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2020年後半にアメリカで注目されたパッケージ、総集編(4)

Photo:PACKAGING STRATEGIES公式サイトより(https://www.packagingstrategies.com/

アメリカの代表的パッケージング情報誌Packaging Strategies News誌(隔週発行、以下PS誌)に採り上げられた2020年下半期(7月~12月)の記事から、日本の読者に興味深いと思われるニュースをご紹介する。第4回は11月16日号から12月17日号を取り上げる。

飲料メーカーの容器素材転換の動き(PS誌:11月16日発行)

世界を代表する金属・ガラス容器メーカーArdagh Group傘下のアルミ容器専業メーカーTrivium Packaging社(オランダ)の北米事業担当役員Jason Lewinski氏の特別寄稿

1. アルミボトルの勧め

多くのブランドオーナーが自社の包装材料を見直し、消費者が支持するパッケージに転換する傾向が高まっている。

パッケージの設計にあたり、今やサステナビリティの視点を排除することは考えられない。消費者がどれほどこの問題に関して強い関心を持っているかを知ることは重要だ。解決策の一つとしてアルミボトルを採用する動きが最近増えている。

アルミボトルは多彩な機能、優れた強度を持ち、特に食材保存に有害な紫外線や酸素をカットして中身を保護してくれる。飲料、エアゾール、パーソナルケア製品のパッケージとして最適なアルミボトルは、消費者が求める機能を提供するだけでなく、ブランドに新たな市場機会をもたらしてくれる。

もちろん、パッケージ素材の変更には徹底的な評価が必要で、アルミボトルに転換するメーカーは、製品戦略、ポジショニング、パッケージ仕様や生産工程の変更など詳細にわたりその影響を評価しなければならない。

2. ブランドが考慮すべきこと

サステナビリティは、パッケージの素材転換の推進力になっている。アルミニウムは持続可能性を有する代表的な素材として高い価値を有していることは周知の事実だ。

消費者にとってアルミ容器のリサイクルは浸透しており、アメリカでも一貫して高いリサイクル率を維持している。アルミニウム協会とプラスチックリサイクル協会がそれぞれ発表した2018年のデータによれば、アルミ缶のリサイクル率は、PETボトルのそれより53%も高い。

さらにアルミニウムには、プラスチックにはない特性がある。それは素材が本来持つ特性が再生工程のメルトワークや剪断応力を繰り返し受けることによっても劣化されず、無限にリサイクルされて元の同じ用途の容器に再利用できることだ。

100回リサイクルされたアルミ缶も、バージンのアルミ缶と同じ品質を保っている。そのため、アルミ缶の再生材料の使用比率は北米でも75%に達している。

多くの消費財メーカーも、無限に「Can-to-Can」にリサイクルできるアルミ缶のLCAに注目しており、素材としての持続可能性の価値を良く理解している。「Can-to-Can」即ち、Closed Loop RecyclingのLCAは、材料の回収率、再資源化率、リサイクル工程での歩留まりなどの要素も含めている。アルミ缶を採用することでブランドの持続可能性重視の姿勢を市場に明示的に示す効果もある。

例えば、アイダホ州の飲料水メーカーProud Source Water社は、全てのパッケージをアルミボトルにするというサステナビリティ戦略が奏功し、市場シェアを伸ばしている。

Photo:製品パッケージを全てアルミボトルにしてシェアを伸ばしたProud Source Water社Ktvb.comより)

消臭剤メーカーのNivea社やエネルギー飲料メーカーのUptime社も、サステナビリティとプレミアム感を打ち出すためにアルミボトルを採用している。

Photo:Niveaの消臭剤(PackWorld誌より)

Photo:Uptimeのエネルギー飲料のアルミボトル(Beverage Indusry誌より)

3. 魅力的なパッケージデザインを考える

包装材料としてのアルミニウムの利点の1つは、ある範囲内であればどんな形状、サイズにも自由に加工できることだ。デザインを見直し、カスタマイズして包装機能を高めることが容易だ。

アルミ素材を採用しようとしている消費財メーカーにとって、その軽さや強度と共に、アルミ加工の自由度は魅力的な特性だ。パーソナルケアやビューティケア製品に使用する場合、アルミボトルは、既存のポンプ、泡立て、噴霧装置に対しても完全に互換性がある。

グラフィックスに関しても、アルミボトルは他の包装材料と違ってラベルを必要としない。このためパッケージングデザイナーは、ブランドをアピールするための新たなグラフィック手法を見出すことができる。

フルカラーの高解像度画像をアルミボトルに直接印刷して、コーティング剤や仕上げ剤によりグラフィック効果を高めることも、ボトル表面に特殊インキを使ってマット仕上げや高光沢印刷を施すことも可能だ。ソフトタッチインキにはゴムのような滑り止め効果があるので、浴室などの濡れた滑りやすい環境でボトルを使用する場合に重宝する。

4. アルミボトルの充填ラインへの改造

既存の充填ラインをアルミボトル用に改造するための費用や作業は、充填容量変更の有無や既存ラインの構造、既存容器の材質にも影響されるが、ガラスびんのラインをアルミボトルに変更する場合、改造の必要は殆どない。プラスックボトル充填ラインの場合は、既存のボトル搬送装置を改造する必要がある。

もう一つの選択肢は、充填プロセスのアウトソーシングだ。生産委託先のラインには、アルミボトルに充填するためのフルユニットが装備されている。メーカーが新製品をテストする場合や、既存パッケージをアルミボトルに変更する場合、迅速な対応が可能だ。

アルミボトルの製造ラインは、小ロット生産から大規模生産への移行にも柔軟に対応できる拡張性を備えている。メーカーはプロトタイプの生産からパイロット生産、そして商業生産への移行にシームレスに対応できる。

コロナ禍における持続可能性:消費財メーカーの場合(PS誌:12月4日発行)

※以下は、米SGKコンサルティング社のMarissa Ferrara氏の寄稿を編集したものです。

長期的な優先事項を維持しながら短期的なニーズを満たすことは、パンデミックの発生以来多くの組織に課せられた課題だ。多くの企業は日々の経済活動を減速させざるを得なかったが、発生前にすでに醸成されていた変革のスピードは加速している。

持続可能性の問題も例外ではない。消費財企業が持続可能な開発へのコミットメントを再確認したことでもわかるように、環境問題に対する優先順位の高さに基本的な変化は見られず、逆にこの問題に対処することでマーケティングの回復力をスピードアップすることがこれまで以上に大切になっている。

新型コロナウイルスが拡大し始めた3月には、早くも企業の75%以上が感染拡大の結果としてサプライチェーンの混乱を報告している。一部の消費財メーカーや食品小売業者は、川上の供給サイドでより多くの課題に直面していることに気付き、需要の急増をキャッチアップできないことを知った。

消費財業界は全般的にサプライチェーンのデジタル化に後れを取っていたが、既に行動を起こしているライバル企業が利益を得ていることを目の当たりにして、変化を加速する必要があることを認識した。

例えばP&Gは、2020年1-3月期に過去数十年で最大の売上増加を達成したことを発表している。人工知能と機械学習を使用して需要見通しを自動化する活動を推進してきた結果だ。(Consumer Goods Technology誌 2018年11月号: https://consumergoods.com/pg-moves-toward-targeted-automated-responsive-future

Photo:サプライチェーンのDXを先取りして売上を伸ばしたP&Gの製品群(jp.pg.comより)

新型コロナウイルスは、消費財や小売業界にとってサプライチェーンをデジタル化するインセンティブになっている。コスト削減に加えて、廃棄物削減とエネルギー効率改善の好機なのだ。

パンデミックが深刻化する状況下で、サプライチェーンのDXこそ長期的な成功をもたらすものと考えられるようになり、長年かけて実現できなかった持続可能性にも改めて取組み、危機をチャンスに変えようとしている。我々はパンデミックのようなシステミックリスクに対する組織の準備の欠如が、企業にとって何を意味するのかを垣間見ることができた。

新型コロナウイルス危機を契機に、予期せぬ混乱に備えて回復力のある企業を構築することに再び焦点が当たっている。短期的には企業は従業員の健康と安全を最優先に、地域社会に与える打撃をミニマイズすることを重要視しているが、ESG(=社会的責任投資)の原則に野心的なコミットメントを宣言している企業は、それだけでは終わらないことを自覚している。

気候変動の脅威はコロナウイルスの蔓延がもたらす脅威と似ているものではないが、我々がコロナウイルスの脅威から学んだことは、気候変動と戦うためには更に強力なインフラと準備が必要であることを示してくれた。P&Gは2030年までに、バージンプラスチックの調達数量を50%削減すると宣言している。

2020年Dowパッケージング賞発表

世界的に最も権威のあるパッケージング賞の一つ、Dow Packaging Innovation Awardsのトップ4(ダイアモンド賞+ダイアモンド・ファイナリスト賞)を、日本のパッケージング技術が2点占めた。藤森工業の「アリエール プラチナスポーツ詰替えパウチ」とキリンホールディングス三菱ケミカルが共同受賞した「PETボトルの新規薄膜形成技術」だ。

 

Photo:藤森工業の液体洗剤の詰め替えが便利なスタンディングパウチ(P&Gジャパンのウェブサイトより)

Photo:キリンと三菱ケミカルのホットワイヤーCVD 装置の原理(AMPニュース2020/9/23 より)

惜しくも昨年のDNPの「機能性フィルム複合型 PETボトル」に続く日本勢の2年連続のダイアモンド賞は逃したものの、パンデミックにも関わらず世界中から応募された200点近い優れたパッケージング技術の中で、頂点を極めたのは誇らしいことだ。

面倒な詰替え作業がワンタッチで便利かつスピーディーになり、詰め替え方式が普及していない北米でもこのパウチが採用され、廃プラ削減を加速させる技術になることが期待される。

キリン・三菱のPETボトルの新規薄膜形成技術は、従来技術より広いpH領域の飲料(ワインなど)に使用でき、無色透明でリサイクラブルになったことが高く評価された。

今回ダイアモンド賞を受賞したHenkelは、歴代のダイアモンド賞とは異なりカナダの廃プラスチック回収業者と提携し、2018年からハイチを皮切りに、フィリピン、インドネシア、エジプトと対象地域をひろげ、昨年は5千トンの廃プラボトルを回収し、同社のホームケア、ランドリー製品の容器に再生、西欧各国で販売している。

廃プラ回収にあたって貧困地域の人々の協力を得て回収費用のスポンサーになっている。こうした取り組みは、Unileverのインドネシアでの洗剤小袋回収、CocaColaやP&Gのマリンプラスチックを回収し、自社製品のパッケージ原料に再生して使用する取組みとして横に拡がっており、まさに今日のパッケージのあるべき姿を提案しており、ダイアモンド賞にふさわしい。

やみくもに脱プラに進むのではなく、プラスチックの有用性を理解し、プラスチックをフルに使い、最後まで使い切るというのが、今パッケージに求められていることなのだろう。

「ダウ 2019年度パッケージング イノベーション賞」に、日本勢が5社入賞の快挙!

新型コロナウイルスのワクチンを運ぶ冷凍輸送用段ボールコンテナ(PS誌:12月17日発行)

リサイクル可能な断熱段ボールコンテナメーカーVericool社(アメリカ・カリフォルニア州)は、新型コロナウイルスのワクチンを冷凍輸送できる断熱梱包技術を開発した。

 

Photo:アメリカ・Vericool社の-70℃で96時間保存できる新型コロナウイルスのワクチン輸送用段ボールコンテナ(PS News 12/17号より)

このワクチン輸送コンテナは既にすべての社内試験に合格しており、2021年1月からの本格出荷を目指し、現在第3者機関による最終認証の試験中だ。この試験は2~3週間で完了する予定だという。

この段ボールコンテナは、-20℃から-70℃の温度範囲、あるいはそれ以下の低温でも96時間維持することができる。コンテナはアメリカ製で、8本から16本のワクチンが充填されたシリンジを格納してそのまま輸送するように設計されている。コンテナの費用は5ドルから20ドルの範囲だという。近い将来のバルク輸送のニーズに適合する大型コンテナも設計段階にある。

オーストラリアの若い世代の消費者の新しい行動様式とは

ブランドエージェンシーDavidson Branding (オーストラリア)は、McKinsey, MintelやNielsenなどの大手調査会社の100件に近いグローバル、ローカル市場の調査報告を分析して、現代の若い消費者の購買行動に焦点を当てたレポート「将来のFMCG:日用消費財」を作成した。

彼らがスーパーマーケットでどんな商品を購入するか、またネット通販でリピート購入する商品はどんなものなのか?消費財メーカーやパッケージングメーカーには大いに参考になる情報だ。

この報告書は、長期的なトレンドとコロナ禍における短期的なインパクトの両方を反映した消費者の行動様式を、若い消費者の生の声を模して語っている。FMCG市場における最近の大きな動きは、殆どが以下に紹介する7項目で説明できる。

価格は間違いなく常に重要な要素だが、最近はメーカー間の値下げ競争が沈静化しており、低価格政策は競争上の強みにはならない。Davidsonが選定した7項目の中にも価格の要素は入っていない。FMCG企業が競合他社に対し有利に事業展開するためには、この7項目を念頭においたマーケティングが効果的である。

以下の7点は消費者とブランドとの基本的関係を構成するものだが、消費者の行動様式は常に変化し、進化している。そして新型コロナウイルスはその変化のペースを加速させている。

  1. 他人の生き方に合わせる? ‒ それだけでストレスだわ
  2. 私と他の人とは違うものが欲しい ‒ もうマスマーケティングの時代ではないのに
  3. 私は健康でありたい ‒ 健康に悪いもの、環境に良くないものは買いません
  4. 何も足さない、何も引かない。シンプル・イズ・ベスト ‒ これが健康食品の本質
  5. いろんな食べ物を試したい ‒ 新しい味と食材に出会いたい
  6. 私には影響力がある ‒ 仲間と一緒によりよい世界をつくりたい
  7. もっとうまくできませんか? ‒ 価値観が共有できれば、生き方も共有できます

この「将来のFMCG」レポートの全文は、こちらをクリックしてご覧ください。

おわりに

2020年下期になると、さすがに新型コロナウイルスとパッケージングに関連するテーマが多くなった。コロナ禍によりアメリカでも消費者の行動様式が大きく変化しているが、それは日本の消費者にも共通するケースが多い。

彼我のトレンドを注意深く観察し、ウィズコロナ・ポストコロナのパッケージのあるべき姿を考える参考にしていただければ、筆者の望外の喜びです。

(森 泰正記)

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