ナフサ供給問題で店頭の商品パッケージに変化が出てきています。口火を切ったカルビー社の「ポテトチップス」などのパッケージが白黒印刷(「石油原料節約パッケージ」)に変わることが話題になり様々な論評が出ました。有名ブランドならではの広報効果が絶大でした。市場投入は早い者勝ち、他が追随して周りがぜんぶ白黒になる(筆者が思うにありえないが)と意味はなくなります。ドン・キホーテのPB商品シリーズ「EDRP」も白黒ミニマムデザインのパッケージで登場しました。こちらも売り場で目立っています。

「カルビーポテトチップス」"石油原料節約パッケージ"(カルビー株式会社ニュースリリースより)

ドン・キホーテなどのEDRP(EveryDay Real Price)商品(株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス ニュースリリースより)
カルビー社は大量生産ブランド商品ゆえの安定販売確保への先行きの危機感から、スピード対応となりました。先行発売のメリットに加え、早い段階で話題化できたことも大きな成果と言えるでしょう。一方で近年伸びのない「ポテトチップス」のブランドプロモーションに転じていることも見逃せません。
まずはカルビー社のパッケージデザインを完全に白黒にするという着想に秀逸さを感じます(報道ではそうすることが必然の成り行きのように扱われていますが、簡単には思いつかないアイデアです)。一般的にデザインのモノクロ化はアイデンティティを揺るがすことであり、心配なことのはずです。今回のモノクロ化はパッケージのグラフィックの情報的内容は大きく変わらず、消費者にとって商品の使用行動の変容を迫るものではありません。あるとしたら、いつもの何気ない購買行動から何か少し不安感のある異変を感じて買うという行動。それはそのブランドへの愛着を見直す機会になるのではないでしょうか。
今まで意識もせず当たり前だったカルビーの「ポテトチップス」のカラーデザインがなくなって寂しいという感情ではないでしょうか。そして、あのポテトのキャラクターを外しているところに緊急事態性訴求の演出を感じさせます。カルビー社ではキャラの世界観を守る問題として説明されているようです。とは言え白黒デザインは味覚に影響し味気なく感じるかもしれないというリスクはあります(それゆえ、味気無さを助長しかねない中身のシズル写真も外しているわけですね)。
※当ポテトチップス商品の袋素材のアルミ蒸着フィルムは、酸化防止や遮光性など中身の品質保持上、不可欠なものであります。一部透明窓あきの加工にして中身を見せることも可能であるが、光の問題と包材加工費が高価のため使用が困難。
カルビー社はこの先、カラー版復帰の時に話題性を持った新デザインで復活する時が来るはずです。そうです、2度のブランドリマインド(思い出す)のチャンスを作ることになる訳です。
出だしから表題の"パッケージのUX"からそれた話になったように見えたでしょうか。カルビー社の白黒デザインパッケージはユーザー層に、これまでとは違う感覚で買って食して、少しばかり物資不足という社会問題を意識することで、心に刻んでブランドを再認識することを仕掛けていると言えます。そのことは、UX(ユーザーエクスペリエンス)すなわち商品の認知から購入、使用、クチコミ発信までの体験価値を設計していることにほかなりません。
パッケージは「体験の設計装置」である
パッケージデザインは長らく主として「視覚的差別化」や「ブランド表現」の領域として語られてきました。しかし今日、その役割の捉え方は明確に変質しています。パッケージはもはや単なる容器ではありません。前述のように消費者と企業・製品が最初に接触する「体験の入口」から購買、使用、廃棄、評価行動まで、すなわちUX(ユーザー体験)そのものです。
今やマーケティング界隈では"体験"型が主流になっています。ECネット時代にあって厳しい環境にある流通業界の小売店舗は店舗のメディア化(リテールメディア)、エンタメ化(店頭価値の高度化)を加速しています。生き残る道として実店舗での"体験"が重要視されているわけです。
現在、業界で注目をされているのが「ドン・キホーテ」とその傘下の「ロビン・フッド」。前者は買い物の楽しさを提供する"時間消費"業態で、後者は商品の「選択負担」「感情負担」を下げる、考えなくてよい楽な買い物ができる"タイパ&メンパ"業態。メンパ(メンタルパフォーマンス)とはメンタルが削られない消費です。さらに昨年「ヤオコー」の傘下になって話題の「クックマート」(東海エリア)は経営理念の「DELIGHT!(楽しむ、楽しませる!)」に基づき「人にしかできない顧客を感動させる売り場」を展開。これらの成功している店舗戦略はいずれも、"実店舗体験"を仕掛けています。
その意味で商品メーカーにとっては、顧客の購買消費行動の軸となるパッケージにひときわ"体験"が必要であることがわかります。その体験価値とは何なのでしょうか。
パッケージをUXとして捉える時は、まずユーザーとの接点から整理してみることから始めます。
- 購買前接点(ネット情報・棚・ECサイト)
- 購買時接点(買い方・実店舗持ち帰り)
- 開封接点(使用開始)
- 使用中接点(継続使用)
- 廃棄・再利用接点(環境ルール)
- 情報生成接点(User Generated Contents・SNS・クチコミ)
そして、それぞれの接点には、脳に印象的に刻まれる体験要素が存在します。それは以下の5要素で評価することができると思います。
- 認知(直感理解、選択・判断の負荷はどうか)
- 操作(開封、使用、保管、エラーの排除・許容)
- 継続(習慣化促進)
- 環境(廃棄・再利用の脱ストレス、サステナビリティ感覚)
- 感性(五感、エンタメ性)
体験価値とは、ユーザーが各接点で得た良い体験を通じて生まれる感情や意味が、記憶として残る価値のことです。
例えばパッケージの開封接点で、簡単かつ面白い開け方(認知・操作)を通して、中身の特徴や使用法を事前に疑似体験(感性)させ、商品価値をより強く印象付ける。それは他にはない価値として記憶し、ブランドを認識することになる。この場合、5つの要素のうちの認知・操作・感性などから見て消費者が"良いと感じた"ことになれば、良い体験と言えるのではないでしょうか。
開封接点、箱を開ける瞬間が心に刺さり、脳裏に刻まれる。そんな商品が今年に入って発売されました。
●ロッテ「クランキー」"パキッとオープン"(2026年4月発売)
今回のパッケージリニューアルでパキッと箱ごと半分に割る動作体験が設計されています。「サクっとした食感」という商品のコアバリューを、開封時に先取りして体験させています。開封動作を中身への期待感を高める装置として機能させているのです。

ロッテ「クランキー」"パキッとオープン"(株式会社ロッテ・ニュースリリース(PRTIMES)より)
●森永「板チョコアイス」"差しコミックパッケージ"(2026年4月発売)
開封後に箱を左右差し込むことでイラストストーリーが変化するギミック「差しコミックパッケージ」(森永命名)のデザインです(10種類)。アイスにおける箱型パッケージの価値を改めて打ち出す狙い。箱の形状を活用した保管方法「チョコッとストック」を直感的に伝わるよう工夫しています。

森永「板チョコアイス」"差しコミックパッケージ"(森永製菓株式会社ニュースリリース(PRTIMES)より)
これらは現在のユーザー感覚に向けて体験が設計された仕掛けであるわけですが、翻って見れば、もともと昭和の名品パッケージは体験価値から始まったといえます。「キッコーマン醤油ボトル」、「カップヌードル」、「ペットボトル飲料」、「抽出口付きゼリー飲料」などなど、時代と生活スタイルを変えた商品パッケージが数多く挙げられます。それら商品パッケージは 商品を知って、売り場で見て、購入して、開封し、使用して、廃棄する。そしてクチコミで話題にするといった行為を通した体験を提供してきました。また実例を挙げながら見てみましょう。
昭和の大衆消費時代の発明級体験価値パッケージ
●キッコーマン しょうゆ 卓上びん
一升瓶という台所保管前提の容器を、食卓常設へと転換したことで、「醤油を使う」という行為の時間と場所を再定義しました。取りに行く、移し替えるといった動作は消え、食事中に即座に適量を使うという新たな日常が生まれたのです。さらにそのフォルムは醤油差しの原型として社会に定着し、パッケージが「行為の標準」を形成するに至りました。

キッコーマン しょうゆ 卓上びん1961年(立体商標登録)(キッコーマン株式会社ホームページより)
●日清カップヌードル
調理という行為そのものを解体しました。鍋や火を必要とした袋麺に対し、調理器具と食器の一体化によって「お湯を注ぐ」という単一行為へと圧縮した結果、食の場所は台所からあらゆる空間へと解放されました。ここで起きているのは利便性の向上ではなく、生活構造の再編です。

カップヌードル1971年発売当時のパッケージ(日清食品株式会社ホームページより)
次の2000年代に入り大量消費から"選択の時代"となって、環境保全の問題も浮上してきた頃の名品として、筆者は「キリン氷結」を挙げたいです。
●キリン氷結
薄肉軽量化を目指し生まれたダイヤカット形状アルミ缶(東洋製罐株式会社)を最大限生かし切った正に五感体験パッケージです。「氷結」という絶妙なネーミングを実感させる氷結晶感のあるダイヤカットを生かすグラフィック。キラッと光り、持つ指にかかる触感。プルタブを開ける瞬間、"パキッ!"と破裂音とともに減圧でダイヤカットのエッジがシャープに立つ!香りが噴出して、スパークリングの味が冴える。大ヒットして強大ブランドへと送り込んだ名作パッケージです。

「キリン氷結」2001年発売当時のパッケージ(立体商標登録)(キリンホールディングス株式会社ホームページより)
近年のUXで成功しているパッケージ
そして近年のパッケージでは、ネスレ「ゴールドブレンドエコ&システムパック」、P&G「アリエール ジェルボール」がまさに体験価値で売上や市場成長を築いている秀逸パッケージです。
●ネスレ「ネスカフェ ゴールドブレンド エコ&システムパック」
2008年の発売当初は、プラスチック成型やアルミ箔が内蔵されていましたが、現在は改良が進み、中身品質を保護する内装貼り極薄フィルム以外は紙製の容器となっています。"詰替"という行為そのものをUXとして再設計した点で評価できます。セットするだけで粉がこぼれず装填できる構造は、従来の「詰め替えの煩雑さ」「ストレス」を解消しています。 本体容器との関係構造により、継続利用を誘導しブランドロイヤルティを強化。ここでは「詰替=面倒」というネガティブ体験を、「簡単で気持ちよい体験」に変換しています。これはUX改善の好例です。筆者の知るユーザーの1人は最近初めて使用して、その詰め替え行為が気持ち良くてクセになりそうと言っていました。狙い通りで素晴らしいと思います。

ネスレ「ネスカフェゴールドブレンドエコ&システムパック」(ネスレ日本株式会公式ホームページより)
●P&G「アリエール ジェルボール」
液体洗剤の一粒がまさしくパッケージ!洗濯時にありがちなさまざまなストレスを解消。1粒を指でつまんで洗濯機に入れるだけ。キャップ開けや計量いらず手軽時短のタイパ&メンパです。ジェルボール洗剤全体は衣料用洗剤市場のシェア約11%(2023年)でさらに上昇中です。

P&G「アリエールジェルボール」(P&G「アリエール 」公式サイトより)
なぜ今あらためてUXが問われるのか。
現代の生活は、時間の断片化と行為の同時化によって特徴づけられます。食事、休憩、購買は連続したまとまりではなく、細切れの瞬間として消費されています。また情報過多の環境において、ユーザーは判断すること自体を回避する傾向にあります。したがって現在求められているのは、機能の追加ではなく、思考と判断の削減です。それがタイパ、メンパ消費となっているわけです。先のジェルボール洗剤は「適量を判断する」「こぼさないよう注意する」といった認知的負担を削除している点で重要と言えます。
これまでの「行為を減らすUX」から、「判断を不要にするUX」への移行です。各メーカーに目指していただきたいところですね。
いやいや、そのような包装の新規システムの開発や改良整備など予算的な余裕がない、という声も多いです。しかし、あきらめることはありません。パッケージグラフィックでも十分高い効果を発揮している事例があります。冒頭に述べた「カルビー"白黒"ポテトチップス」も事情は別格ですが、一例です。思いつくものをいくつか挙げてみます。
●キリン生茶2024年のリニューアルデザイン(2024年4月発売)
容器、パッケージ、中味を大刷新。デザインは生活に寄り添い、彩りを与える存在になり「持ち歩きたくなるモノとしての価値」を重視したと言います。この年18年ぶりに年間売上3,000万ケースを突破し大ヒット。筆者は特にグラフィックデザインが生活する気分を変えるという体験に奏功したと思います。「デザインがおしゃれ」と評価されたという調査結果が裏付けています。

「キリン生茶」2024年リニューアルデザイン(キリンビバレッジ株式会社ニュースリリースより)
●古谷乳業「物語のあるヨーグルト」(2024年9月発売)
既存のヨーグルト商品を見直し再編成しており、パッケージを絵本のイメージでデザインした商品です。物語が書かれており、食べる時間が友人との話題や親子会話のコミュニケーションを生むなど商品価値を増大させています。高齢者中心の顧客層を女性や子供に拡大し、売上を従来品の3倍にしました。

古谷乳業株式会社「物語のあるヨーグルト」(古谷乳業株式会社公式ホームページより)
●ロッテ「パイの実」"おしの森プロジェクト"展開パッケージ(2026年4月発売)
パッケージのキャラクターをIP(知的財産)化し、ブランドの世界観を展開して"推し"をテーマに若年層のファン化を目指しています。スタートとして公式Xアカウントで4コマ漫画を続々発信し、商品パッケージ中面にも限定ストーリーを掲載し、世界観への没入を仕掛けています。パッケージを通して、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の創出を促しており、ファンの推し活としてSNSに投稿され始めていると言います。同時に箱の裏面は「パイの実」の部分が「ありがとうの実」などとデザインされているものや「○○の実」と自由に書き込めるものがあり、贈答コミュニケーションの体験が促される設計となっています。

ロッテ「パイの実」2026年4月発売デザイン(筆者撮影)
これからしばらく売り場には白黒のデザインパッケージや紙トレー、紙カップ容器などが増えてくるでしょう。やむを得ない事情のパッケージ変更ではあります。しかし、仕方なく現状を維持しようとする代替的包装ではなく、モノクロでもできるユーザーの心に刻まれる心理的、情緒的な体験が設計されたパッケージが市場に並べられればブランド力向上に一役買う良い機会になるでしょう。まさに「ピンチをチャンスに変える」の実践です。パッケージ商品を応援されている皆さんは心に刻まれる体験を備えたパッケージを待ちに待っているのではないでしょうか。
▼参考記事
・DIAMOND online 「なぜカルビーは値上げより「白黒ポテチ」を選んだのか?社名に隠された深いワケ」2026年5月17日
https://diamond.jp/articles/-/390154?page=4
・日経クロストレンド 「ドンキ流スーパー「ロビン・フッド」開店 新PBでコスパ・タイパに特化」2026年04月24日
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00947/00279/
・クックマート 「楽しむことが最高の戦略 新時代のスーパーマーケット作り」
https://www.cookmart.co.jp/cms/wp-content/uploads/2019/10/190601_newvoice.pdf
・日経クロストレンド 「クランキーが好調でもブランド希薄化に危機感 初の大胆刷新で体験強化」2026年04月21日
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/01851/
・AdverTimes 「「板チョコアイス」の "箱" の秘密 保存機能を話題化につなげた森永製菓の発想」2026年4月21日
https://www.advertimes.com/20260421/article541843/2/
・日経クロストレンド 「まるで絵本「物語のあるヨーグルト」 脱機能訴求で売り上げ3倍に」2025年05月23日
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/01155/00008/
・AdverTimes 「ロッテ「パイの実」がIP戦略を本格化 "推し活"でZ世代とつながる新世界観」2026年5月1日
https://www.advertimes.com/20260501/article542011/
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