オランダ流、エシカル製品のシリアスなメッセージを「パッケージ」と「プロモーション」で消費者に届けるアイデア
近年、環境と食糧を巡る問題がよりいっそう注目を集めるようになっています。
企業では国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)を経営に組み入れ、利益と持続可能性な社会の構築を同じ視点で追求することが求められるようになっており、いち消費者もまた、価格やおいしさという選択肢に加えて「消費行動が与える影響」を意識する「エシカル消費」が増えていくことが予想されます。
持続可能な社会に貢献するという、真面目かつ重めのメッセージをどうやって消費者に理解してもらい、商品を手に取ってもらうか。オーガニックがその役割を果たしているとも言えますが、安心と安全という健康面に配慮したメッセージが濃く、購買行動と社会の課題解決との関連づけは少し遠いかもしれません。
私の住むオランダでは、人権は何よりも大切だと考える社会があり、その延長線上の「生き物の権利」を考えてベジタリアンやヴィーガンになる人がいます。また、ベジタリアンでなくても食糧生産のための森林伐採、海洋プラスチックなどの環境問題を身近に捉えている人も相当数います。
そんな社会問題への意識が高いオランダで、エシカル消費に取り組む各メーカーはどのような工夫をしているのでしょう。オーガニック専門のスーパーマーケット「EKOPLAZA(エコプラザ)」で探ってみます。
オーガニックらしいパッケージがずらりと並ぶなか、社会課題解決へのメッセージを届けるのは普通のスーパーよりも難しいと言えます。正しい主張であるがゆえに、真正面から訴えると消費者はお腹いっぱいになってしまうかもしれないし、控えめにすると他の商品に埋もれてしまう可能性があるからです。
短いメッセージとパッケージデザインでインパクトを与える
まず目をひいたのは、ネーミングやメッセージを極力短くした商品群。こちらはナチュラルウォーターの「Well(ウェル)」です。
Wellは英語で「井戸」という意味で、「満足に、うまく、よく」という副詞でもあります。4文字に「ナチュラル」と「よい」を同時に想起させる絶妙なネーミングです。
「ウェル・ウォーター」は、クリーンな飲料水を途上国に供給するプロジェクト支援のため2名のオランダ人青年が立ち上げた会社で、現在は「good for the next generation」というスローガンのもと、飲料水プロジェクトのみならず、緑化、海洋汚染防止、チャリティー支援なども行っています。
パッケージのラベルには北海の海洋汚染対策、募金活動のほか、「Drink Today Support tomorrow(今日飲んで明日をサポート)」などの8つのメッセージをイラストとともにデザイン。限られたスペースを有効活用しています。
次に、ドライソーセージの「eat PROPER MEAT(イート・プロパー・ミート)」です。3人のシェフによって誕生したドライソーセージのブランドです。
家畜の劣悪な飼育方法を撲滅し、エシカルな肉を食卓に届けるためにソーセージ作りをいちから学んだそうです。スタイリッシュなウェブサイトでは、契約農家でのびのびと育つ豚が紹介されています。
どちらの商品名も英語なのは、英語圏への訴求とともに、母国語のオランダ語と同じくらい英語が通じるこの国ならではの事情も関係していると思います。
少し話がずれますが、家畜の飼育環境を非難するコマーシャルがTVに流れたことがありました。「Wakker Dier」という動物保護を目的とする財団が制作したCMで、オランダ最大のスーパー「Albert Heijn」には鶏の飼育に大きな問題があり、鶏肉を買わないようにと呼びかける内容でした。
テレビ番組の大手スポンサーでもある「Albert Heijn」を名指しで非難し、しかもゴールデンタイムに流すことに心底驚きました。たとえスポンサーであっても主張する権利は公平に与えられるべきという考えがあるのだと、改めて権利主張が守られているオランダ社会を痛感しました。
企業のミッションがブランド名に
企業のミッションそのものをブランド名にする商品もあります。代表的なのが「YOUR ORGANIC NATURE(ユア・オーガニック・ネイチャー)」と「fairtrade ORIGINAL(フェアトレード・オリジナル)」です。
「ユア・オーガニック・ネイチャー」は、UDEAというオーガニック、ナチュラルプロダクトの卸売業者のブランドで、「ユア・オーガニック・ネイチャー」を含む8ブランドを展開しています。
「ユア・オーガニック・ネイチャー」では、朝食、飲料、小麦粉、乳製品など8カテゴリーで300以上の食品を取り扱っています。プラスチック包装削減にも取り組んでおり、生分解性プラスチック使用、パッケージの簡素化などで全商品の50%がプラスチックフリーになっています。
「フェアトレード・オリジナル」は、今から約60年前の1959年、S.O.S(Steun Onderontwikkelde Streken=途上国のサポート)という社名で設立。1970年代にグァテマラのコーヒー豆を適正価格で生産者と取引した、フェアトレードの先駆けです。
1994年に「フェアトレード・オリジナル」と社名を変え、サンバル(インドネシア料理で使われる辛味調味料)で世界初のフェアトレード認定を受けるなど、会社のミッションとスパイスフードを平行して展開しています。会社の出発点であるコーヒーのほか、カレーペースト、スパイスなどアジア、アフリカ、南米の食材を取り扱っています。
チョコレートは遊び心のあるパッケージでメッセージを伝える
チョコレート市場は年々拡大を続けており、2018年から2025年までグローバル市場の年平均成長率は5.7%で、2025年には672億2千万ドル市場(約7兆円)になるという報告があります(「Fortune Business Insights」より)。
その一方で、カカオ農家の貧困や児童労働など、生産者の厳しい現状がたびたび話題にのぼります。チョコレートは嗜好品なだけにより、倫理感が求められる食品と言えるかもしれません。
楽しい気分とシリアスなメッセージをどう同居させるか。グラフィックデザインに強いオランダならではの遊び心あるパッケージデザインにヒントを見つけました。
コンゴやペルー、ドミニカ共和国からカカオを直接買いつけ、アムステルダムの自社工場でチョコレートを製造している「CHOCOLATE MAKERS(チョコレート・メーカーズ)」。適正価格での買いつけから、自然保護、流通にかかる二酸化炭素ガスの排出削減など、サプライチェーンのすべてに関わることを社是として、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。
写真(左)のチョコレートにデザインされているのは、コンゴ東部のヴィルンガ国立公園に住むするマウンテンゴリラ。国立公園の端にカカオ農場を作り、生息地への侵入を防止しているそうです。
カカオ農場での奴隷・児童労働の撲滅を訴え、オランダのみならずヨーロッパ諸国、アメリカでも名が知られている「TONNY’S CHOCOLONEY(トニーズ・チョコロンリー)」は、ジャーナリストのTeun van de Keuken氏が創立しました。
消費者に正しい情報が伝わっているかを調査する人気テレビ番組「Keuringdienst van Waarde」のプレゼンターでもあったvan de Keuken氏は、西アフリカのカカオ農場の劣悪な労働環境にショックを受け、奴隷労働に頼らないチョコレートブランドを立ち上げます。
「トニーズ・チョコロンリー」は一般スーパーにもあり、アフリカを彷彿とさせるカラフルなデザインと幅広い商品群で棚を占有することでひときわ目立っています。遊び心と「Crazy about chocolate, serious about people」というスローガン、そしてチョコレートに描かれた模様で、メッセージがダイレクトに伝わってきます。
売り場でのプロモーションや販促ツールで啓蒙する
生産から売り場までの長い道のりを消費者に感じ取ってもらうには、商品のみならず売り場の力も大きいと思います。エコプラザは、一般スーパーのような明るさや賑やかさがなく、照明を落とした暗めの店内、コンクリート打ちっぱなしのフロアや配管を露出させた天井で、「飾りがない」「むきだし」のイメージを作り上げています。
店内の装飾も限りなく抑える分、鶏の飼育状況を解説したポップなどが引き立ちます。また、フリーペーパーを年5回発行しており、レシピや生産者、取り扱い商品が紹介されています。冷静に考えれば販促ツールなのですが、紙質やデザインも含めて丁寧に作りこむことで、エコプラザのファンを獲得するだけではなく、啓蒙ツールにもなっています。
歴史やライフスタイルに合わせて、消費者に響くフックを探る
エシカル消費を普及させるポイントとして、パッケージデザインや売り場でのプロモーションのほか、その国が歩んできた歴史やライフスタイルに目を向けることも大切だと思います。
オランダは、インドネシアを植民地にして大規模なプランテーション経営を展開し、現地の人たちを安い労働力として酷使し富を得てきた歴史があり、現在、その歴史を反省とともに振り返る傾向があります。
また、フェアトレードにとりわけ熱心なのも、かつて南アフリカで行われたオランダ系移民を主体とした白人によるアパルトヘイト政策(人種隔離政策というオランダ語)と無関係ではないと思います。
環境・社会問題は全世界で取り組む課題ですが、何に問題意識を持つかは国によって強弱があると思います。エシカル消費を拡大させていくには他の国の成功例に学ぶだけでは不十分で、国の歴史、大量生産・大量消費以前の生活のあり方を見つめ直し、消費者に響くフックはどこにあるのかを探ることが大切なのではと思います。
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