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2020年前半にアメリカで注目されたパッケージ、総集編(3)

Photo:PACKAGING STRATEGIES公式サイトより(https://www.packagingstrategies.com/

今回も、アメリカの代表的パッケージング情報誌Packaging Strategies News誌(隔週発行、以下PS誌)の今年上半期の記事から、日本在住の読者に興味深いと思われる記事をピックアップしてご紹介する。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐパッケージの役割(PS誌:3月26日発行)

3月に入ると、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミック関連の記事が目立つようになった。

Image by mohamed Hassan from Pixabay

3/26号では、米国軟包装協会(FPA)が、国民生活に必要不可欠な基本生活物資を包装する軟包装の安定供給を図るために、大統領官邸、全米の州知事、及び米連邦議会に対し、軟包装の生産活動を制約しないよう要望書を提出したことを報じている。

この書簡では、連邦政府、州政府、地方自治体の非常事態宣言に関連し、国民生活の安定に「不可欠な」事業活動と、大規模イベントやパーティの禁止、バーやジム、美術館の閉鎖とを明確に区別することを求めている。

軟包装には、食品や消費財を包装し、輸送や保管時に保護する役割がある。シリアル、パン、冷凍食品、乳児用粉ミルク、ジュースなど、完全密封された食品や飲料品、シャンプー、生理用品や消毒用シートといったヘルスケア製品、アスピリンなど医薬品の滅菌包装がその代表例だ。

軟包装は、医療機器包装にも使用されている。診断テストキット、静脈注射液セット、注射器、カテーテル、挿管チューブ、医療用防護服や医療器具を完全密封包装して、使用時の無菌性と安全性を確保している。

医療廃棄物収納ボックスの内側にはプラスチックのライナー材が使用され、事業体、公共施設、医療機関や家庭から排出される使用済み廃棄物を厳格に分離し、人々を感染リスクから守っている。感染拡大に伴い需要が急増している持ち帰り食品の袋や、eコマースの配送梱包材の中にも軟包装が使われている。

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州政府や自治体は、新型コロナウイルスの感染拡大初期、「米国大統領の新型コロナウイルスパンデミックに関する指針」で食品加工業、輸送・流通業、小売業、 eコマース、外食チェーンや、ヘルスケア産業など、国民生活に不可欠なサプライチェーンを除く製造・サービス業の事業活動を制限した。

制限された中には軟包装製造業もあり、従業員は自宅待機を余儀なくされた。

FPAは、パンデミックの危機における国の重要なインフラストラクチャーとして軟包装産業はその使命を果たす責任と義務があることを宣言し、会員企業の製造現場の従業員だけなく、最終的に国民のライフラインを守るために、厳格な安全基準に基づいてパッケージ生産が行われ、生活必需品の安定供給を担うサービスセクターとして機能していることを訴えた。

日本の自粛要請とは異なり、アメリカでは法令に基づき、生産・サービス活動が制限される。国民生活に不可欠な物資であっても調達困難に陥りサプライチェーンが混乱する事例が、新型コロナウイルス拡大の初期には数多く見られた。

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パッケージデザインで避けなければならない5つの過ち(PS誌:4月14日発行)

パッケージデザインは、顧客と製品を結びつけ、顧客満足度を高める重要な要素だ。逆にデザインに欠陥があると知らぬ間に売上が減り、廃番に追い込まれることがある。4/14号ではパッケージデザインによく見られる5つの過ちと、それらを防ぐ方法を紹介している。

1. 過剰包装

過剰包装でうんざりすることがよくある。しかし何故こんなことが起こるのか? パッケージの重要な要素の一つに、ブランドメッセージを効果的に伝えるという役割がある。そのスペースが広いほど、顧客とのコミュニケーションは容易になる。

Photo:アボカドを半分にカットし、深絞り包装した事例。マーケティングには逆効果だ。

しかし過剰包装は厳に慎まなければならない。パッケージの廃棄処理で消費者を悩ませてはいけない。今日の消費者はかつてないほど環境に対する意識が高まっている。特に若い消費者は、環境に配慮したパッケージを採用している企業の製品に高い評価を与えている。

2. 誇大表示

一部のパッケージで、製品が実際に提供する以上のものを提供しているという印象を意図的に作り出しているケースがある。顧客を偽ることは、顧客の信頼を失うことだ。一度信頼を失えば、顧客はその企業の製品を二度と購入することはないだろう。

Photo:内容量の誇大表示の事例

紛らわしいパッケージデザインや誇大表示による訴訟リスクがあることは言うまでもない。デザインによって製品が実際よりも大きく見えるとか、製品が提供しないことまで表示しているといったパッケージデザインは過ちだ。その製品が十分魅力的であっても、決して過大なデザインはしないことだ。

3. エラー表示

タイプミス、スペルミス、レイアウトミスは、その企業の技術力に疑問を抱かせる。パッケージデザインの明らかなミスが世の中に出てしまうと、信頼を取り戻すのは困難だ。

Photo:恥ずかしいスペルミスの事例

製品回収費用がかかるだけでなく、現代のスマホ社会では、ミスしたパッケージデザインはインターネットで拡散、炎上してしまう。このダメージは計り知れない。消費者は、パッケージデザインさえもミスしてしまう企業の製品やサービスに、苦労して稼いだお金を支払う気にはならないだろう。

4. 開封できないパッケージ

パッケージの中には、開封がことさら困難なデザインがある。これは人間性の基本原則を無視していると言わざるを得ない。そんな鉄則を無視して流通しているパッケージデザインは決して少なくない。開封が困難なイライラパッケージに対する表現もある(“wrap rage”)。

Photo:開封困難なイライラパッケージ

マーケティング心理学のプロでなくても、顧客に怒りを感じさせることが最悪であるのは自明だ。リピートオーダーは期待できない。

5. 差別化の欠如

競合他社のパッケージと見分けがつかない場合、消費者に見落とされることや、誤って他社製品が選択されることもある。

Photo:紛らわしいパッケージデザインを避ける

両者ともブランドロゴが小さく特徴がない。包装のカラーも似通っている。2つのクッキーの違いを消費者が見分けることは困難だ。

忙しい消費者はわざわざ2つのクッキーを比べることなどしてくれない。紛らわしいパッケージデザインが製品の売行きにどんな結果をもたらすかは明白だ。視覚的に差別化することは重要なマーケティング戦略だ。この例のような過ちは避けたい。

P&Gがネット通販専用ECO-BOX入り衣料洗剤を拡大(PS誌:4月30日発行)

Photo:液切れの良いディスペンサーが付いて簡単に計量できる

このバッグ・イン・ボックスのパッケージは、昨年アメリカで数多くのパッケージ賞を受賞した。今年5月にP&G社は、「ECO-BOX」入り液体洗剤のラインナップを大幅に拡大した。2018年暮れに発売された初代のTide Originalに続き、DownyGainTide purcleanTide Free & GentleDreftと、同社の主力衣料洗剤に注目の新パッケージを採用した。

Photo:2次、3次包装を減らすことで軽量になり、通販用に最適だ

「ECO-BOX」は、EcologyとE-Commerceの「ECO」に因んだもので、ネット通販専用の環境に優しいパッケージとして戦略的に展開されている。印刷された厚板紙ボックスを薄膜のシュリンクフィルムで保護した状態で、直接購入者の家に宅配される。

このパッケージング形態であれば、搬送用の外箱や商品を保護する緩衝材が不要になる。薄膜の強靭なPE(ポリエチレン)製の内袋に濃縮衣料用液体洗剤や仕上げ用柔軟剤が充填されており、従来のHDPE(高密度ポリエチレン)製のブローボトルに比べ、パッケージ重量が60%軽減されている。

新型コロナウイルス防護マスクの構造と素材(PS誌:4月14日発行)

パッケージではないが、4/14号では感染防止用のフェイスマスクの素材について詳しく解説している。日本でもテレビ番組やSNSで紹介されているのでご存知の方も多いだろうが、使い捨てマスクにはプラスチック素材が数多く使われているのでご紹介する。

1. 「サージカルマスク」と「N95マスク」の違い

Photo:サージカルマスク

ゆったりと顔にフィットするフェイスマスクは、口と鼻の間に物理的な障壁をつくるが、マスクの端は鼻と口の周りを外部からの汚染物質を遮断するようには設計されていない。

Photo:N95防護マスク

一方、N95マスクは顔にぴったりとフィットし、鼻と口の周りにシールを形成する防護マスクだ。目的は空中に浮遊する粒子を濾過することにある。N95マスクはFDAのクラスIIデバイスの規格に適合するよう設計され、使い捨てだ。

1. フェイスマスクの素材

フェイスマスクは、感染拡大を85~99%防止することが求められている。布生地の両面を不織布で覆った多層構造で、通常は3層か4層になっている。

不織布の微細なメッシュ構造がフィルター機能を果たす。メルトブローン法により製造された不織布が、マスクに通気性をもたらしている。メルトブローン不織布は、熱溶融プラスチックを数百の小さなノズルのあるダイから糸状に押出し、熱風を吹き付けて布状にする。

スパンボンド不織布も同じような溶融プロセスで生産され、医療従事者が着用するマスクの素材として使われる。フェイスマスクに一般的に使われている不織布の素材はPP(ポリプロピレン)で、1平米あたりの重量は20gか25gだ。

マスクの製造には、耳ループ、鼻の周囲でマスクを曲げることができる金属ストリップなどの部材が必要で、最後に滅菌包装される。フェイスマスクの素材は低刺激性で、グローバル規格に適合しなければならない。

2. N95マスクの素材とFDA承認

N95マスクは、埃や煙にさらされる建設現場などで着用者の健康を保護するために使用されている。また、医療従事者専用仕様のN95マスクもある。少なくとも空中浮遊粒子を95%以上除去することが求められており、医療従事者が使用する前に徹底的に評価、テストされ、公的機関の承認を受ける必要がある。

フェイスマスクと同様に、N95マスクも多層構造になっている。外層は保護層で20~50g/m2のニードルパンチ不織布が使われている。中間層には250g/m2の厚手の濾過材を用い、最内層は静電気で微粒子を吸着するエレクトレット・メルトブローン不織布の構成になっている。

ニードルパンチ不織布はホットカレンダー法で製造され、プラスチック繊維が熱で結合されているので、マスクの形状維持に効果的だ。完成したマスクは使用前に滅菌消毒される。

3. マスクの供給不足を埋める異業種企業

Image by Gerd Altmann from Pixabay

米国議会は、3M社Honeywell社Moldex社などのメーカーに、医療部門向けに5.5億枚のマスクを製造、供給を義務づける法律を可決した。コロナ禍が拡大するにつれ、あらゆるセクターで多くの企業が生産協力を始めている。

ゼネラルモーターズ社は自動車のシートベルト、布地、内装材メーカーに、一線の医療従事者を支援するために1日あたり5万枚の医療用フェイスマスクを生産することを要請した。

一方、メジャーリーグ向けのNikeのユニフォームのOEM先であるFanatics社は、医療用防護マスクと防護服を製造するため、国内の工場を一時的に転用している。このマスクと防護服は、メジャーリーガーのユニフォームと同じ、ポリエステルのメッシュ生地から作られている。(森 泰正記)

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