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プラスチックパッケージのリサイクルに苦しむアメリカ社会(前編)

Image by ahsing888 from Pixabay

はじめに

サンフランシスコ市にお住まいの関根絵里ライターのレポート「サンフランシスコ市と住人が本気で挑む、脱プラスチック(2019年12月17日、18日)」で、サンフランシスコ市のプラスチック削減対策の徹底ぶりを紹介されている。中でもプラスチックストローと同時期に、サンフランシスコ国際空港が実行したペットボトル入りミネラルウォターの販売禁止は衝撃的だった。

というのも、数ある使い捨てプラスチックの包装容器の中でもペットボトルはリサイクルの最優等生と自他ともに認める存在だったからだ。ペットボトルの再資源化率(使用済みボトルを回収、有用なプラスチック製品に再生、販売されている率=リサイクル率)は、ドイツでは98%、日本でも85%に達している。

一方、米国は2018年段階で21%に留まり、過去5年間も低い水準で推移している。あらゆるプラスチックの中でも最も効率よく回収できて、かつ再資源化(ボトル、繊維、フィルムなどにリサイクル)もやり易いペットボトルといえども、米国ではリサイクルの模範生にはなっていない。

サンフランシスコ市のペットボトルの再資源化率の数値は入手できていないが、いつまでたっても改善されないペットボトルのリサイクル率に、市当局は業を煮やしたものと思われる。

サンフランシスコ市の対策

実は今回の販売禁止は、サンフランシスコ市が2014年に定めた、市が所有する施設でのペットボトル入り飲料水の販売禁止の条例に基づいている。この条例は、これまで空港には適用されていなかった。

今回、市当局が適用に踏み切ったのは、サンフランシスコ国際空港が2021年までに「空港における二酸化炭素排出量をゼロにする」という計画を達成するための第一弾だ(但し航空機関連の二酸化炭素排出やエネルギー使用は除外)。

搭乗者はマイボトルを持ち込み、保安検査場を通過したエリアに設置された100か所の給水ステーションで水を補給するか、空港内で販売されているアルミ缶やガラス瓶、紙パック入りの水を購入するかしかない。世界の主要な空港でこのような規制が行われるのは初めてのことだ。

Photo:保安検査場を通過するとあちこちに給水ステーションが設置されている

Photo:サンフランシスコ国際空港の売店に並ぶ飲料水パッケージ。リサイクル率の高いアルミ缶、ガラス瓶、 コンポスト化できる紙パック、リユースできる水筒が販売されている。

ただし、ペットボトル入りのジュースや炭酸飲料、フレーバーウォーター、アイスコーヒー、アイスティーなどの販売は現時点では許されている。これは飲料メーカーに対する配慮なのか、あるいはメーカーに対する圧力なのか?一方でリサイクル率の高いアルミやガラス、およびコンポスト化できるプラスチック内袋を装着した紙パック入り飲料水の販売も認められている。

Photo:紙パックの内部にはコンポスト化可能なプラスチック内袋が組み込まれ、使用後は産業用コンポスト施設で堆肥化される

確かにこうした対策を採らなければ、夏場は熱中症が多発するだろう。因みに日本では、スチール缶やアルミ缶の再資源化率は92-93%に達しているが、米国でも65%程度はリサイクルされており、ペットボトルよりは遥かにマシな存在なのだ。ただしこれもドイツや北欧(再資源化率98%超)を除く他の欧州諸国の平均レベルに過ぎない。

プラスチックだけが矢面に立つのも不十分な気がするが、これには米国が置かれた深刻な状況が背景にある。

サンフランシスコ国際空港内には、ペットボトル入り飲料水の販売禁止という厳しい措置に加えて、こちらの空港を訪れる国内外の人たちに、プラスチック容器のリサイクル率向上を訴えるキャンペーンを精力的に展開している。

Photo:サンフランシスコ国際空港内で米国のPETボトルのリサイクル率の低さを訴えるキャンペーン

米国のプラスチックリサイクルの現状と課題

大量生産の代名詞であった米国社会は、現状を放置すればゴミに埋もれるゴミ大国になってしまうという危機感が1980年代から拡がり、住民の資源回収への参加を促すため2000年頃からそれまでの分別回収方式に代えて、シングル・ストリーム回収(混合回収)が主流になった。

全てのリサイクル可能な資源ごみを一緒に回収して、資源回収施設(米国ではMaterial Recovery Facility/MRFと呼ばれる)で分別、ベール化して再生処理業者のリサイクル工場に運ばれる方法だ。

米国の廃棄物の処理区分を見ると、資源回収はそれまでの10%弱から、2000年には22%まで上昇し、以後25%前後で推移している。埋め立て廃棄は80年代には90%近くあったが、2000年代になり60%まで減少したものの、現在でもまだ55%を占め、依然米国の廃棄物処理の主流となっている。この他には、焼却エネルギー回収12-13%、コンポスト化が8%前後で続いている。

Photo:OECD加盟国の資源廃棄部の処理方法比較。日本はエネルギー回収、ドイツはマテリアルリサイクル、米国は埋め立て廃棄が主流。今後米国はどの方向に向かうのか?

米国で資源回収が増えない大きな原因は、このシングル・ストリーム回収であると言われている。回収された資源ごみの中に多くの異物が混入して、再生品の品質悪化を招いている。金属、ガラス、紙・板紙、プラスチックボトルの他にも、禁忌品であるプラスチックフィルムや履物、古タイヤなどが混入し、資源回収施設の処理能力を大きく毀損しているからだ。

これは、中国が海外からの廃プラスチックやミックス古紙の輸入禁止をする、直接の引き金にもなった。中国は、米国の再生資源は資源ではなくゴミであり、もうこれ以上受け入れることはできないと2018年1月から輸入禁止措置を講じた。この結果、米国の再資源の価格は急落した。

更には電子化が進み、記録媒体としての紙の需要が低下して、資源ごみの中で最も価値の高かった紙の比率が減少し、再生業者の採算が急速に悪化した。このため資金難から最新の分別機能を装備した資源回収施設への転換が遅れ、負の循環に陥っている。

以下に示す3枚のチャートは、昨年シカゴで開催された世界軟包装会議で発表された、米国のリサイクルシステムが抱える問題点を紹介したものだ。

Photo:シカゴ近郊の自治体によるシングル・ストリーム回収の禁忌品の混入率の推移

Photo:資源ごみの中で増えているは、ネット通販の拡大で需要が増えた段ボール(段ボールにリサイクルされるので問題はない)、残りはPETボトル、その他プラスチック容器とプラスチックフィルム・軟包装

Photo:国の再生品市況推移。中国がミックス古紙と使用済みプラスチック製品の輸入禁止を打ち出した。2018年1月以降急落して、米国では再生業者の倒産が増加している

さいごに

米国社会はいよいよ、消費・使い捨て大国から循環型社会への転換を目指して動き始めた。サンフランシスコ国際空港の事例はその一端にすぎない。後編では、こうした取り組みをさらにいくつかご紹介する。(森 泰正 記)

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