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アスクル・ロハコの限定商品が売れる理由 ——データとテクノロジーを活用したEC時代の新しいデザイン 

はじめに

この夏(2019年)アスクルLOHACOを巡っての話題が大きく注目を浴びました。アスクル株式会社の個人向けネット通販のLOHACO事業が大株主ヤフーに譲渡され、創業者の岩田彰一郎社長が退任するということになりました。

LOHACO事業はまだ赤字ではありますが急成長しており、2012年の開業から累計ユーザー数は500万人(2018年8月)を記録、前年同期より100万人増となり、アスクル含めて売上が年率6~7%の成長となっています。今後のEC(ネット通販)の有様の一つを示すものとして期待されているものです。

特にその商品デザイン、物流の仕組み、ビッグデータ活用のメーカー共創が独自の強みとなっており、日経デザイン誌(2019年8月号)で特集も組まれています。LOHACOでは「暮らしになじむデザイン」をコンセプトとしたオリジナルデザインの商品がよく売れています。

今回はそうした人気の高いアスクル/LOHACOのパッケージデザインについて、少し考えてみたいと思います。

Photo:LOHACOサイトより 限定商品トップ( https://lohaco.jp/event/pb/ )

LOHACOの“暮らしになじむデザイン”はEC時代の新しいデザイン

その前にざっと事業状況をおさらいしますと、アスクル(ASKUL)は事業所向け用品を扱うB to B通販で、独自開発商品は9100アイテム超(全扱い商品は約600万アイテム)あり、全売上に占める割合は36%を超える付加価値の高い商品となっています。

そしてLOHACOは日用品・食品のB to C通販であり、利用者数累計は500万人で半数以上は女性となっており、30~40代が6割以上を占めています。売上はアスクルの約14%(2018年5月期)でありますが、2019年5月期の売上伸び率はアスクルの4.4%増に対し23.1%増となり将来性を感じさせるものです。

LOHACOのオリジナル開発商品や限定デザイン商品の売れ行きが、成長の主な原動力となっているということですが、これらはLOHACOが保有する購買傾向ビッグデータの共有活用を基に、メーカーと協働して商品開発、デザイン開発を行う研究開発ファーム「LOHACO ECマーケティングラボ」の功績と言えます。2014年のスタートから当ラボに参画したメーカーは140社(2019年)にまで拡大しています。

そのラボから生まれて注目された商品の代表と言えば、花王の「ビオレU 泡で出てくるボディウォッシュLOHACO限定デザイン」(2019年)です。中身とボトル容器は既存商品と同じですが、新たな限定デザイングラフィックとしたことで3倍売れたとのことです(日経デザイン誌8月号)。

Photo:花王「ビオレU 泡で出てくるボディウォッシュLOHACO限定デザイン」(2019年) ( https://askul.c.yimg.jp/img/product/3L3/P611869_3L3.jpg より)

既存商品では定石である「まずは店頭で目立つ」「商品名や効果・機能を押し出す」という従来のパッケージデザインとは全く異なる方法で、“透かし和紙のレース”を巻いただけのイメージとしたのです。つまり、一見「無に近いグラフィック」です。しかし、ほのかに肌に優しく、心地よいという感覚が伝わるよう考えられています。LOHACOのユーザーレビューを分析し、そこで要望の強い「部屋に置きたくなるような」デザインを目指し制作、調査を経て決定に至ったものです。

花王では2017年に同様に「リセッシュ 除菌EXデザインボトル」という限定デザイン商品を販売し、通常より20円高い価格でありながら、従来デザインに比べて年間約11倍の売れ行きを示したといいます。こちらは絵付けされた白い陶器ボトルをイメージさせるもので、商品ロゴ等一切は目に入らないデザインです。家の中の見えるところに置かれるデザインボトルは使用頻度も上がり、販売回転数も上昇するという成果があったようです。

Photo:LOHACOサイトより、リセッシュ、アスクルアルカリ乾電池等。( https://lohaco.jp/event/pb/ )

LOHACOは、購入者やユーザーレビューの分析などから、顧客は自分の部屋や生活に馴染むかどうかを考え、部屋に置きたくなるようなデザインを嗜好することを突き止めました。店頭で目立つ必要のないECの場だからこそ「暮らしになじむ」をコンセプトとしたデザイン方針を取られてきています。

食品でも、以前にご紹介したキリンの「生姜とハーブのぬくもり麦茶moogy」、ミツカン「かおりの蔵 丸搾りゆず デザインボトル」や「ビネガードリンク くろずりんご デザインボトル」、ハウス食品「ペパー香る!バターチキンカレー」などを見ると、いずれもブランドロゴは無きに等しく、パターン、プリント柄といった様相であり、部屋の雰囲気を壊す派手な広告宣伝パッケージとは違い、雑貨インテリア的に生活に馴染むデザインとしてうけていることがわかります。

さらにこの嗜好を端的に表しているのが、サッポロビール「黒ラベル」の12本入り収納ボックスの木箱風デザインであります。部屋に置いても違和感なくインテリアにさえなる段ボール箱はアンケート調査(2018年)で好感度、購入意欲とも最高位レベルで、発売後、多くの新規ユーザーを獲得したとあります。

Photo:ニュースリリース「「サッポロ 黒ラベル コロコロストッカー」 「サッポロ 黒ラベル 収納BOX」発売~日用品ショッピングサイト「LOHACO(ロハコ)」で数量限定発売~( https://www.sapporobeer.jp/news_release/0000009164/ )」より

LOHACOサイトでLOHACO限定商品をご覧になってください。多くの限定デザインの商品があります。ほぼこれらと同じコンセプトに基づいたパッケージデザインが並んでいます。

生活に馴染むデザインを広めたのは?

こうした生活に馴染むデザインの思想は、一体いつからあるのでしょうか。筆者は、日本で広めたのは「無印良品」が先駆けではないかと思っています。昔からのパッケージデザインで見ていけば、無地の白地やクラフト地にスミ(黒)のロゴ中心といったトーンで、インテリア的に部屋に馴染むデザインとして明らかにこの流れの源流にあります。

その傾向は、最近ではヘアケアブランドで大ヒットした「BOTANIST」(2015年)や、セブンプレミアムのやはり成功した「LAUNDRY衣料の洗剤」リニューアルデザイン(2016年)大幸薬品の「クレベリン」リニューアルデザイン(2019年)も同一線上にあるものと捉えられます。グラフィックだけで見ればファミリーマートのアイス売上No.1の「たべる牧場ミルク」(2019年)なども透明カップでアイスの白色を下地にスミ(黒)のロゴとキャラクターイラストのみの仕上げで同様と言えるのではないでしょうか。

Photo:セブンプレミアム 衣類の洗剤( https://7premium.jp/product/pickup/detail?id=6 より)

Photo:BOTANIST ブランドサイトより( https://botanistofficial.com/ )

一見LOHACOとは無関係のようですが、先に挙げた「BOTANIST」のヒット市場開発に対し、花王ではその成功した市場を“スモールマス”と名付け、マーケティング戦略を大きく変更し、新たなヘアケア新ブランドを投入し注力しています。「スモールマス」とは、マスに比べ市場規模は小さいながら、価値を認めれば高額の商品でも購入する、こだわりを持つ消費者の市場のことを言います。

「BOTANIST」に代表されるように、中身やパッケージデザインを大手メーカーのやり方と差別化し、多くの女性の支持を得ている市場です。花王「and and」ブランドがそれで、6品種のパッケージは各種異なる地模様のベースボトルとし、中央の白いラベルに控えめなスミロゴといったデザインです。生活に馴染む、気分に合わせてアイテムを選ぶというコンセプトを表現しているといいます。LOHACOデザインの流れもこのスモールマスに合ったものと言えるのではないでしょうか。

Photo:花王 and and ブランドサイトより ( https://www.kao.co.jp/andand/ )

EC市場の今後を見据えた課題も

ECネット通販の市場では、今後も「暮らしになじむ」デザインとしてメーカー協働による顧客ユーザーの声、レビューデータを取り込んだ開発デザインを進めていくでしょう。より豊かなユーザーエクスペリエンスを提供することで多くのスモールマスを創出し、ますます拡大成長していくと見えます。

各所で紹介されているLOHACOの商品事例は、大量消費必需品(ウォーターやティッシュなど)のPB(プライベートブランド)やよく知られた有名ブランド商品のオリジナルデザイン化がほとんどであります。顧客はその商品のブランド価値と製品機能を分かったうえでのオリジナルデザインの購入行動となります。

一般リアル店舗での販売を中心とする一企業が、新たな市場の開発を狙う新製品の場合はどうでしょう。ECサイト上の情報ページを最大限活用し、商品機能価値を訴求すること。ただしこれにも限界はあります。

デザインは潮流通りブランドや機能情報は控えたシンプルなものになっています。さあ、まず商品を選んでもらうハードルを越えなければなりません。次にユーザーの部屋にはシンプルなパッケージが既に多くあります。次回買ってもらう時にブランド名、デザインは記憶され、そして指名されるでしょうか。

注意したいのは、右へ倣えで何でもインテリア的に馴染むようシンプルにすればよいのかという点です。そうしたデザインが増えてきて皆同じで差別化が弱くなってくるのが必然です。その懸念を抜け切るヒントが、やはりアスクル/LOHACOの限定デザイン商品の中にあります。

「ロハコウォーター」①、「アスクル アルカリ乾電池」②、「シャチハタ キャップレス9 アスクル限定デザイン」③などの商品に注目してください。

Photo:ロハコウォーター( https://lohaco.jp/product/J697437/?sc_i=p_e_c_ec_limited_pi_J697437 より)

Photo:アスクル アルカリ乾電池( https://askul.c.yimg.jp/img/product/3L3/668037_3L3.jpg より)

Photo:シャチハタ キャップレス9 アスクル限定デザイン( https://askul.c.yimg.jp/img/product/3L1/J658721_3L1.jpg より)

①は集会時に自分の飲んだボトルの見分けができる形状、②は電池単位が一目でわかるデザイン、③は誰のハンコか見分けるボディ意匠、というように、これらのデザインは商品使用時のユーザーの気の利いた気付きから生まれた価値あるものです。

ここにはEC市場向けだけにかかわらない、商品機能の一部を成しているデザインがあります。今後のデザインを考えていく上で大変参考になるものです。

アスクル/LOHACOのパッケージデザインからは目が離せません。ECマーケティングラボにおける多くの企業とのデータとテクノロジーを活用しての協働開発は、新たな商品やデザインを生み出し、今後のECを先導していくものと思われます。

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[参考]

当レポートは「日経デザイン」誌8月号のアスクル/LOHACO特集、「日経クロストレンド」のLOHACO & ASKUL のマーケティング戦略関連記事、Yahoo!マーケティングソリューションの情報サイト「Insight for D」などを参考にしています。

■花王ビオレが「LOHACO限定デザイン」で3倍も売れた理由(日経クロストレンド)
https://trend.nikkeibp.co.jp/atcl/contents/18/00162/00002/?n_cid=nbpnxr_mled_ranking

■アスクルのPB商品「ロハコウォーター」が売れ続ける3つの理由(日経クロストレンド)
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00162/00006/

■なぜLOHACOは売れるモノが作れるのか(Insight for D)
https://d-marketing.yahoo.co.jp/entry/20180807521934.html

※「日経クロストレンド」のサイトは有料会員制ですが、記事前半は無料枠となっており、本文紹介商品の画像の一部を見ることができます。

 

■LOHACO公式サイトの限定商品
https://lohaco.jp/event/pb/?sc_e=za_psem_aca_bgo_cseg_dpc_adgzz

セブンプレミアム公式サイト ランドリー
https://7premium.jp/product/search?item_category_category_id=127

■大幸薬品クレベリン サイト
http://www.seirogan.co.jp/cleverin/

■ファミリーマート たべる牧場ミルク
https://www.family.co.jp/goods/ice/3452622.html

■BOTANIST 公式サイト
https://botanistofficial.com/

■花王 and and ブランドサイト
https://www.kao.com/jp/andand/index.html

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