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2020年後半にアメリカで注目されたパッケージ、総集編(2)

Photo:PACKAGING STRATEGIES公式サイトより(https://www.packagingstrategies.com/

アメリカの代表的パッケージング情報誌Packaging Strategies News誌(隔週発行、以下PS誌)に採り上げられた2020年下半期(7月~12月)の記事から、日本の読者に興味深いと思われるニュースをレビューする。今回は8月13日号から9月17日号を取り上げる。

新型コロナウイルスがパッケージング業界に与える影響:インキ、印刷業界における危機管理(PS誌:8月13日発行)

世界のインキ、顔料、添加剤大手のFlintグループ傘下のデジタルソリューションプロバイダーXeikon Prepress社の事業部長Uwe Stebani氏が、コロナ禍における印刷業界の危機管理について投稿した記事(2020/5/27)は読者の皆さんにとっても参考になるだろう。

1. 需要と供給の混乱:予測不可能な事態への対応

消費者の行動様式の急激な変化により、特定の消費財は短期的な販売増を経験している。パッケージに関しては、感染拡大を回避する保護機能や、食品のシェルフライフを延ばす包装機能が重視され売上も急増している。

eコマースの食料品や冷凍食品の売上は成長を続けているが、配送サービスシステムは新型コロナウイルス拡大局面ではまだ未成熟で、混乱しており、効率的なサプライチェーンの確立が喫緊の課題となっている。

印刷業界に目を移せば、パッケージ印刷用の部材や消耗品も記録的な販売増を経験しており、フレキソ印刷の製版やインキも売り上げを伸ばしている。一方で溶剤ベースのインキは、ウイルスの消毒剤に必要なエタノールの需給がタイトで供給が滞っている。

これは、資本財の受注減少傾向とは明らかに異なる動きだ。フレキソ印刷であろうとデジタル印刷であろうと、印刷機メーカーの受注は急落し、操業短縮しているところもある。どの業界でも危機においては、キャッシュフローが何よりも優先される。機械メーカーへの発注は、リスケジュール条件なしで一方的に延期かキャンセルされてしまう。このため多くのメーカーでは従業員の雇用対策を重視して、労働時間を短縮し固定費の上昇を抑えている。

2. 2つの教訓:サプライチェーンとデジタルツールの見直し

この危機から学んだ教訓の1つは、既存のサプライチェーンを見直す必要があるということだ。部材調達を例に挙げれば、パッケージ用の印刷インキの顔料は中国で製造され、バインダーはアメリカで、印刷インキはフランスで製造され、ドイツの顧客に出荷されるといったケースがあり、物流面の課題が浮き彫りになった。

Photo:パンデミックで、印刷インキのサプライチェーンも寸断された。出典:PS News誌 2020/8/13号)

また各地域の新型コロナウイルスの感染拡大に時間差が生じ、各地のサプライヤーからバラバラに原材料の出荷遅延が報告されるという想定外の物流課題にも見舞われた。更に、世界的な貨物輸送量の劇的な減少、各国政府による水際対策と外出規制の強化が、サプライチェーンの混乱に拍車をかけた。今後は安全在庫の考え方も見直す必要がある。

2番目の教訓は、ホームオフィスとデジタルコミュニケーションツールの使用に関することだ。プリプレスは、デジタルツールやデータベースを活用して処理される。それにもかかわらず、以前は個人的な連絡、情報交換や調整が不可欠であると見なされていたため、作業はほとんど対面の会議で行われていた。

今、コロナ禍でデータ処理やパッケージデザインは、従業員のホームオフィスで行われ、同じくホームオフィスで勤務する顧客のブランドオーナーのマネージャーとビデオ会議を通じて調整される。

承認されると製版が起こされ、印刷コンバーターに配送される。これらは現在うまく機能しているが、万一処理デバイスに障害が発生したらどうなるのだろうか?

予備部品の調達や在庫も重要なチェック項目だ。海外への移動制限はしばらく続くことが予想され、技術サービス要員の派遣に困難が生じる可能性もある。フレキソ製版処理の分野では、自動化、特にデジタル化は遅れている。

今後は刷版工程が不要で、色校正も容易なデジタル印刷の普及が加速すると予測される。コロナ収束の兆しが見えず、消費財メーカーの新製品/SKU数(=Stock Keeping Unit)が増加し、短納期となり、パッケージも多様化が進むなど、デジタル印刷にとっては追い風が続く。

新型コロナウイルスがパッケージング業界に与える影響:畜産業界と代替肉需要(PS誌:8月31日発行)

※PS Newsの姉妹誌Flexible Packaging誌に掲載された記事を編集したものです。

2050年には世界人口が100億人に達すると言われており、食糧不足が現実の深刻な課題になっている。2017年の世界の家畜・家禽の屠畜数は、世界人口の10倍に達している。これら大量の家畜を飼養するために、地球上の居住可能な土地の約40%が畜産業に使われており、森林破壊、温室効果ガス排出、水資源の大量消費など環境破壊の主要原因にもなっている。

2006年にFAO(国連食糧農業機関)は調査報告書『家畜の長い影』で「畜産業はもっとも深刻な環境問題の上位2.3番以内に入る」と発表したが、その後も畜産業は拡大を続けている。

世界的に著名な英医学雑誌LANCETの2019年12月号では、畜産業がこのまま拡大し続けるなら2030年には地球の気温上昇を1.5度に抑える二酸化炭素排出枠の49%を畜産業が占めることになるとし、畜産業は「これ以上家畜生産を増やさない」ピーク点を設定すべきだと警告して、将来予測されている世界人口100億人の食を支えるために各国政府が採用できる案をとりまとめた。

動物性食品の環境負荷問題や、持続可能性への意識の高まりに加え、効率重視の工場型畜産に伴う動物倫理問題(家畜の拘束飼育や過密飼育など)にも批判が起きている。

更にはパンデミックにより、ベルトコンベア式に多くの人が密接して食肉処理・加工をする屠殺場でクラスターが発生し、アメリカでは22の屠殺場が操業を停止、4月には全米最大のSmithField Foods社のサウスダコタ州の屠殺場も約1か月閉鎖された。

こうした中、健康にも良いとされる代替肉の人気が高まっている。カリフォルニア州OaklandのレストランHella Nutsは、毎日大勢の客で溢れ、なかなか予約が取れない店だ。

この店の2人のオーナーシェフは、動物の肉を使わない。クルミの代替肉を使ったバーベキュー料理やマッシュルームサンドイッチが人気を博している。牛ひき肉に似せたクルミミートは特許出願中だ。クルミミートは、タコス、パスタ、ハンバーガー、シェパードパイ、ピザ、ブリトー、ピーマンの肉詰めなどバラエティー豊かな料理に使われ、レシピを公開して大評判になった。

akland地区で大きな話題となったHella Nutsは、地域の小売店やオンライン販売でクルミミートの成長機会を見出した。彼らはこの商品にふさわしい革新的なパッケージを考えた。加えて、中身もパッケージも持続可能性を追求するコンセプトとした。最終的な包装仕様をスタンディングパウチに決めた。

Photo:レストランの味を、パウチに詰めて販売

パッケージの設計を受け持ったのはePacというOkulandの近くに工場を持つパッケージングメーカーだ。中小企業向けに軟包装材料を供給するePacは、全米14都市とカナダ、イギリス、インドネシアでパッケージング事業を展開している。

同社は製版が不要なHP Indigo 20000デジタル印刷機を各工場に導入して高解像度の特注印刷を行い、小ロット、短納期の地域密着型のビジネスモデルを実践している。

クルミミートの包装材料は、PETフィルムとPE多層フィルムで構成され、PEの各層にPCRを配合した。印刷層のPETフィルムは12μ、内層は多層の白色ポリエチレンフィルムで厚みは88μで、総厚みは100μになる。Hella Nutsは2020年4 月に冷凍挽きクルミミートを450gと1,350g入りのスタンディングパウチに詰めて販売を開始した。

「グラフィックスは完璧で、色は超鮮やかです。パウチは予想したよりも大き目ですが、このサイズであればロゴや文字が小さすぎず、私たちのブランドメッセージを適切に顧客に伝えてくれます」とオーナーシェフのQuinones氏は語る。

レストラン事業の成功をテコに、消費者に直接販売するビジネスモデルは、オンライン及び地元で店舗展開する食品ストアのチルド食品売場やデリカテッセンコーナーでの販売だ。オンライン注文の75%は州外からだという。

「パッケージが重要だと感じています。顧客の多くが代替肉を初めて体験する人たちで、印象的なパッケージの写真を続々投稿してくれます。これを見た新しい顧客からも注文を頂いています。パンデミックのためレストラン事業の経営は厳しいですが、売上は増加の一途です」(Quinones氏)。

新型コロナウイルスがパッケージング業界に与える影響:PETボトル(PS誌:9月17日発行)

Amcor社は、軟包装事業部門の2019年の世界の売上が66億ドル(EBIT:8億ドル)と堂々たる世界No.1だが、硬質容器事業部門も29億ドル(EBIT:3億ドル)と世界トップ水準にある。

同社は成長戦略の軸に買収に掲げ拡大してきた企業で、その結果、世界全体で従業員が5万人、事業所も250か所と巨大化した。このため誰もが納得し共有できるビジョンや理念を旗幟鮮明に掲げないと、組織をまとめていくのは困難だ。

同社がパケージング業界で最も熱心にサステナビリティに取り組んでいるのも、そのためだろうと思われる。グローバルに事業展開する大手消費財企業も、世界のどこに行ってもAmcorの事業所があるので重宝されている。

同社の硬質容器部門では、再生PET100%を使用するボトル事業の拡大を掲げ、2025年までにバージンPET樹脂の調達量を20万トン減らし、100万トンの再生PETボトル事業を創出することを目指している。

この目標達成のためには硬質容器事業の中核である米州でPETボトルのリサイクル率を向上させることが絶対条件だ。特に北米の低い回収率(30%)をどうやって増やしていくのか、大手飲料メーカーとのコラボも含め、Amcor社の新たなビジネスモデルが注目される。

※以下はAmcor Rigid Packaging社の社長Eric Roegner氏の特別寄稿を編集したものです。

1. 激減した既存需要と新たな事業機会

PETボトルは軽量で、安全性やサステナビリティの点でも優れた特性を有しているが、 新型コロナウイルスの蔓延により生じた新規用途にも採用が拡がっている。

eコマースの市場調査企業Multi-Channel Merchant社の調査によれば、今年第1四半期に手指消毒剤の売上は前年対比で8倍を超えたという。何百ものアメリカの蒸留所や醸造所が、FDAの指導の下で製造ラインを改造、手指消毒剤の生産に転換して、PETボトルの需要は急増した。

当社は、アルコール消毒液のボトリングを行っているスピリッツ、ホームケア、パーソナルケアセグメントの顧客に対して活発な営業活動を展開している。また、ローカル市場が地盤の中小の蒸留所にも目配りを行っている。

ワインやスピリッツから手指消毒剤への生産品目の転換には、ガラスびんからPETボトルへの充填形態の変更に伴うシフト転換など、オペレーション全体の調整が必要でありここでも支援サービスを提供している。

Photo:他の包装材料と比較した場合のPETボトルの利点(*ケミカルリサイクルを含む既存の技術を使用した場合、**アルミ缶やガラスとの比較)

調査会社McKinseyのレポートによれば、コロナ危機により消費者の買い物行動が変化したという。食料品ストアへの買い出し頻度が減り、コンビニに出かける機会も少なくなった。eコマースは近年急速に成長しているが、食料品分野への浸透は遅れていた。しかし、コロナ危機を受けてeコマースの食品セクターの売上は2倍以上になった。

同レポートは、食品セクターはコロナ危機後も成長は持続すると予測している。eコマースの配送システムに適合するために、リークや破損、へこみなどが生じないようPETボトルを改良する必要もある。

eコマースを多用する顧客には、アンボクシング体験への考慮も欠かせない。軽量で頑丈なPETボトルはこの点でも有利だ。eコマース配送システムへの対応、カーボン排出量や輸送コストの削減、容器の破損防止や安全対策、取り扱いや開封作業の簡便化などのニーズに対しては、PETボトルの特性を活かすことができるだろう。

2. 巣ごもりと社会的繋がり

外出規制により、相対してのコミュニケーションが難しくなり、オンライン会議を導入した顧客とのやり取りが増えている。こうした技術のおかげで、従業員はワークライフバランスをとることができ、多くの企業の円滑な事業遂行を支えている。筆者も今では、オンライン会議でほとんどの仕事をこなしている。時にはこれらの会議に家族やペットが登場する場面もある。

Computer World誌によれば、ここ数週間でオンライン会議のアプリの需要が急増しており、企業向けのモバイルアプリのダウンロードは3月14-21日の週に6,200万件に達し、過去最高を記録したという。この数字は前週から更に45%増加し、新型コロナウイルス以前の週平均に比べ90%増加したという。

iOS ストアでも、Google Play ストアでも、ビジネスアプリのダウンロードは全てのカテゴリーで最も高い成長を記録した。外出禁止令により、ソーシャルメディアチャネルはサプライチェーンが「ビジネスのために常にオープンのまま」であることを可能にした。当社の営業は、ソーシャルメディアを通じて友人になった人や地域のコミュニティで知り合った人々を通じて、新たな事業機会を見出している。

3. サステナビリティの推進

Photo:PETボトルのClosed Loop Recycle(メカニカルリサイクルと新ケミカルリサイクル技術を使用した場合)

技術のイノベーションは目覚ましい。PETボトルはメカニカルリサイクルの進歩と新たなケミカルリサイクル技術の融合で、無限にリサイクルすることができるようになるだろう。

新型コロナウイルスのパンデミックは、人類の日々の活動がこの地球にどのような影響を与えているかについて、人々の意識変革をもたらしたといえるだろう。当社はグローバル企業として常に自分自身を含め、人々がより多くのことを達成し、持続させることを促している。

Amcorは3つの主要目標にカテゴライズされた課題を理解し、変革の推進役となる。第一は、すべてのパッケージをリサイクルまたはリユース可能にすることだ。

そして第二として、再生材の含有量を大幅に増やしたパッケージの開発に取組んでいる。これは、世界中のパッケージのリサイクル率を高めることに貢献するという第三の目標につながる。それは顧客、サプライヤー、NGO、自治体と緊密に協力して、使用済みパッケージを回収、分別して、リサイクルするためのより良い方法を創り上げることだ。

我々は循環経済を目指す取組みを続けているが、まだアメリカではPETボトルの30%しか回収できていない。ヨーロッパは51%に達している。リサイクル率を向上させるには生産者、消費者、リサイクル業者を含むバリューチェーン全体で強力な協力が必要で、この実現なくして埋め立て廃棄はなくならない。

新型コロナウイルスのパンデミックは人々の生活を大きく変えた。影響はPETボトルリサイクリング全般にも及んでいる。多くの州がPETボトルのデポジット制を停止し、自治体は資源ごみの道端回収プログラムを一時的に中断した。これによりボトル用の再生PET含むすべての再生材料の調達が困難になっている。

Amcorはより多くのPCR材料を調達、使用して循環経済を目指すという飲料メーカーのコミットメントを支援するために、パートナーや業界団体と協力して、使用済みパッケージ回収プログラム再開の活動を進めている。

その一方で、Amcorは絶えずパッケージ設計を見直して、持続可能性を改善することに挑戦している。また、事業活動が環境や地域社会に与える影響を最小限に抑える努力を継続している。世界各国250か所のAmcorの事業所で実施しているグローバルEnviroActionプログラムは、温室効果ガスや廃棄物排出量の削減、水消費量の削減に取組んでいる。

コロナ危機で安全性と清潔さに対する消費者の関心が高まっている。PETボトルは、アルミニウム缶や紙カップに比べより衛生的だ。再密封可能なキャップがついたPETボトルは、外部からの汚染やウイルスとの接触を防ぐ効果もある。

(森 泰正記)

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