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2020年前半にアメリカで注目されたパッケージ、総集編(2)

Photo:PACKAGING STRATEGIES公式サイトより(https://www.packagingstrategies.com/

前回に引き続き、アメリカの代表的なパッケージング情報誌Packaging Strategies News誌(隔週発行、以下PS誌)の2020年上半期の記事から、日本在住の読者に興味深いと思われる記事をピックアップしてご紹介する。

アメリカでペットボトルのリサイクルは向上するか?それとも容器の多様化が進むのか?(PS誌:2月27日発行)

アメリカ中北部に位置するミネソタ州は、北はカナダと国境を接する州だ。「State of the North Star」という愛称が付けられており、自然豊かな観光地として人気がある。それだけに州民の環境意識は高く、州の汚染防止局によればゴミの45%近くがリサイクルか堆肥化されているという。

Photo:ミネソタ州(Image by David Mark from Pixabay)

そうした環境の中でも停滞しているペットボトルのリサイクルを推進するため、ミネソタ州の飲料協会が使用済みペットボトルの回収ポイントを増設して、再資源化率を向上する取組みを始めた。

PET樹脂は、世界的に清涼飲料ボトルやその他の液体飲料容器に、最も広く大量に使用されている。日本のペットボトルリサイクル推進協議会の調べによると、アメリカのペットボトル販売量は2018年時点で重量換算284.4万トン、日本の4.5倍に達している。人口一人当たりにすればアメリカ人は日本人の2倍近い量を消費しており、中国に次ぐペットボトル大国だ。

一方、使用済みペットボトルの回収率と再資源化率は、日本がそれぞれ92%と85%であるのに対し、アメリカは29%と20%に過ぎない。因みにマテリアルリサイクルの先進地域と言われる欧州は、2017年のデータではそれぞれ320万トン、62%、42%だ。回収率と再資源化率が日本と同レベル以上にあるのは、ドイツとフィンランドに過ぎない。

ただし、日本にも課題がある。欧州が地域内で再生PETの2次市場を形成しているのに対し、日本は37%を輸出に依存している。現在、飲料メーカー、リテール、再生業者が連携して国内でもBottle to Bottleリサイクルの仕組みづくりを進めており、早晩貴重な化石由来の再生プラスチック資源を海外へ流出させることなく、国内で自己完結することが期待される。

Photo:アメリカのサンフランシスコ国際空港のロビーに設置されたモニュメント

アメリカで環境対策の最先端を走っているカリフォルニア州でさえ、ペットボトルのリサイクルは進んでいない。サンフランシスコ国際空港ロビーのモニュメントで「アメリカ人は2018年に500億本のペットボトルを使用したが、うち80%は埋立て廃棄された」ことを公表して警告を発している。

長い海岸線を持つ同州で、海洋に流出される廃ペットボトルの多さに業を煮やした市当局は、サンフランシスコを訪れる人たちへの注意喚起を促すためにこの展示を行っているという。

実際、市の管轄下にある空港内ではボトル入り飲料水の使用が禁止され、代わりに給水ステーションが設置された。マイボトルを持ち込む人が増える一方、リサイクルやリユースの実施率が高い金属缶やガラス瓶、紙パック入りの飲料水の販売は許可されている。

Photo:サンフランシスコ(Image by Free-Photos from Pixabay)

こうした動きに危機感を感じた全米飲料協会は、ミネソタ州の例のように全てのボトルを回収する「Every Bottle Back」キャンペーンを開始した。活動の中心になっているのは、ペットボトル入り飲料のアメリカ3大メーカーであるCoca-Cola社PepsiCo社Keurig Dr. Pepper社だ。

ただ、日本の消費者のようにボトルの中を洗浄し、キャップやラベルを外した状態で回収ポイントに持ち込む人はまだ少ないという。汚れた使用済みペットボトルが良質な再生資源に生まれ変わるには、まだ時間がかかるのだろう。上述の3社もリサイクルインフラの整備事業を行う地域のために、1億ドルの拠出を約束している。

ミネソタ州のように、公共施設にペットボトルの回収ポイントを増やしていくことも方策の一つだ。何より大手飲料メーカーは、良質な再生PET樹脂の安定供給を何よりも求めている。

ところで、大手飲料メーカーではこれまで、低コストで、供給性に優れ、消費者の使い勝手が良いペットボトルの採用を優先してきたが、海洋プラスチック問題が深刻化し、その代表格にペットボトルが採り上げられたためか、容器の多様化に舵を切っている。

例えば前述のCoca-Cola社やPepsiCo社は、リサイクルの優等生であるアルミ缶入り飲料の採用を増やしている。2018年末に発売されたPepsiCoの「bubly」は全て缶入り仕様で、2019年の食品・飲料部門の新製品売上ランキングで第4位に輝いた(出典:IRI ”New Product Pacesetters” 2020年5月)。

同社は、糖分の多い炭酸飲料から無糖でカロリーを抑えた飲料水への転換を進め、数多くの機能性飲料水やエネルギー飲料水を立ち上げている。

Photo:これまでアメリカでは比較的人気がなかったスパークリング・フレーバー水「bubly」を、2018年末に全て缶入りで市場投入した。サイズは200mlミニ缶から570mlまで揃えている。(公式サイトより)

PepsiCo社は初年度の売り上げ目標の1億ドルを軽く突破したこの製品の年間売上目標を10億ドルに設定し、将来の主力製品として位置づけている。

新欧州指令でキャップはボトルとの一体化が義務づけられる(PS誌:3月13日発行)

毎年800万トン以上のプラスチックごみが海洋に流出していると言われている。オランダの環境保護団体The North Sea Foundationによると、同財団と2,000人以上のボランティアが2016年に共同でオランダ北部海岸の調査を実施したところ、ペットボトルのプラスチックキャップは漁具や使い捨てプラスチックパッケージなどに続いて第5位に入った。

プラスチックキャップは適度に小さいため、魚や海鳥が間違えて呑み込んでしまうという。

Photo:オランダ北海岸の回収ゴミのトップ5

また、キャップはマイクロプラスチックの主要発生源であると指摘され、プラスチック悪玉説の一因にもなった。

Photo:海岸に散乱する廃キャップ

このような背景もあり、昨年5月にシングルユースプラスチック(SUP)のEU新指令の対象になった。2021年までに加盟各国で国内法が整備され、2024年5月から施行される。既に市場では、ボトルに繋がったキャップや蓋が紹介されている。アメリカのカリフォルニア州でも同様の動きがある。

Photo:SUP指令に適合するキャップは消費者の使用体験を向上し、プラスチック廃棄物を減らす。ペットボトルに対する社会の理解を高める必要がある

Photo:ペットボトルのネック周りの国際規格の管理、技術資料作成、発行するCetie(国際ボトリング技術協会)は、SUP指令に適合するキャップの標準化を検討している

日本でもフリップトップタイプのキャップが登場している。この動きは世界的に波及し、ペットボトルの回収やリサイクル率の改善に繋がるかもしれない。

ウェット食品にもモノマテリアルパウチが登場(PS誌:3月13日発行)

ベビーフード業界のトップGerber社(ネスレグループ)が初めてモノマテリアルパウチを採用し、世界最大の米国市場に投入した。

Photo:Plastics Today誌(4月7日号)より

これまでベビーフードのパウチの標準構成はPET/アルミ箔または透明蒸着PET/PEのラミネートー品であったが、世界で初めてプラスチック素材としてPP(ポリプロピレン)のみを使用したモノマテリアルパウチを発表した。

バリア層にはPVA(ポリビニルアルコール)がコーティングされている。前編でご紹介したように、アメリカではPE(ポリエチレン)系のモノマテリアルパウチが「Store-Drop-Offプログラム」の普及で急速に増えているが、再生材料の価値を維持するために、使用後のパウチに残渣が残らないように洗浄して乾燥させる必要がある。

このため現在は、スナックなどの乾燥食品や冷凍食品、あるいはジェルボールなど固形の洗剤などに用途が限られている。ベビーフードのような粘体食品を包装したパウチの中を、消費者が綺麗に洗浄してリサイクルにだすことを要請することは難しいと判断した。その代わりに再生業者TerraCycle社と提携し、独自のリサイクルシステムを創り上げた。

また、最新の分別センターを保有するペンシルベニア州ポッツタウン市に要請し、現在禁忌品となっているフィルムやパウチの回収、分別、リサイクルの実証試験を行い、将来自治体回収の道に結びつける計画だ。モノマテリアルパウチに変更したため、賞味期間も大事を取って12か月から9か月に短縮した。パウチのガスバリア性を改善することも今後の課題だ。

当面この新パウチの商品は、同社のウェブサイトでの限定販売となる。乳幼児向けの製品であるため、万一の品質問題に備え万全の体制をとってスタートする。

Photo:このモノマテリアルパウチは、イタリアのGualapack社の協力で開発された。出典:Plastics Today誌(4月7日号)

ネスレグループは、他にもスナック食品やココア飲料、チョコレート菓子などに紙系のモノマテリアルパウチを採用するなど、循環経済を意識したパッケージを次々と登場させている。

同社は2020年1月、プラスチックごみ削減対策として、2025年までに20億スイスフラン(約2300億円)を投じると発表した。うち15億フランは、食品に直接接触可能な再生プラスチックを安定調達するための原資に充て、2025年までに最大200万トンを調達するとつけ加えている。

また2.5億フラン規模のファンドを立ち上げ、包装分野の新素材、詰め替えシステム、リサイクル技術などの開発に関わるスタートアップ企業に投資する。

同社は発表の中で、この投資の利益に対する影響はニュートラルだと語っており、彼らの自信のほどが窺える。他の消費財企業も座視して、様子を見ようというわけにはいかなくなった。コロナ禍で業績が悪化する中でも、着実なESG投資と一貫した事業戦略を実行していく企業が、コロナ後のパッケージング市場をリードしていくのであろう。(森 泰正記) 

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