「ダウ 2019年度パッケージング イノベーション賞」で評価された海外のパッケージ
はじめに
前回に引き続き「Dow Packaging Innovation Awards 2019(2019年度パッケージング イノベーション賞)」を採り上げる。
▼前編はこちら
「ダウ 2019年度パッケージング イノベーション賞」に、日本勢が5社入賞の快挙!
本稿では海外勢の受賞パッケージをご紹介する。惜しくも最優秀賞のダイヤモンド賞を逃したパッケージを、ダウ賞では「Diamond Finalist(ダイヤモンド・ファイナリスト賞)」として表彰している。今回は8社がこの賞を獲得しているが、海外のパッケージングの設計思想や、審査員が何に注目して評価したのか、読者の皆さんの参考になると思われるので以下に紹介する。
ブラジル:Embrapa Food Technology(ブラジル農業研究公社)
ブラジル農畜産省傘下のEmbrapa Food Technology(ブラジル農業研究公社)と、リオデジャネイロ連邦大学(UFRJ)の国立技術研究所(NIT)と高分子研究所(IMA)が共同で、果物の鮮度を保つパッケージングシステムを開発した。新興国で多く見られる収穫後の食品ロスを5%未満に削減し、コールドチェーンの省エネルギーに貢献する。
このパッケージは2つのパーツで構成されている。1つ目のパーツは、従来の木製クレートや段ボールケースに代わるHDPE製のクレートだ。座屈強度が高く、入れ子式になっており何重にも積み重ねができる。
2つ目のパーツは熱成形PETケースで、HDPEクレートの内側にセッティングされる。パパイヤ、マンゴーなどの形状やサイズに合わせて熱成形されたPETケースが、果物を中空に保持し、荷重がかからないよう設計されている。このパッケージは、リバースロジスティクスシステムで回収され、再利用が可能だ。またHDPEと木粉をコンパウンドして、プラスチックの使用比率を減らすこともできる。
アメリカ:P&G(ピーアンドジー)
「Tide Eco-Box」は、パケトラの2019年5月の投稿記事「アメリカの洗剤革命!トップメーカーP&Gが提案する、これからのパッケージ」で採り上げているので、併せて参照願いたい。
アメリカの洗剤革命!トップメーカーP&Gが提案する、これからのパッケージ
Tide(タイド)は50年以上にわたって米国の衣料洗剤のトップブランドの座を維持している。P&Gはこの主力洗剤のパッケージをeコマース用に特別に設計した。
HDPEボトル(4.5リットル)よりプラスチック使用量を60%削減、濃縮液体洗剤に切替え軽量化することで物流効率を改善し、更に2次包装資材(段ボールや緩衝材)を不要にした。また特殊設計のディスペンサーを採用して液垂れをなくして消費者の使用体験を向上させた。P&Gは昨年、同じくeコマース専用に設計したエアー封入スタンディングパウチ「AeroFlexx」でダイヤモンド賞を受賞している。
ドイツ:Henkel(ヘンケル)
紙とプラスチックを複合したパッケージは、米国の自治体の混合回収ではリサイクル禁忌品として受け入れを拒否されている。ヘンケルの包装・消費財部門が開発した「EPIXテクノロジー」は、この紙・プラスチック複合パッケージのリサイクルを容易にする。
今回審査員の注目を集めたのは、eコマースで重宝されているプラスチック気泡緩衝ライナー付きの封筒に代わり、循環経済に貢献するリサイクル可能な緩衝パッド紙封筒だ。
ヘンケルによれば、特殊素材の緩衝パッドは、従来のプラスチック緩衝ライナーの機能を保ちながら、更なる軽量化と耐衝撃性、緩衝性を実現し、製紙工場の一般的な古紙生産工程で紙と簡単に分離され、90%以上の繊維回収率を達成したという。
環境NPOのSPC (持続可能なパッケージ連合)が運営する「How2Recycleプログラム」の認証も受けて、リテールチェーンでも広く回収・リサイクルされるようになった。ヘンケルは緩衝パッドの材料組成を開示していないが、紙ベースではなく、パッケージの生産工程で必要とされる作業性や強度を有しているいう。
ヘンケルは2017年後半からアマゾンと連携して、自治体の混合回収で受け入れ可能な複合紙パッケージとして全米展開を目指している。
フランス:Danone Nutricia Research(ダノン・ニュートリシア・リサーチ)
ダノングループのダノン・ニュートリシア・リサーチは、栄養を経口摂取できない患者が使用するチューブフィード式の栄養食の次世代パッケージ「OpTriボトル」を開発した。
流動栄養食はクローズドシステムから重力により押し出され、ボトルは外の空気圧で中身が減っていくと自然に押しつぶされる。排出のための吸気口を必要としないため、外部空気や異物の侵入による汚染リスクが大幅に削減される。
ダノンは使用素材について明らかにしていないが、リサイクル可能な材料を使用し、無菌環境下で流動栄養食が多層ブローボトルに充填されるためレトルト処理が不要になるので、水の使用量を85%削減し、炭素排出量を21%削減するという。常温で1年間保存できる。
オーストラリア:Amcor(アムコール)
アムコールが開発した熱成形可能な紙トレイ「Paperly」の素材は、紙とガスバリア性とヒートシール性を持つ多層プラスチックライナー材との組み合わせで、紙の比率は少なくとも80%以上ある。アムコールによれば、紙とPE、バリア層としてEVOHが使われているという。
「Paperly」は加工肉やチーズのパッケージに素朴な手触りと自家製の手作り感をもたらし、スーパーマーケットの棚で一際目立つ存在だ。リサイクルに関しては、ほとんどのヨーロッパ諸国で紙と一緒に回収されるという。
「Paperly」の特長の一つは従来のAPETシートと同様に既存のMultivacシステムで熱成形が可能なことだ。このため新たな設備投資が不要だ。窒素ガスの封入も可能だが、課題は深絞り性で現時点では絞り深さは15 mmが限界だ(内容物重量で100g程度)。
蓋材もアムコールが提供しており、「Paper-Like」と呼ばれるマット印刷仕上げのフィルムや、中身が見える透明プラスチックフィルムなど、様々な選択肢が用意されている。
ドイツ:Werner & Mertz(ヴェルナー&メルツ)、南アフリカ:Mondi(モンディ)
ドイツのホームケア製品の「大手ヴェルナー&メルツ」と「モンディ」が協力して、日本でも人気の液体食器洗剤「Frosch」に100%リサイクル可能なPEモノテリアルパウチを開発した。コア層の透明PEフィルムと印刷した薄膜PEフィルムを、リサイクルを妨げる接着剤を使用せずに製袋して、印刷フィルムは廃棄時に家庭でも簡単に取り外せる設計にしている。
また、自治体の回収施設の工程で機械的に分離、分別することもできる。パウチ端部だけが熱シールされており、パウチの80%を占める透明PEフィルムと印刷フィルムを分別してそれぞれ異なるストリームで、完全にリサイクルするコンセプトだ。
印刷フィルムは、デッキやベンチなど建材用途向けに木粉等とコンパウンドされリサイクルされ、透明フィルムは将来パウチ・ツー・パウチリサイクルを実現することが期待されている。
アメリカ:ProAmpac(プロアムパック)、フランス:L’Oréal(ロレアル)
ロレアルのヘアカラー「REDKEN Flash Lift Bonder Inside」はこれまで漂白パウダー、結合剤、過酸化水素水の3種の硬質容器が使用されていたが、新しいパウダーフォーミュラの開発を機に2剤に集約し、それにふさわしい容器を検討した。
そこでプロアムパックは、吸湿性の高いパウダーの包装にeコマースでも使用できるように、バリア性が高く強靭なスタンディングパウチを提案した。パウチはPET/アルミ箔/PA/PEの構成だ。
プロのスタイリストにも受け入れられるよう利便性(配合の手間、スペース効率、携帯性)を向上し、更に環境負荷を軽減したいというロレアルの要望もプロアムパックは叶えた。この用途向けに新しくデザインされた計量カップ兼用のキャップと独特の湾曲したデザインのスパウトは、注入時に粉を巻き上げることがなくユーザーの使い勝手を大きく改善した。
アメリカ:Truman's(トゥルーマンズ)
米国では年間300億ドルの家庭用クリーナーが購入され、米国環境保護庁の調べによれば使用後はこうしたPETボトルの85%が埋め立て廃棄されているという。
トゥルーマンズのスターターキットは、カートリッジに充填された4種の濃縮タイプの家庭用クリーナー(窓ガラス、キッチン、バスルーム、フロア)と空ボトルが一緒に消費者の自宅に配 送される。
空ボトルに濃縮洗剤を補充するカートリッジを装着して、水道水を満たせば、ボトルは何度でも再利用できる。カートリッジの容器はリサイクル可能で、このトゥルーマンズのシステムを使えば、従来に比べPETボトルの使用量が96%削減できるという。またeコマース配送に消費される燃料も大幅に削減できる。
おわりに
「ダウ パッケージング イノベーション賞」は、パッケージバリューチェーン全体のパッケージデザイン、材料、技術、プロセスのイノベーションを称えるものだ。世界中のブランドオーナー、小売業者、パッケージデザイナー、コンバーター、テクノロジープロバイダーが参加している。
2019年も世界30か国から、250以上のパッケージング技術が応募されている。今年、ダイヤモンド賞及びダイヤモンドファイナリスト賞を受賞した9点のパッケージの傾向を見ると、いずれも環境負荷削減に寄与する設計が高い評価を得ている。もはやサステナブルでないものは、消費財メーカーもリテールも、そして消費者も受け入れなくなっている現状を反映している。
化石資源の消費を可能な限り抑え、プラスチックの有用性をとことん追求し、リサイクルやリユースを通じて、地球温暖化に資するパッケージを今後も時代が求めていくのであろう。(森 泰正記)
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