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アメリカの洗剤革命!トップメーカーP&Gが提案する、これからのパッケージ

アメリカの環境問題を意識したパッケージのトレンド

こちらの記事を「プロの目線」で深掘りしたプレミアムレポートです!

はじめに

上野さんのレポートにある通り、洗剤容器は日米で大きな違いがある。日本ではプラスチック容器の減容化・減量化を旗印に、1980年代後半に洗剤容器は硬質ボトルから軟包装のスタンディングパウチに急速に転換していった。世界に先駆けること30年以上も前に環境を意識したパッケージデザインの変更が行われたことは特筆に値する。消費者も巻き込んだマーケティング戦略の成功であり、今ではアジア諸国でも詰替えパウチが主流になっている。しかし上野さんのレポートにある通り、欧米ではまだ圧倒的に硬質プラスチックボトルが洗剤市場で主役の座を占めている。

ところがここ数年世界的に廃プラスチック問題が大きく取り上げられるようになり潮目が変わってきた。ホームケア製品の世界最大手P&Gが、ネット通販向けに画期的新パッケージを開発し洗剤を販売するようになった。以下にP&Gが一昨年から昨年にかけて発表した新パッケージをご紹介する。

P&Gの詰め替え不要な軟包装スタンディングパウチがAmazonから登場

P&Gは2017年にAmazon向けに食器用濃縮液体洗剤”DAWN”の自立型のソフト容器(容量270mL)“AeroFlexx”を投入した。

画像:P&Gの濃縮食器洗剤”DAWN”のネット通販用パッケージAeroFlexx

画像:P&Gの濃縮食器洗剤”DAWN”のネット通販用パッケージAeroFlexx

開閉用のキャップを止めることでコストダウンを実現し、独自開発のセルフシーリングバルブをつけて、倒れたり落としたりしても周りに洗剤が飛び散ることがなく、最後の一滴まで使いきることができる自己完結型の容器だ。

■YouTubeはこちら
https://www.youtube.com/watch?v=QQbgA-1OJYM

通常のスタンディングパウチでは、中身が減っていくに従い折れ曲がって自立しなくなるが、これを防ぐため、P&Gはパウチ周りのエッジ部にエアーを封入、補強して中身がなくなっても自立できるように工夫した。

この容器はAmazonのネット通販用に特別に設計されたもので、輸送時の激しい振動、衝撃を想定し、袋のシール強度や衝撃破袋強度を強化した。中継地点が多く輸送条件が苛酷な宅配ルートでプチプチシートのような緩衝材を不要にして、ここでもコストを切り詰めた。従来の液体洗剤のブロー容器に比べ、使用するプラスチック材料の量は半分以下になった。また包材メーカーから原反フィルムがロール状でP&Gの工場に運ばれるため、空容器を搬送する場合に比べて、輸送用トラックが大幅に削減できる。

これだけではない。洗剤を押し出すたびにベント口からエアーが戻り連続して洗剤を絞り出すことができるような設計を採り入れた。また開口部に濃縮液体洗剤独特の不快なぬめりや塊が残らないという。

P&Gはこの技術の開発にあたり、包装材料メーカー、包装機械メーカーと共同開発したとのことで詳細は語らないが、原反は裏印刷したPETフィルムにバリア層を含む共押出フィルムをラミネートしていることと、またハサミで開封する必要がないようにパウチ上部にミシン目をつけてイージーオープン機能を付与したことを公開している。

P&Gはパッケージの開発にあたり出願した特許40件をP&G内に囲い込むのではなく,広く世界に技術ライセンスしていく方針を公表した。この技術に関しP&Gと包括契約している米国の投資ファンドInnventure社は、本技術に関心を持つ企業にはライセンスする方針で、3つのビジネスモデルを想定しているという。プリメードパウチの供給と専用充填機の販売、原反ロール供給とFFS充填包装機の販売、それとコントラクトパック事業だ。

特にFFS充填包装ラインはP&Gの有するエンジニアリング技術を総動員して完成させたもので、インラインで洗剤の充填スピードと同じ時間内にエアーをパウチエッジ部に封入し、かつスコアリング、ガゼット・平底・セルフシールバルブ・異形パウチを形成する画期的なものだ。

4/22付の筆者のプレミアムレポート「宅配用段ボールが変わる」で、P&Gが昨年11月に市場投入したネット通販向けのバッグインボックス”ECO BOX”をご紹介しているが、最近のP&Gのパッケージに対する取り組みはさすがと感じさせる。昨年はAeroFlexxの他にも、ファブリーズのエアー消臭剤容器も米国の著名なパッケージング賞を受賞している。

画像:P&Gの消臭剤”Fabreeze One”の内袋入りエアースプレイ容器

画像:P&Gの消臭剤”Fabreeze One”の内袋入りエアースプレイ容器

これはエアゾール缶のように気化した液化ガスや圧縮ガスを使用せずに、同社独自の超微細消臭ミストを生成する”Flairosol”という技術で、容器の内部には消臭液を詰めた内袋が装着されており,空になれば新しい詰め替えバッグと簡単に交換できる。環境を意識したパッケージ設計だ。

中身の商品開発だけでなく、パッケージの研究開発部門に多様な研究者を配置して、生活者目線にたったきめ細かい配慮と持続可能性を訴求するパッケージを市場に提案している。かつては日本のパッケージング企業がこぞってこうした技術を競っていたが、これは米国企業にも大きな刺激を与えた。今ではコンバーターではなく、エンドユーザーがパッケージ開発の主導権を握ってしまったのであろうか?

終わりに

米国では環境庁が、SMM(サステナブル・マテリアル・マネジメント)を推進している。理念はサーキュラー・エコノミーとほぼ一致するが、温暖化ガス排出削減、再生材の使用増加、土壌・水資源の保護管理、省エネ推進と、より具体的で包括的な廃棄物管理システムの構築を目指している。

件のP&G社は、ウォルマートが主宰するプロジェクト・ギガトン(2030年までにウォルマートのサプライチェーン全体で10億トンの温暖化ガス排出削減を目指すプロジェクト)にもベンダーとして参加している。昨年のウォルマートのサステナビリティ・マイルストン・サミットでは北米P&Gの社長が、従来の液体洗剤を濃縮洗剤やジェルボール洗剤に転換し、洗剤容器の減容化と軽量化により約2千万トンの温暖化ガス排出削減を実現したことを誇らかに発表した。

日本より周回遅れの取組みであることは否めないが、あの消費大国の米国がようやく資源の節約と廃棄物削減に向けてパッケージの世界でも動き始めたことに注目したい。(森 泰正記)

註:上記写真は、いずれもパッケージング・ワールド誌より(2018年9月13日号)https://www.packworld.com/article/package-type/bagspouches/stand-pouchbag/pg-wins-dows-diamond

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