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画家の描いた絵画がお茶のパッケージに。アメリカの大手ティー・メーカー「セレッシャルシーズニングス」

先日、パケトラではpackagecollectionさんによる記事「日本と何が違う?!中国のお菓子パッケージが、まるで絵画のように美しい」が公開されました。確かにパッケージの世界では、絵画タッチのデザインはあまり見かけないもの。だからこそ、水彩画をあしらったプジョイの箱は新鮮な感じがしますね。

筆者の住むアメリカでも、絵画風デザインのパッケージはほとんど見かけません。しかしその中で異彩を放つブランドがあります。それがお茶の大手メーカーCelestial Seasonings(セレッシャルシーズニングス)です。

Photo:セレッシャルシーズニングスのお茶は、箱にフレーバーのテーマに合わせた絵が描かれているのが特徴。商品パッケージとは思えないほど繊細なアートです。

この記事では、セレッシャルシーズニングスの独特なパッケージデザインを詳しく見ていきます。「パッケージとはこうあるべき」という固定観念を打ち壊すアイディアが得られるかもしれません。

セレッシャルシーズニングスってどんな会社?

Celestial Seasonings(セレッシャル・シーズニングス)は、コロラド州ボルダーで設立された会社です。ちなみにCelestialには「天空の」「この世のものとは思えないほど素晴らしい」「完璧な」といった意味があります。

始まりは1969年。ボルダーで健康食品店を営むMo Siegelは、ロッキー山脈のハーブを摘んでブレンドし、手作りのモスリンの袋に詰めて販売するようになります。当時のアメリカにはハーブティーを飲むという慣習はほとんどなく、Siegelの商品はパイオニア的な存在でした。これが話題を呼び、アメリカ中から「販売を拡大してほしい」との要望の声が上がるようになります。

これを受けてSiegelはボルダーに工場を設立。全国展開を視野に入れた商品製造を行うようになりました。

Photo:1972年に打ち出された商品ライン「Red Zinger」は、アメリカ全国で販売されるようになった最初のフレーバーです。今日に至るまで、セレッシャル・シーズニングスの代表的な商品となっています。©Celestial Seasonings

今日、セレッシャルシーズニングスは100種類を超えるハーブティー、紅茶、緑茶を販売。アメリカで製造されるお茶の10.3%のシェアを誇り、毎年の売上額は1億3280万ドルを超えます。さらに海外輸出も盛んに行っており、日本でもカルディコーヒーなどの輸入食品店で購入することができます。

創業当時から変わらない絵画デザインのパッケージ

そんなセレッシャルシーズニングスのお茶は、美しい絵画が描かれたパッケージで有名です。アメリカのスーパーのお茶コーナーに行くと、鮮やかな色使いのセレッシャルシーズニングスの箱はひときわ目を引きます。

Photo:カラフルなパッケージが目立つセレッシャルシーズニングス。価格はティーバッグ20個入りで3ドル(約330円)とお手頃。

全国販売を行うようになった1972年当時から、セレッシャルシーズニングスはアメリカで活躍する画家に依頼して描かれた絵画をパッケージに使用しています。作品はフレーバーごとに異なり、味のイメージを的確に伝えています。

Photo:シナモンアップルスパイス味のハーブティー。パッケージには大自然を背景にしたリンゴとシナモンが描かれています。ひと目で味が想像できますね!

セレッシャルシーズニングスのホームページでは、パッケージに使われる絵画のギャラリーがあります。ここではアート作品を高画質で見ることができ、さらに画家のウェブサイトへのリンクや依頼された年などの情報も満載。これらの絵画が単なる「イメージ画像」ではなく、れっきとしたアート作品として扱われていることが分かりますね。

また、セレッシャルシーズニングス本社を訪れると、額縁に入れて飾られた原画を見ることもできます。

Photo:セレッシャルシーズニングスの最も有名な作品「Sleepytime Room」。眠る準備をするクマの家族が可愛く描かれています。右下の画家の署名にも注目。©Celestial Seasonings

中でも特に有名なのが「Sleepytime」のカバーです。安眠効果のある7種類のハーブをブレンドしたこのフレーバーは、セレッシャルシーズニングスの一番の人気商品。その人気の理由の一つが、カバーアートです。見るだけで心が温まるような平和な光景と、愛さずにはいられない可愛いクマさんが、「リラックス効果」「おやすみ前に飲む」「家庭的」といった商品イメージを文字を使うことなく的確に伝えています。

Photo:実際のパッケージでは左右反転してこんな感じ。

Photo:セレッシャルシーズニングスの本社には、Sleepytimeの部屋を再現したコーナーが。筆者もあのクマさんになったつもりで写真を撮ってみました!

Sleepytimeのカバーアートは、発売当初の50年前から変わっていません。通常、パッケージは時代や流行に合わせて進化していくもの。しかし、あえて変わることなく世代を超えて人々の生活の一部であり続けるセレッシャルシーズニングスの戦略には、どこか他の商品にはない強さが感じられます。

さらに、作品中に登場するクマさんは、今やアメリカ中で愛される人気のキャラクターとなっています。

Photo:セレッシャルシーズニングスのギフトショップやオンラインストアでは、マグカップやTシャツ、エコバッグなど、可愛いグッズも販売。

セレッシャルシーズニングスのカバーアートがこれだけ愛されるのは、作品にそれだけ人を惹きつける力があるからです。その秘密はいったい何なのか、筆者なりに考察してみました。

絵本やおとぎ話の世界を彷彿

セレッシャルシーズニングスの絵画の大きな特徴は、ファンタジー要素が強いこと。魔法使いやユニコーン、ドラゴン、お姫さま、動物のキャラクターなど、絵本やおとぎ話の世界観が共通して見られます。

Photo:ユニコーンと魔法使いの描かれた「Mint Magic」のパッケージ。©Celestial Seasonings

Photo:リラックス効果のあるハーブティー「Tension Tamer」に使われている絵画。緊張を和らげる=ドラゴンを手なずけるというイメージが面白いですね。©Celestial Seasonings

セレッシャルシーズニングスの会社のスローガンは「お茶の魔法(Magic of Tea)」。お茶には気分を和らげたり、体の調子を整えたり、集中力を高めたりと様々な効果があります。これらはまるで魔法のよう。このような企業イメージの伝達に、絵本のようなアートなパッケージデザインは大きな役割を果たしています。

また、このようなデザインは、大人だけでなく子どもも消費者として対象にしていることが分かります。日本とは違い、アメリカには子どもの時からお茶を飲むという習慣はありません。しかし、カフェインフリーのハーブティーは子どもにこそ飲んでほしい!セレッシャルシーズニングスが家族のメンバー全員を対象にした商品であることが分かります。

Photo:レモンと生姜の楽器を演奏する動物の音楽隊。大人も子どもも思わず手に取りたくなる可愛いデザインは、まるで絵本のよう。

子どもを対象にしたお茶ブランドは、他にはありません。アメリカ育ちの筆者の夫も「子どもの時に初めて飲んだお茶はセレッシャルシーズニングスだった!」と教えてくれました。

お茶で世界を旅する

お茶は私たちを魔法の世界に連れていってくれるだけでなく、世界のいろいろな国を旅することだってできます。セレッシャルシーズニングスは世界35カ国からハーブや茶葉を輸入しており、また世界各国のお茶の伝統を取り入れたフレーバーを多く発表しています。そして、これを伝えるのにもカバーアートが大活躍。パッケージを見るだけで、世界を旅行しているようなワクワクが感じることができます。

Photo:南アフリカの伝統的なルイボスティーには、アフリカの大自然をイメージさせるような絵が。

Photo:インド・ベンガル地方のスパイス類をブレンドしたハーブティーには、ベンガルトラと茶園の風景が描かれています。

加えて、このような世界各国の模様を描いたパッケージは、セレッシャルシーズニングスの重要な企業理念を伝える役割も果たしています。セレッシャルシーズニングスが使用する原材料の70%は農家の人から直接購入しているフェアトレードのもの。また農家と長期的な関係を築き、サステイナブルな農業を推進しています。

このような国境を越えたつながり、地球を思いやる気持ち、「世界は一つ」という愛と平和のメッセージが、パッケージの絵画には込められているのではないでしょうか。

アメリカを代表するお茶ブランドとして

セレッシャルシーズニングスのパッケージに見られるもう一つのテーマが「アメリカ」です。異国の地を描くだけでなく、自国アメリカを称えるイメージも強く打ち出しています。

Photo:目覚めをすっきりさせる効果のある紅茶「Morning Thunder」。アメリカ中西部の広大なプレーリーと堂々としたバイソン姿は、アメリカにとってなじみ深いもの。

Photo:ヨセミテ国立公園を想起させる風景に国鳥のハクトウワシが舞う「Roastaroma」。©Celestial Seasonings

Photo:バーモント州のメープルシロップを使ったお茶には、ニューイングランド地方の牧歌的な風景が描かれています。©Celestial Seasonings

このように美しく描かれたアメリカの姿は、ナショナリズムの強いアメリカ人の心に強く訴えかけます。また「アメリカを代表するお茶ブランドである」とのセレッシャルシーズニングスの自負も感じられますね。

セレッシャルシーズニングスのパッケージアートは、単にカラフルでかわいらしいだけではありません。長期的な市場を獲得するために重要となる企業イメージを、誰にでも分かるように感覚的に伝えているのです。確かに、包装に絵画を使うというのはなかなか大胆な手法ですが、マーケティング戦略を考える際に参考にできる点が多くあるのではないでしょうか。

カバーアート以外のこだわり

セレッシャルシーズニングスのパッケージのこだわりは、カバーアート以外にもう一つあります。それがサステイナビリティ。今でこそ環境や健康への配慮はどの企業にも求められることですが、セレッシャルシーズニングスが生まれた1969年当時は状況が大きく異なりました。しかしその中でもセレッシャルシーズニングスは将来を見据え、無駄なものを一切排除したシンプルなパッケージにこだわってきたのです。

セレッシャルシーズニングスと他のお茶ブランドのティーバッグを比較してみると違いがよくわかります。

Photo:こちらは、アメリカのスーパーで一般的に売られているティーバッグ。個別包装されているものがほとんどですね。

Photo:対してこちらはセレッシャルシーズニングス。箱の中にはシンプルなティーバッグが20個、紙に包まれた状態で入っています。

セレッシャルシーズニングスのティーバッグは外装なし。タグ、ひも、ホッチキスなど無駄なものも一切使われていません。また、プラスチック製のバッグが使われることが多い中で、Celestial Seasoningsは100%自然由来のバッグを使用。そのため、飲み終わったらそのままバッグごとコンポストすることができます。体内に有害物質が取り込まれることもないので、子どもが口に入れても安心です。

今日、世界中で飲まれているセレッシャルシーズニングスのお茶は毎年16億杯。つまりこれだけ多くのティーバッグが廃棄されるということ。大きな人気を誇るからこそ、長く愛され続けるには持続可能な戦略が欠かせないのではないでしょうか。

それにしても、50年以上も前からもこのようなシンプルな包装にこだわってきたのは驚きですね。環境志向が強まった現代、ようやく世界のパッケージのトレンドがセレッシャルシーズニングスに追いついてきたように感じられます。

伝統を重んじながらも、クリエイティブで先進的なセレッシャルシーズニングス。そのパッケージには、長く愛される企業になるための答えが隠されているのではないでしょうか。


■公式サイト: http://www.celestialseasonings.com/
■参考記事:Long before ‘natural’ was cool, Celestial Seasonings saw the future in tea leaves (The Denver Post) https://www.denverpost.com/2019/09/14/celestial-seasonings-tea-50-years/


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