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コロナ禍での海外の売れ筋商品とパッケージのトレンド

はじめに

2019年に中国武漢市で発生した新型コロナウイルスは、世界中に拡散し人類の健康や経済活動に想像を超える危害や爪痕を残し、その後も「アルファ」「ベータ」「ガンマ」「デルタ」といった変異株を生んで増殖を続けており、なかなか収束の兆しが見えない。人類の知恵でつくり出されたワクチンや感染対策で何とか抑え込み、早く健康で安全な社会を取り戻したいものだ。

コロナ禍はパッケージング産業にも大きなインパクトをもたらしたが、一方で人類や地球の健康と安全、持続可能性について考えるきっかけともなった。コロナ前からその兆しを見せていた消費者の行動変容がこの1年半で一気に奔流になったように見えるのは筆者だけではあるまい。本稿では、消費者の食のトレンドとパッケージの変化を追ってみたい。

Whole Foodsが2021年の食品トレンドを予測

米国屈指の自然食品や有機食品、雑貨を扱うスーパーマーケットWhole Foods Market(以下Whole Foodsは、独自の品質基準を持ち、北米で約500店舗、英国では7店舗を展開している(2021年3月現在)。日本には未上陸だが、揃えている高品位な商品や消費者の信頼の高さから、日本人にも人気の世界的なリテールチェーンだ。2018年8月にeコマースの雄Amazonが137億ドルで買収、実店舗経営に乗り出したことでも大きな話題になった。

 Whole Foodsは6年前から、同社のバイヤーと社外の食品専門家からなる選考チームが、次年度に脚光を浴びるだろうと予測する食品トレンドのトップテンを毎年公表している。

「2020年には消費者行動に大きな変化がありました。COVID-19以前と比較して、人々は家庭での調理に新たな情熱を見出し、健康に良いといわれる商品を購入し、毎日自宅で朝食を摂るようになりました。こうした食品トレンドは新しい生活様式を代表するもので、2021年も継続するでしょう」
  -Sonya Gafsi Oblisk氏(Whole Foods, CMO)

2016年から使用されている「ケールグリーン」のロゴ

人気が高まる健康食品

2021年の食品トレンドとして、スーパーフード、プロバイオティクス、ブロス(肉や野菜を煮込んだだし汁)やザワークラウトなどの健康食品の注目度が高い。Whole Foodsに食品を供給する食品メーカーも、消費者にストレスのない精神状態を提供するビタミンC、キノコやアダプトゲンなどの機能性成分を強化した新商品を提案しており、食品とサプリの境界も曖昧になってきている。

発酵食品や発酵ドレッシングの米国の代表的メーカーCleveland Kitchen(アメリカ、オハイオ州)は、キムチやローストガーリックなどで風味付けした発酵食品Krautに期待をかけている。454グラム入りのプラスチック製のスタンディングパウチに16食分を包装し、希望小売価格は5.99ドル(約660円)だ。

同社は昨年パッケージを従来のガラス瓶からパウチに切替えたが、その理由を次のように語る。
「新しいスタンディングパウチには、脱気バルブがついています。Krautを含め、当社のすべての発酵食品は、包装後も発酵を続けますから自然に少量のガスを放出します。そのためパウチにベント口を設け、そのガスを少しずつ逃がすことができるデザインにしました。ガラス瓶や硬質プラスチック容器の場合はこれができません。液汁が漏れるとか、時には容器が破裂することもあります。またパウチの優れている点は、輸送や保管中のスペース効率に優れ、省資源、リサイクルが可能で、BPAやBPSフリーであることです。重いガラス瓶の輸送コストや、エネルギーを大量に消費するリサイクルプロセスに比べて、パウチは私たちの自然発酵食品には最適です」(図1)。

 

図1:Cleveland Kitchenのスタンディングパウチ入り発酵食品 ”Kraut” 写真:https://www.clevelandkitchen.com/

また、スーパーフードの人気も根強い。
Om社(Organic Mushroomsの略)は、カリフォルニア州、Carlsbadに建設した100パーセントオーガニック認定のcGMP(改訂医薬品適正製造基準)に適合する施設で11種のキノコを栽培している。1パックの中に7グラムのキノコ由来のタンパク質が含まれており、お湯に溶かして簡単に摂取できる健康飲料だ。関節、骨、皮膚、髪、爪、消化器と腸の健康と免疫効果を高めてくれる。パッケージは、シングルサーブパウチが10袋入ったカートンで販売されている(図2)。 

図2:Om社のシングルサーブパウチ入りのキノコパウダー ”Mighty Mushroom Broth” https://ommushrooms.com/products/mighty-mushroom-broth

朝食用の食材に関心が高まる

新型コロナの影響でテレワークが増える中、週末だけでなく、毎日の朝の食事が重要になり、食材に気を配る人たちが増えている。この傾向に合せ、革新的な商品が次々登場している。図3-1, 2は、2011年に設立されたサンフランシスコのスタートアップ企業JUST社が開発した緑豆から抽出したプロテインとターメリックを主成分とする植物性の卵だ。鶏卵の食感とほとんど同じオムレツやスクランブルエッグを作ることができる。遺伝子組換え作物不使用で1食分5グラムのタンパク質を含む。パッケージは355mlのHDPEボトル入り、希望小売価格は4.99ドル(約550円)。卵焼きは227グラム(4枚分)のカートン入り、価格は4.99ドル(約550円)。トースターやフライパンで焼いても、電子レンジで温めても良い(図3)。

図3-1:Just社の緑豆から抽出したプロテインを主原料とする植物性の〝液卵〟と卵焼き(4枚入り) 写真:https://www.ju.st/products/just-egg

図3-2:「卵」の原料は緑豆とターメリック 写真:https://www.ju.st/products/just-egg

このJust 社の製品は日本では購入できないが、キューピーが大豆を原料にした植物性の代用卵「HOBOTAMA(ほぼたま)」を6月30日から業務用に新発売している(図4)。植物性の食べ物を好む健康志向や、家畜の飼育による環境への負荷を懸念する人、卵アレルギーを持つ消費者への販売を見込んでいるという。

図4:キューピーの新製品「HOBOTAMA」 https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2106/10/news066.html

朝食用として人気を集めている食材がもう一つある。植物性の代用肉だ。図5は2016年にオランダのアムステルダムで創業したMeatless Farm社のえんどう豆を主成分とする代用肉で作った朝食用のソーセージ(10本入り)だ。チルド販売されており、パッケージは紙スリーブと再生材含有量50パーセントのプラスチックトレイで販売されている。他にもひき肉、ハンバーガーや代用鶏肉のチキンカツ、チキンナゲットなどを揃えている。

2030年には世界のたんぱく質需要に供給が追い付かなくなる「たんぱく質危機」が起こると予想されている。現在、その対策として注目を浴びているのが植物性の代用肉だ。矢野経済研究所によると、20年の世界市場規模は約2,573億だが、30年には7倍以上の1兆1千億円近傍に拡大するとの試算も出ている。植物肉「普及元年」と言われた20年には、日本でもドトールコーヒーが大豆ミートを使ったサンドイッチを発売したり、セブン-イレブン・ジャパンが大豆ミートを使用した商品を複数展開したりと、多くの企業が植物肉の販売に力を入れ出した。

家庭で本格的な料理を楽しむための食材が人気

新型コロナパンデミックにより、人々はキッチンで過ごす時間が増えた。パントリーに常備される食材も少しアップグレードしている。キッチンでより長く時間をかけて好みの料理を作るために、本格的な食材を選び、調理を楽しむようになった。長期低落傾向で不振を極めた缶詰スープが、昨年は常備保存食として劇的な復活を遂げた(表1)。2021年も植物性の代用肉やスーパーフードなど具だくさんの健康スープ(図6)がヒットすると予測されている。

図6:Upton’s社の植物性代用肉とスーパーフードなど具沢山の健康スープ 写真:https://www.uptonsnaturals.com/

表1:米軟包装協会(FPA)は6月のグローバル・パウチ・フォーラム(GPF)で安全性の高い包装加工食品が前年比で平均2ケタ伸長したことを発表した(資料はGPFで発表資料。出典はEuromonitor社。

表1に示されているように、常温保存できる缶入りスープはここ数年前年比マイナス成長を続けていたが、昨年は16パーセント近い伸びを示し、缶入りビーンズも8パーセント近い伸び、パスタ(対前年+13パーセント)、常温保存の調理済み食品(同+8パーセント)も高い伸びとなった。これはeコマースの伸びも後押していると思われる。

食品ロス削減は重要:アップサイクル食品に関心高まる

図7-1:農場で廃棄される野菜や果実

図7-2:不揃いの果実をカット、天日干して、ドライフードに加工、販売するUgly社

2018年国連食糧農業機関(FAO)が発表したレポートによると、世界では生産された食料の3分の1が 生産過程で失われたり、消費段階で廃棄されたりしており、その量は年間約13億トンにのぼると推定されている。食品ロス・廃棄の問題は、単に食料の供給量を減らすだけでなく、生産過程で排出される温室効果ガス(GHG)を増やすために、気候変動の要因にもなっている。食料の非可食部を計上すると、生産されても消費されずに終わる食料と副産物は年間16億トンにのぼる。人に消費されない食料から排出されるGHGは、二酸化炭素(CO2)換算で年間3.6Gt(ギガトン)、加えて、関連する土地利用・土地利用変化および林業部門活動の結果として、二酸化炭素 換算で0.8GtのGHGも排出され、人的活動に起因する世界のGHG総排出量の約8~10%を占めると推定されている。米国でも、食品ロスが大きな問題になっており多くの加工食品メーカーが、その被害の深刻さに気づき始めた。食品廃棄物を減らすために、2021年には茎や葉、野菜の果肉など通常は廃棄あるいは放置されるものを原料として使用するスナック食品が人気を呼びそうだ。
カリフォルニア州、Kingsburgを拠点とするThe Ugly社は、形が悪く販売できないカリフォルニア産のキウイ、アプリコットやピーチを乾燥、スライス・カットして100%製品化しアップサイクルしている。創業者のBen Moore氏は、ノートルダム大学在学中の2018年に同社を設立し、昨年10月にはWhole Foodsの2021年に成長が期待される注目食品に選出された。

バラエティ豊かになった食用オイル

高級オリーブオイルをふんだんに使うことは無理であっても、2021年は家庭で腕を振るうようになった父親シェフが新しいオイルを手に入れて様々な料理に試すことができるようになるだろう。カボチャの種や胡桃油といった様々食材が、サラダドレッシングやその他の調理用オイルに形を変えて商品棚に並ぶ様は壮観だ。Whole Foodsは、その代表格で幅広い選択肢に家庭の料理長は頭を悩ませる。それぞれのオイルには、際立つ個性独特の風味と独自の発煙温度があり、シェフの好みや、レシピに応じて、最適なオイルを選び出すプロセスがまた楽しみだ。コロナ禍でステイホームの機会が増え、ドレッシングも家族がそれぞれ何種類かをTPOに応じてトライする時代がきた。

図8:88 Acresの多彩な食用オイル

さいごに

オーガニック食品の品ぞろえを強みとする米国屈指の高級スーパー、Whole Foods Marketは、2017年にAmazon傘下に入り、その恩恵をフルに受けているように見える。AmazonはWhole Foodsを買収後、2018年にシアトルのダウンタウンにカメラと多様なセンサーを店内に設置し、AI機能をフル活用した初のレジレスコンビニAmazon Goをオープンした。2021年春までに大都心部を中心に29店舗を展開している。続いて2020年2月には、郊外の住宅地域に同じコンセプトのAmazon Go Groceryを開設、同年9月にはレジレスの本格食品スーパーAmazon Freshをオープンするなど、異なる事業形態の実店舗の経営に積極的に乗り出している。Whole Foodsは、最新のデジタル技術を装備したAmazonストアの棚に新商品を並べて、買い物客の新しい購買行動データを収集、分析して、新商品開発に活かしている。またAmazonのネット販売網によるオーガニック食品の売上も順調で、インストアとオンラインを融合したシナジー効果を享受している。

コロナ禍で消費者は、従来以上に健康と安全を重視する新しい生活様式に転換してきており、Whole Foodsの健康、オーガニック食品は、そのニーズにマッチして売上げは好調だという。

一方で食品ロス問題が再び世界の深刻な問題としてクローズアップされている。まだ食べることのできる食材をアップグレードし、シェルフライフを延長できる機能性パッケージによって、この問題にも対処しようとしている。人々の新しい生活様式は、環境負荷を減らす取組みに直接繋がっており、パッケージング業界もこの流れを無視できなくなっている。アフターコロナの社会では、循環経済に向けたパッケージングの革新が急速に進んでいくだろう。

 

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