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【パッケージコラムvol.8】誤認とパッケージデザイン

いきなり誤認というと少し仰々しいかも知れません。

しかし勘違いや思い込みというものは日常生活の中でもたびたび遭遇します。

つい先日、自宅で使っているキーボードをネット通販を利用して買い替えた時のことです。

macに対応しているもの、デザイン的な部分の好みなどいくつかのポイントを精査して、ひとつのキーボードを選びました。

実際に届いたものを確認してみると概ね問題はなかったのですが、ひとつだけ大きな誤算が。

よく見ると見慣れないキー配置、US配列のキーボードだったのです。

なにかの手違いかと思い商品ページを確認してみるも、しっかりとUSの記載が…。

しかし不思議なものでこうした勘違いはその後のフラットな状態で振り返ってみると、なぜそのようなことにも気付けなかったのか、それ自体が不思議に思えてなりません。

なにかを探したりする時、人は自身にとって優先度が高い部分にフォーカスしてしまい、それ以外の部分は少し疎かになってしまうようです。

店頭でのパッケージにも同じことが言えるかも知れません。コンビニなどの小売店や専門店、ECサイト等の店舗や販売の形態によってひとつのパッケージと接する時間の大小はありますが、どの場合でも読み取ってもらえる情報量に限りがあります。

その限られたコミュニケーションの機会を無駄にしてしまっては元も子もありません。ヴィジュアルから知覚したものと中身との乖離から生まれる違和感はなかなかショッキングです。

場合によってはこの違和感やギャップが面白い方向に作用する場合もあります。

地方の名産品や発売当初からデザインを変えることなく販売を続けているもの、中身は美味しいのに外箱は…など、

必ずしもヴィジュアルとして洗練されていることが製品の確実な利益に繋がるとは限らず、ギャップがあるからこそ存在が際立つように、それ自体がキャラクターとなる所もデザインの面白いところ。

そんな中身と外見の違い、表現の距離と言っても良いかも知れません。これそのものに絶対的な正解があるかと言うとそういう訳ではないと考えています。これは服のコーディネートに似ているように感じます。

一般的には外出先や目的、気温などその時の様々な条件で服装を決めるでしょう。冠婚葬祭など条件がカッチリしているものもありますが、そのような場合でさえ国や地域、宗教などまた異なるレイヤーによっては変化します。同様にパッケージデザインもまたマーケティング戦略やブランド構築、競合他社の存在など様々な条件のもとで仕立てられていきます。

さて一方で忘れてはならないのが、どのような製品もルールを守った上で表記や表現がされているということ。

食品パッケージであれば食品表示法や景品表示法、化粧品であれば薬機法などそれぞれルールが定められています。裏面に記載されている栄養成分表示や原材料の表示などに関しても同様にルールに則って記載されています。

一定のルールの下で切磋琢磨、競っていると思うとまるでアスリートのようですね。

そういう意味ではスポーツ同様にルールを知り、理解することでより深く楽しめるように、パッケージもまたそういうルールの存在を知ることで見慣れたパッケージでもまだまだ見どころがありそうです。表示面のレイアウトなどもさまざまで見比べるのも面白いです。

 

ところがそんな様々な条件をクリアしているとは言えども難しいものでいくつかの要素が重なった結果、デザインを修正することとなった事例を見てみましょう。

キリンビバレッジから販売されている「トロピカーナ 100% まるごと果実感 メロンテイスト」という製品です。

SNS等でも話題となっていました。

画像はキリンビバレッジ公式ニュースリリースより

こちら実際に修正が入る前のデザインですが、いかがでしょうか。

記載されている文言をしっかりと吟味し咀嚼するとまた印象も変わってきますが、見た目の印象と実際の中味成分の乖離が主な問題となっています。具体的には見ていくと、メロンの表現と訴求文言の言い回しの2点です。

まずメロンの表現から、正面の大部分をメロン果実のイメージ画像が占めています。また上部ではメロンに直接ストローを刺しているような表現が採用されています。

文言の方では「厳選マスクメロン」「100% MELON TASTE」「濃縮還元 メロンテイスト 果汁100%」と記載されています。文字単体で抜き出し読み込むと一見問題ないようにも思えてしまいますが、実際にメロンのビジュアルやレイアウトを組み合わせると、あたかもメロンの果汁が大部分を占めているかのようにも見えます。

しかしその印象とは裏腹に実際の中味はメロン以外の果汁が大半を占めているようです。

続いて修正後のものはどうでしょうか。

画像はキリンビバレッジ公式サイトより

 

メロンの切り身はなくなり、他の果物の存在感が強くなっています。また「4種の果実ミックス」が差し色的に入ることでメロン単体ではないことがより強められています。

アテンションも「厳選果汁使用」となっています。全体の印象としては、ミックスジュースとしての存在感が強まったものの、メロンテイストという製品の特徴的な部分が弱まってしまうのは仕方がないとはいえ難しい点ですね。

 

さて今回は誤認という少し強い言葉のテーマではありましたが、製品の先にいる人に対する気配り、誠意のようにも感じます。

売る側は中身のことを知り尽くしています。

しかし手に取る側が初めに直接対面するのは中身よりもパッケージであることが多いでしょう。webやsnsなど事前情報に触れやすい今の世の中とはいえ、それは変わりません。

 

ここからは雑談となってしまいますが、今回のテーマを頭の中で巡らせていく中で、動物の不器用な一面が愛おしさ、尊さに繋がる「ざんねんないきもの事典」のようにデザインのどこか不器用な部分と中味の良さのギャップがあるパッケージを「不器用なパッケージ」みたいな形で募るのも面白いのかもと、ふと思いました。

 

もしそんな愛しの推しパッケージなどありましたらtwitterのDM等で教えて頂けると嬉しいです。

 

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