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オランダに学ぶレトロ・リノベーション(後編)—— 地元愛とサステナブル

レトロ・リノベーション後編では、ロッテルダムを取り上げたいと思います。

▼前編はこちら

オランダに学ぶレトロ・リノベーション(前編)—— 街を見守ってきた建物のDNAを引き継ぐホテル

オランダ最大の港町ロッテルダムは、常に何か新しいものが生まれる自由な雰囲気があります。第二次大戦中、徹底的に破壊され、焼け野原となった街を復興する際、「昔の街を復元する」か「新たに街を作る」の二択が話し合われたそうです。市民は「新しさ」を選び、今やオランダ一を超えてヨーロッパ最大の貿易港へと成長しました。

神戸や横浜などの港町のご多分に漏れず、ロッテルダマー(ロッテルダム人という意味)たちも地元愛が強く、東京VS大阪のようにアムステルダムへの対抗意識も相当なものです(笑)。

そんな地元愛のエネルギーで荒れていた埠頭を今やトレンドスポットに蘇らせたのが、Katendrecht にあるフードコートFENIX FOOD FACTORYです。

Photo:Fenix Food Factoryのウェブサイト http://www.fenixfoodfactory.nl/

治安が悪かったエリアをヒップに変身

FENIX FOOD FACTORYのあるKatendrechtは、ロッテルダム中央駅から南に4㎞ほど、レインハーヴェンとマースハーヴェンという2つの湾の間に浮かぶ小さな半島です。1980年代までチャイナタウンがあるエリアとして知られており、FENIX FOOD FACTORYがある埠頭エリアのDelipleinは売春宿が並び、ポン引きがうろつく大層物騒なところだったそうです。

2010年代に入るとKatendrechtの開発が急ピッチで進められ、ドックヤードがアートギャラリーになったり、かつてのチャイナタウンにこぢんまりとしたカフェやレストランが並ぶようになり、今はヒップでトレンディなエリアに様変わりしています。

ドックヤードのひとつに、ロッテルダムのカリナリーアントレプレナーたちが一堂に会した施設FENIX FOOD FACTORYがオープンしたのは2014年のこと。地ビール、チーズ農場、精肉、ベーカリーを営む個人商店の若きオーナーのショップや、カフェがあります。

Photo:ドックヤードを再活用したFENIX FOOD FACTORY

Photo:ロッテルダム自慢のショップが一堂に会する

中は暗くて、まさしく倉庫に入ったかのよう。ショップ同士の境界線がクリアではないうえに、雑然としているので、初訪だとレイアウトを把握するまでに時間がかかります。そのごちゃごちゃ感が、かえって埠頭のドックヤードを探検しているような気分にさせてくれます。

Photo:訪れた日は天気がよかったからか、平日にもかかわらず人でにぎわっていました。

フード、カフェ、本屋など12人のロッテルダマーたちが集っています。

Photo:ロッテルダムのベーカリーJORDY’S。

Photo:ビール醸造施設兼パブももつKAAPSE PROEFLOKAAL。

湾に面したエリアではテラスが設けられており、天気のよい日はデッキチェアに腰かけて日光浴を楽しむ人、フードコートで買った食べ物をテーブルに広げて楽しむ人などでにぎわっています。

Photo:湾に面したテラスエリア。

FELIX FOOD FACTORYが人気なのは、再開発が進むエリアでしかも海沿いという好立地ということもありますが、ロッテルダム魂に溢れるアントレプレナーだけを集めたことも大きく影響していると思います。

華美を嫌い、商売熱心で、地元をこよなく愛するロッテルダマーたちのショップを、これまたロッテルダムらしい埠頭に据えること。自分たちのDNAを知る街ならではのレトロ・リノベーションだと思います。

夏の思い出をサステナブルの拠点に

ロッテルダムのニューヴェ・マース川沿いには、12,000㎡の広さをもつオランダ最大の屋内プール遊技場Tropicanaがありました。1988年にオープン、ヤシの木が植えられたトロピカルムード溢れる施設で、流れるプールや波のプールなど、ロッテルダム近辺に住む若者なら、ここで遊んだ思い出のひとつやふたつはあるほど人気の場所でした。

Photo:ニューヴェ・マース川に突き出るように建つ。

所有者の交代や維持費や拡張工事の費用がうまく工面できず、2010年にその幕は閉じます。他の使い道が見つからず、所有者とロッテルダム市にとって負担以外の何物でもありませんでしたが、ロッテルダムの若き起業家が大胆な活用法を思いつき、2014年に施設は新たなスタートを切ります。

Photo:スタイリッシュなバー、レストランに。

レストラン&バー「ALOHA」としてオープンするや、瞬く間に地元の人に広まります。水辺沿いという絶好のロケーションのみならず、原形をかなり残しているため、「あそこは波のでるプールだった」など幼い頃の思い出をたどりに訪れる人もいます。

Photo:原形を残しながら改装。

Photo:室内。

Photo:テラス席からは、ロッテルダムの誇り、エラスムス橋が見えます。

先ほど「大胆な」と書きましたが、それは、単なるヒップなレストラン&バーのにとどまらず、循環型経済の拠点にしようとしていることです。

ロッテルダムの若き起業家数名がBlueCityという会社を設立、オフィスをこの施設内におき、食物廃棄の再利用研究や、サステナブルなプロダクト開発のサポートなどを行っています。その一環として、ALOHAの人気メニューである「キノコのコロッケ」の材料になるキノコを施設の地下で栽培したり、余った牛乳でリコッタチーズを作ったり、使用済みのコーヒー粉で新しいメニューを開発したりしています。

Photo:地下で作られたマッシュルームのコロッケ。ソースにはコーヒーの粉が入っています。

生産からサービス、廃棄までの消費の流れを一方通行ではなく、サーキュラー(循環)させていこうという取り組みは、オランダにおいては着想から実行へのフェーズに入っているように思います。リノベーションもまた、スタイリッシュなだけでは不十分で、将来につながるポリシーが求められるようになっているのかもしれません。

そのコンセプトを押しつけがましくなく、格好良く、軽快に、そして、いかに共感を呼び起こさせるものにするか。「地元愛」が重要なキーワードになるような気がしてなりません。

協力:オランダ政府観光局
www.hollandflanders.jp

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