ビジネスパーソンが読むメディア。マーケティング、セールスプロモーション、パッケージの企画・開発に役立つアイデアと最新の情報を、世界中から配信。

話題が相次ぐ「植物肉」は、日本でどう市場を創れるか

Image by Engin Akyurt from Pixabay

はじめに

コロナ禍後の食生活はどう変わるでしょうか。内外を問わずフードデリバリーの成長、調理家電の販売動向にも表れる家庭内食が増加する一方、外食などへの食料供給が滞り、農林畜水産業においてはフードロスが発生と、大きく影響を受けています。

そうした中、外食や中食、内食に関する話題で急速に目につくようになってきたのが、植物肉や培養肉といった代替タンパク質が上市されるというニュース。アメリカでは7月20日にケンタッキーフライドチキン(KFC)から大豆由来などの植物性タンパク質を原料とする「代替肉」を使ったフライドチキンが、カリフォルニア州50店舗で発売されました。

Photo:ビヨンドミート公式サイトより( https://www.beyondmeat.com/

そして日本では、7月21日にローソンから「大豆ミート」を使用したバーガーや、から揚げ等が発売されました。コロナエフェクトの食生活とは関係がないようにも見えますが、共に健康意識の高まりや、環境への負荷軽減などの視点から商品化されています。

Photo:ローソン「DAIZU MEATかつのバーガー」

ノルウェー在住の鐙麻樹ライターのレポート「『植物性肉』市場が拡大する北欧ノルウェーのスーパーは、今」で紹介されているように、欧米ではいち早くこの植物肉の市場が拡大しているということです。

「植物性肉」市場が拡大する北欧ノルウェーのスーパーは、今

2020年に入り、日本でも、日本ハム「ナチュミート」、伊藤ハム「まるでお肉!」などが発売され、不二製油、マルコメ、大塚食品、グリコ栄養食品、ヱスビー食品などが参入しており、またロッテリアやモスバーガーではバーガーメニューにも登場しました。

Photo:日本ハム「ナチュミート お肉を使用しないハンバーグ」

コンビニではファミリーマートも参入しています。日本アクセス、伊藤忠食品など食品卸や食品ベンチャーのDAIZの商品参入、さらには日清食品の培養ステーキ肉の開発も話題となっていますね。

これだけの参入があって、果たして日本国内ではどれほど受け入れられるのか、今後どういう市場になっていくのか、皆さんと考えてみたいと思います。

欧米で急拡大する植物肉市場

「植物肉(プラントベースミート)」とは大豆由来など植物性タンパク質を原料とする「代替肉」のことであり、「培養肉」は動物の細胞を培養して増やして食用にするものを指します。

世界的に人口増加が進み、食肉需要が急増しています。牛、豚、鶏の飼育に伴う環境負荷、動物肉を媒介とする感染症リスク、動物愛護、進化する健康志向を背景に、世界市場は急速な拡大を見せています。

国際連合は2015年9月に「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択し世界の企業に呼び掛け、企業の永続的な成長に求められるESG経営<環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)>の観点からも、この代替肉に参入する企業が後を絶ちません。

農林水産省調査の発表(2019年)から引用しますと、アメリカのJPMorgan Chaseは世界の植物肉の市場規模は15年以内に1,000億ドル(約11兆円)を超えると推計、イギリスの銀行のバークレイズ(Barclays)は10年以内に肉全体の約10%(15兆円)相当になると推計し、いずれも市場の拡大を予測しています。

先のノルウェーの市場形成もそうですが、アメリカの動きもすさまじいものがあります。筆者が目にした情報からは、先頭を行くビヨンドミート社は2019年上場し黒字化(2019年4-9月期)となっており、インポッシブルフーズ社も市場を先導し、米国大手のバーガーキングにインポッシブルバーガーを供給した製品が全米発売になっていることなどから勢いを感じます。

Photo:インポッシブルフーズ公式サイトより( https://impossiblefoods.com/

マクドナルドやスターバックスもテスト販売を実施し、カナダ等で発売しています。ケンタッキーフライドチキンは中国でのテストを経てカリフォルニア州で発売するといったニュースが相次いでいます。ネスレ、ユニリーバなどの世界企業も代替肉関連会社を傘下に入れ、そして多くのスタートアップや大企業が参入しているのが「植物性代替肉市場」なのです。

これまでもビーガン(完全菜食主義者)をはじめとし、肉食を抑制する健康志向者層からは一定数支持されてきたものでありますが、ここにきて大きな違いが示されることで一気に市場が活性化してきたと言えます。それは、インポッシブルフーズ社が表明しているように、肉好きの生活者を引き付ける味創りを実現していることです。

「環境のためとはいえ、我慢を強いる食品は広まりません。肉が好きな人たちが普通に「おいしい」と評価し、積極的に購入してもらう食品でなければ、肉の消費を抑えることにならないのです。(引用:日経クロストレンド2020/7/21)」

こうした食のイノベーション技術は「フードテック」と言われ、現在日本でも盛んに議論され話題になっています。

参入相次ぐ国内の現状と今後

日本国内においてはどうでしょう。植物由来肉では特に2019年から2020年にかけて、新商品の発売が活発化しています。世界の動きに遅れを取るまいとの意識もあります。筆者の知る主な商品をいくつか挙げてみます。

日本ハム「ナチュミート」伊藤ハム「まるでお肉!」不二製油株式会社「ニューフジニック (業務用)」大塚食品株式会社「ゼロミート」マルコメ株式会社「ダイズラボ」、日本アクセス「MAL de MEAT(業務用)」、ファミリーマートのヴィーガン弁当「ベジバーグ丼」ロッテリア「ソイ野菜ハンバーガー」ローソン「DAIZU MEAT かつのバーガー」。(各社のホームページで商品画像を見てください)

農林水産省は、こうした大豆など植物性タンパク質を原料とする「代替肉」の流通拡大に向けた検討を始めたとのことです。欧米で確実に市場が形成されてきたこの分野、これだけの商品が投入されてきた日本でありますが、はたして日本人はどう受け止めていくのでしょうか。

Photo:マルコメ「大豆のお肉」公式サイトより( https://www.marukome.co.jp/daizu_labo/product02/

日本人の食も欧米風に変化してきましたが、植物性たんぱくは昔から大豆食品を主に摂ってきました。肉がメインで次が野菜(植物)となる欧米人とは異なり、減少してきたとはいえ魚がありますので、劇的に植物肉の方向には向かないのではないでしょうか。

日本人の肉の消費量は増加傾向にあるといわれますが、依然アメリカ人の半分以下とのことで、どれほど健康のために肉を控えるのか、また、欧米に比べ環境問題意識がまだまだ高いとは言えず、家畜生産の環境負荷に思いが行くとは考えにくい一方、国内既存の牧畜産業の保護政策なども相まって、代替肉の購入が急激に進むとは思えません。

日本人の和牛信仰に見られるように、品質、味覚へ求めるものは高く、植物肉が動物肉よりも価格が上がるようであれば一定市場を形成するには時間がかかるであろうことは推定できます。

筆者の知人が好きでよく食べると言っていた、大豆たんぱくの“鶏肉みたいな”「肉らしい豆な嫁」(ナカダイ)という商品は随分前から存在しています。現在も健在であることから一定量は売れてきたのでしょう。鶏肉に近いというより、その独自の食感と味が良いのだそうです。

筆者は日本ハムの「ナチュミート」を食してみました。

Photo:日本ハム「ナチュミート お肉を使用しないハンバーグ」

想像を上回る味であったことは確かで、売り方で可能性はあると感じました。ビヨンド・ミート社やインポッシブルフーズ社が、動物肉と比しうる、あるいは超える味覚品質を実現しつつある現在、そうしたフードテックは日本にも広がりを見せ、徐々に新たな市場を作っていくことは間違いないと思われます。

新しい研究開発情報としては、豚肉+大豆ミートの“謎肉”が話題となった日清食品が、培養ステーキ肉の研究(2025年目標・東京大学共同)でトップランナーとなっています。

ケンタッキーフライドチキンでは3Dバイオプリンティング技術でチキンナゲット(鶏肉+植物細胞)を作り、今秋ロシアでテスト販売すると発表しています。オリジナルチキンナゲットの外見と味を忠実に再現し、生産において環境に優しいとしています。こうした動きはますます加速していくとみられ、食のイノベーションに未来の期待がかかります。

国内商品のパッケージデザインに見える植物肉の位置付け

国内の植物肉商品のパッケージデザインを見てみましょう。日本のメーカーのデザインには、以前より抱える苦悩が現れている気がします。

Photo:マルコメ「大豆のお肉」公式サイトより( https://www.marukome.co.jp/daizu_labo/product02/

例えば日本ハム「ナチュミート」やマルコメ「大豆のお肉(レトルト/乾燥)」などでは、健康志向商品として位置付けるため、大豆ベージュ系や白カラーを目印とし、一般商品よりはシズル感を控えめにした表現となっていると見えます。

伝えなければならない情報はコピーで入ります。流通企業に向けては差別化の明確さが必要であるため、大豆素材であること、動物肉ではないことを第一に伝えています。

消費者に動物肉と間違ってもらっては困るので、課題はあると思いますが、生活者がこの商品を使えばどんなに美味しいのか、どんな良いところがあるのかを直感的に伝えるデザインが求められるのではないかと考えます。

これら商品は、店頭発売時には店舗のショーケース棚の最上段に陳列されていることが多かったように思われます。

Photo:日本ハム「ナチュミート」陳列コーナー

ここは試験的導入商品であったり、高額品で回転数が低い商品、時には売行き低調で棚落ち候補が置かれる位置です。とすれば、目立たせることで生まれる効果が出づらくなってしまうでしょう。ゴールデンゾーンではないので、消費者が手に取ってコピーなどの商品特徴を見る機会は少ないだろうと思われます。その後陳列枠がなくなっている店もありました。

しかし、マルコメ「大豆のお肉」の販売ディスプレーラックでの展示は存在感がありました。

Photo:マルコメ「大豆のお肉」販売ディスプレー

一方、ローソンでの新商品「DAIZU MEAT かつのバーガー」は日配らしく中身をプリントしたパッケージで美味しそうに見えます。

Photo:ローソン「DAIZU MEATかつのバーガー」

「大豆」を英文表記にしているため、普通のバーガーに見える点が意外に正解かもしれません。各社ともデザインの語り口を革新的な新登場といったワクワク感にすれば、もっとよく売れるのではと思うのは筆者だけでしょうか。現状のデザインには国内メーカーの植物肉商品の捉え方が表れていると言えるでしょう。

市場活性化に向け期待したいブランディング

世界を席巻する勢いの植物肉、培養肉ではありますが、日本での広まりも期待されています。

健康と環境を考える食のイノベーション。まずは国内ファストフードチェーンの新メニューなどでのヒットを設計し、植物肉、代替肉なればこその美味しさの物語を基盤に、新ジャンルとしてブランディングすることが重要ではないかと考えます。皆さんはどう思われるでしょうか。



▼参考

■ビヨンド・ミート
https://www.beyondmeat.com/

■インポッシブルフーズ
https://impossiblefoods.com/

■農林水産省 代替肉調査結果  
https://www.maff.go.jp/j/jas/attach/pdf/yosan-27.pdf

■ビヨンドミート(Beyond Meat)が上場&黒字化!日本販売間近の植物代替肉(TokyoVegan )
https://tokyovegan.net/plant-based-beyond-meat/

■完全植物肉の米インポッシブル 「ミートラバー」を虜にする秘密(日経クロストレンド)
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00335/00006/

■日清食品が放つ近未来の「謎肉」 培養ステーキ肉は食卓を変えるか(日経クロストレンド)
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00307/00001/

■KFC、3Dプリントで作ったチキンナゲットを販売…環境コストが大幅減、この秋にロシアで(BUSINESS INSIDER JAPAN)
https://www.businessinsider.jp/post-217110


▼パケトラおすすめの関連記事

「植物性肉」市場が拡大する北欧ノルウェーのスーパーは、今

「ポスト・ミルク世代」——スウェーデン発、植物性ミルクブランド「オートリー」が新たな市場へ踏み出した

2020年トレンドの「植物由来」フード市場。すでにブームを終え一歩先を行くシンガポールでは?

アメリカで拡大する「植物性ヨーグルト」市場。パッケージで「ブランド・アイデンティティ」を示す

マレーシアの精進料理をビーガン食品にアレンジ。健康志向なアメリカ人の心を掴む

 

このライターの記事

Top