以前、アメリカの代表的パッケージング情報誌Packaging Strategies News誌(隔週発行、以下PS誌)に採り上げられた2020年上半期の注目ニュースをレビューしたが、今回はその続編として2020年下半期(7月~12月)の記事から、日本の読者にも興味深いと思われる注目ニュースをレビューする。第1回の今回は7/1号から7/31号を取り上げる。
パッケージング業界に波及するDX(デジタル・トランスフォーメーション)(PS誌:7月1日発行)
取材:Kristin Joker、PS News誌編集長
1.ハーゲンダッツのAR体験ができるパッケージ
2020年に創業60年を迎えるHäagen-Dazsは、限定発売のバースデー・アイスクリームでSnapchatアプリを使用してSnapcodeをスキャンすれば、等身大のカップの中に入りこんでAR体験が楽しめるキャンペーン企画を実施した。
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2.質問に音声で答えるワインボトル
デジタルマーケティングの専門家Dave Chaffey氏が率いるハイテクベンチャーのThird Aurora社は、買い物客の質問に答えるワインボトルを公開した。同社のウェブサイトに投稿された動画には、Chaffey氏がスマホを使って赤ワインのボトルに問いかけ、ボトルはSiri(AppleのAI音声アシスタント)のような優しい声で答えてくれる様子が映し出されている。
この「Talking Package」のコンセプトは、人工知能、言語処理、クラウドデータなどの最先端の技術を複雑に組み合わせる必要があるが、通信ツールとしてはスマートフォン以外に特別な機器を必要としない。この技術が適用できる分野は、食品・飲料を始めとする製造業、健康、教育産業など多岐にわたると期待され、将来大きな需要が見込まれる。
ステイホームで人気のeコマースパッケージのアンボクシング(開梱・開封)動画
購入者の記憶に残るアンボクシング(届けられた商品のパッケージを開梱する作業)体験は、eコマースのパッケージを新たなステージに引き上げるという記事が注目される。
これまではeコマースの宅配段ボールケースの開梱作業は、過剰包装やイライラ包装の典型と考えられていたが、新製品のパッケージを開梱・開封するプロセスを紹介する動画がアメリカの若者の間で人気を博している。Googleの調査によると、消費者の5人に1人がアンボクシングの動画を見ているという。
動画:アンボクシング動画(パッケージを開梱する様子の動画)一例
2017年だけでも、YouTubeでの検索回数は6,000万回、YouTubeでの視聴回数は30億回にのぼり、2013年の3倍以上に達した。この関心の高さから、消費者を喜ばせるプレミアムパッケージに商品を包装して消費者の下に届けることの価値を提案するオンライン販売の消費財企業が増えている。
PAC Worldwide社のインフォグラフィックは、eコマースパッケージを一段上の水準に引き上げる方法を示して、顧客の記憶に残る商品梱包やパッケージで配送する利点を説明している。
1. eコマースのパッケージは、動く広告媒体である
購入後の消費者体験は、eコマースではしばしば無視される領域だ。配送する商品の特性や形状に合わせたカスタムパッケージは、常備在庫の段ボールケースを使用するより遥かにコストがかかるのでコストダウンの対象になる。
筆者が講演で出席者からよく受ける質問の一つに、eコマースが小売りの主流になれば、パッケージのデザインや印刷は不要になるのではないかというものがある。eコマースで商品をすでに購入した顧客にとって、商品が到着したときのパッケージの見栄えや機能は本当に重要なのだろうか?
もし消費財メーカーが、パッケージを「A地点からB地点に商品を移動させるための保護資材」としか見ていないのであれば、ブランド認知度を向上させる大きな機会を逃すことになる。
eコマースの場合、リテールの実店舗販売に比べて消費者との直接の接点は非常に少ない。そのため、オンライン商流を主力とするブランドはあらゆる機会を利用して消費者との個人的なつながりを築き上げることが重要になる。
2. パッケージングはリピート顧客を増やす効果的手段
eコマースにおける消費財メーカーと消費者の最大の接点は、注文した商品が最終的に顧客の玄関先に届いたときだ。従って販売後、顧客が商品を手にして使い始める、あるいは食べ始めるまでの時間は、その顧客がリピーターになるかどうかの重要な機会でもある。
顧客は何日も、場合によっては何週間も商品の到着を待っている。手元に届いた時に記憶に残るブランド体験ができるか否かは、リピーターを増やせるか、1回限りの顧客で終わるかの瀬戸際でもある。
3. 競合に対する差別化と認知度の向上:SNSでシェアすることを促し顧客の記憶に残す
eコマースにおけるアンボクシングのプロセスは、ブランドの信頼を高める有効な方法の一つだ。若い消費者の間で、SNS動画のアンボクシング・コンテンツが視聴者に広く肯定的に共有されれば、無料の商品宣伝が大量に生み出される。
今やマーケティング担当者にとって、リピーターを増やし新たな購入者を獲得する必須アイテムになっているといっても過言ではない。アンボクシングとブランディングは切り離されない存在であり、ありきたりの無地の段ボールケースではこの目的は果たせない。
なぜなら、ブランドの存在感のないアンボクシング・プロセスは誰も注目しない。アンボクシングは有意義なブランドストーリーを創り出すことができ、競合品に対する差別化の有効な方策となる。
4. 品質に対する信頼をアピールする
eコマースでは、ブランドと顧客の関係は完全にバーチャルだ。実店舗における商品の触知性や識別性をオンラインで提供することはなかなか難しい。記憶に残るアンボクシング体験をSNSで共有し、共感することは顧客と消費財メーカーの繋がりを築く不可欠の要素になっている。
再生可能な包装材料(デジタル・トランスフォーメーション)(PS誌:7月31日発行)
取材:Kristin Joker、PS News資編集長
カリフォルニア州では2030年までに植物由来のプラスチックを含む使い捨てプラスチックパッケージの使用が禁止される。包装材料は木材由来の紙か、完全に海洋中で生分解する材料であることが義務づけられる。
今後カリフォルニア州の小売店舗のパン包装や青果物包装は、同州の厳格な規制に適合する包装材料の原料を調達し、パッケージをデザインする必要がある。
2016年にイギリスのInnovia Groupからセロファン事業を買収した日本のフタムラ化学は、日本、イギリス、アメリカにセロファンフィルムの生産拠点を有し、世界シェアは70%を超える(商品名:NatureFlex)。セロファンは周知の通り木材由来のセルロースを原料にしており、産業用のみならずホームコンポスターでも堆肥化できる認証を得ており、今後再生可能な包装用フィルムとして世界的に成長が期待できる。
スナック食品分野で成長を続ける軟包装、その背景とは?
取材:Kristin Joker、PS News誌編集長
アメリカでもスナック食品向けの軟包装が増加傾向にあるが、この背景を包装機械の進歩という切り口で分析している。記事では食品メーカーが軟包装に切替える利点として、以下の4つの要素を挙げる。
1. 多様な包装形態への適応性
COVID-19の感染拡大に伴い、軟包装に有利な2つの傾向が見られる。全米の各都市でロックダウンが発表され多くの人々が外出制限を強いられる中、超特大サイズのスタンディングパウチに包装されたスナック食品の売上げが顕著な増加傾向を示した。これは消費者が、お買い得なファミリーパックを購入し、家族でシェアする生活様式に移ったことを意味している。
その後外出制限が緩和されると、今度は公衆衛生・安全対策として消費者同士が食品をシェアすることを避けるため、シングルユースサイズの生産を増やしている。小サイズのシングルユースパックの供給のために、食品メーカーはバッグ・イン・バッグの包装形態を採用している。
これにはデュアル自動充填包装ラインが必要になる。一次包装の小袋にスナックを充填し、それを次工程で二次包装の超特大サイズ袋に詰めるプロセスだ。バッグ・イン・バッグのスナック食品は、倉庫型の会員制ストアや大手スーパーセンターで販売されている。こうした柔軟な対応は他の包装形態ではなかなか難しい。
2. 品目切替えの容易さ
アメリカでは、小規模なスナック食品ブランドがSNSを活用し大手の牙城を崩し始めている。これを可能にしているのは、小ロット発注に対応してくれるコパッカーの存在だ。必然的にコパッカーの生産ラインでは高頻度で品目変更が行われる。
同じパッケージングラインで異なるパッケージを使い分けて、中身も油もの、焼菓子、無添加、塩分や糖分のスナック食品まで対応する必要がある。コパッカーはこのような複雑な生産品目の切替えに柔軟かつ迅速に対応する。こうした作業は以前は時間のかかる作業であったが、今はそうではない。適切に設計された自動充填包装ラインは、切替え作業のプロセスに経験と勘に頼る作業を排除し、ほとんどが10分以内に終了する。
3. 高速充填包装適性
自動充填包装機の中には、毎分最大200袋の高速ラインもある。このレベルの高速充填を実現する包装ラインは、切断および充填時でも停止しない高速回転のジョーシール機構を装備している。
4. サービス提供機能
包装設備の設置が完了した後も、長期にわたりサポートしてくれる包装機メーカーの存在は頼りになる。アメリカで軟包装市場が成長を続ける中、コロナ禍のような緊急事態においても、費用対効果の高い部品の安定供給を含めた高度なサービス機能を提供してくれる信頼できる機械メーカーが増えているのは、軟包装メーカーにとって心強い。
(森 泰正記)
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