▼前編はこちら
社会の変化を映し出す、北欧の生理用品事情(前編)
生理カップの時代へ
皆さんは「生理カップ」をご存知でしょうか?北欧諸国でも、生理カップはまだまだ新しいもの。一部のスーパーでは取り扱っておらず、薬局では多少見かけるものの、商品の幅広さは自然派ショップが断トツです。
ちなみに、私は生理カップを使用したことがなく、今回取材のために購入する際、「これ?本当にこれ?洗浄用はどれがいいの?サイズはどれにすればいいの?」とドキドキしながら、お店で長時間あれこれ迷いました。そして箱を開ける時のどきどき感は、まるでプレゼントを開けるかのよう!
今回見てみるのは、2種類の生理カップ。まずはじめに、フィンランドといえば「Lunette」。ルネット月経カップは、日本でも販売されているようです。
外装の箱全体が「コンポスト可能」と表示があり、他に説明がなかったので詳細を問い合わせてみました。箱の大部分は紙で、透明なフィルム部分はプラスチックではなく「セルロース」からできているようです。
さて、次はスウェーデンの「Menskopp」です。ノルウェーやデンマークでも売られています。3サイズあり、一番小さいミニ(下の写真の緑色の箱)と、普通サイズ(中央の赤色の箱)を購入。
どの外装の箱も紙なので、「リサイクルへ」と書かれていました。両種類とも、他にもたくさんのカラーがあります。お店によって、見本がある・ない場所があるので、できれば見本を見て、触って、じっくり考えたいですね。
スウェーデン版の生理カップは、消毒は別売りの袋を購入して、お湯で消毒するようです。ただ驚いたのが、専用の袋にカップと水を入れて袋ごと「電子レンジでチン」すること。
北欧では、大半の一般家庭にオーブンはありますが、電子レンジはないケースもあります。例えば、私の家がそう。「それなら私は、どうやって消毒すればいいんだろう?」と疑問でした。公式ホームページを見たところ、この電子レンジ袋でなくともお湯で月に1度の煮沸消毒ができれていればいいようです。
食品を入れる電子レンジに、生理用品を入れることにも抵抗がある人がいるかもしれませんね。「日本だったら、まだ自分は良くても、家族に嫌がる人がいるかもね」という話題で日本人の友人と盛り上がりました。
そして私もこの取材を機に、生理カップに初挑戦して驚きました。生理中だということを忘れるほど装着後は違和感がありません。女性を自由にする発明だ!と感動しました。
私以外の日本人はどう感じるんだろう?
ちょうど生理カップをノルウェーのスーパーで買った直後、日本から遊びに来ていた友人に会ったので、反応を見てみました。
「かわいい袋」「思ったより、硬い!」というのが、彼女の第一声。自分のデリケートな部分に入れるので、とーっても柔らかいものを想像する人もいるのかもしれません。
現地の人の反応は?
フィンランドに出張の際、現地の女性たちと生理カップについて話をしました。私が滞在したお家の女性は、友人たちがどんどん生理カップを使い始めるから自分も始めたそうです。「もれることはたまにあるけど、便利だし、エコだし、最高!」と大満足の様子。
取材先の「ヘルシンキ・ファッション・ウィーク」でも、生理カップの愛用者が多めでした。ただ、環境に優しいファッション業界の未来を考えるイベントでもあったため、それでたまたま「最もエコであろう生理用品=カップ」率が高かった可能性もあります。
生理用品の包装となると、日本では「外装は衛生面のためにもビニール」、「ごみの焼却システムが違うので生分解性は」、という点がありそうですが、生理カップなら1回の購入でごみが出なくなるので「とてもエコ」となるのですね。
金銭的には、1度の出費で済むわけではありません。大抵はそのカップ専用の消毒用ジェル・袋・ウェットティッシュなどがあるので、常に小さな追加出費はあります。
北欧での「恥の意識」
「生理用品を店頭レジで買うのは恥ずかしいか?」、「二重包装してほしいか(二重包装=日本で生理用品を購入すると、何を買ったか他の人に分からないよう、大半のお店では袋を二重に重ねることにより中身が透けないようにします。)」という議論が日本ではあるようですが、北欧ではそのテーマは聞いたことがありません。
先ほどもお話したフィンランドの女性の旦那さんは、今の妻にも前にお付き合いしていた人にも、頼まれてナプキンなどをお店に買いに行ったことがあるそうです。「恥ずかしいとか、意識してなかった。痛くて外出できないの、大変だろうし。深く考えたことはなかった」とのこと。
日本での二重包装の話を各国の現地の人にすると、「10代で生理になったばかりで恥ずかしいというのはわかるけど、大人になってまで、なぜ気にするの?」という反応ばかり。レジで女性が買ったものを凝視する人がいる(もちろん、一部の人ですが)という話も、ぴんとこないようでした。
そもそも二重包装は、サービス過剰な日本ならではともいえるかもしれません。追加の包装や袋は「有料」であり、お客様をそこまで気にする店員はまずいません。無駄な包装が増えることは環境にもよくありませんし、「お客様の気持ち」以前に、「店員の負担」が増えます。
プラスチック削減を気にする現代の流れにおいて、過剰包装をしない、エコに徹底的にこだわる店ほど、消費者には支持されます。生理用品は隠すものでもないので、日本のような二重包装カルチャーがあれば、現地の女性たちは怒るかもしれません。
また、仮に恥ずかしいとしても、二重包装がいらない理由は「マイバッグ」です。レジでの袋が有料なのは当たり前なので、「エコバッグ」を何個も家に持っている人は多くいます。私も常に折り畳みのエコバッグを持ち歩いており、スーパーで買った商品は全部それに入れています。中身が透けるエコバッグでない限りは、すぐにその袋に入れれば何を買ったかは見えないため、気にする必要がなくなります。
「食品と生理用品を、別々の袋に入れる」なんてことは、起こりえないし、「それこそ資源の無駄だ」、「女性の生理をなんだと思っている」と、北欧であれば批判対象になってしまうでしょう。
今回の取材のために、各国の店で大量の生理用品を買いました。どこでも、ほかの商品と一緒に、ぽいっと投げるような感じで扱われます。レジの男性の店員も、後ろに並んでいる男性も、私が何を買おうが、関心ゼロ。そもそも私も、周囲がどう思っているかを気にしないので、ほかの商品と同じ感覚でしか見ていません。「恥ずかしい」という感覚も違うのでしょう。
無料でもらえるプロモーションと、ジェンダーについて
選挙期間やイベントの際には、政党や学校関係者、団体が道路で堂々とコンドームを無料配布していることもあります(二重包装なし)。各党の青年部が学校内で選挙活動をする際には、勉強に便利な文房具のほかに、コンドームは人気のグッズです。
この記事を書いていて、オスロ大学に通っていた頃のエピソードを思い出しました。
大学は1年が2学期制。学期はじめには、「学生パック」というような、無料の袋がキャンパス内や学校前で無料配布されています。この袋には、各企業が大学生向けに売り込みたい商品がどっさりと入っており、金銭的に余裕のない若者にも大人気。
その袋は男女で分かれているのですが、「ガールズ・バッグ」という女子大生向けには、デリケート部分の洗浄ジェル、タンポンが入っていました。
「わーい、何が入っているだろう」と、学生たちは教室などでどんどん開封します。男子が女子袋をもらってしまうこともあるわけで、構内では、男子が「これ使わないから、あげるよ」と女子にタンポンを渡したり、女子同士で「私、ナプキン派だから、タンポンあげる。そのインスタントコーヒー、いらないなら、ちょうだい」と交換したり、いらないタンポンは誰かが欲しいだろうと、タンポンを丸ごと食堂のテーブルの上に放置。
ちなみに、日本から来たばかりの私はナプキン派。タンポンをわざわざ買って試そうという気持ちはなかったのですが、無料タンポンがこの学生袋に入っていたので、「どれどれ」と好奇心で試したこともあります(学生対象の無料キャンペーンによるプロモーション、効果あり)。そういう環境でした。
二重包装されていない、無料のコンドームや生理用品を、「便利だ!無料だ!」と喜ぶ人が多い環境。大学では、どの科目を専攻していても、ジェンダー平等学の視点を混ぜた授業が必須でセット。ジェンダーロールやフェミニズムの視点で、社会を批判的に見る能力も学びます。店のレジで生理用品が恥ずかしいという感覚なんて、「そりゃ、育つわけないな」、と思うわけです。
生理用品の包装自体も、今は多種多様なので、お茶やお菓子の箱に見えたりもします。
「日本では、二重包装の話とかが話題でね」と現地の人々に話すと、「日本は大丈夫か?」という不思議そうな反応が返ってきました。彼女たちが気にするのは、生理用品が、人の肌にも環境にもより優しく、安心して使える便利な商品であること。
日本が他国のようになる必要はないかもしれませんが、よりたくさんの選択肢があると、さらに暮らしやすい社会につながるのかもしれません。
Photo&Text: Asaki Abumi
このライターの記事
-
2020.07.01
「植物性肉」市場が拡大する北欧ノルウェーのスーパーは、今
-
2020.02.10
「ポスト・ミルク世代」——スウェーデン発、植物性ミルクブランド「オートリー」が新たな市場へ踏み出した
-
2020.01.31
ノルウェーの街に3000個以上設置された「赤い箱」が、国民のリサイクル参加をここまで簡単にした
-
2019.12.12
高まるオーガニック需要と、北欧デザインの今——ノルウェーで信頼されるブランド「ヘリオス」とは
-
2019.11.26
北欧流「もったいない」の解決法。アプリが2つの業界に革命を起こした
-
2019.11.14
ゴミからアイデアが生まれる時代。「北欧のサーキュラーエコノミー」×「コーヒーかす」のチカラ