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自転車が急速に浸透するパリ。「呼吸する」街を目指して

「Paris Respire」=「呼吸するパリ」。

これは数年前からよく聞く言葉で、アンヌ・イダルゴ市長が掲げる「パリの空気を綺麗にする」というスローガンです。

同市長はこのスローガンを就任当初から口にしていましたが、それが勢いよく現実のものとなったのは、2020年5月の第一回ロックダウン明けからでした。

ただパリ市のラッシュ時における混雑ぶりは、コロナ以前より問題視されていました。

そこに感染リスクの懸念が相まって、公共交通機関を利用する人が2020年を境にぐっと減ったというわけです。

パリ一区の様子。2022年9月

パリの人々が代替の乗り物として手に取ったのは自転車です。そしてこれは一過性のものではありませんでした。

パリ市はオリンピックが開かれる2024年にはディーゼル車を2030年にはガソリン車の走行を禁止する予定です。そのため市はロックダウン中にパリの目抜き通りであるリヴォリ通りを自転車専用レーンとして大改造しました。

リヴォリ通りとはパリ右岸のコンコルド広場からルーヴル美術館の北側を通る全長約3キロの大通りです。以前は車でびっしりと埋まっていた通りでしたが、今となっては歩行者天国ならぬ自転車天国に変わり、昼夜問わず自転車・キックボードが颯爽と通り抜けています。

リヴォリ通り

こちらを走行できる車はバス、タクシー、配送車、緊急車両もしくは居住証明のある地域住民に限られます。

なお違反した場合は罰金135ユーロ(約18,900円)が科せられます。そのため今のリヴォリ通りは排気ガスに汚染されることなく、文字通り「呼吸するパリ」となっているのです。

日曜日だけ歩行者天国、という通りは以前からありましたが、これほどの大通りを常時自転車専用レーンとしたのはパリ市の中でもかなり大胆な試みだったと言えます。

パリ・チュイルリー公園前

こうしたパリの大改造は速度を上げて進んでいます。2021年の時点では自転車専用レーンの総延長は市内で50キロメートルに達しており、今後はそれをどんどん延長する予定があるとのこと。

もちろん自転車の導入にもパリ市は尽力しています。例えばパリ在住者であれば電動自転車を購入する際に本体の税抜き価格の3分の1、最大400ユーロ(約56,000円)の補助金を受け取ることができます。

さらに子どもを前方に乗せることのできる「カーゴバイク」の場合には最大600ユーロ(約84,000円)となり、通常の自転車を電動アシストに変換する場合にも補助金が下ります。

こうした光景は当たり前になりました

今のパリの自転車人口を見れば、イダルゴ市長の計画はほぼ成功と捉えられるでしょう。

パリの街角にはカフェ併設のファッショナブルな自転車ショップもできており、自転車が一種のトレンドであるとも言えます。しかし一番の問題は「パリにおける駐輪場が少ないこと」。

盗難の問題も少なからずありますから、通勤やスーパーへの買い出しに気軽に自転車を使えない、という人も存在します。

そこで今大活躍しているのが、パリ市主導のレンタル自転車システム「Vélib(ヴェリブ)」です。ヴェリブはパリ市内の至る所にステーションがあり、アプリに登録するだけで誰もが簡単に利用・返却できます。

ヴェリブは24時間365日の利用が可能です。さらにパリ市内を300メートル歩けばステーションがあるという計算になるため、どこで借りてもどこで乗り捨ててもOKで、自由に使って構いません。

パリのヴェリブステーション

現在、利用システムには一日パス(5ユーロ=約700円)、一週間パス(15ユーロ=約2,100円)があるほか、年間契約も可能です。

またスマホ上では、どのステーションに自転車/電動自転車が何台あるか?という情報が所在地とともに表示されます。

決済はスマホがメインですが、ステーションでも可能です

こうしたヴェリブの利便性・低料金システムはパリジャンの心をがっちりと掴みました。

ちなみに、パリは公共交通機関のストライキが多発する場所でもあります。

コロナ直前の2019年冬にはパリ交通公団による大規模なストライキが発生し、多くの地下鉄やバスがラッシュ時にストップしてしまいました。

その時のトラウマやコロナ禍が重なったため、パリの自転車に一斉に焦点が当たったという流れになります。

帰宅時間のパリ・リヴォリ通り

去る6月、欧州議会は2035年からガソリン車・ディーゼル車の新車販売を終了することを決定しました。これは自動車によるCO2排出量削減を目的としたもので、新しく車を買い替えたい場合は以後、電気自動車のみとなるそうです。

今年は歴史的な猛暑に襲われた欧州です。

そのため欧州議会の気候変動対策はより現実味を帯びており、2025年までに自動車の排出ガスを15%、2030年までには55%削減するという目標を掲げています。

また2050年にはガソリン車の乗車自体が禁止になる可能性さえあると言います。

パリだけで12社がサービスを行っているキックボードも人気

なおパリでは9月18日(日)に市を挙げての「ノー・カー・デイ」が開催されました。

これは2015年より毎年一度開催されているイベントで、パリ全域で車の走行を禁止としたものです。

こちらも「Paris Respire」=「呼吸するパリ」の一環で、目的には大気汚染を緩和するほか、騒音の軽減などがあります。

当日はパリから見事に乗用車がなくなり、バスやタクシーのみが走行していました。

結果、人体に有害な二酸化窒素量は通常の20%も減少し、騒音は最大で40%減少したと報告されています。

午前11時から夕方の18時までの7時間限定でしたが、当日はあちこちで自転車に関する催し物が行われており、綺麗な空気と共にエコ意識が活発化した一日でもありました。

「呼吸する」街を目指して

こうしてパリでは大胆な道路革命が行われています。

将来的には車より自転車の数の方が多くなるだろうと言われていますが、そんな日もそう遠くないうちにやってくるのでしょう。

ストライキ、コロナ禍、そして今年の猛暑と、相次ぐ天災・人災が人々の意識を変えました。

10年後の夏には気温50℃を突破すると予想されるパリでは、さらなる環境対策が急ピッチで行われています。

 

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