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ミシュラン三つ星「フレンチランドリー」がアメリカ料理界にもたらした進化と革命(後編)経営者に学ぶ「改革術」

1994年、ナパの小さな田舎町に「フレンチランドリー」がオープンして以来、トーマス・ケラー伝説が始まりました。90年代後半には「全米で最も予約が取れないレストラン」として知れ渡り、2003年から2年連続 「The world’s 50 best restaurant」で世界一となり、揺るぎのない世界のトップレストランに君臨します。

2006年(この年にミシュラン・サンフランシスコ版がスタート)にはアメリカ人シェフ初となるミシュラン三つ星を獲得し、その後15年間、星の数を守り続けるどころか、ニューヨークに「パ・セ」をオープンし、三つ星を取ります。

現在、ケラー氏がプロデュースするレストランは全米で13軒。それぞれ異なるコンセプトを持ったベーカリーからハイエンドまで、最高の演出で人々を魅了しています。今回はケラー氏に「改革術」を学びます。

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ミシュラン三つ星「フレンチランドリー」がアメリカ料理界にもたらした進化と革命(前編)アメリカンをハイエンドに

スターシェフ伝説

「フレンチランドリー」のメニューはエグゼクティブシェフであるケラー氏を中心に作られますが、片腕となり厨房を仕切るのは「シェフ ドゥ キュイジーヌ」です。

現在はデビット・ブリーデンさんが勤め、7年目になります。その前のシェフ、コーリー・リーさんは現在独立し、サンフランシスコの三つ星レストラン「Benu」のオーナーシェフです。新たなトップシェフを創出するのも「フレンチランドリー」の波及効果です。

Photo:まるで邸宅に招かれたような気分にさせるアメリカンホスピタリティー(おもてなしの原点)

この二人のシェフには共通点があります。有名な料理学校を卒業した経歴はなく、どちらも苦労人でフレンチランドリーには見習いから入り、トップに上り詰めています。実はケラー氏自身も皿洗いから始め、失敗を経験しトップシェフになった事から、若いシェフを育てる包容力が伺えます。

街を変えていくレストランのチカラ。全米に広がるトーマスグループ

ケラー氏の改革の要に、レストラン多角経営「トーマス・ケラー グループ」があります。

ヨントビルにはフレンチランドリー以外にも、「トーマス街道」と呼ばれる小さな小道を挟み「ブション」と「ブションベーカリー(ラスベガスにも支店を出している)」、アメリカン家庭料理、そして最近オープンしたメキシカンの5軒が並んでいます。それぞれの料理のテイストも値段設定も異なるものです。

共通点は「新鮮な食材と一皿のこだわり」です。中々予約が取れないフレンチランドリーに行けなくても、トーマス街道のカジュアルレストランで、ケラー氏プロデュース店の“テイスト”を味わうことができます。

Photo:地産地消は当たり前。カジュアルな田舎家庭料理を提供する「ad hoc」

かつて平凡な田舎町だったヨントビルは、この20年でたちまち「グルメ街道」となり、地元客と観光客を惹きつけています。ホテルやリゾートも大改装され、さらに多くの人々が訪れるナパグルメの登竜門に変貌しました。

ワインの名産地ナパとオーガニック生産者が多いこのエリアの好立地では、美味しいレストラン連鎖が広がっています。現在、ナパといえば「美味しいワイン+レストラン」となっています。

Photo:まるで美術館のような美しいワインセラー。数百種類のワインコレクションが並ぶ

オーガニック自社農家———流通なく旬を摘み取る

「トーマスケラーグループ」の経営に欠かせない重要な施設は、厨房の外にあります。それが「フレンチランドリー」の向かいある巨大なオーガニック自社農家「カリナリーガーデン」です。

採れたての食材はレストランで自消されます。この究極の「流通のない新鮮な食材」は、レストランにとって理想の環境です。ケラー氏は長年かけ畑とレストランが共存する究極の「レストラン道」を構築してきました。

Photo:カリナリーガーデン

また、「カりナリーガーデン」はレストランのラボにもなっています。敷地には畑以外に、グリーンハウス、養鶏場、養蜂などもあり、季節の野菜はトーマスグループのメニュー作りとリンクしています。

このオーガニック、サステイナブル農法の畑にはバリアがなく、近所の人が自由に散歩する姿が見られます。学校教育の上でも自然科学、理科、食の学びの場所となっています。町の美しい風景を作り地域と同化するケラー氏の「街作り」です。

Photo:巨大な「カリナリーガーデン」は、学びと憩いの場となっている

ファイブスター・キッチン

フレンチランドリーは、2017年に大改装が行われました。しかしゴージャスに生まれ変わったのはダイニングルーム(客席)ではなく、キッチンとコートヤードでした。おそらくこのキッチンはアメリカで最もエレガントと言えるでしょう。

結果、シェフのモチベーションが上がり、作業は効率化されました。ファイブスターのキッチンではシェフ、コック、見習い達が生き生きと働いています。ワインセラーやプライベートダイニングからはハイエンドレストランの風格が伺えます。

Photo:新築された美しいキッチンでは、シェフ、クック、研修生達がイキイキと仕事をしている

低音調理法と食材の研究

2000年代後半から最先端調理器として話題となった「sous-vide(スーヴィード)低温調理法」を「フレンチランドリー」では2004年から導入しました。ラム料理を始め、あらゆる肉食材から卵まで最適な温度で狙い通りの調理ができる魔法の調理器として、現在ではどのレストラン業も利用しています。

また、ダイエットの先駆けとしてグルテンフリーに対応した代替小麦粉も独自で開発を進め、「Cup4Cup」のオリジナルブランドを生み出しました。調理や食材に関して先見の目を持つのも、ケラー氏の改革の一つです。

フレンチランドリーは、2019年に25周年記念を迎えました。それに伴ったアメリカのテレビ局のインタビューで「25年を振り返っていかがですか?」という質問に、「毎日前進している。昨日よりも今日は更に美味しい料理を作る」と、同氏は変わらず謙虚で前向きな姿勢です。

オープン当初、アメリカではまだシェフのテイスティングメニューやソムリエによるペアリングはスポットライトを浴びない時代でした。今ではシェフの存在はレストランの柱となり、トップシェフ、トップソムリエが業界をリードしています。ケラー氏の功績は、アメリカのレストランのレベルを向上させ、地産地消でサステイナブルな食の連鎖を世界に拡散しました。

ケラー氏は、一軒のレストランが世界のトップを極めれば、あらゆる方面に波及効果が広がることを証明してみせました。レジェンドはこれからも続きます。

Photo:ケラー氏オリジナルの伝説メニュー「オイスターアンドパール」

Photo:3種のデザートの一番最後に出てくる自慢のチョコレート。お土産もうれしい

French laundry
6640 Washington St, Yountville, CA
1-707-944-2380

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