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もう傍観していられない。急成長する「プライベートブランド」の存在感

はじめに

2019年もヒット商品が多くありました。パッケージという視点で見ると、例えば「2019年ヒット商品ベスト30」(日経トレンディ+日経クロストレンド)などでランクインした食品や生活用品などが気になります。

そのランキング商品に、近年はちょっとした変化が見られます。そうです、コンビニのPB商品(プライベート・ブランド=流通企業の自社ブランド)が結構入ってきていることに気付いている方も少なくないと思います。10年前ではあまり考えられなかった現象でした。いったい何が起こっているのでしょう。

アメリカからのマローン恵ライターの報告で、食料品店「トレーダー・ジョーズ」のプライベートブランドが独自路線で成功しているという、興味深い記事が届いています。

データ分析はしない。時代に反した「トレーダー・ジョーズ」の成功に学ぶ、愛されるプライベートブランドの作り方

アメリカではPB市場は確実に拡大しており、2019年5月でPB商品市場は1,430億ドルを超え、2015年比較で140億ドルも増加しているということです。この流れは日本にも訪れつつあります。

PB商品の考え方が変わってきた

現在の国内のPB商品について、少し見てみたいと思います。元々PB商品と言えば、生活必需品、消耗品のトップ売上にあるNB商品(ナショナル・ブランド=メーカーの自社ブランド)の代替コピー的な商品で、割安に提供されているというものが相場でありました。それに変化が起こってきたのは、欧米の流通スーパーの、PB商品の考え方と受け入れる消費生活者が拡大してきたことが影響しています。

例えばイギリス最大のスーパー「テスコ」のPB商品では、時代と共に多様なニーズを持つ消費者に対応するため、低価格のPBから段階的に価格や品質、ターゲット層などを明確に位置付けた製品ライン・エクステンションを行ってきました。健康意識系PBやプレミアム系PBなど、幅広い商品構成によるフルライン化がなされています。

先に挙げたトレーダー・ジョーズのPBの特徴は、筆者のわずかな来店経験と先の報告記事から見るに、店舗のブランドコンセプトや商品施策に基づいて生み出され、NB商品にはない差別化された新たな価値を提供しようとしています。そして、そのパッケージデザインもマネジメントされていることが感じられます。

Photo:トレーダー・ジョーズのPB製品(マローン恵ライター撮影)

Photo:トレーダー・ジョーズのPB製品(マローン恵ライター撮影)

日本のPB商品は、ダイエーの「セービング」、イオンの「トップバリュ」ブランドをはじめ、大手スーパーチェーンで始まりました。やはり、長い間「安かろう、悪かろう」のイメージは拭えなかったと思います。それほどヒットしたと言えるものは目にしませんでした。

そして、近年セブン&アイの「セブンプレミアム」ブランドの登場とヒット商品が出たことで、新たな価値を示すポジションのPBが認められてきたと言えます。ただPBと言っても、それはコンビニの主力商材である弁当・惣菜カテゴリーを主とした、日配カテゴリーの中からヒット商品になったものでした。

パッケージデザイン的な要素が少ないので、NB商品の世界とは少しニュアンスが違っています。「ファミチキ」もそうです。コーヒー市場を変えた「セブンカフェ」の大ヒットもPBです。NB商品のドリップコーヒーは店内にはないので、どちらがどうとは厳密には比較はできません。しかし、近年はNB商品を脅かすようなパッケージ商品が続々登場し、ヒットしています。

その後、隆盛してきたドラッグストアやドン・キホーテなどの新業態にもPB商品が登場し、SPA型(製造~販売)の小売業に至っては主体を占めるのはPB商品ということになっています。100円ショップの「ダイソー」などは、ほぼ全品PBかと思われますし、ここのところ急成長し大成功している作業服店の新ブランド「ワークマン プラス」もそうだと言えます。

こうして見るようにPBの概念は相当変わってきました。

PB商品がヒットするようになってきた理由

なぜPB商品にヒットが出せるようになってきたのでしょう。それは、流通企業の商品開発部門が経験を積んでこられたこと、そしてメーカーには及ばない強みである顧客購買データが本格活用されて、マーケティング戦略が高度化してきたことにあると思われます。

商品で見ると、品質、パッケージ、デザインの向上が見られます。筆者の以前のレポート(「水曜日のネコ、悪魔のおにぎり。売れるパッケージからインサイトの大切さを見る」「アスクル・ロハコの限定商品が売れる理由」)で紹介したものといくつか重複する商品がありますが、最近ヒットしたPB商品を選んで考えてみましょう。

Photo:ローソン「BASCHEE」(バスチー 2019年3月発売、発売3日で100万個突破)

トレンドがあるとはいえ、バスク風チーズケーキのような新しいカテゴリーは訴求が難しいのですが、ニックネーム型ネーミングとイエロー配色デザインで顧客の視線を捉えました。クチコミとSNS誘発の仕掛けです。

Photo:ローソン「悪魔のおにぎり」(2018年10月発売、累計5,600万個販売)

市場リサーチによる味づくり、関心を引きつけるネーミングとキャラクターデザインの勝利。味品質が受けていることが売れ続けている理由です。悪魔キャラによるブランド展開商品も拡大。

Photo:ファミリーマート「たべる牧場ミルク」(2017年10月全国発売、ファミマのアイス売上トップ)(ファミリーマート公式サイトより)

ゆるい牛のキャラクターと、文字組ロゴだけのシンプルグラフィックが決め手。トッピングアレンジ用途のSNS拡散も良かったと言われますが、キャラクターの役割が大きいと思います。ヒットしたのでブランド展開商品も出ており、そちらもキャラクターを効かせたデザインです。

Photo:セブンイレブン「カップチャーハン」(レンジ対応カップ入り冷凍米飯)

冷凍売場の新カテゴリーを創りました。食シーンを提案するレンジ対応機能カップの開発はもう、NBメーカーの仕事の域と言えます。冷凍ケース内における差別化デザイン(米飯でカップ)の効果も大きいです。

Photo:セブンイレブン「LAUNDRY」(衣料の洗剤シリーズ、2016年10月リニューアル発売1ヵ月の売上1.4倍)(セブンイレブン公式サイトより)

白黒モノトーンで英文ロゴだけのシンプルデザイン。ブランドシリーズのグループ陳列効果や、ユーザーリサーチを生かして部屋に置きたいパッケージデザインとしたことが成功要因です。

Photo:マツモトキヨシ「EX STRONG LOVE&PEACE」(エナジードリンク、2018年10月限定発売、追加生産)(マツモトキヨシ公式サイトより)

SNSで話題となり売切れ続出。NO.1の「レッドブル」に対してカフェインとアルギニンの量がおおよそ倍とし、値段は150円と極めて安価で勝負を仕掛けました。缶はパープル、中身液はピンクの「ギャップ記憶」狙いも奏功しています。

Photo:ドン・キホーテ「Take Greek」(飲むギリシャヨーグルト、2019年4月発売)(ドン・キホーテ公式サイトより)

フィットネス系アプリ「フィンク(FiNC)」とのコラボ商品。注目のギリシャヨーグルトを片手で持って飲めるようにした、タテ型カップ入り。パッケージデザインは文字の部分を特徴的にして、SNSでの写真映えを狙っています。メーカーが作らない商品を作るのが、ドン・キホーテ流PBの基本的な考え方としています。

Photo:ダイソー「URGLAM」(ユーアーグラム、2019年4月末発売後2カ月で400万個の売行き)(UR GLAM公式サイトより)

100円ショップ業界初の本格コスメブランド「URGLAM」。1品100円という格安価格らしからぬデザイン、クオリティと、約100アイテムある圧倒的な商品ラインナップで爆発的な売れ行きを記録しているといいます。

いかがでしょう。これらのヒットしたPBに共通する要素が、パッケージデザインの戦略と言えます。

昔のPB商品のデザインは「これはPBだから安いぞ!」と言わんばかりのBI(ブランド・アイデンティティ)を目指したために、確かにシンプルではあっても、枠内にフォントをそのまま配置したのようなネームロゴと、控えめなシズル写真を適当に置いただけのものが主流であったと思います。現在BIは極小にし、NB商品に勝るとも劣らない自由なデザインワークを施しています。

マツキヨのサイトでも、「matsukiyoブランドは毎日携帯したくなるようなかわいいデザインや、お部屋に置きたくなるようなおしゃれなデザインなど、情緒的なベネフィットとマツモトキヨシらしい斬新さを付加する」と表明しているところにも、そうした戦略を感じ取ることができます。

パッケージデザインが重要となっているPB商品

そしてPB商品の注目すべき動きとして、セイコーマートの「セコマブランド」を挙げておきたいと思います。

北海道地盤のNO.1コンビニ「セコマ(セイコーマート)」。自社PB商品がイオン系など他のチェーンストアで続々と採用され、食品メーカーとしても急成長しています。アイスや菓子、惣菜などのPBを含む外部販売額は200億円弱(2018年)まで拡大し、本州への外販売上高は3割増となっているということです。

北海道産の高品質という製品力のもと、パッケージデザインに注力しています。ここでも従来発想の統一されたPBデザインではなく、セコマロゴは小さく入れるにとどめて、一品ごとにオリジナリティを持たせ、商品の良さ、特徴をクリエイティブに表現することに努めていると言います。

先行する欧米のPB商品を追いかけるように、もはや日本のPB商品も侮れない存在になってきたと言えます。日本のメーカー、NB商品の新たな価値を生み出す力、新しい市場を創る力は優れたものがありますが、このPBの動き、傍観というわけにはいかないところでしょう。

▼参考

■PB比率の高さに注目!イギリス小売事情 /流通視察ドットコム 2015.07.22
http://www.ryutsu-shisatsu.com/article/15217227.html

■セコマ 道外へ羽ばたく(上) PBのアイス・牛乳 存在感 /日経電子版(有料記事)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO37250110R01C18A1L41000/

■テスコ、セイコーマート他のデザイン紹介 /デザインコンサルタント会社 P&W(英国)
https://assets.website-files.com/5b0d54f20d2318464828d270/5c59595a02a29729094de160_PandWork_3.PB.pdf


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