長期保存ができて、災害時にも役に立つ缶詰。ここフランスでもたくさんの缶詰が並んでおり、スーパーマーケットの缶詰コーナーは日本のそれを凌ぐほど広大なものとなっています。
また2022年初めから続くインフレ、電気代・ガス代の高騰は、フランスにおける缶詰消費を増加させるきっかけになりました。
これは値上がりした生鮮食品や冷凍食品、そして調理時に発生する光熱費を少しでも抑えようと、消費者の意識が缶詰に集まったためだといいます。
それではフランスの缶詰には何があるのでしょうか。日本にはない珍しい缶詰、フランスでリアルに消費されている人気の缶詰、デザイン重視の缶詰など、スーパーマーケット/デパ地下売り場に分けてご紹介したいと思います。
フランスの食文化が見える、スーパーマーケットの缶詰
冒頭でもご紹介したように、フランスの缶詰コーナーはとても広大です。というのは、「野菜」「豆類」の缶詰が本当に豊富で、魚介類やソース類を上回るほどの品揃えがあるためです。
中でもニーズが大きいのが、インゲン豆の缶詰です。フランス料理は、肉や魚といったメインの付け合わせとしてインゲンが添えられることが多い。平日は昼も夜も質素な食事で済ませてしまう人がほとんどなので、スジを取る必要もなく茹でる手間を省いた缶詰が活躍します。
また水煮の他に、インゲンと人参の炒め物といったサイドメニューの缶詰もありました。
なおフランスの人々は料理に缶詰を使用することに罪悪感がないらしく、気軽に用いているイメージがあります。
豆類の缶詰もラインナップが多く、レンズ豆、ヒヨコ豆、小豆といったありとあらゆる種類が並んでいます。こうした豆類もフランス家庭料理によく登場する食材の一つです。
他にも、ほうれん草、ジャガイモ、人参、もやしなど、調理済みの缶詰が所狭しと置かれています。(野菜はほとんどが水煮です)
ツナ缶、いわゆるシーチキンはフランスでも需要が高い缶詰です。しかし2個パック、3個パックになるとプラスチックはもう使用されておらず、紙製が一般的になります。こうしたツナ缶は、こちらではサラダに和えたり、アボカドと合わせてペースト状にし、バゲットにのせて食べたりします。
伝統的なフランス料理も缶詰に?!
さて面白いのが、フランスの伝統料理をまるっと詰めた、大きいサイズの缶詰です。大きさとしてはホールトマト缶くらいはあるでしょうか。だいたい2〜3人分のフランス料理が詰まっていて、開けて温めるだけの便利なものです。
※写真のシュークルートとは、ザワークラウトとソーセージ、ハムを煮込んだフランス・アルザス地方の郷土料理です。
調理済みのブフ・ブルギニヨン(牛肉の赤ワイン煮込み、ブルゴーニュ地方の郷土料理)も定番の缶詰です。こちらもソースのみ、ではなく完成した料理が中に入っています。
このように煮込み系の缶詰はとても多く、他に用意するのはパスタやパンのみでOK。それも温めるだけなので、一人暮らしの学生さんや単身者にはとても便利な商品なのではないでしょうか。
その他の特徴としては、北アフリカの伝統料理「クスクス」の缶詰などがありました。フランス、特にパリはたくさんの人種が集まるコスモポリタンなので、こうした多国籍料理の缶詰が少なくありません。
デパ地下はやはりデザイン重視。ギフト、お土産用の缶詰が豊富
パリのデパートにも缶詰がたくさん置かれています。ここではスーパーマーケットと違い、価格はやはり高めでデザイン重視のものが多く並んでいます。
その中でいかにもフランスらしいと思ったのが、フォアグラ、テリーヌの缶詰です。
フランスのデパ地下でよく見かけるのが、高級食材であるフォアグラ。フォアグラは特別な食材のため、フランスでは主にクリスマス、家族の夕食会にて(前菜として)サーブされます。有名なフランス料理の一つではありますが、フランス人も滅多に口にしないフォアグラなので、こうしてギフト用として特別に販売されていることが多いですね。
そのデザインと色合いはシックでエレガント、文字だけ&イラストが描かれていないのが特徴です。
なおクリスマス時期にはスーパーマーケットにも並びますが、真空パックや瓶詰めのフォアグラが新たに登場します。いずれも、フォアグラのパッケージは高級感のあるシンプルなデザインとなっています。
フランスの缶詰、瓶詰で多いのがこのテリーヌです。こちらはフォアグラに比べ特別感はなく、一般的なフランス家庭でもよく食されています。まただいたいのテリーヌは器ごと売られており、フランス人の中でも一つのギフトアイデアとなっているようです。
フォアグラと同様、シンプルで美しい文字フォントが使用されているのが特徴です。
一方で華やかな魚介類の缶詰、デザインが一番効いている
これまで紹介した缶詰は庶民的か、高級感のあるシンプルなデザインが多かったのですが、魚介類になると一転して華やかに変わります。
イワシ缶、サバ缶、タコやムール貝、ホタテ缶など、前述した缶詰とは打って変って色鮮やかに、イラストも多めなデザインに。
フランスは大西洋側・地中海側を除いては、日本のように海に囲まれていません。そのため鮮魚は肉より高いことが多く、東部のドイツ側などは保存の効く缶詰の消費が多いと聞きます。このように長くキッチンに置くからでしょうか、魚介類の缶詰には凝ったデザインがたくさんあります。
そんな実用性・トレンドを合体させた缶詰のセットがありました。写真は現在のパリでトレンドとなっている「タパス」のためのセットです。
タパスとはスペインを代表するおつまみ文化ですが、このスタイルがパリで数年前から流行しているのです。
前菜、メイン、デザートと順番に食べるのではなく、気軽にワイワイ、一品料理をつまみながらお酒を楽しむ。そんなタパス・スタイルがレストランでもホームパーティーでも、広く受け入れられるようになりました。
缶詰セットのデザインも賑やかな雰囲気で、器に移し替えるよりそのままテーブルに置いて、皆で「どれにする?」と言いながら開けたくなりますね。
女性に人気、カラフルでキャッチーなフランスのイワシ缶
数ある魚介類の缶詰の中でも、フランスのイワシ缶は一番と言って良いほど華やかです。
特に「ラ・ベル・イロワーズ社(LA BELLE ILOISE)」の缶詰は、フランス人の間でもギフト人気ナンバー1なのだとか。
ラ・ベル・イロワーズ社はフランス屈指の漁場であるブルターニュ地方にあります。パリにも直営店があり、イワシ缶、サバ缶、ツナ缶のほか、ペーストやスープを缶・瓶に詰めて販売しています。
イワシ缶に至っては6種類ものフレーバーがあります。オリーブペーストのタプナード風味、グリーンペッパーとオリーブオイル風味、レモンとオリーブオイル風味、ピーナツオイル風味、スパイス香辛料漬け、そして写真の唐辛子、トマト、ニンニク風味です。
6種類すべてに異なるデザインが施されており、いずれも斬新で、目につきやすい派手なカラーをしているのが印象的でした。
創業90年以上にもなるラ・ベル・イロワーズ社。この会社はスーパーマーケットの台頭に対抗すべく、大量生産の缶詰とは一線を画す品質・大胆なデザインを施すことを1990年代に決めたそうです。
そこでスーパーマーケットのイワシ缶とラ・ベル・イロワーズ社のイワシ缶を比較してみました。
スーパーマーケットのイワシ缶は文字フォントも親しみやすく、中身の分かりやすいラベル表示になっています。一方でラ・ベル・イロワーズ社のイワシ缶は、女性のイラストが目立っていて一見何だか分かりません。しかし色合いも文字も古き良き時代のポスターのようで、キッチンに飾っていてもぐっと気分が上がります。
もちろんお値段には一缶2ユーロ(約320円)以上の差があるので、目的や用途に合わせて買い分けたいところです。
フランスの缶詰を見ていると、この国の食文化そのものが見えてきます。日本や他国でもそうだと思いますが、日々の食事用に保存用に、そしてギフト用として、フランスの缶詰は今も需要が高まっています。
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