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忙しい現代人こそ使ってほしい。アメリカで人気の、たった15分で作れる「インスタント・パン」とは

アメリカのスーパーに行くと、卵や乳製品などのコーナーに、缶のようなものがズラリと並んでいる光景を目にします。「なんでこんなところに缶が…?」と不思議に思い手に取ってみると、パッケージにはビスケットやシナモンロールなどパンの絵が描かれています。

Photo:缶にはビスケットの絵と「8 Big Biscuits」の文字

しかし、非常食の「缶詰パン」のように、缶の中にパンが丸ごと入っているわけではありません。ここで売られているのは、実はパンの生地。この生地を自宅のオーブンで焼くことで、手軽に焼き立てパンが食べられるという商品です。言い換えれば、面倒な生地作りの過程を省いて、オーブンに入れて焼くだけで簡単に焼き立てアツアツのパンが自宅で作れるということ。

今回は、アメリカで「おふくろの味」と呼ばれるほど人気の商品である「インスタント・パン」について紹介します。

この商品のことを、筆者は日本語で「インスタント・パン」と呼びましたが、英語ではready-to-bake dough(オーブンに入れる準備のできた生地)や、packaged dough(パッケージに入った生地)などと呼ばれています。また口語ではbread in a can(缶に入ったパン)と呼ぶこともあります。

インスタント・パンの歴史

Photo:最も代表的なブランドPillsbury(ピルズベリー)のインスタントクロワッサン

インスタント・パンが誕生したのは1931年。なんと90年近い長い歴史のある商品です。その始まりは、パン屋でビスケットの売れ筋が良くなかったこと。アメリカでは、ビスケットは焼き立ての温かい時に食べるのが定番で、冷めたビスケットは好まれないからです。

ちなみに、ここでいうビスケットとは、いわゆる「クッキー」のようなお菓子ではなく、ケンタッキーフライドチキンのセットで販売されている、スコーンに似たパンのこと。アメリカでは特に南部地域でこのビスケットが人気で、朝食として食べたり、グレービーをかけて料理の付け合わせとしてよく出されたりします。

そこで、ケンタッキー州のパン屋であり発明家でもあったライブリー・B・ウィラビー氏が、保存できるパン生地の開発に乗り出します。何度も実験を繰り返した結果、アルミホイルに包んだ生地を、ほぼ真空の缶(完全に真空にすると、イーストのはたらきで缶が爆発してしまう)に入れて冷蔵保存する方法にたどり着きます。こうすれば、1週間後でも生地は新鮮なまま。ビスケットの味も、作りたての生地を焼いた場合と全く変わりません。

ウィラビー氏はこの発明で特許を取得します。その後、地元の製粉業者バラード&バラード社と協力して、1931年に世界初の「冷蔵ビスケット生地」を発売しました。当時の新聞には、「一生に一度、一世代に一度の革新的な大発明!料理の経験がなくても、トーストを焼くよりも短い時間で、焼き立てのビスケットが食べられます」という宣伝がなされました 。

その後1951年、バラード&バラード社は大手食品業者のピルズベリー社に買収されます。そして今日に至るまで、ピルズベリーはインスタント・パンの代表的なブランドとして、アメリカ全土で愛されています。青い缶に、ドーボーイ(Doughboy、「生地坊や」の意)という名のキャラクターが描かれているのが定番です。

クロワッサン、シナモンロール、季節限定フレーバーまで

現在ピルズベリーからはビスケットだけでなく、インスタントクロワッサン、シナモンロール、ピザ生地、パイ生地、クッキー生地などが発売されており、味付けも様々です。秋にはパンプキンスパイス味のシナモンロールなど、季節限定商品も頻繁に出ています。

Photo:秋限定のパンプキンスパイスロールは、缶がオレンジ色です。

ピルズベリー商品の価格は、1つあたり2~4ドル程度と安い!さらに、スーパーにはピルズベリーの定番商品だけでなく、ストアブランドのインスタント・パンも売られています。

Photo:ストアブランドは、値段が1ドルほど安く設定されています。

賞味期限は未開封で2か月ほど。アメリカでは冷蔵庫に常備している人が多いです。

実際に焼いてみた!

では、実際にどのように焼くのか見ていきましょう。今回はビスケットとクロワッサンをチョイス。どの種類も、作り方はほとんど同じです。まずはクロワッサンから。

Photo:まずは、缶の表面を覆っている包装紙をはがします。

Photo:すると、その下は厚紙になっています。そこに「ここをスプーンで押す」とかかれている箇所があるので、スプーンで力を加えます。

すると「ポンッ!」と大きな音がして、缶が2つに割れます。中からパン生地が飛び出すように出てきます。これはイーストの作用により、時間の経過と共に生地が膨張するため。正しく冷蔵保存していれば膨張しすぎることはありませんが、常温で放置すると、イーストの動きが活発になり、缶が爆発してしまうこともあるので注意が必要です。

Photo:クロワッサンの生地は、シート状になっています。

上の写真を見るとわかりますが、クロワッサン生地にはあらかじめミシン目がついており、綺麗に三角形に切り取ることができるようになっています。缶1つで、8つのミニクロワッサンが作れます。

Photo:ミシン目に沿って切り取り、この三角形の生地をくるくると巻いてクロワッサンの形を作ります。

ピルズベリーのウェブサイトには、生地を使ったアレンジレシピがたくさん紹介されています。今回はその1つ、小さなウィンナーロールを同時に作ってみました。アメリカではPig in a blanket(毛布にくるまった豚)と呼ばれる、人気のスナックパンです。

Photo:短く切ったウィンナーを、生地にくるくると包むだけ!

次は、ビスケットを開けてみます。

Photo:ビスケットの生地。すでにカットされています。

ビスケットの生地はすでに適切なサイズに分けられています。通常サイズの缶にはビスケット10つ分、大きめサイズのものは8つ分入っています。これを1つずつ並べて、後はオーブンに入れるだけ!

Photo:175°~190°で、10~15分ほど焼きます。

缶を開けてからオーブンに入れるまで、10分もかかりません。また、手もほとんど汚れません。小麦粉や卵でキッチンが汚れることもなく、洗い物も一切なし。驚くほど簡単です。ポン!と缶を開けたり、クロワッサンの生地をくるくる巻いたりする過程は、小さなお子さんでもとても楽しめるのではないでしょうか?

13分後。オーブンのタイマーが鳴ったので、取り出してみます。

Photo:表面がこんがりと美味しそうな色に焼けました。ウィンナーの肉汁が食欲をそそります。

ビスケットは生地が何層にもわかれ、味も見た目もかなり本格的。クロワッサンは、甘くてサクサクとしたいわゆる本場のものとは大きく違いますが、バターがふんだんに使われており、味は申し分ありません。

Photo:冷めないうちに、召し上がれ!

それぞれ小さめサイズなので、片手で掴んでパクパクと食べられます。そのため、子どものお誕生日会や女子会など、ホームパーティーで出すと楽しんでもらえそうですね。

Photo:バターやジャム、メープルシロップなどと一緒に食べるのがおすすめです。

今回はオーブンで焼きましたが、オーブントースターで焼くこともできます。実際筆者も大学時代にアメリカに留学した際、大学の寮の小さなトースターで、よく1人でビスケットを作ったものです。寒い冬にアツアツのビスケットを食べると、ホームシックもなんとなく癒された気がします。

インスタント・パンの魅力とは

インスタント・パンの魅力は、大きく3つあるといえます。1つ目は時間がかからないこと。忙しい現代人にとって、「時短」は食品パッケージの大きなキーワードと言えます。その中で「時間がかかる料理」の典型であった焼き立てパンが、15分以内で完成してしまうのは、革新的ですよね。さらにオーブンに入れてさえしまえば、他のことをする間に焼けるので、忙しい時でも作れます。

2つ目の魅力は、家庭的であることです。多くのインスタント商品は、どこか手料理の温かみに欠けるものも多いのですが、インスタント・パンは「オーブンで焼く」という工程を経ているためか、インスタントであるにも関わらず家庭的な感じがします。実際アメリカでは、インスタント・パンはノスタルジックな家庭料理の1つとしてよく挙げられます。筆者の夫も「感謝祭の時におばあちゃんと一緒に作った思い出がある」と語っていました。家族や友達と一緒に作ることで、絆を深めることもできそうですね。

そして最後に、手軽であることです。「パン作りってなんだか難しそう」という人でも、このインスタント・パンを使えば、簡単に自分でパンを焼く楽しみが味わえます。オーブンの温度と時間さえ守れば、失敗することもありません。

近年、日本ではホームベーカリーがヒットするなど、パン作りに対する関心が高まっているといえます。「パンを作ってみたいけどどこから始めればいいのかわからない」または「キッチンが狭くて本格的なパン作りは無理」という人も多いでしょう。そんな人にとって、このインスタント・パンは最適であるといえます。

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