン、右が一般ラインです。右が光沢フィルムなのに対し、左の高級ラインはマットな仕上げになっています。また、高級ラインにはパンチェッタ、タイムが入っており、バックを暗色にすることで原材料がいっそう際立って見えます。
大手スーパーでは、プライベートブランドのスープを食品メーカーに負けないほどの種類で販売しています。原材料のみならず、オーガニックを差別化の柱としているのが、いかにもヨーロッパです。大手スーパーのひとつ、Jumboのトマトスープを見比べてみましょう。
左がオーガニックのトマトスープで、右が肉団子入りのトマトスープです。右は光沢感のある包材を使用し、盛りつけイメージや「JUMBO」というスーパーのロゴ、Beterleven(畜産動物の飼育環境を三ツ星で示す認証マーク)が印刷されています。
それに対し左のオーガニックは、マットな包材に文字デザインで勝負。Jumboというスーパーの名前も、上中央の「BIO LOGISCH van Jumbo」と控えめです。肉団子入りトマトスープが全年代層、オーガニックは若者層に訴求しようとする試みが見てとれます。
最後に、エスニックスープのユニークなアプローチを見てみましょう。オランダでのエスニック料理といえばかつての植民地だったインドネシアでしたが、最近は、タイ、ベトナム、日本、韓国など、バラエティがぐんと増えました。
食に対しては若干保守的なオランダ人ですが、そのようなエスニック料理を口にすることが多くなり、レストランの増加に伴ってスーパーでも食品が売られるようになっています。
Jumboではモロッコのハリッサ、メキシコの豆スープ、マレーシアの赤カレースープ、Albert Heijnではインドネシアのピーナツスープ、タイのトムカーガイ、インドの豆スープなどが売られています。おもしろいのは、どちらのスーパーも「黒」でエスニックを表現しているところです。黒はプレミアム感を演出する色として使われます。
オランダでのエスニックレストランはカジュアルではないので、スーパーで売られるほど浸透しているとはいえ、消費者と商品の間の距離が遠い(特別である)のかもしれません。
パッケージを観察することで、ヨーロッパにおいてはアジアの捉え方が自分たちとはまったく違うことを知る結果となりました。そして、文化は食べ物のみならず、パッケージにも色濃く反映するものなのだということに改めて気付きました。
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