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間違った廃プラ対策が環境負荷を増やす?ネスレに学ぶ、これからのパッケージとは

思わずコレクションしたくなる!?紙製パッケージ in ロンドン。

こちらの記事を「プロの目線」で深掘りしたプレミアムレポートです!

はじめに

欧州の伝統産業である製紙業界が廃プラスチック削減の一翼を担い、新たなビジネスチャンスを獲得すべく、再生可能な資源である紙・板紙のパッケージ分野向けの積極的な設備投資を行っている。シール機能や、ガスバリア機能を持ったパッケージ用の紙の開発だ。

英国では、江國ライターのレポートのように美しく印刷され、デザインされた紙の高級感溢れるパッケージが花盛りだ。デパートだけでなく、スーパーでもその動きは活発だ。英国内に900店舗、欧州にも40店舗以上を展開する冷凍食品、調理済み食品や生鮮食材を販売する大手スーパーIcelandは2018年1月に、2023年までに同社のプライベートブランドのパッケージを全てプラスチック・フリーにすると宣言し、着々とその準備を進めている。

今年2月には実験的に地域限定で35品種の青果物を無包装に、27品目の食材の包装を非プラスチック材料に転換した。新素材は植物由来フィルム、コンポスト可能なセルロースやコットンネット、紙製のパッケージなどだ。店内には使用済みプラスチックボトルの回収機を設置し、廃食材専用のコンポスト可能なゴミ袋を配布し、食品ロスのコンポスト推進運動にも取り組んでいる。

Photo:リサイクルセンターの近赤外センサーで選別できない黒プラスチックトレイに代えて、紙トレイを採用。(https://www.telegraph.co.uk/news/2018/01/16/iceland-pledges-go-plastic-free/ より)

Photo:店内に設置されたPETボトル回収機(https://twitter.com/resource_media/status/998571797426647041 より)

英国では環境NGOの圧力に押され、青果物やパンの包装を止めて、無包装で販売するスーパーマーケットチェーンが増えているようだが、こうすることで肝心の食品のシェルフライフが短くなり、却って食品廃棄を増やすのではないかと心配になる。

世界で毎年1億トンを超えるプラスチック製品(パッケージ以外も含む)が埋立て廃棄されているというが、国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界では年間13億トンもの食品が食べられることなく捨てられている。これは全世界で生産されている食品の約3分の1に相当し。飢えた人の倍以上の人々に食事を提供できるほどの量だ。

先進諸国の食品廃棄は、流通や家庭で排出されるケースが多く、環境負荷を増大させる。誰にも食べられなかったとしたら、その食品を作るのに使われた水や肥料、農薬、作物の種子、燃料なども無駄になる。最近の欧州のプラスチックパッケージ排斥運動は、あまりに過激で、物事の本質を見誤っていると言わざるを得ないケースが見受けられる。

例えば、バナナのスーパーでの廃棄率は40%前後と言われているが、無包装だともっと増える可能性がある。バナナはエチレンガスを放出しているので追熟して夏場は特に傷みやすい。1本ごとにラッピングしてパッケージ内のガスの比率を一定に保つことでシェルフライフは倍以上に延びる。こういったプラスチックパッケージの優れた機能は積極的に採り入れ、逆に不必要なものは徹底して見直すという確りとした座標軸が必要だ。これを無視したプラスチックパッケージ削減運動は、環境負荷を増やすことになりかねない。

ネスレがプラスチック・フリーパッケージを採用

ところで2019年3月にネスレがココア粉末飲料NesquikのパッケージをPlastic-Freeで、100%リサイクル可能な紙系パウチ(同社は、欧州の製紙メーカーが供給するシール適性がある特殊コート紙であることを公表している)を採用、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガルで先行発売した。

Photo:ネスレが3月に発売した新Nesquikはプラスチック・フリーの紙パウチ( https://www.foodnavigator.com/Article/2019/03/04/Nestle-launches-Nesquik-All-Natural-in-plastic-free-packaging より)

今回採用されたNesquikの紙パウチには水系のヒートシール可能なコーティング材が塗工されているものの、世界初のプラスチックを使わない包材で、様々なところでネスレの苦心の跡が見られる。紙系への材料転換は,素材そのものがコストアップになるだけでなく,強度もプラスチック包材に比べると弱いので,現在は充填ラインスピードは40%程度に抑えざるを得ないという。

パッケージング工程ではプラスチックフィルムと異なり、慎重で優しいハンドリングが必要で、今後包装機械の改良も視野に入れている。またシェルフライフも現行のプラスチック系のパウチに比べると半分の9カ月に短縮した。

Photo:ネスレが3月に発売した新Nesquikはプラスチック・フリーの紙パウチ( https://www.foodnavigator.com/Article/2019/03/04/Nestle-launches-Nesquik-All-Natural-in-plastic-free-packaging より)

従来のプラスチックパウチのサイズは450gなのだが、これを168g(25サービング)に変更している。流通で2~3カ月在庫されることを考慮しても、このサイズであれば賞味期間内に消費できるので,消費者にも十分受け入れてもらえると判断したという。パッケージにも表示されているが、精製糖に変えて天然の黍砂糖を使用、ココアの含有量も倍にして従来のNesquikより高級、健康志向にして重量当たりの単価を40-50%値上げ、コストアップを吸収している。

これを皮切りに,ネスレは同社のスナック製品(Yes!:健康バー、Smarties:チョコレート菓子)を年内に,主力製品の一つである粉末麦芽飲料Miloの包材も来年早々,紙系パウチを採用することを発表し、公約通り7月には100%紙パウチの第2弾Yes!を発売した。

Photo:7月に発売されたネスレの健康バーYes!の紙パウチ ( https://www.foodbev.com/news/nestle-creates-recyclable-paper-wrapper-for-yes-snack-bar-range/ より)

英国Yorkにある同社R&Dセンターの開発担当者は「既存のプラスチックパウチ用の横ピロー、コールドシール方式の包装機を使い、これまで通り400袋/分のスピードで包装できる」と説明している。

Photo:ロール原反からの横ピロー充填包装機のライン ( https://www.ft.com/content/0d2d0a30-9cd6-11e9-9c06-a4640c9feebb より)

この製品は既に欧州の主要国(オーストリア、ベルギー、チェコ、フランス、ドイツ、アイルランド、ルクセンブルグ、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロバキア、スペイン、英国)で販売されている。また同社はこの技術を特許化せず、より幅広い食品メーカーで採用してもらうことを期待している。

2020年までに同社が使用する紙は全てFSCやPEFC森林認証プログラムに適合する紙を使用し、森林の環境保全に配慮すると宣言した。

終わりに

ネスレは包材コストが上昇し、シェルフライフを短くするというこれまで食品業界ではタブーであったことに敢えて挑戦してまで、可能なところではプラスチックの使用を減らす努力をしている。これが消費者にどう受け止められ、他の食品メーカーにどんな影響をもたらすのか、注視していきたい。

また苦労してプラスチックからリサイクル性のある紙に素材転換した使用済みパウチを、どのように回収して、どんな用途にリサイクルしていくのか、ネスレはまだ公表していない。紙はコンポスト可能な材料であることを示唆しているに過ぎない。消費者の協力を仰ぎ、段ボールや新聞紙と一緒に排出、混合回収し、リサイクルしていくのか、あるいは目標を高く掲げて、パウチ・ツー・パウチのリサイクルに挑むのか、その挑戦はまだ始まったばかりだ。(森 泰正記)  

 

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