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もう「ただの水」とは言わせない。ボトルウォーターは機能性で選ぶ時代へ

2019年9月11日に公開されたプレミアムレポート「ついに炭酸飲料の消費量を超えた!アメリカで拡大する「ミネラルウォーター」市場の話。」で、アメリカにおいてミネラルウォーターの消費量が炭酸飲料を超えた、という事実が紹介されました。

ついに炭酸飲料の消費量を超えた!アメリカで拡大する「ミネラルウォーター」市場の話。完全循環型ペットボトルリサイクルとは

無類の炭酸好きであるアメリカで、ミネラルウォーター市場がこれほど成長していると知って、筆者も驚きを隠せませんでした。しかしよく見てみると、確かにここ数年でスーパーなどで売られているボトルウォーターの種類(ミネラルウォーターに限らず)は増えているように感じます。

「水」はスーパーに並ぶ商品の中でも、最もシンプルなものではないでしょうか。「水に違いなんてあるの?」と思う人が多い中で、自社の商品を選んでもらうために、各ブランドは様々な戦略を打ち出しています。

この記事では、アメリカのボトルウォーター市場から学べる、パッケージやマーケティングのアイデアを紹介します。

「ただの水」とは言わせない!

アメリカのスーパーの水コーナーで驚くのが、高価なミネラルウォーターが多いことです。1リットルあたり2~4ドルもするような水がかなりの面積を占めます。

Photo:こちらのボトルは、1リットル=2.89ドル(約312円)

これを見て「えー、ただの水なのにこんなに高いの?」と思ってしまうのは筆者だけでしょうか(笑)。このような水を買う人がどれほどいるのかと思いましたが、街中で注意してみると、これらの水のボトルを持っている人が意外なほど多く見受けられました。もちろん、前述の記事の統計も人気を裏付けています。

しかしこれらの商品をよく見てみると、決して筆者が思っていた「ただの水」ではないことが分かりました。アメリカで人気を伸ばしている水の多くは、他の効果を追加した「水+α」なのです。英語ではenhanced water(強化された水)と呼ばれることもあります。

Photo:もちろん、ただの水(蒸留水)も売られています。価格は1ガロン=99セント(約3.87リットル=約109円)。価格差の大きさが分かりますね。

水+アルカリイオン

アルカリイオン水は、電気分解によって水(H2O)から生じる水酸化イオン(OH-)と水素ガス(H2)を含んだ水のこと。1950年代に日本の科学者によって初めて人工的に生成され、以後研究が続けられてきました。慢性下痢、消化不良、胃腸内異常発酵、胃酸過多などに効果があるとされており、普通の水よりも「お腹に良い水」と考えられています。

日本でも一時期アルカリイオン水はブームになり、あれから若干人気は落ち着いたものの、今でもスーパーなどで売られていますね。しかしアメリカではまさに今、このアルカリイオン水が大人気となっているのです。

Photo:トレーダージョーズ(Trader Joe's)のアルカリイオン水。上部にはph9.5+との表記が。ph値が高いほどアルカリ性が強いことを示し、ph7が中性。

北米におけるアルカリイオン水の市場規模は、2013年の約1億ドルから2017年には約4億ドルと、なんと4倍にも成長しています。また、毎年の成長率は40%超。2019年には大手コカ・コーラ社もアルカリイオン水をアメリカ全土で発売開始し、まだまだ人気の拡大は続いていくのではないかと思われます。

Photo:こちらはph8のアルカリイオン水。一般的な水道水よりも効率的に水分補給ができるとのこと。

日本のボトルウォーターは、アルカリイオン水も含め「爽やかさ」や「涼しげな印象」を打ち出したものがほとんどです。対してアメリカのアルカリイオン水は、白や黒、グレー、赤などの色を使ってどこか未来的であるものが多く見られます。ジムなどに持って行ってもカッコいいので、アクティブな若者世代に人気です。

さらに、特に最近注目され始めているのが、天然のアルカリイオン水。アルカリイオン水は基本的に電気分解を利用して人工的に作られるもので、天然のものは珍しいと言われています。そのプレミア感を売りにして、ナチュラル志向の高い層をターゲットにした商品が多く見られます。

Photo:天然のアルカリイオン水。ph値は8.1。紙パック入りのミネラルウォーターについては、パケトラの既出記事「水も「紙パック」が主流になる?アメリカのエコフレンドリーなボトル事情」で詳しいレポートが読めます。

Photo:こちらも天然アルカリイオン水。ラベルが表面ではなく裏側の内面に印刷されているのが面白い!

水+電解質

アルカリイオン水の次によく見かけるのが、電解質(英語ではelectrolytes)を含んだ水です。電解質とは水に溶けるとイオン化する物質のこと。主な電解質(イオン)には、ナトリウムやクロール、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどがあります。

言い換えれば、電解質とはイオン化したミネラルのこと。そのため、自然から採水されたミネラルウォーターには電解質が含まれています。

Photo:大手ミネラルウォーターブランド「エビアン(evian)」のパッケージには、天然の電解質を含むとの記述があります。ph7.2なので、限りなく中性に近い水です。

人間の体内の水分には様々な電解質が含まれています。汗をかくと、水分と一緒に貴重なイオンも失われてしまいます。そのため、水分補給には電解質を含む飲料を摂取することが効果的です(ミネラルを含まない純水ばかりを飲むと逆に脱水してしまう危険性も)。

これまで、運動後などの水分補給には、電解質を効果的に配合したスポーツドリンクを飲むことが一般的でした。しかし健康志向が高まる中で、スポーツドリンクに含まれる糖分や着色料などを避ける人が増えています。そこで人気を伸ばしているのが、電解質を含んだ水なのです。

Photo:電解質とビタミンを加えた水。糖分ゼロが売りです。

Photo:ストアブランドの浄水(水道水をろ過したもの)にも電解質が追加されています。

さらに電解質は水の味を美味しくする効果もあります。ナトリウムやマグネシウムなどには若干の甘みがあるため、電解質を含む水はそうでない「ただの水」よりも美味しいと言われています。

水+抗酸化物質

アルカリイオン水や電解質を追加した水ほど多くはないものの、抗酸化物質(英語ではantioxidant)を含んだ水も見受けられます。

Photo:中央の「バイ(bai)」は、抗酸化作用のあるセレンを追加しています。

セレンは人間の必須栄養素の1つ。酸化による老化や組織の硬化を予防する効果があると言われています。魚介類や肉類、卵などに含まれているため、通常の生活で不足することはほとんどありません。しかし、近年増加しているヴィーガンの食生活を送る人にとっては、このようなボトルウォーターがセレンを摂取する重要な手段になるかもしれませんね。

他にもこんな水が!

以上で紹介した3種類がアメリカのボトルウォーターのトレンドであるといえます。ただ、スーパーの水のコーナーをよくよく見てみると、他にも面白い水が売られていました。ボトルウォーターの人気が続けば、このような商品がますます増えていくのではないでしょうか?

Photo:アルミパウチ容器の水素水。日本では既に人気を確立しているといえますが、アメリカではまだまだ珍しいといえます。

日本では2016年に国民生活センターによる商品テストが行われ、各社の水素水における水素濃度が測定されました。その結果、溶存水素が検出されない製品もあることが発表されたのです。実は、水に含まれた水素はペットボトルの表面や開いた口の部分から、外部に漏れやすくなっています。そのため、水素水は口の小さなアルミ容器で販売されているのです。

Photo:左は食物繊維5g入り。右はプロバイオティクス(人に良い効果を与える微生物、いわゆる善玉菌)を含んでいます。

上のプロバイオティクス・ウォーターは、キャップ上部に消化に良い栄養パウダーが付属しており、キャップを押して水の中に注入する仕組みになっています。このおかげで鮮度が保たれるようになっているのです。

プロバイオティクスに対し、右の商品にはプレバイオティクスが含まれています。プレバイオティクスは善玉菌の栄養となり、増殖を促進する機能を果たす成分です。オリゴ糖や一部の食物繊維がプレバイオティクスとして知られています。

Photo:なんとこちらはアルコール飲料!しかも炭酸水ではなく、ブラックベリーの味がする普通の水(still water)です。どんな味がするのか気になりますね。

水も好みに合わせて選べる時代に

アメリカの水市場を見ていく中で、筆者が最も驚いたのが選択肢の多さです。「水なんてどれも一緒」と考えていた私は、ボトルウォーターを買う時は適当に一番最初に目についたものを手に取っていました。

しかし、近年のボトルウォーター市場は、消費者が能動的に種類を選択することを想定しています。単にブランドを選ぶだけでなく、ph値や電解質・抗酸化物質の有無、採水地、人工水か天然水かなど、様々な指標から比較することが可能。自分の味の好みやライフスタイル、期待する効能に合わせて、最適な水を選ぶことができるのです。

Photo:大手健康食品スーパー「ホールフーズ(Whole Foods)」に設置されたウォーターサーバー。RO水(超微細孔のフィルターを通して不純物を除去して製造された水)、脱イオン水(イオンを取り除いた水)、アルカリイオン水の3種類から選択できます。

Photo:こちらはコンビニで見かけたスマートウォーター(Smartwater)のスタンド。上から中性のミネラルウォーター、抗酸化作用のある水、そしてアルカリイオン水の3種類が陳列されています。

考えてみれば、お茶や清涼飲料水などはどれも何十種類とある商品から好きなものを選ぶのが当たり前です。「水だって同じように選べてもいいんじゃない?」というマーケターの声が聞こえてきそうですね。

アメリカの水市場がこれだけ成長した背景には、消費者が自発的に商品選択にエンゲージできるようになったことがあるのではないかと思います。「他のものではなく、この商品が欲しい」と思わせる戦略を取ることで競争が生まれ、市場が拡大されていきます。ミネラルウォーターの例からは、新しい市場を開拓していく際に参考にしたい「差異化」のヒントが学べるのではないでしょうか。

しかし、このような水商品の効果については、科学的な根拠が薄いのではないかと考えられているものも多いのが現状です。これからの研究に期待したいですね。

▼参考記事

■Alkaline water: An ‘international growth phenomenon’ (Beverage Daily.com) 
https://www.beveragedaily.com/Article/2018/12/12/Alkaline-water-an-international-growth-phenomenon-Zenith-Global
■What Is Hydrogen Water, and Does It Actually Work? (Self) 
https://www.self.com/story/hydrogen-water

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