2020年パリ国際ランジェリー展で見た、次世代「アンダーウェア」ブランドの傾向(後編)
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2020年パリ国際ランジェリー展で見た、次世代「アンダーウェア」ブランドの傾向(前編)
食品ロスを撲滅!手作業で行うボタニカル・ダイ
今回の国際ランジェリー展で行われていた注目デモンストレーションの一つ、パリ発のブランド「WHOLE(ホール)」が手がける染色スタイルには心を奪われました。
『全て』の意味を持つこのブランドの企業コンセプトはもちろんゼロウェイストを目指すものです。自社アトリエで植物染料に特化したテキスタイルの制作を行い、昔ながらのノウハウと現代の職人技へと献身的なアプローチを行っています。 フランス産の野菜や植物を用いた染色技術は、太古の昔から行われていた最も原始的な方法でもあります。
なぜ現代で手作業のボタニカル・ダイを行うのか?ブランドヒストリーと共にご紹介します。
ホールが一番念頭に置いているのは安全性です。廃棄物ゼロという観点から、家庭や家族向けで無駄のないアイテム。地元フランスだけでなく環境に優しいアイテムを考え、打ち出しています。
環境に害を及ぼさず、消費者にとってパーフェクトに安全な原料とは?それは、「食品」でした。そしてホールは、フランスで独自の有機天然染料を製造する最初のデザインブランドとなりました。
残念ながら、従来の染色過程では大なり小なり化学物質が使用され、それが環境に悪影響を及ぼすという現実。これもホールによって染色技術もサステイナブル可能であることが判明しました。
出荷用の包装でもプラスチックは一切使用せず、クラフトリサイクル可能な紙のみを使用しているそうです。小片の残骸に至るまで全てアップサイクルされることで、限りある資源や気候変動に依存しない、徹底した「エコフレンドリー」を実現させています。
また、ホールのアトリエでは定期的にワークショップを開催しているほか、ベッドリネンやクッションなどのオーダーメイド制作も行っているそうです。古来から伝わる知恵を現代に見事に復活させた、名実ともに「優しさ」が際立つエコブランドに違いありません!
もはや当たり前の「ボディ・ポジティブ」という意識改革
「ありのままの自分で」というフェミニズムにおけるスローガンを耳にしてから、久しく経ちます。特に体型や年齢によって、着用する服を制限されることに異論を唱えた消費者から始まり、ファッション業界においては顕著にその風潮が見られます。
アンダーウェア業界ではどうでしょうか。欧米のアンダーウェア業界では、いち早く「ボディ・ポジティブ」を打ち出しています。
映画や雑誌で見るような、整いすぎた体型を良しとする時代はすっかり過ぎ去り、個性あるプロポーションを愛し、それぞれの美しさを表現する時代へ。
ボディ・ポジティブの主旨は、画一的な美の基準から解放されて、外見や体型の多様性を受け入れるというもの。アメリカがその意識改革の先駆けと言えますが、今回のパリ国際ランジェリー展では「サステイナブル」と「ダイバーシティ(多様性)」を一度に実現したアメリカ発のブランドを発見することができました。
■「girlfriend collective(ガールフレンド・コレクティブ)」
Tシャツとタンクトップは100%のキュプロ素材。綿産業が残した廃棄物から作られた繊維です。ベトナム・ハノイのSA8000認定工場で製造されています。トップスに至っては11本のペットボトルで作られているそう。また、リサイクルされた漁網をも原料とし、石油の必要性を排除しました。
さて、ここで間違ってはいけないのが、「体型にフォーカスした議論では本質を見失う」ことです。ボディ・ポジティブは体重とは無関係であると言えます。SNS上で「体重を落としたい」とつぶやけば、「自分の体型を愛していない」と批判されるケースも見受けられるでしょう。
そもそも体の形状に論点を置くべきではなく、ボディ・ポジティブの本質はセルフ・ラブ(自分を愛すること)にあります。自分を肯定できているのであれば、体重の増減は個人の自由であり、他人がとやかく言う問題ではないはずです。
また、体重を減らす目的は、見た目が細くなるということに限定されません。肥満体型だった人が自由に手足を動かして運動できるようになれば、体重を減らすことによってストレスも減り、心身が健康になって自己肯定感が増すでしょう。目指すべきは、外見や体型の違いにかかわらず全員が健全な自己肯定感を持てる社会の実現であり、体型の優劣を決めることではないことをあえて特筆したいと思います。
移民が少なく、肥満率も低いために個人の外見差がさほど無い日本では、一見ボディ・ポジティブを理解しづらいかもしれません。ところが、年齢を重ねた芸能人などが「劣化した」と叩かれたり、薄毛を笑い者にする風潮があったり、あらゆる容姿批判は日本にも存在します。ボディ・ポジティブは、そのように凝り固まってしまった容姿に対する偏見を取り除く、これからの恒久的な課題とも言えるでしょう。
「ライフスタイルそのもの」に焦点が当たる時代へ
2020年のパリ国際ランジェリー展の率直な感想として、ヨーロッパや欧米などの経済先進国でのトレンドが「エコフレンドリー、コンフォート、ストレスフリー」、そして大規模なビジネス展開よりも小規模で環境とともに歩むのを望んでいることでした。
そしてアジアや東欧などの新興国では自己アピール(異性へのアピール含む)を主とし、エネルギッシュなデザインが多く見受けられました。それも、その地域の経済の成長具合や文化を反映していることの証とも言えます。
昨今、生産側・消費者側の意識は瞬く間にエコフレンドリーな方向に変化を遂げました。衣食住のうち、「食」の業界を皮切りに、その改革は世界規模でどんどん進化し続けています。そして「衣」の一つであるアンダーウェア業界にも、エコフレンドリーな哲学が波及しています。考えてみれば、アンダーウェアは世界中の人々が毎日必ず身につける生活必需品です。
安価なものを「消耗品」と捉えて使用するのではなく、クリエイターの想いと環境保護に賛同しながら使用していくことがこれからの私たちの目標であり、人間としてできる責務とさえ思います。
石油などのエネルギー資源には限界があります。どの媒体でも「サステイナブル(持続可能性)」なるキャッチフレーズを絶え間なく見かけますが、その真意をご存じなかった方も少なくないのではないのでしょうか。
本当のサステイナブルとは「循環」そのものであり、冒頭から述べている「ゼロウェイスト活動」にあると思います。大量生産時代の終焉が見えた今、企業が大量生産を図り「これがあなたにとって幸せなんです」という価値観を、鵜呑みにして大量消費を行っていた時期は過ぎ去りました。
前回の記事「フランスの一流ショコラトリーで見えた「過去」と「未来」の共通点」でもご紹介しているように、本来のモノ造りが、少なからず「原点回帰」を意識し、多少コストは掛かってもこだわりを持って良い物を作り続けることにシフトしています。
「効率を求めることと、人が幸せになることは違う」という考え方を改めて見せつけられた展示会でもありました。どれだけモノを持っているかではなく、少なくても優れたモノがある「ライフスタイルそのもの」に焦点が当たるのではないかと考えます。そしてそのライフスタイルにどれほどワクワクするかが、衣食住、とりわけアンダーウェア業界においての今後のテーマとなるでしょう。
取材協力:Swedish Stockings
日本代理店:sustainable k3
03-3464-5357
https://k3coltd.jp/template.html/sustainable
Germaine des pres
https://germainedespres.com/
Damien Larere
contact@germainedespres.com
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