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2019年「タピオカブーム」の見逃せない理由。「にわかタピオカファン」までをも巻き込む市場

Photo:ゴンチャ公式サイトより( https://www.gongcha.co.jp/ )

はじめに

透明なカップのミルクティーに入った黒い粒々。少し不気味なようでカワイイとも言えるルックス。「タピオカミルクティー」は一過性のブームを超えて国民的文化ともいえる様相を示しています。

2019年流行語大賞に「タピる」がノミネートされ、日経トレンディなどの2019年ヒット商品ベスト30の2位に選出され、さらには先頃の朝日新聞天声人語でも語られた「タピオカブーム」。そのタピオカはコンビニではもちろん、回転寿司チェーン各社にも登場し、品切れを起こすほどになっています。

Photo:日経トレンディ2019年ヒット商品ベスト30のタピオカ2位

Photo:タピオカミルクティーのチルドカップ飲料は売り切れか。棚は空いていた

Photo:タピオカミルクティーの蒸しケーキも登場

タピオカミルクティーは以前から世界的ブームになっており、日本にもやって来た訳ですが、アメリカではこのタピオカ周辺の新たな展開としてタピオカの原料キャッサバを加工したヘルシースナック商品が続々登場していると、マローン恵ライターのレポートにあります。

タピオカはヘルシーな食材だった!アメリカの進化系スナック事情

とはいえ日本でのタピオカブーム、ヘルシーだからというものでもなさそうです。

「タピオカ」は普段の生活に入り込むとろまで来ています。財務省貿易統計(2019年7月)によると「タピオカ」と「タピオカ代用物」の輸入量は前年同月比の5.2倍に、金額ベースで同5.9倍の5億7800万円に拡大したとあります。

一方、国内の紅茶飲料カテゴリーの2019年9月の売上高は前年比58.3%増と伸びて、「紅茶花伝ロイヤルミルクティー」なども好調で自宅で「タピる」ためのミルクティー人気として伺えます。

こうした「タピオカ」ブーム現象、第3次ブームと言われる今回は長く続いていますが、その理由については既に多くの経済系、商業系のメディアで語られています。

ブーム現象の主な4つの理由

Photo:ゴンチャ公式サイトより( https://www.gongcha.co.jp/about/ )

こうしたメディア論評で理由として挙げられているものは、主に4つにまとめられそうです。

①近年台湾旅行が人気No.1で、そこで必ず飲む「ド定番グルメ」が本場の黒タピオカドリンクであり、楽しんだ経験者が今年過去最多になったであろうこと。同調するかのように台湾の世界的人気チェーン店が上陸して2017年頃から出店が加速し、国内の受け皿になったこと。

②タピオカの黒粒、太めのストローなどインスタ映えする特徴あるビジュアルだから急拡散したということ。

③モチモチ食感と専門店のハイレベルなお茶の味が受け、かつそれは空腹を満たせる手軽な飲料であること。

④街中でよく見かける店の行列心理に多くの人が動かされたということ。それがテイクアウトできるワンハンドのお茶飲料という手軽なものであったことが増長させた。

各項の補足をすると、①の台湾旅行では、日本旅行業協会調査で「人気旅行先ランキング」に台湾が年末年始やゴールデンウィークで数年連続1位となっています。2018年の訪台日本人旅行者数は、前年比3.7倍増の196万9151人で過去最多(航空新聞社 台湾観光協会発表)となりました。こうした日本人の多い海外旅行先での定番人気メニューが国内でブレイクする同様の事例としてハワイの「パンケーキ」があったことは記憶に新しいです。

②のSNS拡散のためのインスタ映えのポイントは、やはり黒い粒々が透けて見えるというわかり易さでしょうか。

③の食感、味については昔食べたものより格段に美味しく進化していると言われています。実は代表格の店である「ゴンチャ(貢茶)」をはじめとした各店は、「台湾ティーカフェ」としてお茶自体の高い品質を軸にお茶の流行を狙っています。海外では、コーヒーのサードウェーブに続くものとして既に成功しているのです。さらに筆者が重要と思うのが、空腹を満たす、腹持ちする機能があるということです。街を歩きながら軽食(!?)を取ることができるということに価値があります。

④の行列については、スタンド型の専門店なら待ち時間も短く、テイクアウトのカップ飲料ならハードルが低いので気軽に並びます。その行列はタピオカを知らない誰の目にも認知が進みました。コンビニはここに着目し、行列までは並ばないが、未体験の人に気軽に手に取ってもらうことを意図して後発参入したとも述べています。

「タピオカミルクティー」は五感に訴える商品だから大成功した

Photo:ゴンチャ公式サイトより( https://www.gongcha.co.jp/about/ )

上記4つの理由は、「タピオカ」のブーム化には不可欠であったものですが、筆者はその渦に乗るための商品自体が備えているヒット要素があったと考えています。(もちろん上記の理由にも含まれているものではあります。)大ブームということになれば、台湾への旅行とは無縁の“にわかタピオカファン”(最近では“にわかラグビーファン”も話題になりましたね)までを巻き込んだ理由があるということになります。さて、何でしょう。

それは、多くのヒット商品に備わっているであろう、人の五感に訴求する要素です。五感は言うまでもなく視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚の5つで感じるものです。前項の①~④などの条件が揃って「タピオカミルクティー」が行列ヒットとなる環境になりました。前後するように商品自体の力が発揮されたのだと思います。それが五感に訴える商品要素です。

Photo:ゴンチャ公式サイトより( https://www.gongcha.co.jp/ )

まずは「視覚」。カップに沈む黒い玉粒ルックスは少し不気味と見えます。それでいてカワイイとも感じる“今どきの感覚”が興味をそそります。また、注目度が高くひと目で記憶に残します。テイクアウトして皆が街で持ち歩くことで多くの目に触れます。

そして「聴覚」。「タピオカ」の語音の良さと、一度聴いたら忘れない名称。それが「タピる」の流行フレーズとして拡散したネーミングの優位性。それから「味覚」。モチモチ食感(グミ的?)の食べた感という軽食代用価値。さらに「臭覚」。各段に良くなっているティーの香り。

さいごに「触覚」。太いストローでシュポ・シュポッと吸い上げる触覚体感。この五つの商品自体の要素が効力を発揮して、多くの人々に魅力的な商品として刺さったのだと思われます。そしていわゆる“サードプレイス”ではありませんが、スターバックスのテイクアウトカップ以降の街を持ち歩くスタイルは、コト化したエクスペリエンス価値として現代的なヒット要因とも言えます。

これまでにもエスニックブームなどでアジアンデザートがヒットしてきた歴史があります。タピオカも一次ブームがあり、その時はココナッツミルクに入ったタピオカをスプーンで食べるものでした。

そして「ナタデココ」「杏仁豆腐」「マンゴープリン」などもブームになり、スーパーでカップ入りデザート商品や「マンゴープリンの素」といった流通商品になって各々ヒットしました。これらはいずれも室内で食べる形式でした。今回のタピオカミルクティーは“To Go”スタイルであるところが違います。

また、味覚、触覚でのヒット商品歴で言えば、太ストローでズルッ・ドロッ(?)と吸い上げるクラッシュゼリー入り飲料が、かつてヒット商品になっています。2007年に発売されてピーク時には100億円程度売れたグリコの「ドロリッチ」も、その太ストロー食感と腹持ちがヒットの要因であったということでは共通点があると言えるのではないでしょうか。(「ドロリッチ」は残念ながら2019年春に終売になったようですが)

Photo:江崎グリコ公式ホームページより( https://www.glico.com/jp/newscenter/pressrelease/7645/ )

条件が揃うというのはなかなか難しいことです。近年、食品ではますます大ヒットが出なくなってきています。ブームにまで達するのは至難の業。予測も難しいです。ひとつ言えることは、この「タピオカミルクティー」に見られるように商品力として人の五感に訴求する魅力要因を備えることで、可能性はグンと上がると考えられます。

ポスト「タピオカ」として「チョコレートドリンク」「チーズドリンク」「タロイモミルク」など、いろいろ挙げられていますが、この点、皆さんはどう思われるでしょうか。当の「タピオカミルクティー」一連は、どこでも、という行列は近いうちに消え、相乗りのメーカー商品もなくなると思いますが、一つの定番メニューとしての席はできていると思われます。

[参考]
日経電子版 日経トレンディ2019年ヒット商品ベスト30
https://www.youtube.com/watch?v=3XuQ9ZmHAGg
ゴンチャ ジャパン|貢茶           
https://www.gongcha.co.jp

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