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ポストコロナの時代。商品企画は何か変化する必要があるのか。

はじめに

新型コロナウイルスの新規感染者は減少傾向が続き、ポストコロナをにらんで消費者の行動変容をニューノーマルにシフトしようとする企業も増えてきていることでしょう。

生活者の気持ちに変容が起きたことは間違いないですし、仕事においてもオフィスの最新トレンドである「ハイブリッドワーク」が定着を見せてきます。

リモートワークやオンラインでのコミュニケーションの体験により自らの仕事の本質が露になり、業務の合理化を実感し、オンライン上での機能的な会話の成立と、対面での情緒的な心的交流の価値をそれぞれが感じ取り、家の中や近所のエリアに制限された暮らしの中で、自身の中に潜んでいた趣味的な嗜好を深めていくことになったと言えるでしょう。

経済も低速になり、企業も商談活動が休止状態となり、売れ売れの姿勢も抑えられたために、考えることと言えば、地球環境保全と社会課題解決への取り組みとなったと言えるのではないでしょうか。そうした企業活動ニュースを日々受け、生活者はSDGs(持続可能な開発目標)への関心を拡大すると同時に、衛生面や健康面へのリスクを考えるきっかけとなりました。

食生活スタイルではフードデリバリー利用の体験が増え、市民権を得たことも知られるところです。これらの変化は穏やかになりつつもウィズコロナ、ポストコロナの時代に引き継がれていくでしょう。そうした中で気になるところは新たな商品企画はどうしていけばよいのかです。

コロナ禍で変化を余儀なくされた生活スタイルから生まれ成功した商品が見られます。ポストコロナを迎える今、何か変化する必要があるのでしょうか。

消費はPB商品へのスイッチが進む

2021年8月の森泰正さんによるプレミアムレポート「コロナ禍での海外の売れ筋商品とパッケージのトレンド」を見てみますと、米国の有力スーパーWhole Foods Marketの発表を基に人々は家庭での調理に新たな情熱を見い出し、健康に良いといわれる商品を購入し、毎日自宅で朝食を摂るようになったということでした。

同記事によれば、こうした食品トレンドは新しい生活様式を代表するものとなっていると書かれています。

消費者は、従来以上に健康と安全を重視する新しい生活様式に転換してきており、人気が高まる健康食品やオーガニック食品は、そのニーズにマッチして売上げは好調。また、朝食用の食材に関心が高まり、家庭で本格的な料理を楽しむための食材が人気となっています。そして食品ロス削減は重要なこととなりアップサイクル食品に関心が高まっています。人々の新しい生活様式は、環境負荷を減らす取組みに直接繋がってきているものとなっていると報告されています。

アフターコロナで重視される消費行動

消費者の意識についての調査もあります。米マッキンゼー・アンド・カンパニーが2020年8月に発表した消費者動向の調査レポート「アフターコロナで重視される消費行動」を少し見てみましょう。

HPより抜粋

特徴的なところを拾ってみると以下の点にまとめられます。

・ECへのシフトは今後も続き、ミレニアル世代と高所得者が主導権を持っている。

・ECでは「危機」が収まるにつれ、アパレルや靴、在宅エンタメなどの支出が回復している。
 特にZ世代(1995年〜2010年生まれの世代)で顕著。

・ブランドを切り替える人が増え、PB商品に流れる。
 人々の36%が新しいブランドを試し、25%がPB商品を取り入れている。「前例にない比率」でブランドを切り替える人々がいると報告。

・コロナ禍の沈静後もPB商品を使い続ける意向がある。PB商品を体験した人の80%の回答。

・ブランドを切り替える理由は、家に「在庫があること」「入手利便性」であり、「品質」や「オーガニック」よりも費用対効果の高さ(Value)が重視される。

・家庭内食事の意識は大幅増加、在宅生活のツールへの投資が増加。

・その人の社会的グループによって消費傾向は異なっている。世代や収入、生活環境によって、アフターコロナの態度変容に差がでている。

この米国の調査報告で注目しておきたいのは、PB商品の体験が増え、ブランド切り替えが起こっていること。NB商品のブランドロイヤリティの危機とも言えます。

巣ごもり消費に起因するアイテム

アメリカのチェーンストア最大手のウォルマートの最新動向について日経ビジネスで紹介がありましたので、こちらも参考にしたいと思います。(参照:後藤文俊「米フェンダーのギター爆売れ 米流通が描くコロナ後の勝ち方」)

巣ごもり消費に起因するアイテムが売れ筋になっているのはどこも同じ傾向ですが、自転車が爆売れしているというのは日本も同じ現象であることに驚きました。ちなみに2020年度の日本国内の自転車販売額は2,138億円と過去最高であった(帝国データバンク)ということです。 

ウォルマートUSでは2020年第1四半期(2020年2~4月期)決算で、既存店売上高は前年同期比で前代未聞の2桁増(10%の増加)、客数は5.6%減でしたが、客単価は16.5%の増加。

Eコマースの売上高は前年同期(37%増)の2倍となる74%増でした。

この売上高増、客数減、客単価増、Eコマース売上高増の傾向は2021年4月期まで続き、変化したのは、2021年7月期決算で既存店売上高は5.2%の増加、客数が同6.1%の増加、客単価は前年同期比0.8%の減少という逆転現象になっています。

この期にEコマースの成長率は鈍化しているものの、ネットスーパーは好調です。新しい生活様式であるネットで注文し、ドライブスルーや店舗、宅配で受け取るネットスーパーの活用は、アフターコロナでも続いていく見通しだということです。

以上の米国事情をまとめると今後も健康重視購買、家庭内食定着、PB商品へのスイッチ進行、来店客回帰、ネットスーパー利用増となることが伺えます。

日本でも家庭内食事が増えているが実態は…

日本でも成城石井では2020年8月の既存店の売上高は前年比108%と大きく伸長し、来店客数は減少傾向にある一方で、客単価は前年比120.1%と大幅に向上したということです。一般には国内でも同様にネット通販利用者が増えたという報告がある一方、やはりネットスーパーよりも食品スーパーの実店舗を重視する人が多いという調査結果があります。

成城石井で行われたコロナ禍での2020年9月「食品スーパーに関する消費者意識調査」によると、ネット通販やネットスーパーを重視する人は9.8%にしか過ぎず、実店舗を重視する人が89%にも及んでいます。その理由はコロナ禍にもかかわらず「食材を直接手に取って確かめたいから」という意見が圧倒的(7割以上)なのです。「食品の品質へのこだわり」、「豊富な品揃え」、「買い物での楽しみや発見」などが食品スーパーに求めることとして明確になっています。

ここにネット販売との違いを見ることができます。また他に45.8%がコロナ終息後も内食が増えると回答、54.8%がコロナにより打撃を受けた企業・産地を支援したいとの意向も興味深い結果と言えます。

この調査報告は日本では実店舗に置かれ手に取られる商品作り自体が今なお重要であることを物語っています。

米国と同様か、日本でもPB商品の躍進

それでは、日本でのコロナ禍時代に売れた商品を見てみましょう。PB商品を主軸に置く流通小売企業の好成績が目立っています。注目される象徴的な商品の傾向を筆者独自にいくつかのキーワードでまとめてみました。

1.対極場面組合せのハイブリッド商品

2.ニッチマーケットのプロ仕様商品

3.使い方発見の冷凍食品

4.地域密着型商品

次にこの4つの傾向にある商品事例をそれぞれ簡単に紹介します。

1.「対極場面組合せのハイブリッド商品」 

アパレル・ウエアが中心となってヒット商品が続出しました。

ワークマンHPより抜粋

ワークマン「リバーシブルジャケット」(作業着裏返せばスーツ)、

AOKI HPより抜粋

AOKI「パジャマスーツ」(パジャマの快適性とスーツフォーマル感)、

スノーピーク「TAKIBI Vest」(街着でもアウトドアでも)、同じくウエアでなないが「HOME&CAMPバーナー」、レディースブランド「スナイデル」(ストリートとフォーマルの対極組合せデザイン)。

いずれも対極のシーンを組合せる自由さが、現在の境界あいまいな生活スタイルによくフィットしています。

2.「ニッチマーケットのプロ仕様商品」

以前からプロ仕様嗜好はありましたが、ニッチなプロ仕様機能を伴ったPBフルライン化がさらに進行していると見えます。

カインズ「キッチンのコゲおとし」などオリジナルの特殊なプロ仕様洗剤のヒット、業務スーパー「1ℓ水ようかん」「冷凍揚げなす」のヒット、前出のワークマンの新店舗「ワークマンプラス」(街着に使えるプロ仕様で安価な品揃え)。

ニッチでありながら購入者規模計算ができているスモールマス(※)マーケティングではないでしょうか。流通小売店自らが、本来NBの持ち分である新たな機能的価値、経験価値を提供する新商品を打ち出すことで市場を引っ張ることになってきているようである。コロナ禍での生活の変化、インサイトをいち早く捉えたことに気付かされます。※スモールマスとは、小さいながらも一定の規模を持つ市場

カインズHPより抜粋

3.「使い方発見の冷凍食品」

前出の業務スーパーの冷凍食品はもちろん好調で、業務用サイズを一般消費者が買って上手く使っているのでしょう。

「フローズンでトップランナーを目指す」というイオンリテールは「トップバリュ パパッとできるお魚おかず」シリーズのヒット。
ローソンは「冷凍なのにすぐ食べられるスイーツ」のヒット、無印良品が力を入れる冷凍食品は「キンパ(韓国風のりまき)」「ミールキット」などヒット商品が出て冷凍ショーケースの台数増が進んでいます。21年6月現在、冷凍食品を扱う店舗は全店舗の約5分の1を占めるまでに広がっています。

トップバリュ パパッとできるお魚おかず(HPより抜粋

4.「地域密着型商品」

無印良品の地域に密着した地元産品商品・サービスを売りにした店舗展開やスターバックスの「47JIMOTOフラペチーノ」(各地元産限定メニュー)。

さらには地元産品販売「JIMOTO Made Plus」の導入、ホテル・旅館の星野リゾートの戦略は「その土地の香り」を楽しめる地域独自の「おもてなし」を提供するもので成功。いずれも地域密着にシフトして成功しつつあるということです。

スターバックスの「47JIMOTOフラペチーノ」(各地元産限定メニュー)HPより抜粋

これらの傾向はポストコロナにおいても引き継がれると見てよいのではないでしょうか。

変わるもの、変わらないもの、これからの商品企画

ポストコロナで消費者はどう変化していくのか、そして商品はどうなっていくのか、考えてみたいと思います。

前出のPBが中心となった売れ筋商品傾向はコロナ禍で生まれ押し進められてきたものと言えそうです。こうしたトレンドに従来のNBメーカーから登場しヒットしたものの話題が少ないのが気がかりです。

もちろんNB商品で売行き好調の商品もあります。筆者が思いつくところでは、アサヒビール「スーパードライ生ジョッキ缶」、コカ・コーラ「檸檬堂」「コスタコーヒー」、ゼスプリ「キウイフルーツ」、ヘアケアでは「ボタニスト」、クラシエ「マー&ミー ラッテ」など。

これらには購買行動を引き起こす根源的な”変わらない”要素があることも見えます。商品コンセプトが持つ品質ストーリーと心的価値と同時に差別化パッケージとネーミングが大きくものを言っています。

筆者撮影

ゼスプリは売場のキウイブラザーズが“パッケージ”の役割を果たしていますが、その人気キャラクターのデザインを見ると、よく売れた「フルーツサンド」、ファミマの「ごちむすび」などの“萌え断”(写真映えする製品断面)と共通する特徴を目立たせる視覚表現に効果があったと言えるでしょう。

おわりに

こうして見てきて言えることは、変わってきたものと変わらないものがあるということです。

変わってきたものとしては、消費者が家に閉じ込められた生活経験から始まったプロ専門性への越境、オンとオフといった境界フリーの志向や、拡大してきた新たな売場形態というものはポストコロナ時代でも影響していくでしょう。

その変わってきた流れを商品企画として取り込んでみるなら、前述キーワードを参考として、既存商品には有用なハイブリッド対応の価値を持たせるもの。スモールマスを狙うプロ仕様(品質高度化)の商品。冷凍流通インフラに乗せる新発見用途のある商品。地場特性を組み込んだ商品開発、などがあるのではないでしょうか。

変わらないものはどうでしょう。日用消費財に偏りますが、店頭がこれからも大事ということならば、それは上述のヒットしたNB商品で見たもの。

品質ストーリー、心的価値はもちろんのこと消費者と商品との最重要コンタクトポイントすなわちパッケージやクリエイティブ表現の成功が不可欠ということになるのではないでしょうか。

以上はあくまで筆者の考える予測の一部であるとしてご理解いただきたいものですが、新たなポストコロナ時代でのヒット商品がどういうものになるか、皆さんと共に関心を寄せないわけにはいきません。

 

 

▼参考となる記事

森泰正プレミアムレポート「コロナ禍での海外の売れ筋商品とパッケージのトレンド」 

コロナ禍での海外の売れ筋商品とパッケージのトレンド

アフターコロナ、フランス大手スーパーの取り組み

コロナによるイギリスのマーケットの変化

 

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