カリフォルニア州は2021年6月15日、経済活動が全面的に再開されました。ワクチン完全接種は60パーセントを超え、歩く人はすでにノーマスク。レストランやバーは1年3ヶ月ぶりに100パーセント店内飲食が解禁となり、活気を取り戻しています。人気店はすでに秋まで予約が埋まるなどのU字回復がはじまりました。この長いコロナ禍の乱気流の中、飲食店はどのように復活してきたのでしょう。そしてコロナの置き土産とは何があるのかを今回は記事を通してみていきたいと思います。
素早く方針を切り替える:テイクアウト
2020年の3月から2回に渡る厳しいロックダウンで閉店に追い込まれたレストランの多くが、たった一つ残された選択肢である「テイクアウト」で生き残りを続けました。それまでテイクアウトの経験がないレストランも、素早く方針を切り替え、宅配業社と提携して、WEBサイトやアプリを新しく販路に追加しました。当時の取材中、「店を守るには、たとえ小さな窓口でも営業を続けなければという使命感がありました」という店主の声を聞きました。
最初のロックダウンから3か月にも及ぶレストランの閉鎖は食のサプライチェーンに大きな影響を与えました。レストランの契約農家の野菜が大量破棄されるニュースが話題となり、心を痛めた一般消費者は、「フードロスを阻止したい」「地元のレストランをサポートしたい」と、「テイクアウト」を率先して利用するようになりました。その習慣は、今でも一般家庭に定着しています。
SDGsとパッケージの進化
「テイクアウト」が一般家庭の夕食の一部となったことで、それまで”TOGO”(残ったものを箱に詰める)の用途から、「ディナー」として新鮮な食べ物を保存する工夫がされてきました。例えば、麺ものは空気を抜きバキュームパッケージを採用して保存期間を長くしたり、スープやソースなどを瞬間冷凍させて賞味期限に柔軟性を持たす技術が飲食店で採用される様になりました。参考資料:https://www.questindustrial.com/
サンフランシスコでは、全米に先駆け、2003年から「ゴミゼロ」の目標を掲げ、コロナ前から、ストローやフォーク至るまで植物由来やバイオマスの「コンポスタブル」(生分解性をし土に還る物質)を使用していましたが、コロナで健康と環境に敏感になった世の中の潮流は、バイデン政権が掲げる「グリーン・ニューディール」も追い風となり、再生可能なパッケージがスタンダードに変わっていきました。テイクアウト需要拡大で勢い付くパッケージ業界は、コロナ禍で業績を伸ばした勝ち組です。
DXの進化とデリバリー
巣ごもり需要で多くのフード宅配が急速に一般家庭に普及していきました。アプリのメニューは多様化し、レストランの口コミや人気の数値化、印象の良いフード写真が魅力的で、誰もが宅配アプリをスマホにダウンロードしました。それまでテイクアウト、宅配の経験が無かった高年齢者層もアプリ操作に慣れ、スピーディーで便利な宅配は今でも生活の一部となっています。
※DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略。デジタル化して事業をスピーディーで簡潔に進めて行く改革のこと。日本はまだ紙社会で作業量が多い印象ですが、今後、デジタル化は飲食業を救う武器になるはずです。
フード宅配市場は、コロナ禍で世界では約115億ドルから約130億ドル、米国内では約28億ドルで、直近1年で17パーセントの成長をしています(米国調査調べ)。数ある宅配業社の中でも最大手の「ドアダッシュ」では、カジュアルからハイエンド、ファストフードからビーガン、アメリカンから日本食まで12の項目から選択を行い、注文を進めると最も早く届けられる飲食店から選ぶことができて、配達までの時間も明記されます。また、このアプリはテイクアウトの他、食料品買い物代行まで組み込んでおり、他社と一線を画し、コロナ禍で50パーセント近い伸びを記録しています。店側としては、従業員が不足している中、電話対応など一切なく、キッチンだけで経営を継続できる唯一の道でした。こうしてDXの進化は飲食店の強い味方となりました。
一方、デリバリーコストを気にする消費者も少なくありませんでした。そこで多くの飲食店は、テイクアウトとデリバリーの2刀流で対応しました。テイクアウトを専門とした人気レストラン5軒のグループ「BENE」は、書店やストアを利用して地元住民が気軽にテイクアウトできるシステムを構築し、SNSで毎日情報を流すなどして、常連客に歓迎されています。
アウトドアダイニング
2020年6月、「店外のみ」の条件でレストランの再オープンが始まりましたが、ほとんどの店は、外席を持ち合わせていませんでした。そこでサンフランシスコ市をはじめとする各エリアでは、ほぼ無料に近い形で公共の駐車スペースを利用した「アウトドアダイニング」の仮設が緊急許可されました。それにより多くのレストランが、簡易な小屋を設置しアウトドアダイニングを始めました。
しかしアウトドアダイニングは、次第に若年層の間で祭りのように加熱していきました。これが裏目に出て、2020年10月くらいから再び感染が拡大、11月に街は再びロックダウンに追い込まれ、2021年の2月まで続きました。飲食店は再びテイクアウトのみの営業になり、その時点で閉店したレストランも何軒かありました。
2021年2月からは営業範囲が段階的に許容され、アウトドアダイニングのみ→店内25パーセント集客→店内50パーセント集客→全面オープンとなりました。全面オープンになった今でもアウトドアダイニングはコロナの置き土産となり、増えたテーブル数はそのまま引き継がれ、売り上げに貢献しています。またレストランが連なる人気ストリートでは、週末、歩行者天国や音楽演奏なども新しい試みとなり、アウトドアダイニングは、人々の楽しそうな食事風景が街の雰囲気を明るくし、経済復活の象徴となっています。
米国政府の飲食店に対する措置
コロナ禍で飲食店の生き残りは、アメリカ連邦政府の中小企業向けの支援策,「給与保護プログラム(PPP)」の手厚い支援無しには語れません。2020年3月に「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARES)法」が施行され、一定の要件を満たせば、融資の全額または一部の返済が免除されるという支援策が始まりました。第一次は去年の夏まででしたが、感染拡大が長引いた事で、2021年の1月もさらに2,840億ドルが充てがわれ、多くの飲食店が救われました。
それでも再びロックダウンになったり、不安定な経営状況の中で、レストランの経営者は、従業員の雇用に頭を悩ませました。そこでロックダウン中は従業員を一時解雇、待機中には、手厚い失業保険が充てがわれ、また再開した時には待機中の従業員を再雇用するシステムを導入した店が多かったようです。ベイエリアの家賃の高い住宅事情などで移動した人や辞めた人なども多い中、以前と同じ雇用主に戻る従業員達は大きな力となりました。それでも先行きが不透明なコロナ禍で、人手不足によるサービスの低下は、消費者も重々承知していたようです。
三つ星レストランの裏技
ミシュラン星を持つレストランは、ロックダウン期間中、サービスもテイクアウトもできず、ジレンマを抱えました。ストリートでの飲食では高級感は出ず、コースメニューを宅配するのも皿料理と同じわけにいきません。そこで長年ミシュラン星を継続する「クインス」は、一日一組、葡萄畑の真ん中でテイスティングメニューのサービスを決行しました。自社農園でのプライベートダイニングは好評に終わったようです。
世界で有名な三つ星レストラン、「フレンチランドリー」は、100人以上の従業員を持ち、閉鎖中は大打撃を受けましたが、店外飲食が始まると、2年前に改装したばかりの広いガーデンを利用し変わらない高級メニューで経営を持続させました。他のミシュラン星である「アトリエ クレム」 や 「ゲイリーダンコ」は、高級コース料理をワインとペアリングで家庭まで配達するメニューを提供したところ、特別の日をお家で祝う「ホームセレブレーション」として新たな選択肢に加わりました。
また、コロナ禍で食材を供給していた農家は大打撃を受けました。その際にネット販売や食材を予め配達して行われる新しいタイプの料理教室が開かれました。一般消費者向けにもレストランで使われるはずの高級食材がファーマーズマーケットやネットを通じて販売されました。
さいごに
1年以上に渡り、旅行も外食も自由にできなかった消費者は、今意欲満々に経済活動を再開しています。この長いパンデミックの期間、私達の生活は外食や娯楽によって豊さを増しているのだと学びました。飲食業界の力強い回復と発展を願うばかりです。
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