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現代社会に求められるパッケージの役割とは? ―時代の先端をいくパッケージを活用したマーケティング事例

パッケージの役割がますます重要になっている。

内容物の保護、利便性、情報伝達、製品の差別化など、パッケージは求められる多様な機能を果たすべく設計されているが、今や環境に配慮した設計は欠かせない。ただ、環境負荷がより少ない素材を使用し、リサイクル可能なパッケージを開発しても今では誰も感心してくれないし、商品の拡販に貢献することもできない。むしろその責任を問われる。

グリーンウォッシュのパッケージは消費者に見透かされ、ネットで炎上しかねない。持続可能なパッケージを謳うのであれば、消費者の共感を得て、行動変容を生みだすものでなくてはならない。パッケージは消費者のリサイクル・リユースへの参加を促し、既存のリサイクルインフラの中で確り機能し、内容物が消費され、パッケージが使用済みになった後も、環境負荷削減に貢献するという新たな役割を果たすことが期待されるようになった。

これからは、分別が容易になるようにパッケージ素材や構成をシンプル化、モノマテリアル化することは必要不可欠の要件になるだろう。サーキューラーエコノミーを先導するEUでは、法規制を先取りする形で既にまたそうした取り組みが始まっている。仕様変更に伴ってパッケージのバリア性や堅牢性が犠牲になることも懸念されるが、これは絶対に許されないし、妥協してはならない。更には再生材もしっかり組み入れないことには、近い将来パッケージとして流通することもできなくなるだろう。トレーサビリティを保証する記録媒体として、デジタル化にも対応しなければならない。

パッケージ開発者とって現代は苦難の時代である。しかし、これをポジティブにとらえてデザイナー冥利に尽きるとの思いで、新商品の拡販とこれまでにはない革新的なパッケージ開発に取り組んでいただきたい。

世界のパッケージメーカーやブランドオーナーもこの困難を打開しようと意欲的な開発に取り組んでいる。ここでそうした事例をご紹介する。

チョコレートメーカーの主導権争い

チョコレート菓子で世界トップの座を競うNestlé Marsは、パッケージの紙化で主導権を握るべく熱い開発競争を繰り広げている。

2021年にまずNestléが世界的にファンの多いチョコレート菓子Smartiesの紙パッケージを発表して先手を取り、その後世界各国でも素材を紙に転換した。一方、Marsは同じ年にドイツ最大のスーパーマーケットEDEKAで、ドイツで人気のチョコバーBalistoのパウチをプラスチックから紙に替えて、期間限定でテスト販売した。この結果が好評だったことを受けて、昨年末にMarsは世界ブランドのチョコバーMars Bar, SnickersMilky Wayのパッケージの紙化を発表、今年4月から豪州で販売することを発表した。

どのパッケージにも、消費者のリサイクルへの参加を促すべく、分かりやすいAPR (Australasian Recycling Label)のマークが印刷されている。

Nestléも黙ってはいない。年明け早々の1月10日には、旗艦ブランドのKitKatバーを紙パウチに詰めて、豪州の3つの州で期間、地域限定で発売した。

25万個限定のKitKatが紙パッケージに包装され、オーストラリアの大手スーパーColesで販売され、使用済み紙パッケージの路上回収とリサイクルの実証試験が始まった

両社とも豪州を最初の販売国に選んだのには理由がある。前述したように、パッケージの素材をプラスチックから、再生可能資源である紙に転換しただけでは、消費者も含め誰も評価しなくなり、何よりもパッケージのサーキュラリティが重要視される時代に変わってきた。

豪州やニュージーランドは、Australasian Recycling Label (ARP) にリサイクル可の表示がされた紙・板紙製品であれば、プラスチックフィルムが複合されていても黄色の蓋の路上回収ビン(リサイクル可能な資源廃棄物用)に投入すれば、飲料カートンや他の素材のパッケージと一緒に回収、分別、リサイクルする仕組みになっている。

Nestléの製品もMarsの製品も、このマークをそれぞれパッケージに印刷して、消費者にリサイクルへの参加を呼び掛けている。パッケージリサイクルの実証試験を行う環境が整っておりブランドにとっては好都合だ。

豪州で路上回収される資源廃棄物:プラスチック容器、飲料カートン、ガラス瓶、金属缶、あらゆる紙製品(左)、プラスチックフィルムはNG(右) 出所:OnlyMelbourne.com.au

こうしたシステムは、他には英国とアイルランドのOPRL (On-Pack Recycling Label) があり、リサイクルの実証試験を行いたいブランドは、まず英国や豪州をその地に選んでいる。

豪州・ニュージーランドのARL (Australasia Recycling Label)のラベル表示の例。
左から段ボール箱は自治体の路上回収へ、プラスチックトレイは地域の規則に従ってリサイクルへ、パウチはごみとして廃棄へと、わかり易く示されている。

英国・アイルランドのOPRL (On Pack Recycling Label) のラベル表示の例。
段ボール箱は回収してリサイクルへ、シリアルの袋は回収用の大袋に詰めて
店舗回収へ(路上回収は不可)といった分かりやすい表示がされている。

先行するMarsは、2023年末までに更に紙パッケージとしての完成度を高め、薄いアルミ蒸着プラスチック層を取り除いたパッケージを発表する予定だという。OPRLの紙パッケージの繊維成分の閾値は今年1月から90%以上に改訂されている。繊維成分を究極まで高め、且つシール適性やバリア適性(水蒸気、酸素、油性成分)、食品衛生性を担保した紙パッケージをコマーシャル規模で投入できるのか、注視していきたい。

EUでの取り組み

このようにEUでは、ドライフードを中心に紙系のパッケージが急増する中、製紙産業連盟CPI)は、標準的な再生紙工場でプラスチックがコーティングされた加工紙を広く受け入れるためには、繊維成分の閾値を更に高い水準(95%<)に設定することを求めている(CPIの ’Paper & Board Packaging Recyclability Guidelines’ 5頁に記載 ⇒ https://bit.ly/40Cgwd3)。

しかし一方で、このようにプラスチック成分を5%以下に抑える高いハードルを設けると、2030年までに紙・板紙のリサイクル率を85%まで高めることを目指すEUの目標達成は困難になると指摘する専門家も多い。コンバーターやブランドは、市場で求められるパッケージング適性を確保するためにも、リサイクル可能な紙繊維成分の閾値は80%程度まで緩和すべきと主張しており議論が分かれている。(紙・板紙製品のリサイクル性の定義を巡って、EUの包装・包装廃棄物指令の改訂にあたり、欧州議会では今後白熱した議論が予想される ⇒ https://bit.ly/3YC8lf9 出所:EURACTIV.com)。

いずれにせよ、こうした厳しい規制に適合するためには、両面PEコート紙(飲料や即席麺のカップなど)やPoly/AL仕様の飲料カートン(繊維成分は70-75%と言われている)などを再パルプ化できる特殊設備を有する再生紙の生産拠点を増やすことが不可欠で、プラスチックリサイクルと同様、紙のコンポジットパッケージについてもリサイクルインフラの強化、拡大が待たれている。

4evergreenの資料よれば、EUとその周辺国を含め、一般的な紙カートン(片面PEコート紙を含む)の再生紙工場はEU全域で410拠点あるが、Poly/ALを含めたPE両面コートのようなコンポジット紙製品の再生紙工場は、まだ31拠点に留まっている。

EUの紙系パッケージの再生紙工場のネットワーク 出典:4evergreen
◌ EUとその周辺国の国別の再生紙工場(◌枠内は工場数で全部で410か所)
◎ PEコート紙など特殊加工紙をリサイクルできる再生紙工場の所在地(25か所)
● Poly/ALの飲料カートンをリサイクルできる再生紙工場の所在地(6か所)

Marsの挑戦を受けるNestléの動き

Marsの挑戦を受けるNestléの動きに目を移そう。Nestléオセアニアは紙パウチのKitKatを今年1月からオーストラリアの限定地域で試験販売を開始した。目的の一つは、自治体の路上回収プログラムにより回収される使用済みの空の紙パウチの分別、リサイクルの実証実験だ。小さく軽い紙パウチを資源廃棄物分別装置(MRF:Material Recovery Facility)のラインで、他の素材の資源廃棄物の中から高い精度で安定的に選別できるかが注目される。同じようにチョコレート菓子パッケージの紙化を目指すMarsやMondelez傘下のCadburyも、オーストラリアでの実証試験の成果を注視している。プラスチックパウチは紙以上に、軽くて、薄くて、フラットなため現在の分別装置(目視、風力、磁力、振動篩や光学カメラ、水槽での比重分離などの分別手法を使用している)では選別が難しくリサイクル禁忌品扱いになっているため、紙化への期待は高い。

もう一つの目的は、パッケージの変更にあたり消費者の反応を知ることだ。図1や図2のように、パッケージに印刷されたQRコードを消費者にスキャンしてもらい、使用済みパッケージのリサイクルに参加し、ツイートする。Nestléはデータを収集し、次のステップの開発に活かしていく。パッケージを使って消費者との繋がりを生み出し、特に若いZ世代の関心を取り込もうとする巧妙なマーケティング手法だ。

このKitKatの紙パッケージを購入できるのは、西オーストラリア州、南オーストラリア州とNorthern Territory準州のColesの限定店舗で、期間限定商品として在庫がなくなるまで販売されるという。

Nestléは、省資源・軽量化、包装材料に再生プラやバイオプラ、更には紙を採用して、2025年までに化石由来バージンプラスチックの消費量を33%削減するというコーポレート目標にコミットしている。世界トップの食品メーカーとして後退はできない。「私たちは化石由来のバージンプラ削減のために、KitKatの包装に紙を採用し、世界初の路上回収リサイクルの実証実験をここオーストラリアで取組んでいることを誇りに思います。Recycle Readyのパッケージに包まれたクリーミーなチョコレートとクリスピーなウエハーのKitKatを、消費者の手元に作り立ての新鮮さのまま届けることは私たちの大事な使命です」とNestléオセアニア Confectionery/Snacks部門の事業部長Chris O’Donnell氏は語る。「Colesとのパートナーシップにより、オーストラリアのチョコレート愛好家からKitKatの新しい紙パッケージについて広く意見を聴き、参考にして更に革新的なパッケージを開発していきます」。

今回のキャンペーンのパートナーであるオーストラリアの大手スーパーマーケットチェーンColesストアの事業部長Leanne White氏は、「廃棄物のない世界を一緒に創り上げようという当社の環境活動の一環として、Colesの各店舗はバージンプラスチック包装の削減に取り組んでいます。Nestléのような素晴らしいサプライヤーと協力して、オーストラリアで人気のKitKatの新しいパッケージを広めることは楽しみです」と語った。 

ところでMarsとNestléに紙パッケージを供給しているコンバーターは、オーストラリアを本拠にするAmcorだ。Amcorは紙・板紙とプラスチック包装では世界トップシェアを誇る。同社はNestléに廃プラスチック由来のパッケージも供給しており、2021年5月には、オーストラリアのバリューチェーン企業9社の協力の下に廃プラ由来の再生ポリプロピレンを30%含有したパウチに包装されたKitKatの販売をスタートした。

マスバランス方式で生産された再生PPを30%使用したパウチに包装されたKitKat

オーストラリア企業の取り組み

プラスチック軟包装は、食品を清潔、安全、新鮮に保ってくれるが、オーストラリアでは使用済みの空パウチを回収、分別できる設備がないため、殆どが焼却や埋め立て廃棄されている(これはなにも豪州だけではない。日本やEUを含め世界共通の課題だ)。この現状を打開するため、オーストラリアの企業間連携チームは、ネスレのKitKatのパウチをリサイクルするという目標を実現するために、個々の企業がそれぞれの知見と技術を持ち寄りプロトタイプの包装用フィルムつくり上げた。そして使用済みのパウチが、廃棄物として処理されるのではなく、再生資源として再利用できることを示した。この取組みに参加した企業とその役割は以下の通りである。

REDcycle社、CurbCycle社:リサイクル業者(廃プラスチックの回収)

iQ Renew社:MRFで分別された廃プラベールの異物除去など前処理

Licella社:同社が開発した最新のプラスチックの熱分解技術、触媒熱水リアクター法

により廃プラから再生油を生産

豪州Viva Energy社:再生油の精製

・Lyondell Basell社:精製された再生油をビクトリア州, Geelongのナフサクラッカーに受入れ、再生プロピレン、再生ポリプロピレンを生産

Taghleef Industries社:再生ポリプロピレンを原料にアルミ蒸着PPフィルムを生産

Amcor社:コンバーティング

Nestléオセアニア:KitKatの包装

このように多くのバリューチェーン企業の連携の下に、使用済みの空パウチを回収して、プラスチック原料に戻す、何度も繰り返す循環型のビジネスモデルを目指す第一歩を踏み出した。オーストラリアでの消費者を巻き込んだプロジェクトの成功を期待したい。リサイクルには、これがベストというものはない。その国、その地域で活用できる技術や制度を活用して、循環型社会実現の大きなうねりにしていくことが前進へのカギだ。 

果たしてNestléやMarsの紙パウチがめでたくオーストラリアでのリサイクルの実証試験で課題をクリアできるのか? オーストラリアの消費者が、紙とプラスチック、どちらに軍配を上げるのか? そしてNestléは最終的にどちらを選択するのか? パッケージひとつとってもこのように興味は尽きない。 

 

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