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日本が発明した「スパウトパウチ」は、なぜ米国のベビーフード市場でこれほど受け入れられたのか

アメリカ市場で成長中の「新ベビーフード」が人気なワケ

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はじめに

伊藤ライターのレポートにあるように、日本では滅多にお目にかかれないスパウトパウチ入りのベビーフードが米国では大人気だ。産休制度が3~5ヵ月と短い上に、共働き率が高い米国では、市販のベビーフードが毎日大忙しの若いママたちの強い味方になっている。

Photo:伊藤ライターのレポートより( https://pake-tra.com/package/4153/ )

ところでスパウトパウチは意外と歴史が浅く、2007年に設立されたPlum Organics社によって2009年に初めて米国市場に紹介された。

それまでは老舗のGerber社のガラス瓶入りベビーフードが圧倒的なシェアを占めていたが、Plum社は有機栽培の野菜や果物に特化し、オーガニック食材をブレンドしたピューレに、ケール、スーパーフードのキヌアやアマランサスといった食材を加え、赤ちゃんの健康と栄養を最優先する若い母親や父親の心を掴んだ。今では乳幼児だけでなく、成長期にある子供や、高齢層まであらゆる年代にスパウトパウチ入りスナックとしても浸透してきた。

スパウトパウチは日本の発明

このスパウトパウチを発明したのが、日本を代表する包装メーカー細川洋行であることはパッケージング業界では広く知られている。テニスの錦織選手が試合で気合を入れ、エネルギーをチャージする森永製菓の「inゼリー」のパウチとしても有名だ。先日の全仏選手権やウィンブルドンでも奮闘し、テレビで世界中に中継されたのでご存知の方は多いだろう。

Photo: packagecollection「ロングセラー商品「inゼリー」新デザインへの挑戦と、リブランドのあゆみ」より。画像から記事へ飛べます( https://pake-tra.com/package/4184/ )

一方細川洋行のスパウトパウチ「チアーパック」は、一足早く1995年に米国で最も権威のあるパッケージングコンテストの一つ、デュポン・パッケージング賞(現ダウ・パッケージング賞)で、日本企業初の最優秀賞を獲得し米国でも一躍認知度が高まった。

ところが米国では、トランプ大統領だけでなく、ビジネスの世界でも「アメリカ・ファースト」で、いくら日本製のパッケージが優れていても、そう簡単には買ってくれない。細川洋行はこのスパウトパウチのマーケティングと供給の世界的なネットワークを構築するため、米国の包装材メーカーと合弁企業を設立した。これに目を付けたのが前述のPlum社だ。

それから僅か10年、スパウトパウチ入りベビーフードは米国で成長を続け、伝統的なガラス瓶やプラスチック複合容器を抑えて今や市場シェアは50%近くに達している。更にアップルソース、ヨーグルト、調味料、ドレッシング、ピーナッツバターなどベビーフード以外のカテゴリーにも浸透するようになった。米国で断トツシェアを持つ「チアーパック」のサクセスストーリーは、日本の包装業界の誇りでもある。

ベビーフードとスパウトパウチの組合せは最強

Photo:伊藤ライターのレポートより( https://pake-tra.com/package/4153/ )

なぜスパウトパウチはこれほど米国で受け入れられたのか?

ベビーフードの場合、乳幼児を連れての移動や旅行はどうしても荷物が多くなるが、パウチであれば、嵩張らず軽量で、他の荷物と一緒にバッグの中に放り込んでも中身が漏れる心配はない。

瓶やカップ入りのベビーフードであれば食べかけのスプーンで何度も中身を掬って与える必要があるが、別売りの取り外しできるスプーンをスパウトにつければ、片手で与えることができて、しかも直接中身に触れることがないので残した食材は衛生的に冷蔵庫に保管にできる。

Photo:( https://mamaot.com/product-review-baby-food-dispensing-spoon-for-plum-organics/ より)

Photo:( https://www.amazon.com/Plum-Organics-Dispensing-2-Count-Packages/dp/B003L4BV5U より)

米国のベビーフードの魅力は、その多くの商品がUSDA(米農務省)のオーガニック認証を受けているため、安心して赤ちゃんに食べさせることが出来る点にある。また、塩や砂糖、人工着色料、人工保存料などの添加物は一切使用していない。このため食材を殺菌する工程には各メーカーとも細心の注意を払っている。

多くのベビーフードメーカーはオーナー企業のベンチャー経営から出発しているため、食品の安全衛生、品質管理は売上が増え、事業規模が拡大するにつれて難しくなる。特に乳幼児が対象のベビーフードは、安全性を損なえば食品メーカーとしての存在さえ危うくなる。

このため前述のPlum Organicの創業者Neil Grimmer氏は手塩にかけたこの事業を2013年に米食品大手のCampbell Soupに売却した。同社事業は、2013年度に売上が100億円を超え、ニッチなオーガニック食品専業ながら離乳食分野で全米第4位の企業に急成長していた。一方大手食品メーカーにとってもベビーフード事業は、成長率が高く、米国の消費需要を牽引するミレニアル世代を自社製品の顧客として獲得するために喉から手が出るほど欲しかった。両者の思惑が見事に一致したのだ。

この組み合わせだけではない。業界トップのGerberの親会社はNestleであるが、同社は乳幼児栄養食品事業を強化するため2007年に当時の親会社であった製薬メーカーNovartisから55億ドルの大型買収でGerber獲得した。また2003年創業のHappy Family社の創業者兼CEOのShazi Visram氏は、同じく2013年に仏Danoneに事業売却した。

同社は2016年に業界で初めて透明蒸着パウチを採用して大きな話題となった。食材の充填、殺菌工程で厳重な管理をしても無添加食品の場合は稀にカビなどが発生することがある。このため同社は、ベビーフードを透明パウチに充填して市場に出すことで同社の徹底した品質管理を消費者の目でも確かめてもらうことにしたのだ。

この大胆な試みは見事成功し同社ブランドのHappy Babyは2017年に最も売れたベビーフードのひとつになった。パウチの刷新が製品売上増に直結した代表的な例になったのだ。その後多くのベビーフード企業が透明パウチを採用している。

Photo:Happy Family社の透明蒸着フィルムを使用した”Clearly Crafted”パウチ( https://www.pinterest.jp/happyfamilyorganics/clearly-crafted/ )

Photo:Gerber社の透明パウチ( https://www.amazon.com/Plum-Organics-Organic-Spinach-Packaging/dp/B005MHRB7G?th=1 )

Photo:Plum社の透明パウチ( https://www.amazon.com/Plum-Organics-Organic-Spinach-Packaging/dp/B005MHRB7G?th=1 )

おわりに

伊藤ライターのレポートにあるように、最近ではHPP(High Pressure Process:拙稿2019年2月28日付「米国で今注目の低温・高温加工のコールドプレス・ジュースと無菌紙パックの急成長」を参照願いたい)いわゆる、コールドプレス製法で加工、殺菌されたベビーフードも販売されているようだ。

加熱せずに低温超高圧下で食材を殺菌することにより、食材の栄養素を損なうことなく、食感が良く、色も味も自然そのまま再現した安全なベビーフードが、米国の赤ちゃんをより健康に、グルメに育てる時代が来ている。

ベビーフードとパウチの進化は止まることを知らない。(森 泰正記) 

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