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(国内動向)マーケティング戦略を体現するパッケージデザインが際立ってきた

えっ?発売半年後にデザインリニューアルというニュースですか。
最近、皆さんもよくご存じのあのヤクルト「Yakult1000」「Y1000」の「糖質オフ」が9月下旬からデザインリニューアルされるというニュースリリースを目にしました。2022年の大ヒット後に訪れたヤクルト1000ブランドの伸び悩み対策として2025年4月に「糖質オフ」が全国投入されましたが、ブランド全体の売上増にはつながっていないためのリニューアルでしょうか。過去にもローソンのプライベートブランドのデザイン刷新後、半年後に改善リニューアルが行われたことは記憶に新しい事例です。パッケージデザインにメスを入れることが大ブランドの盛衰を左右する、重要性を伺わせるニュースです。

筆者は最近のパッケージデザインの動きを見て、経営のマーケティング戦略レベルにおけるパッケージデザインの役割は確実に重要度を増していると感じています。昔から社長の一言で決定がなされるという意味では重要なものでしたが、今では、好みの「おっ、売れそうなデザイン」ではなく、綿密に設計された市場開発戦略を体現するパッケージデザインが生まれているように見えます。

2024年発売の株式会社ニップンの「もちっとおいしいスパゲッティ」のパッケージデザインはどうでしょう。その売上の成功に伺えるマーケティング=デザイン戦略は大変参考になります。ここでは、そうした最近のデザイン事象に着目して、マーケティング戦略におけるパッケージデザインの位置付けの重要度について見ていきたいと思います。

まず、国内の前に海外のパッケージの様子はどうなっているでしょうか。当「パケトラ」では、海外のパッケージデザインが現場感覚で見られるように紹介されています。各国の消費者が日常生活の中で目にする売場と商品パッケージを知ることは、貴重な示唆を含んだ情報です。各メーカーの商品デザインや売場でのポジショニングからマーケティング戦略を読み取ることができるでしょうか。直近のレポートをいくつか見てみましょう。

2025年8月の「ノンアルは"飲まない人"だけのもの?パッケージから見える意外な広がり」(maryoさん カナダ)では、カナダのノンアル飲料のまとめとして「…そんなデザインや打ち出し方こそが、今のノンアルブランドに共通する新たな潮流なのかもしれません。」と書かれています。

2025年8月の「猛暑に活用!アメリカの多様な電解質飲料」(Keiさん ニューヨーク)には、現地の電解質飲料カテゴリーでは水に溶かすタイプが主流であり「日常の水分補給から運動時のリカバリー、睡眠や免疫のサポートまで、ライフスタイルや目的に合わせて選べる時代になりました。」と書かれています。

小分けの使い切りタイプの電解質飲料
2025年9月の「魚や肉、卵…生活密着型食品のパッケージ」(菅木綿子さん アメリカ)では、現地スーパーで「…スモークサーモン売り場。日本と似ているようで違うパッケージに出会います。(中略)「見て選ぶ」楽しみがあります。」とレポートされています。

スモークサーモン売り場
日本国内でも炭酸水などで割る濃縮タイプ飲料(サントリー「おうちドリンクバー」など)が人気になっていますし、「雰囲気を楽しみたい」といった、ポジティブな選択理由が顕在化し、ノンアル市場を押し上げています。そして、競争過多の国内食品スーパー業界で売上比の3割近くを占める肉や魚などの生鮮品の世界での状況についても、これら海外の同分野に関する上記のレポート群を参考にすれば、マーケティング戦略を具現化するパッケージデザインのヒントも見出すことができるのではないでしょうか。

そうしたいくつかの市場トレンドから生まれた話題の商品が国内にあります。筆者がマーケティング戦略という意味で興味を持って見ているのが、冒頭で触れた"ストレス・睡眠"を打ち出して2022年に歴史的大ヒットを記録したヤクルトの「Y1000」です。ヤクルトのそのブランド力の絶大さやパッケージデザイン戦術の巧妙さに感銘を受けました。しかし、どうでしょう。本年後半に入って、その後の売上低調の記事などが見られるようになりました。そのデザイン展開の経緯を追って考えてみたいと思います。

不調とは言え、現在も相当な数量が売上を上げているわけですから、ヤクルト株式会社様としては問題ないのかもしれません。ただ、パッケージデザインの視点から、その導入成功から低調とされる現在に至る施策について考えてみることも有益ではないかと思っています。

ヤクルト「Y1000」の大成功と今年に入っての減速をパッケージの視点から見る

「Yakult1000」と「Y1000」(ヤクルト本社公式HPより)

「Yakult1000」と「Y1000」(ヤクルト本社公式HPより)

まずはマーケティングワークの基本シナリオに沿って「Yakult1000」(宅配)、「Y1000」(一般流通)の開発、販売成功への道筋を情報から追ってみます。各種経済記事を参考に、あくまで筆者の想像であることをお許しいただきたいと思います。

  • [WHO=顧客想定]
    ビジネスパーソンの安眠希求層 約4,800万人(←人数規模は筆者の概略算出…労働力人口総数が6,925万人(2023年労働力調査/総務省統計局)。働く世代の約7割(69.0%)が安眠のために何某か心掛けているという調査結果(2022年睡眠に関する調査/第一三共ヘルスケア株式会社)より。

  • [WHAT=提供する価値]
    ストレス・安眠に効く機能性飲料を、信頼のブランドと長年支持されてきた味覚で提供。

  • [買いたい魅力の伝達]
    ヤクルト宅配固定顧客に密接訴求で認知(「Yakult1000」)→ネット拡散→一般販売販促(「Y1000」)。認知とコミュニケーションは十分に確保。

  • [どこでも買える流通店頭化]
    「ヤクルト」ブランド力と営業力も強いため、高い店頭配荷率となるも、想定販売計画数を大幅に上回り品薄現象が増幅。

  • [顧客の商品情報の発信]
    品薄現象が周知増幅し、長期化。顧客が探し回る社会現象に。

  • [対策・どこでも買える流通店頭化]
    生産体制増強(2022年発表)→再販売で一時市場活性化。ここで売上ピークを迎えるも徐々に減速。

  • [顧客離脱を防ぐ]
    減速対策として消費者調査分析により顕在化した「糖質不満」を受け、「糖質オフ」製品のラインを投入。しかし、「糖質オフ」投入も効果が出ず、Y1000ブランド全体に売上停滞の傾向が見られる。

以上のような経緯があったと思われます。

パッケージデザインを見てみましょう。「ヤクルト」ブランドの乳酸菌飲料は従来、周知のヤクルト型のボトルでほぼ展開されてきています。そこに「ストレス・睡眠」を打ち出す新製品「Yakult1000」の投入です。先行して発売となった宅配顧客市場においては、従来のヤクルトボトル型(増量サイズ)を採用し、そのブランドの安心感でもってブランド愛好者層への新たな機能性商品を案内。十分な説明により情報浸透が行われ、好調に販売数量を伸ばしました。

そして新たな顧客獲得を意図して、スーパーなどの量販店では「Y1000」を導入しています。こちらは近いポジションで大きな市場を擁する「機能性飲むヨーグルト」のカテゴリーのイメージを活用し、スリムボトルを採用されたと思われます。ビジネスパーソンに!という形状です。ただ、売場棚は「飲むヨーグルト」コーナーではなく、ヤクルトブランドコーナーの中に位置しました。あまたの競合を避け、信頼ブランド内でスマートなシルエットを際立たせる狙いが奏功し、売上を伸ばして大ヒットを記録するに至りました。ヤクルト商品グループ内における容器形状の巧妙な差別化、加えてグラフィックの「ヤクルト」(カナ)と書かない「Y1000」ロゴと"ストレス・睡眠"の機能性コピーで仕上げたデザインが、商品発見力と説得性を上げたと見てよいのではないでしょうか。

大ブレイクの後、品薄に至ってからの待機時間が長すぎたこと、価値認知の記憶の薄れや諦め心理が生じたこと。加えて物価上昇の節約志向が続く影響で、高価格品の買い控えトレンドも逆風となった可能性もあり、調子を落としたように思えます。
そして活性対策として2025年に投入されたのが「Y1000糖質オフ」。上に記しましたように、糖質に関する不満の声に応えた顧客離反対策の新商品です。これには基幹商品「Y1000」とのデザインの違いは最小限に留められ、中央の機能表示帯の色がややライトになり「カロリー・糖質オフ」の一行が加わったというデザインが採用されています。この点について、皆さんはどうお考えになるでしょうか。

一方、同時に併売されている6本入りマルチパック商品のシュリンク包装には、目を引く大幅な白配色を施したデザインが付けられています。単品とマルチパックの両者には明らかにデザインの差があります。

左:スーパー売場で並ぶ「Y1000」と「Y1000糖質オフ」、右:スーパーのヤクルトブランドコーナー売場に並ぶ「Y1000」と「Y1000糖質オフ」(筆者撮影)

左:スーパー売場で並ぶ「Y1000」と「Y1000糖質オフ」、右:スーパーのヤクルトブランドコーナー売場に並ぶ「Y1000」と「Y1000糖質オフ」(筆者撮影)

単品がこのデザインであると従来の「Y1000」の顧客が売場に来られた場合にのみ、何とか「糖質オフ」を発見するということになります。そして、中身の性能は同じなら低糖質に乗り換えるだけとなるのでしょう。新ライン商品「糖質オフ」が従来の本家「Y1000」とカニバリ(購入の食い合い)を起こしているという日経POSデータ分析結果(日経X-Trend)がありました。「糖質オフ」投入後もY1000ブランド全体の販売金額はそれほど上昇することがなく、商品別構成は「糖質オフ」商品が4割を超えてくる状況でした(2025年6月の来店客1,000人当たり販売金額推移より)。

店頭でよく目にするヤクルト全ブランドの棚販売コーナーは"ヤクルトレッド"一色となり、全体としての存在感は強力ですが、当の「Y1000糖質オフ」の存在に気付くことは少ないのではないかと思われます。欠品期間中にはお詫び札の付いた空きスペースの棚が逆に目につきましたが、再販売の時期に改めて大々的なコミュニケーション施策があれば違ったかもしれません。情報過多で高速サイクルの時代には、少し前のことになるとすぐに鮮度は落ち、宣伝資産は減少していくということになるでしょう。
この場面では、新商品投入時には離反顧客層だけを獲得するのではなく、新たなターゲットを取る新価値を打ち出して投入し、改めて「Y1000」ブランド全体を盛り上げるキャンペーンコミュニケーションとすることが良いのではないでしょうか。

そのような折、9月下旬に「Y1000糖質オフ」パッケージデザインがリニューアルされるとのニュースリリースがありました。筆者は現時点でまだ、現物を目にしていません。公式ホームページでデザインを見る限り、識別性向上へのマイナーチェンジと見受けられます。とは言え、その変更がブランド活性化、売上拡大に貢献することを祈ります。皆さんはどう捉えられるでしょうか。

「Y1000糖質オフ」のパッケージ(ヤクルト本社公式HPより)

「Y1000糖質オフ」のパッケージ(ヤクルト本社公式HPより)

ブランドエクステンション(既存ブランド名を活用して系列品、新商品を広げる)は新たなニュースとして発信され、既存ブランド・商品に再度目を向けるよう仕掛けられています。かつて、ネスレ日本 元CEOの高岡 浩三氏は、ブランド育成はニュースを発信し続けることだと説かれていました。
余計なことかもしれませんが、「糖質オフ」は消費者ニーズに応えた基本としたうえで、新規顧客のインサイトに直結する新価値を打ち出し、同スマートボトルでヤクルトレッドをまといながらも革新的デザインで登場する姿を見てみたいと思いますが、いかがでしょうか。

では、そうした戦略で成功したパッケージデザインはあるでしょうか。既存の売場で新たな顧客層を捉えることに成功したマーケティング戦略とそれを体現したパッケージデザインの最近の事例に学んでみたいと思います。

オーマイ「もちっとおいしいスパゲッティ」棚で存在に気付く大胆デザインで大ヒット

「もちっとおいしいスパゲッティ」(株式会社ニップン)は乾燥スパゲッティで2024年2月に発売され、その後1年で出荷数5,000万食を突破しました。リピート率も高い結果となっているとのことです。過去10年間のうち、乾燥スパゲッティの新商品の中で最も売れた商品と言われています。乾燥パスタ市場はコモディティの典型で、価格競争の激しい市場です。定番食感の"アルデンテ"とは違う新食感の"もちっと"を打ち出した商品です。

冷凍パスタでNo.1ブランドの同社「オーマイプレミアム」を活用して、乾燥パスタ商品を改革し、再導入しました。大成功の要因はマーケティング戦略の巧さであり、その原動力は戦略を体現したパッケージデザインに尽きると見られます。素材型商品の常識的デザインから逸脱しています。「もちっと」のキャッチと持ち上げシズル写真を大胆に配置し、従来各社が採用してきた中身のパスタ色を見せた明るい配色に対し、全面黒ベースを打ち出すことで、新たな商品価値である新食感機能と出来上がり気分を思わせる表現となっています。高級輸入ブランドか、国産か、安価品かという選択肢から"食感"で選ぶという、オーバーに言えばゲームチェンジを起こす戦略です。

オーマイプレミアム もちっとおいしいスパゲッティ(株式会社ニップン公式HPより)

オーマイプレミアム もちっとおいしいスパゲッティ(株式会社ニップン公式HPより)

当分野は、「こんなものだ」という過去からの常識と、ブランド資産認知上からもデザインマナーは変えられないという固定概念がある分野です。多く入ってくる輸入ブランドを見本とされてきた結果、その既成事実で通っています。同商品の成功で、競合ブランドもパッケージデザインに食感に関するキャッチコピーや持ち上げシズル写真を大きくフィーチャーするという現象も起こっています。業界の固定観念に気付き、刺激を与えた形になったようです。

森永「板チョコアイス」過去最高売り上げを記録し、系列商品投入でカニバリを避け新規顧客獲得に成功

ブランドエクステンションにおけるマーケティング・パッケージデザインの成功事例で大変参考になるものが「板チョコアイス」です。30周年を迎えるブランドですが、2023年夏から「夏限定」の商品を展開し、続いて「秋冬限定」の系列商品の販売を始めました。2024年の売上は前年度比28%増です。2025年1~3月期の第1四半期決算でも前年同期比55%増と大幅に伸びています。

森永製菓マーケティング本部冷菓マーケティング部の談話記事(日経クロストレンド2025年9月8日)を参考にそのマーケティング戦略とそれを体現するパッケージデザインの重要性を見てみたいと思います。
"夏に食べられるチョコ"をチョコ率45%で実現した「板チョコアイス」です。低迷による休売時も乗り越え、2020年からの通年販売商品のデザインはチョコ菓子の箱から中身が飛び出して"パキッ!"と表現されています。「これはまさに板チョコレートです」と、ターゲット(WHO)と提供価値(WHAT)を直球で伝えています。アイス売場で従来の「チョコがけアイス」とは違う新たなカテゴリーを作るマーケティング・デザインです。

森永 板チョコアイス(森永製菓株式会社公式HPより)

森永 板チョコアイス(森永製菓株式会社公式HPより)

そしてその品質が重く感じられがちな夏場の伸び悩み打開策として、「いつもより後味さっぱり!夏限定」(2023年)を発売しました。デザインは中央に涼やかな"ブルーの旗"と"夏"が鮮烈に目を引きます。"さっぱり"というコピーも読ませる絶妙なレイアウトです。この商品で他のアイス商品からではなく、常温菓子のチョコレート顧客の獲得に成功し、夏場の売上を伸ばしました。これは新規顧客開発のためのマーケティング・デザインです。

板チョコアイス 夏限定(森永製菓株式会社公式HPより)

板チョコアイス 夏限定(森永製菓株式会社公式HPより)

ついで秋冬限定で販売されている「白い板チョコアイス」。通年本家商品のレイアウトを踏襲するも全配色を反転させた雪のように白いカラーのデザインです。これこそ当たり前の手法の延長かもしれませんが、実に新規ターゲットと売場活性対策(明確な存在感)が仕組まれたマーケティング・デザインだと思います。迫力のある売場2面取りを実現しています。これで女性(新規ターゲット)を中心に顧客の間口が拡大しました。「白い板チョコアイス」から本家の「板チョコアイス」を知った人もいるということです。

白い板チョコアイス 秋冬限定(森永製菓株式会社公式HPより)

白い板チョコアイス 秋冬限定(森永製菓株式会社公式HPより)

2020年の通年販売を機に「進撃の巨人」とのコラボパッケージ(マンガ本背表紙1~10巻が箱天面に印刷されたパッケージコレクション・プロモーション)の展開を始め、ブランド企画ニュースを連発しています。その結果、ブランド全体で直近5年間の売上は236%伸長(※インテージSRI+アイスクリーム市場 対象期間:2020年4月~2025年3月の全国推計累計販売金額)し、2024年の売上が過去最高を記録しています。ブランドの育成はニュースを発信し続けることです。

マーケティング戦略におけるWHO、WHAT、コミュニケーション、流通売場施策のすべてはパッケージデザインに組み込まれます。戦略を体現することが肝要であり、パッケージデザインはマーケティング戦略そのものとして、その位置付けが引き上げられてきたと言えるでしょう。

▼参考記事

・日経クロストレンド
大失速「ヤクルト1000」が糖質オフ投入するも、POSで課題が鮮明
2025年7月22日
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00921/00036/

・ヤクルト本社 ニュースリリース
「Yakult(ヤクルト)1000 糖質オフ」「Y1000 糖質オフ」のパッケージデザインをリニューアル
2025年9月5日
https://www.yakult.co.jp/company/news/article.php?num=1785

・AdverTimes.(宣伝会議)
「もちっとおいしいスパゲッティ」大ヒット 開発から販促まで貫いた“消費者起点”のこだわり
2025年4月28日
https://www.advertimes.com/20250428/article496291/

・日経クロストレンド
森永「板チョコアイス」過去最高売り上げ "ご褒美シーン"を開拓
2025年9月8日
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00947/00208/

・@DIME (アットダイム)
夏でもチョコを食べたい!森永「板チョコアイス」が過去最高の売上を達成するまでの苦難の30年
2025年7月27日
https://dime.jp/genre/2002058/

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