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プラスチックパッケージのリサイクルに苦しむアメリカ社会(後編)

前編ではプラスチックパッケージのリサイクルに苦しむ米国社会の現状についてご紹介した。

▼前編はこちら

プラスチックパッケージのリサイクルに苦しむアメリカ社会(前編)

後編ではこの難題に前向きに取り組む米国社会や大手企業の動きをレポートする。

米国でもパッケージリサイクルの動きが本格化

パッケージをリサイクラブルすることは、企業の環境に対する姿勢を示すには効果があっても、それだけでは実際に廃棄物を削減し、温室効果ガスの排出をゼロにするには殆ど役立たない。世界最大の食品メーカーネスレは、「リサイクラブルなパッケージを作るだけでは不十分で、パッケージ材料の回収方法や、リサイクル方法を確立することがより重要だ」と指摘している。

優れたリサイクル性を有するパッケージを開発したら、次は消費者が使用した後のパッケージをゴミとして捨て去るのではなくキチンと回収し、次の市場に戻して循環する仕組みをつくらねばならない。その意味では「パッケージからパッケージを作る」ことこそ循環経済の究極の姿だ。

Image by jacqueline macou from Pixabay

しかしこれを実現することは現実には至難の技である。実は昔からパッケージとして使用されてきたアルミ缶、スチール缶、ガラス瓶はこれが可能であり、最近ではコスト高になってもこうした循環型素材を積極的に活用する動きも出てきている。紙製品でも段ボールや新聞紙は古紙リサイクルのシステムが長年機能している。

ではプラスチックでこうしたリサイクルが可能だろうか?今のところ限られた先駆的な飲料メーカーが、再生メーカーと連携して、ペットのボトル・ツー・ボトルに向けたシステムをつくりつつあるが、他のプラスチックの容器ではまだリサイクルのゴールは見えていない。

特に使用済みのプラスチック軟包材は分別も、リサイクルも難しいと考えられており、マテリアルリサイクルの先端を走るドイツも含め、世界中どこでも埋立てか焼却廃棄されているのが現状だ。こうした現状を打開する動きが出てきている。それもリサイクルでは立ち遅れている米国やアジアでその挑戦が始まった。

米国では民間の協力のもと、世界で初めて軟包材を回収する仕組みを作り、まずカスケードリサイクル(註:元のパッケージではなく、建材など別の用途にリサイクルすること)に取組み始めた。米国の資源回収施設(MRF)は元々プラスチック軟包材を分別する設計にはなっていない。柔軟で薄いフィルム状のプラスチックは、分別工程にあるロールに巻き付いて頻繁にラインを止めてしまう。

Photo:米国の再生資源回収施設

Photo:プラスチックフィルムが巻き付いてラインがストップ。こうなると人力で取り除く必要がある

またサシェットと呼ばれるケチャップやマスタードなどの小袋はセンサーが識別できず、分別工程で雑紙のラインに回収されてしまい、古紙の再生ベールの経済価値を低下させてしまう。

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これは中国が米国からミックス古紙の輸入を拒否する発端にもなった。このため、プラスチックフィルムは多くの資源回収施設でリサイクル禁忌品に指定されており、自治体では回収しない。

こんな状況に危機感を持ったSPC(持続可能なパッケージ連合)は、2016年に最も量が多いPEフィルム(ポリエチレンフィルム)を回収しようとスーパーやドラッグストアと連携し「Store-Drop-Off」という回収プログラムを作り、二次用途としてゴミ袋や建築資材に再生する仕組みをつくり上げた。

自治体が回収を拒否した使用済みのPEフィルムの資源ごみを、消費者と民間企業のコラボにより、回収・リサイクルのシステムを動かし始めたのだ。今では全米のリテールチェーンの1.2万店舗以上が参加しているという。

実例を紹介しよう。過去のレポート「スタンディングパウチについて考えてみる(後編)環境負荷削減への挑戦」でもとり上げたので、本稿では詳細を割愛するが、ケロッグ社の人気グラノーラ「Bear Naked」が昨年パッケージを刷新し、湿度、酸素バリア性のあるモノマテリアル包材を採用、前述の「Store-Drop-Of」プログラムで回収が始まっている。これを契機に米国ではPE系のモノマテリアル包材の需要が急速に増えており、周辺技術も進歩している。

Photo:ケロッグの人気グラノーラ「Bear Naked」の高バリアのPE多層のモノマテリアルパウチ。リテール店舗で回収され、カスケードリサイクルされる。

フィルムではBear Nakedで採用されたバリア性能のある多層フィルムの他にも、無機系のバリア材料を蒸着したPEフィルムが入手可能になっている。モノマテリアルのパウチに再封可能なジッパーや、キャップ付きスパウトが装着できる製袋技術や自動充填包装ラインも開発されているので、この市場は益々拡がっていくことが予測される。良質な再生PEが安定供給されることで、再生市場も活性化されるであろう。

ドイツの洗剤メーカーWerner & Mertz社が今年1月に販売開始した、日本でもお馴染みの「Frosch(フロッシュ)」は、印刷層とコア層が使用後は簡単に分離できるパウチ設計がされており、コア層に使用される無色透明のPEフィルムは将来、パッケージからパッケージへのリサイクルも視野に入れているという。

Photo:液体台所洗剤「Frosch(フロッシュ)」の意匠面とコア層が手で分離できるスタンディングパウチ。将来はパウチtoパウチのリサイクルを目指す。(2020年1月販売開始。)

欧州では、レトルトパウチやペットフードなどPP(ポリプロピレン=熱可塑性樹脂)系の軟包材が多く、PPモノマテリアル包材の潜在ニーズは高いと言われている。既に欧州ではPP系のバリア多層フィルムや無機蒸着PPフィルムも重視されている。このモノマテパウチが順調に市場に拡がっていけば、マテリアルリサイクルを得意とするドイツを始め、欧州各国でも軟包材のリサイクル率が向上していくと思われる。

一年前には遥かに遠い道のりと考えられていた軟包材リサイクルが、バリューチェーン企業の連携により、回収・リサイクルの仕組みが回り始め、それに触発され技術開発が進み、消費者がリサイクルの価値を理解し積極的に参加するようになれば、高いハードルを超える時期は意外に早く来るかもしれない。

アジアでは、ユニリーバとドイツのFraunhofer研究機構が開発した「CreaSolv」技術に着目したい。

Photo:Fraunhoferの溶剤型ケミカルリサイクル技術。

ユニリーバは自社製品の使用済みのサシェットを回収して、再び新たなパウチに戻す実証試験に取組んでいる。課題は数百億袋の汚れたサシェットを如何に効率的に回収するか。回収の社会システムができれば大きく前進する。

プラスチックをオイル化し、ポリマーに再生するこの技術を活用して、インドネシア国内だけで年間500億袋と言われる粉末洗剤、シャンプー、歯磨き粉、粉末ジュースなどのサシェット(小袋)を回収・リサイクルする実証実験が行われている。これまでこうした使用済みの汚れたサシェットは風に飛ばされ、排水口や水路を詰まらせ、洪水やマラリア病を発病させるという実害をもたらしている。

しかしこの技術を使えば、化石原料から1kgのバージンポリマーを合成するのと同じエネルギーで、使用済みのサシェットという都市ゴミから6kgの高純度の良質な再生プラスチックを合成できますとユニリーバの研究者は胸を張る。

まさにアジアは都市油田(=プラスチックごみ)の埋蔵量が最も豊富な地域なのだ。膨大な汚れたサシェットを回収し、オイルに分解して、エチレン、ポリエチレンへと転換していけば、マテリアルリサイクルとは異なり、パッケージからパッケージへの無限のリサイクルが可能になる。

ユニリーバはインドネシアで年間千トン規模のパイロットプラントを2017年末に完成させ、現地政府、廃棄物バンク、リテール店舗や東南アジア独特の廃棄物ピッカーたちと連携して、汚れた使用済みサシェットの回収実験に取り組んでいる。一連の回収・リサイクルスキームと誰でも参加できる制度が出来上がれば、この技術は地域の共有財産として、全てのステークホルダーに開放するとユニリーバは宣言している。

おわりに

Image by bertvthul from Pixabay

世界の3大プラスチックと言われるPE、PP、PETのリサイクルが前進すれば、限りある化石資源を有効利用し次世代に残していけると、今年は少し楽観的に世界の動きを注視していきたい。一社ではできないことが、皆が知恵を絞り、使える技術を磨き上げ、協力していけば、明るい未来が見えてくる。(森 泰正 記)

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