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パリのコスメはどんどん「固形」に変化。パッケージも中身も脱プラスチックへ

フランス政府は2022年4月、使い捨てプラスチック包装に関する国家戦略を打ち出しました。それは“3R”と呼ばれるもので、リデュース(Reduce:削減)、リユース(Reuse:再使用)、リサイクル(Recycle:再生利用)を柱として、2025年末までに「不必要な」プラスチック包装を大幅に削減することを目標としています。

考えてみれば、私たちは生活のさまざまな面でプラスチックに依存しています。

プラスチックが登場してから100年ほどしか経っていませんが、一度この便利さを知ってしまうと、無かった時代に戻すのがなかなか難しい。環境に良くないとはいえ、未だにたくさんのシーンでプラスチック製品を見かけます。

例えば、私が「プラスチック製品を一番よく見る」と思うのがバスルーム周りです。

化粧品、シャンプー、ボディケア用品など、ありとあらゆる製品がプラスチックに包まれています。ほとんどの製品が“液体”ですから、プラスチック容器に入れなければいけないというのは理解できます。ガラスでは危ないですしね。

しかし、ここパリではそんなプラスチックにでさえ「ノン!」を叩きつけています。

バスルーム周りのプラスチック削減を牽引しているのは、なんとパリ市役所です。

パリを「世界一のグローバル環境都市にする」としたのは、現市長のアンヌ・イダルゴ氏。彼女は任期中に、パリを環境面で大きく改革することを第一に掲げました。

一番に成功した例といえば、自転車人口の増加でしょうか。パリではパンデミック以降、自転車を利用する人が大幅に増えました。というのも、パリ市が助成金を出しているためです。これは自転車購入者に購入額の50%、最大500ユーロを補助するシステムで、交通渋滞の緩和や大気汚染対策を目的としたものです。

そして次に切り込んだのが、2021年9月から始まったパリ市のオーガニックコスメの販売です。アイテムは、固形シャンプー、石けん、固形デオドラント、万能で使える固形バーム、固形ハミガキの5つ。

妊娠中の女性や3歳以上の子供を含む、家族全員で使用できる製品となっています。原料は有機ココナッツオイルや、有機米粉など、環境にやさしいものばかりです。

左から石けん、固形バーム、固形シャンプー、固形デオドラント、固形ハミガキ。

シリーズの名前は「À Portée demain(ア・ポルテ・ドゥマン)」。

“手元に”という意味と、“明日へ持っていく”をかけた造語なのだそうです。これは実は、パリ市とフランスの固形化粧品のパイオニア企業である「Pachamamaï(パチャママイ)」がコラボしたものなのだとか。「Pachamamaï(パチャママイ)」はもともと、廃棄物ゼロを目指したエシカルコスメを製造、販売していました。

アイテムは全て、パリ市役所に隣接しているブティックもしくはオンラインで購入できます。

御覧の通り、「À Portée demain(ア・ポルテ・ドゥマン)」のシリーズは紙パッケージはもちろんのこと、中身のすべてを「固形」にしました。ではなぜ固形かというと、それは当然、プラスチックの削減が目的です。

「リサイクルするのは良いこと。でも使わないのはもっと良い!」をコンセプトに、プラスチックをそもそも使用しないコスメを打ち出しました。

パリではこうして、固形のコスメがどんどん広まりつつあります。特に多いのはシャンプーですが、「À Portée demain(ア・ポルテ・ドゥマン)」はハミガキやデオドラントまで固形状にしました。(デオドラントもパリジャンの必需品。)デオドラントは、ほとんどがスプレー缶か、硬いプラスチックのロールオンタイプです。毎日使うものだからこそ固形状にする、というのは自然な流れだったと言えるでしょう。

通常の液体シャンプーだと、専用のボトルや詰め替えパックが必要になります。しかし固形シャンプーは包装紙を剥がすだけ。ゴミが削減できるというのは明らかです。また使用している原料も自然由来ということで、サステナブルな観点からも、固形化粧品が今のパリで注目を浴びるようになりました。

固形バームと固形デオドラントはアルミ缶を採用しており、詰め替えが可能です。

香りもやさしいハーブの香りで、ケミカルなものを一切感じませんでした。フランス人は一人ひとりがエコにとても厳しい国民だと思います。きっと、こうした固形コスメがこれからの主流となっていくのでしょう。

リサイクル資材で作った、自転車利用者のためのリュックもパリ市役所で販売されています。

さて「À Portée demain(ア・ポルテ・ドゥマン)」にはラインナップされていないのですが、私たちが毎日使うものに「クレンジング」があります。

フランスでは硬水という理由で、ほとんどの女性が拭き取りクレンジングを採用しています。洗い流すタイプを毎日使っていると、硬水のために肌が荒れてしまうからです。

ちなみにクレンジングはプラスチック容器のままですが、私はこの分野もいつか固形になるのではないかと期待しています。

しかし問題なのは、「コットンを使いすぎてしまう」ということ。全てのメイクを拭き取るのに、コットン一枚で済む女性はそういないように思います。フランスのコットンは小さく、丸い形状をしていますから、だいたいの人が2~3枚は消費するのではないでしょうか。そこで近年「洗えて繰り返し使えるオーガニックコットン」が登場し、これもまた人気を博しているのです。

左が一般的なコットン、右が洗えて繰り返し使えるオーガニックコットン

洗えるコットンは、ゴミの削減を目指しています。コットン素材の、ミニタオルのような形で、拭き取り能力は全く変わりません。何より良いのはプラスチック素材を一切を使っていないこと。巾着付きなので、旅行の際も持ち運びが楽です。

クレンジングだけではなく化粧水にも使用できますから、コットンのゴミを減らすという意味では画期的なアイテムなのではないでしょうか。

パリでは今、さまざまなメーカーが洗えて繰り返し使えるコットンを発売しています。そこにはもちろん企業努力があります。しかし、結局のところは「何を選択するか」という消費者のパワーが強いのではないかと思います。

パッケージも中身も脱プラスチックのパリ

エシカル消費が当たり前になっている現在のパリ。それに応じるように企業もさまざまなエコアイテムを発表しています。今のパリでは、こうして消費者+生産者の相乗効果が上手く作用しているような気がしてなりません。

パリ市役所が発表した「À Portée demain(ア・ポルテ・ドゥマン)」はこちらでもニュースになりましたが、公的機関が率先してイニシアチブを取ることに改めて心強さを感じました。

 

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