フランスにおけるチョコレートの年間消費量は、一人当たり6.4kgと日本の3倍以上です。そんなチョコレート消費大国のフランスには、数多くのショコラトリー(チョコレート専門店)が出店しています。
チョコレートの歴史は古く、起源は南アメリカにあります。マヤ文明やアステカ王国など高度な文明が繁栄し、カカオも栽培されていたことが分かっています。その後、アステカ王国が滅びスペインの植民地となったことで、ヨーロッパに伝わりました。
ヨーロッパは互いに国境が接していますので、スペインからポルトガル、イタリア、フランスと、徐々にチョコレートは広まっていきました。1615年にスペイン王女アンヌ・ドートリッシュとルイ13世が結婚した際に、贈り物の中に砕いて溶かして飲むカカオの塊があり、フランス宮廷にチョコレートが普及するきっかけとなりました。
フランスでは、日常的にチョコレートを食べている方も珍しくありません。2017年の調査では、フランス国内で消費されたチョコレートはなんと年間378,850トン!日本の3倍以上もの消費量です。
街中に多くのショコラトリーがあるだけではなく、スーパーのチョコレート売り場面積も日本と比べてかなり広く、板チョコだけでも相当な種類のチョコレートが棚に並べられています。
今回は、そんなチョコレート大国フランスにおいて“最高峰のショコラトリー”と呼び声の高い4つのブティックから、見て楽しい、食べて美味しい、味覚も視覚も満足させてくれるアイテムをご紹介します!
1827年創業『ボワシエ』のチューブ入りマロンクリーム
1827年、ペリセール・ボワシエによってパリで創業されたボワシエ。大変歴史のあるメゾンで、かつてヴィクトル・ユーゴーが自身の詩の中で、ボワシエについて綴ったことがあるほど。マロングラッセを一番最初に考案したメゾンとしても有名です。
昔ながらの職人技を守りつつ、その要素を再解釈&再結合し、革新的な味を発見し続けています。そしてボワシエの人気商品はチョコレート、マロングラッセ、キャンディ、フルーツゼリーなど、多岐にわたります。
今回ボワシエでご紹介したいのは、アルミチューブ入りの「マロンクリーム」です。
ペースト状のマロンクリームは、さすがマロングラッセの発祥店だけあってハイクオリティーな味です。お店の方曰く、ヨーグルトやバニラアイスクリーム、クレープ、一口サンドイッチに添えるもよし、また生クリームと混ぜればモンブランケーキも作れるそうです。
プラスチック製のチューブが登場する前は、このアルミチューブが主流でした。アルミチューブは密封性に優れ、特に空気により変質しやすい内容物の長期保存に適しています。こちらのマロンクリームの賞味期限は、開封前だと3年間も保存できるそうです。弾力性やチューブ型の復元性はプラスチックのものより少し劣りますが、3年間とかなりの長期間、保存が可能であることには驚きでした。
200年近く前から続く人気店のボワシエ。味もパッケージも伝統を守り続ける姿勢には、フランスらしさが詰まっています。
アートや文学からインスピレーションを受けて作られるチョコレート「ユーゴ・エ・ヴィクトール」
ユーゴ・エ・ヴィクトールがパリに誕生したのは、2010年。以来、素材と伝統を重視しながらも、確かな味わいとデザインで旋風を巻き起こして人気を集めています。
ユーゴ・エ・ヴィクトールの名を広く知らしめた代表作といえば、「作家たちの手帳」をコンセプトとし、本のようなデザインのボックスに風味豊かなボンボン・ショコラを詰めた、スタイリッシュな「カルネ」シリーズです。
名門三ツ星レストラン「Guy SAVOY(ギ・サヴォワ)」のパティスリー・エグゼクティブ・シェフを務めたユーグ・プジェ氏が、幼馴染であるシルヴァン・ブラン氏と共に創業したユーゴ・エ・ヴィクトール。この日パリ本店では、ユーグ・プジェ氏が自ら店頭に立ち作品を紹介していました。
文豪とスイーツをリンクさせたコンセプトにオリジナル性を感じる一方、フレンチ・パティシエの“本気”が垣間見えるショップであります。
チョコレートの彫刻家『ジャン・シャルル・ロシュー』発の「カルーセル」
世界的ショコラティエであるジャン・シャルル・ロシュ―氏は、チョコレートを「人々の本能を呼び覚まし幸福を分け与える最上の食材」とし、「時に彫刻家として、時に職人として、時に音楽家として、情熱と伝統、美意識と思いやりを持って」チョコレート作りを行っているそうです。
ジャン・シャルル・ロシュ―のオリジナル商品「カルーセルショコラ」は、専用削り機でショコラを薄く削っていただくもので、自宅で削りたてのショコラを楽しめる一品。
「カルーセルショコラ」には、何といっても高級店の味を自宅で少しずつ削りながら味わえる楽しみがあります。ただのチョコレートとしてではなく、使用方法は実にさまざま。そのまま食べて口どけを楽しむのがおすすめですが、カプチーノに浮かべたり、パンにのせてトースターで焼いたり、様々な食感に変化するショコラを贅沢に味わえます。手土産などに持っていけば、盛り上がること間違いなし。
日本文化に理解のあるロシュー氏。一見、敷居の高い印象のブティックに見えますが、チョコレートの美と味を追求し続けている真摯なショコラトリーです。「チョコレートの彫刻家」と呼ばれるジャン・シャルル・ロシュ―のヒット商品、「カルーセルショコラ」は、彫刻というアートを自宅でも楽しめる、ロシュー氏のアイデアが詰まった逸品です。
パリ最古のお菓子屋さん『ア・ラ・メール・ド・ファミーユ』のキャラメル
ア・ラ・メール・ド・ファミーユは、1761年に当時の国王よりパティスリの称号を与えられた「ベルナールファミリー」が、パリのモンマルトルに創業した由緒あるお菓子屋さん。なんと今から259年前、フランス革命よりも前のことです。日本は江戸時代、徳川10代目の家治などが活躍していた頃です。
昔ながらのボンボンから自家製の上質チョコ、マカロン、フルーツゼリー、焼菓子などフランスらしい魅力的なスイーツがいっぱい。レトロな店内は見ているだけでも楽しい気分になります。
そんなア・ラ・メール・ド・ファミーユで知る人ぞ知るスイーツが、フランスで一番古いとされているキャラメルの「ル・ネギュス」です。
「ル・ネギュス」は、フランスで古くから愛されているスイーツの一つ。べっこう飴のようなキャンディの中にキャラメルが入っており、独特の触感がクセになるおいしさです。現在このキャンディを作る職人さんは1人しかいないそうで、しかもそれを一つひとつ手作りで丁寧に作っているので、製造数が限られているとのこと。
店舗に在庫がある日は、その場で量り売りしていただけます。大量生産が当たり前となった現在では、このような「原点回帰」の風景が逆に目新しく、リピーターを呼ぶきっかけとなりそうです。
「ル・ネギュス」は、クラシックなデザインが魅力的なだけではありません。缶のパッケージは、非常に中身の品質を維持する機能性が高いと言えます。紫外線を遮断し密閉性が高いので、色の劣化や湿気を帯びてしまうことから防いでくれます。余ってしまったお菓子なども、缶に入れたのち直射日光の当たらない涼しい場所に保管するのがおすすめです。
ア・ラ・メール・ド・ファミーユで教えていただいたのは、「チョコレートの風味を保つ」のに冷蔵庫保管は厳禁だということ。ほかの食材の匂い移りを防ぐためでもありますが、やはりショコラトリーの味をそのままいただくためには常温保管がベストなようです。
パリ最古のお菓子屋さん、ア・ラ・メール・ド・ファミーユは伝統と確かな味のほか、親しみやすい雰囲気が大変印象的でした。ここまで長きにわたりパリの人々に愛されているのも、スイーツに対する情熱と老舗ならではの知識が溢れているからでしょう。
一流ショコラトリーで見えた「過去」と「未来」の共通点
フランスにおける4つの一流ショコラトリーをご紹介しましたが、どのメゾンでもそのパッケージに関して共通していることがありました。それは、プラスチック製のパッケージがほぼ排除されているということです。包装パッケージが紙であったり、缶であったりと、商品のほとんどにプラスチックが使用されていなかったのです。
老舗ショコラトリーのパッケージは、昔ながらのものが多く見受けられます。もちろん当時のものをそのまま使用している訳ではありませんが、第2次世界大戦後の大量生産・大量消費の象徴である「プラスチック」容器が見当たらなかったのです。
数百年も前の職人たちの「知恵」が、これからの食文化や環境に活かせるのだと思います。エコ大国と言われて久しいフランス。美食大国でもあるこの国は、味だけでなく視覚効果の高い商品が驚くほどたくさん存在しています。食に対して究極を求めるフランス人がこだわるアイテムに、今後も目が離せません。
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